「さあ、僕を殴れ、エルシィ!」
「え? か、神にーさま、一体、どういう事ですか?」
「……お前、人の説明を聞いて無かったのか」
まったく、エルシィの奴はいつもいつも……。
今回については、お前しか頼りにできる奴はいないんだから、
もっとしっかりしてくれないと……などと言ってわかる奴じゃないし、
そもそも時間が足りない。僕はもう一度エルシィに説明する事にした。
「いいか、今回の攻略では、僕はM奴隷でなくちゃいけないんだ。
そのルートでしか、エンディング到達はありえない。わかるか?」
「は……はぁ……」
わかってるのか、こいつ?
「で、どうしてそれが私が神にーさまを叩く事に繋がるんですか?」
「……お前、ホントに人の話聞いてなかったんだな」
「ご、ごめんなさーい……」
……それでも、こんな事を頼める奴はこいつしかいないんだよな、
僕には。全く、リアルはこれだから嫌になる。ゲームなら、フラグさえ
立てておけば、協力者を見つける事なんて容易いのに……。
「僕をM奴隷にするには、それしか無いだろうが」
「……神にーさまを……M奴隷に?」
「僕は自分の性癖について分析した事はあまり無いが、おそらくMでは
ありえない。Mについての知識も、通り一遍の物でしかない。実感が
伴わない知識なんか、あっても無くても同じだ」
「はぁ……つまり、神にーさまにMな体験をさせろ、ということですかー?」
「やっと理解したか。そういう事だよ。だから僕を殴れと言ってるんだ!」
「……で、でもぉ……」
「なんだ、まだ何かあるのか!?」
「殴るって……どうやるんですか?」
……そんな根本から説明せにゃならんのか……。
「こんな事もあろうかと、道具は用意しておいた。ほら、そこに鞭とかあるだろ?」
「む、鞭なんて使った事ないですぅー!」
「じゃあ今使え! 初めて使え!」
「か、神にーさまは間違いなくSですよぉー!」
……全く、埒があかないな。確かに、僕がSでエルシィがM……それが僕らの
関係性を考えるに、妥当な判断だ。だけど、代わりにエルシィに攻略させようにも、
話の展開を操作するだけの冷静さと決断力がこいつには無い……それに、
悪魔が直接駆け魂を出そうとするのは禁止されてるらしいしな。
となれば……仕方が無い、か。
「お願いします、エルシィ様。この哀れな豚に、お慈悲を下さい……」
「……へ?」
「豚として分を過ぎた願いだという事はわかっております……ですが、
僕はエルシィ様のその鞭で叩かれたいのです……お願いします、エルシィ様!」
「………………」
……いかん、エルシィの奴、何か考え込んでしまったぞ。まずこちらがMを装い、
エルシィのSっ気を誘ってみるというのには、やはり無理が――
「……いいんですね、神にーさま?」
……おや?
「後悔はしませんね?」
なんだ……? エルシィの表情が……変わった?
「じゃあ、まずは……服を脱いでください」
「は、はい……」
僕は、何故か言われるがままに服を脱いでいた。
何故か、今のエルシィの言葉には、逆らえない力のようなものがある。
僕は、上半身裸になり、地面に座らされた。
「それじゃあ、神にーさま……お尻をこちらに向けて、四つん這いになってください」
「……そ、そんな格好……」
流石に、そこまではできないぞ! というか、何考えてんだエルシィの奴!?
「あら、豚の癖に逆らうんですか? 豚にーさまの分際で、この私の言葉に逆らおうと
でも言うんですか、ねぇ?」
いかん、エルシィの奴、完全に我を失っている。静めないと!
僕は流石にこの状況をストップしようと口を開いた。
「は、はい……わかりました」
……あれ? 僕は何を口走ってるんだ?
「ふふふ……いい格好ですね、豚にーさま……」
「は、恥ずかしい……」
僕は、自らの意志を離れて動く身体と口に、呆然とするしかなかった。
これは、一体……何なんだ!?
「じゃあ、次どうすればいいか……わかりますよね?」
「は、はい……」
や、やめろ……やめてくれ! とまれ僕の身体! 開くな僕の口!?
「哀れな豚であるこの桂木桂馬に、エルシィ様のお情けを……鞭の一振りをくださいっ!」
「ふふふ……いい子ですね、豚にーさま……それじゃあ」
やめろぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!