PM 20:00
「エルシィ、まずいぞ。結の奴、男の身体で居ることに慣れてきているぞ」
駆け魂の影響で神にーさまと五位堂結さんが入れ替わってしまって以来、にーさまも苦戦しています。
今話しているのは結さんの身体と入れ替わったにーさまだ。
なぜか結さんの部屋にゲーム機を持ち込んで大量の乙女ゲーを一気に攻略しているけれど、その姿は正真正銘にーさまです。
「このままでは結が今の生活に限界を感じて自ら元に戻ろうとしない。これでは駆け魂が出ないな。エルシィ、とにかく結がボクの身体で生活することに限界を感じるように仕向けるんだ」
「わ、わかりましたぁ」
そう言って五位堂家を後にしたけれど、とはいえ、どうすれば…
にーさまによると、にーさまも結さんもお互いの身体が入れ替わり、にーさまは女性の身体に悩まされているので、おそらく結さんも同様、男性の身体に悩まされているはず、らしいです。
たしかに当初はお手洗いもままならない状況だったし、いまも多少は不便を感じているはずです。
ずっとにーさまと一緒に駆け魂狩りをしていたのだから、きっとヒントはあるはず。
ハクアに駆け魂がとりついた時もにーさまと同じ事をして駆け魂をおいだしたのだから。
…エンディングが見えましたぁ!
わたし、落とし神(のパートナー)の名に懸けて、結さんの駆け魂を追い出して見せます!
PM 22:00
ちょうど結さんがお風呂に入っていました。
チャンスです。
羽衣さんの光学迷彩機能をオンにして、身につけます。
にーさまと一緒にお風呂に入ったときに、にーさまは真っ赤になっていました。そして、にーさまは女の人にひっつかれるのが苦手です。
つまり、私が結さんのお背中を流してあげる、ってイベントを起こせば結さんも男性の身体で居ることに違和感を感じることでしょう。
どうです?わたしの計画。
にーさまは褒めてくれるかな。
お風呂の戸を開けて、結さんに声をかけました。
「にーさま、お背中を流させてください」
「え!?エルシィさん!?」
にーさまの身体になった結さんは目隠しをしてお風呂に入っていました。
やっぱり男性の身体はまだ苦手なようです。
「にーさま、じゃなかった、結さん、お風呂、お困りでしょう?」
「で、でも、わた…ボクは、男性ですから、エルシィさんと一緒にお風呂に入ってはいけません」
真っ赤になって結さんが答えました。
どうやら効果はてきめんのようです。
「ふっふっふ、BMWですよ、BMW」
「?」
「結さん、兄妹はいっしょにお風呂に入るというもの、なのです!」
「そ、そうなのですか?」
「そうですよぉ!にーさまのやっていたゲームではみんなそうでしたから!」
わたしはにーさまの事をもっと理解しようと、にーさまが留守の間にいくつかギャルゲーを嗜んでいたのです。やはり、兄妹は一緒にお風呂に入るもの、ということを学んでいたのです。BMWです。
「結さん、それではお背中をお流ししますから、湯船から出てくださいね」
「…はい…」
私の言葉に恥じらいながらも従う結さん。
にーさまの顔で、にーさまの身体で頬を染めるその姿はわたしの嗜虐心をくすぐるものがありました。どうやらわたしも間違いなく悪魔だったようです。
かっぽーん
目隠しのせいか結さんは湯船からあがってお風呂イスに座るのもままならない状態です。
ちゃーんす、です。
「さ、結さん、わたしの手につかまってください」
「…はい…」
もう、結さんはわたしの言葉に従うしかありません。
わたしは結さんの手をとり、立ち上がらせました。
もちろん、ゲームで学んだとおり、胸を押し当てるのも忘れずに。
ここまでは完璧です!
結さんも少し前かがみになってお風呂のイスに座っています。
「では、にーさま、お背中をながしますね♪」
結さんは無言でこくり、とうなずくだけで、声を出せません。
わたしはうきうきとしながら、にーさまの背中を流します。
男性なのに、華奢で綺麗なにーさまの身体。
ほんと、にーさまは綺麗なだけが取り柄で、中身は残念な人です。
でも、にーさまと過ごした日々で、にーさまの素敵なところはいっぱい知りました。
悪魔であるわたしにとっては、ほんの刹那の日々です。
地獄で過ごした日々も幸せでしたが、にーさまと過ごした日々はもっと素敵でした。
もっとずっと続いたらいいのにな。
そしたらにーさまともっと一緒に居られるのにな。
駆け魂狩りが終わらなければ、きっと…
いけません、私たち駆け魂隊は駆け魂を狩り、秩序を取り戻すのがお仕事です。駆け魂狩りに失敗すれば、わたしもにーさまも首が…
だから、今はにーさまの身体と結さんの身体を元通りにするのがわたしのお仕事なのです。
「にーさま、どうですか?きもちいいですか♪」
「…はい…」
顔を真っ赤にしながら結さんが答えます。
やはり効いているようです。
このまま、ゲームの通りに進めます。
一番効果がある選択肢は…
「にーさま、それでは前のほうを洗いますね♪」
「ひぃ!?」
結さんが小さく背を丸めて身を守るようにしています。
これは…
「だめですよぉ、にーさま♪ちゃんと全部綺麗にしないと!」
「エルシィさん、もう、らめぇ」
「ほらほら、いきますよぉ♪」
「あぁ…」
その瞬間、結さんの力が抜け、がくりと身体を崩してしまいました。
戻った、のかな?
PM 23:00
どうやら結さんはのぼせてしまったようでした。
2人の身体と心を元に戻すのは失敗だったようです。
羽衣さんを使って結さんをベッドに寝かせました。
…残念です。
でも、にーさまの身体のあったかさを知りました。
にーさまとわたしが重ねた日々の記憶が、わたしにとってかけがえのないものになっていたことを知りました。
そして、わたしはにーさまが大好きなのです。
はやく、にーさま、帰ってこないかな。
一方その頃桂馬は乙女ゲーにどっぷりはまっていた。