「あなたこの男、好きなの?」  
 
 いきなりの質問に、鮎川天理はうろたえる。  
 突然現われ、「スキマ」がどうの「カケタマ」がどうのと、わけの分からないことを言  
ってきた男の人。  
 その人から離れようとしたら、今度は別の女性が現われ、わけの分からぬままに拘束さ  
れた。  
 その女性、ノーラと呼ばれた褐色の肌の女性にされるがままに心のうちを暴かれ、そし  
て今、思いも寄らぬ質問をされている。  
 
「…………」  
 
 急激に頬が紅く染まっていくのを抑えようとしながら天理は考える。  
 自分は桂馬のことが好きなのか、と。  
 答えは決まっている………「分からない」、だ。  
 
「…………」(フルフル)  
 
 だから、天理は小さく頭を振って答えた。  
 鏡の中の自分からも、何度も聞かれた問い。  
 そのたびに天理は考え、そして答えを出せずに来た。  
 今また聞かれようとも、その答えは変わりようが無い。  
 そんな天理の答えに、ノーラは天理を無感情に見返すと、続けてこう問うた。  
 
「じゃ、嫌いなの?」  
「…………!」(ブンブンブン)  
 
 その質問に、天理は間髪おかず頭を振って否定する。  
 桂馬が嫌いなんて、ありえない。  
 だって桂馬くんは……!  
 だがそんな天理の態度をどう受け取ったか、  
 
「わかったわ。じゃあ、この男、ヒドい目にあわせてあげる」  
 
 ノーラは淡々とそう告げた。  
 
「え」  
 
 思わず耳を疑う天理。  
 この女(ひと)は何を言ってるのだろう?  
 だがノーラは、もはやこちらのことなど気にも留めず、一緒にいた男の子と話をしてい  
る。  
 いわく、愛と憎しみなら憎しみの方が強い、憎しみにしておけば大体当たり。  
 
「あ……あ……」  
 
 滅茶苦茶な理屈だ。  
 あまりのことに、もはや天理にはどうすれば良いのか分からない。  
 
『良いのですか、天理。このままだと彼女らは、桂木桂馬に危害を加えますよ?』  
 
 水面に映った、鏡の中の自分が淡々と告げてくる。  
 わかっている。  
 そんなのはダメだ。でも、どうすれば……  
 
『どうやら彼女らは、天理が桂木桂馬を憎んでいると判断して、その憎しみをかなえるべ  
く危害を加えようとしているようですね』  
 
 鏡の中の自分はいつも冷静だ。  
 彼女らの言っていることは、つまりそういうことなのだろう。  
 それなら、誤解を解くことができれば……だが、どうやって?  
 もとより、対人能力には多大な欠陥を抱えていることを自覚している。  
 そんな自分に、この誤解なのか何なのか分からない彼女らの判断を、変えさせることが  
できるのだろうか?  
 
 と、その時。  
 何かに気付いたかのように振り向いたノーラが、天理に向かってにこやかに声をかけた。  
 
「あ、ねぇ? この男……殺しちゃった方がいい?」  
「!!……待って」  
 
 気付いた時、天理はノーラの羽衣に手を伸ばしていた。  
 羽衣を掴まれ気分を悪くしたのか、ノーラが虫けらでも見るような瞳で天理に視線を向  
ける。  
 だが、それに怯むことなく、搾り出すような声で天理は告げた。  
 
「す……好き、です……。桂馬くん……好きです……」  
 
 憎んでいない、と言ってもきっと無駄だ。  
 だって、さっきあれだけ首を振って否定したのに、この女(ひと)は憎んでいると判断  
した。  
 それならもう、天理にできることは一つしかない。  
 
『良いのですか、天理。桂木桂馬は、あなたのことを覚えてすらいなかったと言うのに』  
 
 分かっている。  
 そんなことは分かっている。  
 
「ふぅん、そう……この男のこと、好きなのね」  
 
 ノーラの言葉に、こくこくこくこく、と、何度も頷き返す。  
 そうしなくては桂馬がヒドい目に、いや、もしかすると殺されてしまう。  
 しがみつくように羽衣を掴み、ひたすら頷き続ける天理のことを、ノーラはうんざりと  
した表情で見返す。面倒な、と思っているのはあきらかだ。  
 やがて。  
 ため息を一つつくと、ノーラは天理に告げた。  
 
「そう、わかったわ……それならこの男とセックスさせてあげる」  
「せ……!?」  
 
 今度こそ、天理は我が耳を疑った。  
 せ……せ……せっ……って。  
 
『契り。男女の営み。子作り。要するに性交のことです』  
 
 鏡の中の自分が、聞いてもいないことを説明してくる。  
 違う、聞きたいのは単語の意味ではない。  
 普通は好きならお付き合いするとか、百歩進んでキスするとか、そういうことではない  
のか?  
 まはやパニックになりかけている天理の耳に、ノーラと亮の会話が飛び込んでくる。  
 
「またいきなり本番なの、ノーラさん?」  
「言ったでしょ? この年頃の好きなんて、性欲とイコールよ。告白なんてちまちまして  
るひまがあったら、さっさとヤっちゃう方が手っ取り早いわ」  
 
 違う。  
 そんなことなんて思ってない。  
 そんな天理の心の叫びなど気付くことなく、二人は話を続ける。  
 
「それで? またボクの姿を変えるのかい?」  
「だめよ、ここまでレベルの高い駆け魂には幻覚も通じないわ。それに亮、お前ヘタクソ  
だし」  
 
 気付けば、いつのまにか羽衣に拘束されている……これでは走って逃げ出すこともでき  
ない。  
 
 どうしよう……どうすれば……  
 
『天理、ここは大人しく従うべきです』  
 
 そんな!  
 鏡の中の自分の言葉に、天理は我が耳を疑った。  
 大人しく従うということはつまり、桂馬と……すること。  
 覚えてすらいなかったのに、覚えていてくれなかったのに。  
 そんなことができるのだろうか。そんなことをして、いいのだろうか……  
 
『下手に逆らえば、また桂木桂馬に危害を加えるか、あるいはこの男と、無理矢理セック  
スさせられることにもなりかねません』  
 
 天理はそれでも良いのですか?  
 言葉は無くとも、鏡の中の自分がそう言っているのが分かる。  
 そんなこと、考えたくも無い。でも……それでも……  
 
『もちろん、最後まで従う必要はありません。桂木桂馬に助けを求めても良いですし、機  
会を見つけて私に替われば、彼女らを撃退することも可能でしょう』  
 
 鏡の中の自分はいつだって冷静で、そしていつでも自分の味方だった。  
 プチプチして、いつも内にこもろうとする自分を後押ししてくれた。  
 鏡の中の自分の言葉を信じ、天理は大人しくノーラたちに続いて歩き始める。  
 その後ろで、水面に映った自分の姿が、風も無いのにわずかに歪んだことに気付くこと  
は無かった……  
 

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