舞島学園の屋上。
白く輝く月が金髪の少女をぼんやりと照らす。少女は青い目のフランス人形を腕に抱き一心に望遠鏡を覗いていた。
「今日も月は美しいし、アールグレイの紅茶は美味しいのですね。」
美しい物に囲まれた静かな空間に酔いしれ月夜はうっとりとひとりごちた。そう、幸せだった。あの男が屋上に来るまでは…
ピロピロピコーン
「くそっ、なぜ圏外なんだ!イベントが拾えないじゃないか!」
無機質な機械音と騒がしい声が夜の屋上に響き渡る。望遠鏡を向けると、そこにはだらしなく顔を綻ばせてゲームをしているメガネの男がいた。
彼は確かオタメガとか呼ばれている舞高の有名人だ。
「…噂に違わず変なひとですね。」
月夜は至福の時を邪魔された苛立ちを示そうと、男をキッと睨みつけた。
視線がぶつかる。
「あ、あれっ何か変なのですね。急に胸が苦しく…」
ボンッという音とともになぜか急激に胸の鼓動が高鳴り、頬が紅潮する。
原因の分からない生理現象に狼狽しつつ、とにかくこの侵入者を憩いの場から追い出さなくてはならないと決意した。
月夜はソファから腰をあげると、PFPを頭上に掲げ電波を探している桂馬に詰め寄った。
「で、でていって欲し…」
「しまった!あと5分だ!あと5分のうちにイベントを回収しないと…」
月夜が言葉を発したことに全く気付いていないかのように、メガネの男はうろうろと屋上を徘徊する。