■アイ
ボクの名前は桂木桂馬。
好きなものは・・・女子だ。
ただし、こっち側のじゃない。二次元の、完璧な女子たちだ。
僕はネットでは落とし神と呼ばれていて、ちょっとしたサイトも運営している。
ボクのPFPにはそんなサイトの読者から、ゲームの攻略法を尋ねてくるメールが届く。
ところが先日、一風変わったメールが届いた。
落し神様
いつもサイト更新を楽しみにしています。
アイといいます!
さて、XXXというゲームなのですが、これがどうも攻略が進みません。
落し神様ならご存知かもしれません。
どうか攻略方法を教えてください!
ふ・・・
ボクを誰だと思っているんだ?
そう、人はボクを落し神と呼ぶ。
ボクに落とせない女は居ない!(ただし二次元に限る)
ところが、肝心のXXXというゲームを、ボクは聞いたことも無い。
バカな!ボクが知らないゲームがこの世に存在したなんて!
だが、ボクは神だ!ゲーム世界の神だ!
たとえ知らないゲームだったとしても、攻略しないわけにはいかない!いや、攻略できないわけがない!
「エルシィ!」
「はい!神にーさま!」
元気いっぱいに答えるエルシィ。
「でんでんシティまで買い物に行くぞ!お前もついて来い!」
「もしかして、ゲーム、ですか?」
眉をハの字にして、桂馬に問いかける。
「なんだ、嫌なのか?」
「うー、いきますよぅ!!」
デートじゃないんだ、と、ため息を漏らすエルシィ。
なるさわでんでんシティは、桂馬達が住む新舞島から1駅の、鳴沢市にある電気街だ。ちょっとした秋葉原と思ってもらえばいい。
ギャルゲが世界を席巻している昨今、この街のゲームショップを回れば、手に入らないゲームは、ない。
エルシィがコスプレーヤーと勘違いされ、写真撮影を求められ、喜んで応じようとしたところを桂馬が止めたり、
レトロゲームのワゴンセールで桂馬が伝説のあのゲームを求めて小一時間ほど探したり、
とまあ、ちょっとしたハプニングはあったが、結局すべてのゲームショップを回った。
だが、二人の努力は、徒労に終わった。
とりあえず喫茶店で渇きをいやすことにした二人は、かわいらしい外装の喫茶店に入る。
かわいらしい手書きのメニューをとり、エルシィが目を輝かして、桂馬に尋ねる。
「にぃ様、ちょっとおなかがすいたので、何か食べてもいいですか?」
「ん、ああ、べつにかまわないよ」
桂馬は件のXXXというゲームがどうしても見つからないことしか考えておらず、エルシィの問いかけを軽く聞き流す。
「えっとぉ、
らんちっ!
メイドさんのらぶらぶオムライス?
いもうとの手作りカレー ざらき味?
ツンデレ委員長の特製ラーメン?
どりんく!
スピリット・オブ・サイヤン?
超神水?
神聖樹ジュース?
うー、にぃさま、これ、なんでしょう???」
困った目で桂馬に問いかけるエルシィ。その声に店内の客が二人に注目した。
エルシィに変な目線を向けたあと、さらに桂馬に妬ましげな目線を向ける。
エルシィはとても楽しそうに桂馬の顔を見つめているが、
桂馬は客の声もエルシィの視線も、一向に意に介さず、難しい顔をしている。
なぜ、XXXというゲームが見つからないんだ?存在しないゲームなのだろうか? いや、そんなはずはない。
さすがにオーダーの時にメイド服を着た店員に「妹さんに『にぃさま』って呼ばせているんだ!流石だね!お兄ちゃん!」と言われた時は脱力したが。
エルシィはオムライスとフルーツジュースを、桂馬は紅茶を頼んだ。
オムライスにケチャップでハートマークを描いてもらって、終始うれしそうにしているエルシィ。
「えへへぇ、神様、おもしろいですねえ、店員さんがみんなメイドさんみたいな恰好をしているんですよ!」
「ああ、そうだな。」
「もう、神様!」
終始笑顔が消えないエルシィ。どうやら、エルシィはデート気分のようだ。
こっちは肝心のゲームが見つからないというのに。これでは攻略できない。
いや、まてよ・・・
「エルシィ、ゲームはあるぞ。もちろん、攻略する方法も。」
「どうするんです?神にーさま?」
「つまり、件のXXXというゲームは、メールの相手、つまりアイってやつが持っている。だから・・・」
「だから?」
「直接このアイって奴に会えばいい。会ってその場で攻略すればいい。僕に攻略できないゲームはない!」
「なるほどー、うー、にーさま、あたまいいです!」
そうして、桂馬はアイに、実際に会うことにした。相手もまた舞島市に住んでいるらしく、
アイもゲーム好きだからということで、翌日でんでんシティで待ち合わせる約束をした。
だが、アイは待ち合わせの場所に現れなかった。