何も変わらない日常……  
  変わりばえのしない世の中……  
 
 でも、  
 
 変わってく……  
 
 少しずつ……  
  変わってく……  
 
 神様が、  
 
  変えるセカイ  
 
 
 
 ** 神のみぞ知るセカイ FLAG・AFTER **  
 
 
 
「かっつらぎーっ!」  
 
 歩美さんだ。  
 今日もすっごく元気だなぁ。  
 
「はいっ、ホウキ。今日も元気にそーじっ!」  
 
 ふふっ、神様、あい変わらずゲームしてる。  
 
「こらぁっ! 人がホウキもってきてやったんだからちゃんとこっち見ろぉっ!」  
 
 あはは、叩かれてる叩かれてる、って、うわ! い、今のは音は、ちょっと……  
 
「うわわっ! わわっ! ご、ごめんごめん! か、加減できなかった!」  
 
 
 って、言いながら歩美さん、神様を引っ張っていっちゃっいました……神様なんかかな  
り血が出てた気がしたけど……ま、まぁ、大丈夫……かな? ……なのかな?……  
 
 
「お、桂木、やっと来たか。今日こそ部活に付き合ってもらうぞ、組み手の相手が居なく  
てな。掃除は私も手伝ってやるから、手早く済ますぞ」  
「桂馬くーん! 私また新曲できたんだーっ、最初に聞かせてあげようと思って収録すっ  
ぽかしてきちゃったー♪」  
「ぁ……あの……桂木、くん……と、図書館に『最新二次元幻想』入ったよ。あの……  
桂木くん、早く読みたいかと思った……から……お掃除手伝いに来たんだけど……」  
 
 わ、屋上に既に楠さんとかのんさんと栞さんが。  
 ……ふふ、みんな神様のこと待ってたんですね。  
 
「ち、ちょっと桂木、待ちなさいよ! こ、この間掃除の仕方教えてくれる約束してたで  
しょ! さ、さっさと教えなさいよ。私も暇じゃないんだからねっ! し、仕方なく来て  
あげたんだからね! ほ、ほら、ホウキも自分で用意したんだから早くなさいよっ!」  
 
   
 美生さん……それはホウキではなくトンボと言いまして地面を平らにならすもので……  
 
 
「ちょっとエルシィ、また人間界覗いてるの?」  
 後ろからの声に私が顔を上げ振り向くと、目に入ったのはハクアの姿。  
「あ、ハクアー。えへへ、ちょっとねー」  
「ちょっとね、じゃないでしょ。あんた最近暇さえあればいっつもここじゃない。魔道ス  
クリーンはあんただけの備品じゃないんだからね」  
「うー、ちゃんと許可は取ってるよぉ」  
「取りゃいい、ってもんじゃないでしょ、まったく……って、なんだ、またあいつのこと  
見てたの?」  
 私の横に来たハクアが私の見ていた画面を覗き込む。  
「……うん」  
 
「……」  
「……」  
 そのまま2人で画面を見続けた。ちょっとの間だけど。  
 
「……ついこの間のことなのに、なんか随分懐かしい気がするわね……」  
「……そうだね……」  
 つい、この間のこと、か……そうだね、神様と会ったのも、別れたのも、ついこの前なん  
だよね……  
 ちら、とハクアを見ると、微動だにせず画面を食い入るように見つめてる。  
 光がハクアの顔を様々な色に照らしている。  
 私もまた視線を画面に戻す。と、ハクアの声が聞こえてきた。  
 
「……あんた、人間界勤務希望すれば? 勲章持ちなんだからそれくらいの無理は通るわ  
よ。なんだったらあたしが口添えしてあげ」  
「ううん、いいの、私は……見てるだけ……で……」  
 ハクアの声を遮り、私はそう言い放……ったつもりだけど……  
 
「……」  
「……」  
 
「あんた、好きだったんでしょ、あいつのこと」  
 
 コクン、と、ごくごく自然に身体が反応して、私は頷いた。  
 ハクアがふぅ、とため息をつく音が私の耳に聞こえた。  
 
「悪魔と人間が結ばれた事例なんて、過去いっくらでもあんのよ。なに我慢してんのよ」  
「……」  
「あんだけ優秀……かどうかはともかくとしてよ、あの短期間にあれだけ駆け魂捕まえた  
人間なんて地獄始まって以来なのよ。個人警護の対象資格もあるし、元バディのあんたな  
ら審査なしで身辺警護任務に就けるのよ?」  
 
 ……やっぱり……ハクアは優しいんだな……私のことまで考えてくれてるんだ……  
 
「……ありがと、ハクア、優しいね」  
「っは?! ななっ、何言ってんのよ! べっ、別にあんたのためじゃないわよ! わ、  
私は元地区長で現支部長なのよ! た、担当地区の重要人物の保護は当然の任務であって  
決して私利私欲とか友達のためとかそういう」  
「ハクアだって、神様のこと好きだったんでしょ? 私知ってるよ?」  
 
 ボッ、と音がするかのごとくハクアの顔が真っ赤に染まる。  
 わかりやすいなぁ、ハクア。  
   
「わわっ、わわわ私、ききき休憩を思い出したからももっもう行くわっ! ああ、あんた  
もいつまでもサボってないで早くしし仕事しなさいよねっ!」  
 
 行っちゃった…………ハクア、休憩は思い出すものじゃないよ、急用でしょ……  
 あ、手と足一緒に動いてる……って、転んだ。  
 う……そんな泣きそうな目でこっち見られても……とりあえず見なかったことにしとこ……  
 
 ハクアから逃げるように視線を戻すと、先ほどまでと同じ様子が画面の中に。  
 
「……」  
 
 スクリーンを見ていた瞳をそっと閉じる。  
 たった今、スクリーンの中で見ていた光景が閉じた瞼の中に広がる。  
 
 学校の、屋上へと、私は意識を飛ばす……  
 意識の中で、私はベンチに腰掛ける。  
 
 目の前には、  
 
 歩美さんが居る……  
 美生さんが居る……  
 かのんさんが居る……  
 栞さんが居る……  
 楠さんが居る……  
 
 少し意識を周りに飛ばせば、沢山の沢山の想いが、溢れてる……  
 
 そして……  
 
 そのみんなの想いの先には、神様が、居る……  
 
 
 * * * * *  
 
 
「ん?」  
 
「どしたのさ、桂木?」  
「ん、あ、いや……そこのベンチ……」  
「ベンチがどしたの?」  
「そこ……誰か居たか?」  
 
「へ? 誰か居たの? 見た?」  
 
 歩美さんがトンボとホウキを見比べている美生さんに顔を向ける。  
 
「さぁ? 誰か居たの?」  
 
 流して美生さんは、屋上特設ステージのチェックに余念のないかのんさんを振り向く。  
 
「えー? 私何も見てないよー」  
 
 続けてかのんさんは、隅っこで縮こまって一箇所を掃き続ける栞さんに声。  
   
「へぅっ!? わわわ、私はなななっ、何も……見て……ません……」  
 
 助けてと栞さんは、掃除しつつもホウキを棍代わりにトレーニングを欠かさない楠さん  
に小さな声。  
 
「ん? いや、私は何も見てなかったが? まったく、軟弱が過ぎるから幻覚でも見たん  
じゃないのか? どれ、一つ私が組み手で……あ、いや、その、お、お前さえよければま  
たこの前のように街にで、出掛けてやっても、い、いいぞ」  
 
「あー、それなら走る方が気持ちいいよ、最近長距離も始めたんだー。一緒に外走りに行  
こうよ、桂木っ!」  
 
「あ、あの、桂木くん、疲れてそうだから……と、図書館で静かに休んだ方がいいんじゃ……  
ない、かな……」  
 
「ちょ、ちょっと桂木! お、落ち着くにはセレブな振る舞いが一番よっ! またダンス  
教えてあげるから、い、一緒にやるわよっ!」  
 
「何言ってるのーストレス発散は歌うのが一番よっ! 新曲教えてあげるからデュエット  
しようよ、桂馬くんっ!」  
 
 
 * * * * *  
 
 
 みんな神様の周りに集まるんだ。これからも、ずうっと……  
 
 
 
 何も変わらない日常……  
  変わりばえのしない世の中……  
 
 でも、  
 
 変わっていく……  
 
 少しずつ……  
  変わっていく……  
 
 ここは、  
 
 
 神様が、変えた『セカイ』なのだから。  
 
 
 
 ** 神のみぞ知るセカイ FLAG・AFTER **  〜Fin〜  
 
 

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