私は、独りで泣いていた。  
わけもわからず、ただひたすらに。  
ココロに闇がじわじわ広がっていくのが分かったけれど、独りじゃ、何にもできないにきまってるよ。  
 
…独り?  
いや、ちがった。すぐそばに、人の気配。  
すがるように手を伸ばした瞬間、頬に何かが触れた。やさしくて、やわらかくて、あたたかい感触。  
キス、されている。キスで、涙をぬぐわれている。  
 
おそるおそる顔をあげる。やさしく微笑んだ目が私を見つめていた。  
冷え切っていたココロの温度が一気に上昇。トク、トク、トク…  
心臓の音、早くて、大きい。彼に聞こえてるんじゃないかってくらい。  
 
「歩美。」  
また、不意打ちだ。名前、呼ぶなんて。  
これ以上私をドキドキさせて、どうする気なんだろ…?  
きっと耳まで赤くなってる。恥ずかしいな。苦しいな。嬉しいな。  
 
お返し、じゃないけれど。  
私も彼をじっと見つめてみる。  
すらっと伸びた肢体。さらさらの髪の毛。透き通るような白い肌。私にキスした、唇。  
まるで…王子様だ。  
 
眼鏡もかけてないけど。こんな優しい顔なんてみたことないけど。  
ましてやキス、だなんてっ!!  
でも、認めるしかない。王子様は、オタメガ―桂木桂馬―その人に間違いなかった。  
 
「ね、よかったらさ、もう一回…私の名前、呼んでくれる?」  
あくまで平然を装って聞いてみる。  
微笑んだまま、私を見つめたまま、彼の口は再びひらかれた…。  
 
 
 
「おい、高原。」  
…へっ??  
さっきは、「歩美」って言ってたよね??  
しかもすごくぶっきらぼうな言い方だし。さっきの甘さはどこに行ったのさ。  
あれ?よく見たらメガネしてる…。ゴシゴシ目を擦って、もう一度見てみたけど、やっぱりメガネだ。  
「あ、あのさ…今日、メガネかけてたっけ?それに何でいきなり名字?」  
「何、ねぼけてるんだよ。2時間目もう終ってるぞ。」  
 
…へっ???  
に、2時間目????  
思い出せ、思い出せ!!  
えーと、2時間目の最初に英語のテスト返ってきて、案の定最悪の点数で、落ち込んで、机に突っ伏して…そのまま、寝ちゃってた…。  
 
 
 
ってことは、さっきの全部、夢ってことぉ?!なんて夢見てんだ、私っ!!  
みるみるうちに顔が赤くなって暴れだした私を、不思議そうな顔で見ながら言い放つ。  
「授業中に消しゴム飛んできたんだ。おかげでゲームのボタン押し間違えそうになったんだぞ。いつまでたっても取りに来ないと思ったら…。」  
…寝てるうちに飛ばしちゃったんだ。  
 
消しゴムを私の机において、さっさと席に帰ろうとする。  
こ、こいつ…!!人が真剣?に恥ずかしがってたと言うのにっ!!  
怒りと恥ずかしさにまかせて左腕をつかんだ。また心拍数があがった気がするけど、きっと気のせい。  
「何?ゲームで忙しいんだけど。」  
「ゲームゲームってさ…確かに居眠りして消しゴム飛ばしちゃったのは悪かったけど、その言い方はないでしょーーー!?」  
 
私の言い分なんか耳に入らないみたいで、机においてあった紙を拾い上げてぼそっと一言。  
「授業中寝てるからこんな悲惨な点数になるんだろうな。」  
「あ、あんただってゲームしかしてないじゃないのーー!!点数だってきっと…」  
片手には100点満点の英語のテスト。勿論名前は桂木桂馬。  
「ううぅぅぅ…もういい!!桂木のバカーーー!!!」  
つかんでた腕を力任せに振り切った。勢いで桂木の体が机にあたったみたいだけど、知るもんか。あんなやつ!!ドキドキして損した!!!  
 
 
「おにーさまぁ、大丈夫ですか!?」  
騒ぎを聞きつけて、エリーがやってきた。かわいいかわいい妹とラブラブしとけばいーんだ。ふんっ。私には関係ないもん。  
夢だって、単なる偶然よ偶然!!  
 
ふと、机に置かれた消しゴムに目が留まった。そういえば、なんで桂木はコレが私の消しゴムだって分かったんだろう?  
名前書いてないし、私の席はあいつの斜め後ろだからどこから飛んできたか見えないだろうし。  
 
「うーん、喧嘩するほど仲が良いってか。」  
「何気に一発で歩美の持ち物だって見抜いてたしねー。」  
いつのまにか現れた京といづみが好き勝手なこといってるっ!  
「そもそもオタメガが他人に声かける事自体珍しいよね。」  
「そうそう。エリーと歩美くらいだよ、オタメガとまともに話してるのは。」  
「歩美だって最近掃除時間の前、生き生きした顔してるしねー。」  
 
…けど当たってる。あいつと話してると、なんでかわかんないけど、楽しいんだ。  
だけど私の場合は掃除場所が一緒だから話す機会があるってだけで…。  
なんて考えてたら、京がにっこり笑ってささやいた。  
「歩美、うっかりしてるとエリーにオタメガとられちゃうぞ!  
とりあえず、消しゴムのお礼とお詫びくらい、きちんとしてきたら?このままじゃ気まずいでしょ。」  
…エリーに取られちゃうってのはおいといて。  
「うん、掃除の前に謝っとく…。」  
そうだよね、わざわざ私の席まで消しゴムもって来てくれたんだから。お礼言う前に怒っちゃったのはまずかったな。  
 
どうやって謝ろう、なんて思いながら斜め前をみたら、桂木と目が合ってしまった。  
とっさに目をそらす、なのに、あっという間に顔が真っ赤。自分でも嫌になる。  
一部始終を見ていた京といづみが、ニヤニヤしながら顔を近づけてきた。  
あーあ、しばらくはこの話題ばっかりなんだろうな…。うんざりして、でも嬉しい気持ちもあって。  
面白半分で茶化してるようで、実は結構真剣に相談に乗ってくれるんだよね。  
私は、夢のこと、この二人にだったら話してもいいかな、なんて思い始めていた。  
 
 

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