──唇を離した。  
ぼうっとした表情で、ボクへと視線を向ける。  
 
「か、神様……キス……」  
 
そんな表情で、そんなことを言うから、もう一度。  
今度は、もっと長く。息が苦しくなるくらい。  
さっきから、触れているのが苦にならない。現金なものだと我ながら思う。  
 
「う、うー……」  
 
これ以上は赤くはなれないだろう状態で、顔を離したボクを伺う。  
もごもごと口を動かすだけで、何も言わない。  
 
「……ボクがお前に言ったことは、理解できたか?」  
 
何を言ったらいいかわからないエルシィに、方向性を与えた。  
多少の時間をかけて、声を出した。  
ボクがそれを待ちながら、抱き寄せたままの肩の感触を楽しみ終わった頃に。  
 
「ヘンなヘルメットをかぶった人がドッキリとかいうことは……」  
「ない」  
 
誰だそれ。  
 
「……じゃあ、本当に?」  
「もう一回すれば、理解できるか?」  
「し、信じます! だけど……」  
 
身体を寄せるボクからわずかに逃げるようにしながら、言葉を続ける。  
 
「だけど、……神様、私のことをスペック不足だって」  
「そんなこと言ったか?」  
「言いました! 美生さんの駆け魂を捕まえた次の日に」  
「細かいことを覚えてるな」  
「うー……」  
 
睨んでくる。ちっとも怖くない顔で。  
こいつは、そんなことを気にしてたのか。  
キャラとしての純粋なスペックなら、どんな三次元より二次元のほうが  
断然上なんだから、気にすることもないのに。  
 
「……お前、ゲーム機の種類とか、知ってるか」  
「知りません」  
「PC-FXっていう、あまり売れなかった、ゲーム機があるんだ。  
 今のゲーム機に比べると、スペックはかなり悪い」  
「は、はい」  
「遅いし、能力は低いし、できることは少ないし、駄目なゲーム機だ」  
「……」  
「理由なんてない。だけど、ボクは、そのゲーム機が……一番大好きなんだ」  
 
視線を逸らしたボクの腕を握ってくる。痛いほどに。  
 
「げ、ゲーム機のことだぞ。誤解するなよ」  
「……神様、これからも新しいゲーム機がいっぱいでてきますけど、  
 その駄目なゲーム機は、ずっと好きですか?」  
「た、多分な……」  
 
「うーっ! 神様ーーっ!」  
 
エルシィがボクを襲ってきた。  
思い切り抱きつかれ、にこにこした顔を近づけてくる。  
小さなキスの後に、ボクが目を閉じる。少しの間のあと、  
ちゅっちゅっと、唇だけを位置を変えながら触れてくる。  
……自分が次に何をされるかわからなくて、ドキドキする。  
 
しばらく好きにさせた後に、少し物足りなくなったボクは自分から舌を入れる。  
今度はエルシィが目を閉じる番だった。  
ボクのそれをエルシィは受け入れてくれる。暖かいそれが拙く絡みあう。  
味蕾に感じるのはかすかに生クリームの味だ。きっとエルシィもそうだろう。  
 
身体を離したボクは、ひたすら抱きついてくるエルシィを取り押さえながら、  
呼吸を少しづつ整えた。  
 
「神様、神様、キスって、こんな感じなんですね」  
「したこと、なかったのか?」  
「はい!」  
 
まったく悪びれずに言う。  
……ボクが言うのもなんだが、それでよかったのか、300歳。  
 
「でも神様は、他の娘とこれからもたくさんキスするんですね」  
「それは、そもそもお前のせいだろ」  
 
拗ねた顔のまま、考え込む。身体は抱きついたままだったけれど。  
いくらかの葛藤があったようだが、思考能力を超えたのか、あきらめ顔で続けた。  
 
「駆け魂を出すとき以外は、ダメです、よ」  
 
それは大丈夫だろう。二次元もダメとかいわれなければ、問題ない。  
 
「……お前が、代わりをするならな」  
 
その言葉に、さっそく、代わりをしてもらった。  
ベッドの上のボク達の距離はすでにゼロで、今の季節には暑いくらいだ。  
 
離したそばから、もう一度、唇を吸う。  
エルシィは拒まない。  
今度は顎を押さえて、舌をねじこむように。  
少し荒々しかったせいか、反射的に身体を守ろうとする指をとらえて、  
空いている手で手のひらを重ねる。  
親指で手のひらや指の股をくすぐりながら、ボクの女の、舌を吸う。  
 
支えながら、そのまま上半身をベッドに倒れさせる。  
ベッドの上で視線をあわせていると、大きく胸をゆらして息を継ぐ。  
一瞬の、上気した顔に潤んだ瞳に、胸の熱量が増した。  
 
「……神様、なんだかヘンです」  
「ボクが? お前が?」  
「? 神様ですよ」  
 
すぐさま答えを返す。  
満面の笑みという言葉が良く似合う、子ども丸出しの顔のまま。  
 
わずかに罪悪感。それでも、ボクは、次に進むことにする。攻略は、勢いも重要だ。  
体重をかけないようにして、そのまま、エルシィの上に重なった。  
 
「神様?」  
「ここで、現実に必要な確認をするぞ」  
「は、はい」  
「母さんはどうした」  
「あの、オートバイで出かけられました。さっき」  
「古い言い方だな。次は、その、悪魔と、人間の間には子どもはできるのか」  
「あ、あの……」  
「どうなんだ」  
「聞いたことがないので、普通はないと……思います」  
 
なるほど。シチュエーションはオールグリーンだ。  
エンディングは……まだ良くわからないが。  
 
「エルシィ」  
「はい?」  
「服を脱げ」  
「……?」  
 
よくわかっていないらしい。  
 
「裸になれ、といってる」  
 
しばらく言葉にならない台詞がボクを襲いまくる。  
羽衣だけは襲ってこれないようにマウントポジションはきっちり取ったまま。  
 
「な、何のために脱ぐんですか」  
「エッチなことをするために決まってる」  
「うー! だ、駄目っ! こ、今度。また今度で!」  
「駄目だ。今。  
 なぜすぐにプレイできることを積んでおく必要がある」  
「ゲームじゃないですよぅ! プレイって言わないでください」  
 
「エルシィ。ちょっと聞け」  
「な、なんですか」  
「ボク以外の男と、キスしたいか」  
「……い、いやですー」  
「ボク以外の男と、抱き合ったりしたいか」  
「いやです!」  
「ボク以外の男と、エッチなことをしたいか」  
「質問がずるいですけど、いやです……」  
 
「……でも、もっとゆっくりでも」  
 
なかなかのってこない。もう一押しだな。  
 
「……ちょっとは余韻に浸らせてください」  
「残念ながらゲームではキスが限度だ。その先は流石のボクも不得手だ。  
 お前の意に沿わないなら悪いが、ボクはそうしたいんだ」  
「本当ですか?」  
 
不満気なエルシィ。  
 
「そういえば、さっきの話だと、なんでもいうことを聞くはずなのにな」  
「ず、ずるいです。それは駆け魂狩りの……!」  
「そうか。駆け魂狩りを止めればいいのか」  
「うー! だめー!」  
 
語調を優しく。追い込みだ。  
 
「服を脱いで」  
「あの、そ、それで何をするんでしたっけ?」  
「服を脱いですることはなんだ」  
「お、お風呂」  
「それも悪くないな。もう一度一緒に入るか」  
「うー! すいません!」  
 
泣き顔のエルシィ。ぐっと顔を近づける。  
 
「安心しろ。ひどいことはしない」  
 
その言葉に、ぶーとした表情でボクを見る。  
なんだ、何かいいたいことはあるのか。  
 
「……神様は、ベッドヤクザさん、なんですか」  
「……なんだその嫌な名称は」  
「こちらの勉強をする際に、その、せ、性教育も受けたんですが、  
 優しげで女の子が苦手とか興味がないとか言う人も、突然  
 その時になると、言葉責めということをされたり、ベッドヤクザに  
 なったりするから気をつけろと」  
 
偏ってるな。そもそも悪魔が人間に気をつけろってなんなんだ。  
よく考えると今その状況なのか。  
 
「優しい口調でエッチな要求をごまかすそうです」  
「別に元に戻しても構わない。落とし神が命ずる、エルシィ、服を脱げ」  
「うー、ううううー」  
 
考える。  
考える。ボクを見る。  
考える。ボクを見る。視線をそらさない。  
 
「神様、私のこと好きです……?」  
 
語尾が抜けてるぞ。  
 
「……現実では、一番な」  
 
 
ベッドから降りたエルシィは、ボクの前で背を向けたまま、ゆるやかに脱いでいく。  
小さな身体に、意外に大きい胸と、まったく翳りがない隠された場所がアンバランスだ。  
髪留めを外したそれは、驚くほど長く、艶やか。  
髪がお尻を覆う様に、ボクの下半身が痺れを訴えてくる。  
そのまま押し倒したい衝動を抑え、ボクは脱ぎ終わりを待った。  
 
手で大事なところを隠しながら、ベッドに腰掛ける。  
 
「か、神様。脱ぎました……」  
「次は、よつんばいだ。こう、ボクにお尻を向けるように」  
「な、なんの意味があるんですか」  
「ボクが見たいから」  
「神様、もうちょっと考えてからいってください!」  
「じゃあ、お前の恥ずかしい姿が見たいから」  
「よけい、したくなくなりましたっ」  
 
「エルシィ」  
「う、うー……」  
 
ボクの視線をうけて、のろのろと動き、ぴったりと脚を閉じたまま、よつんばいになる。  
おっぱいが大きく見える。  
つやつやしているお尻がボクの前でゆれる。  
そのままボクを振り返って、かぼそく声を漏らす。  
逆側に垂れた髪が肩から流れ、ベッドに広がる。  
 
「こ、これでいいですか?」  
「……うん」  
 
それしか言えなかった。  
すぐにでも触れたい感情を押し殺す。ボクは、もっとこいつで楽しみたい。  
 
「尻尾とか、羽根とかないんだな」  
「わ、私にはそんなのないです」  
「現実の地獄ってやつは、様式美のわからない所だ」  
 
ゆっくりと手を伸ばし、汚いものとはとても思えない窄まったお尻の穴の上、  
尾骨のあたりをそっとさする。  
 
「ひゃっ!」  
 
毛を逆立てるように、よつんばいのままエルシィの体が跳ねる。  
 
「触っちゃ駄目、駄目です!」  
 
お尻でいやいやをするように、ふるふると揺れる。まだ肉付きの薄い太ももの  
隙間からは、ボクに見せ付けるように襞がちらちらとあらわれる。  
誘っているようにしか見えない。聞こえないように深呼吸してから、後を続けた。  
 
「悪魔なら、普通はここらへんから尻尾が出ていることが多い」  
「ううー、私はないんですー!」  
 
舌先でそこをつつく。滑らかな部分に舌をあてる。  
エルシィの肌を舌でなぞる。感触に、その行為に、背筋がぞくぞくする。  
 
「か、神様、何……してるんですか」  
 
 

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