「今日は桂木エルシィ君が風邪で休みだそうだ。  
 桂木君、プリントなどは代わりに受け取っておくように」  
 
ヘッドホン越しに、先生の声と、クラスメイト達のええぇーなどという声がかぶさる。  
熱高いのかよなどという男どもに、病院にいったからたいしたことはないと  
集まってくる輩をしりぞけるのが面倒だ。  
曖昧な言葉を返しておいて、見舞いに行くなんて言われたらたまったものじゃないからな。  
 
(今日は地獄へ戻らないといけないんです。これのバージョンアップが必要で)  
朝、ドクロのアクセサリーを指差しながら言っていた姿を思い出す。  
だいたい夜に戻ればいいような気もするんだが、地獄にも営業時間とかがあるのか。  
 
夕方には帰ってくるということだった。それまで今日は一日邪魔されずにゲームができる。  
 
「桂木」  
「?」  
「エルシィちゃん、大丈夫?」  
 
高原歩美。こいつがエルシィと話しているのはあまり記憶にないが……  
 
「問題ない。明日には戻ってくるだろ」  
「ふうん、あんたより丈夫そうなのに」  
「風邪ぐらい誰だって引く」  
「それはそうだけど。ホントに大丈夫そう?」  
 
くどいな。そんなに親しかったか?  
先生が来たのを潮に席に戻ったが、何だったんだ。  
 
 
休み時間。周りも携帯を開いてかちゃかちゃとメールを打ち始めた。  
そういえば、質問のメールもかなり溜っていたはずだ。  
最近返信が滞っていた分もまとめて処理してしまおう。  
 
『右と左の道のうち、右、を選ぶ必要があります。運任せで理不尽だと思うかもしれませんが、  
 古いですが良いゲームですから頑張ってください』  
『午後に、病院の窓をよく見てください。それだけのヒントで大丈夫だと思います』  
 
送信。さて、次のメールは。  
 
 
  こんにちは、落とし神様。ポーンといいます。  
  お店で売っているゲームではない、ゲームについてなのですが、相談にのってください。  
  陸上部の主人公には、気になる女の子がいるんです。でもその女の子はゲームにしか興味がなくて、  
  まともに喋ったこともありません。まったく仲もよくありません。  
  でも、主人公は、その女の子を見るとドキドキするんです。  
  そして何かがあったという記憶だけがあるんです。  
  主人公のこの気持ちに整理をつけて、ゲームを終わりにしたいと思っています。  
  ぜひ回答を聞かせてください。よろしくお願いします。落とし神様だけが頼りです。  
 
 
……なんだ、この質問は。  
市販されているゲームじゃないんなら、どこをどうイベントをこなせばいいのかもわからないじゃないか。  
それをボクに聞かれても困る。  
だけど、だからこそ攻略する方法がないんだろう。  
あまりゲームに慣れていそうもないし。  
しかたない。頼られたなら逃げるわけにもいかないな。  
 
 
  ポーンさん、初めまして。落とし神です。  
  市販されていないゲームということですね。ポーンさんが面白いと思ったのでしたら、  
  今度ボクにも教えてください。  
  それで、質問の内容についてなんですが、抽象的になってしまいますが参考にしてください。  
  まず、きっとその主人公と女の子にはなにか過去があったはずです。  
  そして、それを思い出せない何らかの外的要因があります。  
  前世とか、幼少時の記憶封鎖とか、記憶を奪う妖怪とか、代表的にはその手のものですね。  
  それ自身はゲームを進めることでわかってくると思います。  
    
  まずは、主人公が女の子と仲良くなることです。良く思い出してください。  
  ゲームの最初の頃で、誰かとぶつかったり、下着を見てしまったりとかそういうことは  
  ありませんでしたか。そのときに、なにか選択肢があれば、試してみてください。  
  過去の記憶ではなく、現在の記憶なら消去されていないはずです。  
  それがとっかかりです。  
  あとはなるべくそれにかこつけて、話をしてみてください。  
  なお、そのときに選択肢が出てこなかった場合は、もう一度同じことを繰り替えす予兆かも  
  しれません。その時には、同じようになにか試してみてください。  
    
  話の内容ですが、女の子はゲームにしか興味がないということですね。珍しいです。  
  おそらくはそれがキーです。その趣味に関して話してみて下さい。  
  ただし、アプローチはいくつか選択肢があると思いますが、以下にだけ注意してください。  
  「価値観を ふざけて囃し 最上川」  
  価値観はそれぞれです。主人公がゲームを嫌いなのは問題ありませんが、女の子の  
  その趣味自体を馬鹿にする選択肢はやめましょう。まず間違いなく関係は流れて  
  元の位置には戻れません。  
    
  それから先は、残念ながらメールの内容だけではわかりません。  
  ポーンさんが頑張る必要があります。  
  メールを見る限り、ポーンさんもその女の子にしか興味がないようです。  
    
  > 主人公のこの気持ちに整理をつけて、ゲームを終わりにしたいと思っています。  
 
  バッドエンディングになってでも、ポーンさんがその女の子との決着をつけたい気持ちが伝わってきます。  
  直接の支援はできませんが、ハッピーエンドになるよう、応援しています。  
    
  落とし神  
    
 
送信……と。  
休み時間終わっちゃった。  
プレイできれば簡単なんだろうけど。何もない状態での回答っていうのは難しいな。  
 
 
さて、お昼か。今日はエルシィもいないし、弁当もないから、パンでも買いに行こう。  
 
廊下は食堂やパンを買いに行く人の群れが一息つき、静かになっていた。  
どのパンというのにこだわりはないし、すいているところでいい。  
 
「かつらぎぃぃーーーー!」  
 
でかい声。  
遠くに女の姿が見える。そしてなぜクラウチングの体勢。  
ボクがそいつを見たのを合図にしたように、制服のまま疾走を開始する。  
無茶苦茶早い。スカートがめくれるのも気にせず、ボクに向って突っ込んでくる。  
 
さすがは大会優勝。あの時よりも痛いだろうなきっと。  
質量にぶっとばされながらそう思った。  
 
 
「……高原、ボクに恨みでもあるのか」  
 
下着から目をそらし、今度はうまくかばったPFPをポケットに収める。  
その分体の痛みは強かった。  
 
「ごめんごめん、やっぱりブレーキがきかなくって」  
「これで二度目だぞ。廊下は走るなよ」  
「うっ、うん、二度目だよね。二度目。それは確かなんだ」  
「?」  
 
二度目、二度目と口に出して言う。  
ああ、そうか。  
あの時点では契約も攻略もしていなかったから、その記憶はあるというわけか。  
 
歩美の唇に飛ぼうとした目の動きを意識的にとどめ、ボクは1人で立ち上がった。  
 
「ま、待ってよ桂木」  
 
手は差し伸べず、歩美が立ち上がるのを待つ。  
 
「なに?」  
「ええとさ、お詫びもかねて、お昼一緒に食べない?」  
「……」  
 
行動が固まる。さっきこいつはボクの名を呼んでから走ってきたはずだ。  
だというのに、その内容がぶつかったことのお詫びとはなんだ。  
 
「ほら、オムそばパン、今走って買ってきたから、二人分」  
だから、順序が逆だ。そして走るの本当に早いな、お前。  
 
「別に詫びなんていらない」  
「こっちが悪いと思ってるんだってば。それに、ほら、エルシィちゃんの話も聞きたいし」  
「明日本人に聞けばいい」  
「本人に聞けないこともあるのよ。だから、ね?」  
 
手を掴まれる。こいつは覚えていないが、二度目の。  
走り出した。こけないためにしかたなく足がついていく。  
 
走りながら、途中でボクはツインテールの女と、目があった気がした。  
 
 

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