こんばんは、落とし神様。ポーンです。  
  丁寧なメールの返事ありがとうございました。  
  今日、ゲームを少しすすめました。アドバイスどおりになりました。  
  これから、私が女の子の攻略をすすめなくてはいけないところに入ります。  
  かなり難しそうですが、頑張ります。  
  私はまだ、ゲームを進めるために、本気を出していませんでした。  
  これからは徹底的に行きます。  
  エンディングを迎えたら、またメールします。  
 
 
……ふうん、そんなに熱くなれるゲームなのか。終わったらぜひ教えてもらわないと。  
まあ、ボクにかかれば簡単に攻略してみせよう。ゲームばっかりやってるような  
ヒロインの女の子が、ボクに対してどういう態度を見せてくれるか楽しみだ。  
 
「神様?」  
「ああ、悪い。  
 それで、頼みがある。明日、歩美と昼食を取ることになったんだ。  
 その時に、遠くから歩美を観察してくれ」  
「はあ…… どうしてそうなったのかはさっぱりわかりませんけど、なぜです?」  
「なぜかという、その理由を知るためだ」  
 
 
横に座った歩美。昨日と違うものが二つある。  
 
「目が赤いぞ。大丈夫か」  
「うん、大丈夫、大丈夫。ちょっと睡眠不足なだけだって」  
 
俊足を生かして、授業が終わると同時に飛び出し、ボクの分のパンも買ってきた。  
昨日よりさらに早い。そのまま引きずられるように屋上へと連れ出された。  
 
「髪、くくってるんだな」  
「え? う、うん。よく気づいたね」  
「まぁ、これだけ近いと」  
 
部活でもないのに、パンを買いに行くためだけにわざわざくくったのか?  
そんなに本気を出して走るほど、急ぐこともないのに。  
 
「エルシィちゃんは、良かったかな」  
「本人が、昨日の風邪でまだ昼飯を食べたくないらしいからしょうがない」  
「でもなんだか、睨まれてなかった?」  
「さあ」  
 
パンを食べながら、エルシィを探してみる。  
見つからないが、おそらくは高いところとか、どこかで監視しているんだろう。  
昨日よりも一際多いボク達への敵意の視線にまぎれてよくわからない。  
 
「屋上で食べる連中って結構多いんだな」  
「私も時々友達と食べてるし」  
「だから食べ物のゴミが多いのか」  
「あ、そういえば。このあいだは、ごめん。一人で掃除させちゃって」  
「──そういえばそうだった」  
 
実際はあの時はエルシィに連れ去られて途中で終わったけど。  
 
「あの時期は本当にいっぱいいっぱいでさ。今は大会も終わってゆるいけど」  
「じゃあ、今日の掃除は、高原が一人でやるか?」  
「今日?」  
「今日の掃除はまたボクと高原だろう?」  
「あ、ああ、忘れてた……」  
「おい、忘れて部活に行くとか帰るとかはもうやめてくれ」  
「それはない! 今回は絶対大丈夫!」  
「……なんでそんなに掃除が嬉しそうなんだ。  
 だったら、本当に一人でやってくれよ」  
「ダメ。二人でやるのがルールだもん」  
「お前がそれをいうか」  
 
歩美が笑う。ボクもそれにあわせて笑う。  
部活の話、授業の話。時間は意外なほどに早く過ぎ、予鈴が鳴った。  
 
「戻る?」  
「ちょっとトイレに寄るから、先に行ってくれ」  
「うん、わかった」  
 
軽やかに歩いていく。スキップ気味。くくった髪がぴこぴこと揺れる。  
屋上にはボク一人が残る。  
 
 
「エルシィ」  
「なんすか」  
 
ぶーたれた表情で茂みから顔を出す。昼飯を抜かされたのが腹立たしいようだ。  
 
「どうだった?」  
「いちゃいちゃしてました」  
「そうじゃない。駆け魂の影響が変に出ているとか、記憶を消しそこねたとかそういうのは  
 見つからなかったか」  
「そういうのはありません。今の歩美様は完全に普通の状態です。  
 それで、神様を好きになっちゃってます」  
「お前が見て、そう思うか」  
「誰が見てもそう思います。神様が一押しすれば、すぐですよ。駆け魂は出ませんけど!」  
「ふうん」  
「良かったですね! かわいい女の子から好きになられちゃって!」  
 
「エルシィ」  
「はい?」  
「駆け魂がいなくても、記憶を消すってことはできるのか?」  
 
「え……」  
「今の歩美から、ボクを好きだという記憶を消せるか、って意味だ」  
「ど、どうしてですか。今の歩美様は、駆け魂とは関係ないんですよ!」  
「だからこそだ。ボクから関係を断つよりも、そのほうが楽だ。面倒もない」  
「で、でも」  
「言っておくが、歩美だからじゃないぞ。相手が誰であろうと関係ない。  
 何度も言ってるだろう。ボクは現実の女子に興味はない。  
 それに、お前だってそのほうがいいんだぞ。もしボクが誰かと交際なんてしてみろ。  
 ろくに駆け魂がついた女の攻略もできなくなる」  
「それはそうですけど……」  
 
何も悩む必要なんてないだろうに、歯切れが悪い。  
本鈴も近いのに。  
 
「それで、できるのか。できないのか」  
「うー……  
 で、できません! 今日は先に帰ります!」  
「おい、まだ学校」  
「風邪です! そう言っておいてください、お兄様!」  
「こら! 空とぶなよ! 見つかるだろ!」  
 
……なんなんだあいつは。脈絡もない。  
 
しかし、できないとなると自分で断らなきゃいけないのか。  
面倒だな。  
 
好きだといわれる前に、嫌われるようにするか。  
好きだといわれる前に、それを言わせない状況を作るか。  
好きだといわれてから、情け無用に断るか。  
好きだといわれてから、他に好きな奴がいるというふうにするか。  
 
別に嫌われるのはどうだっていいが、なるべくボクが、楽な方法にしよう。  
フラグは早く折るほうがいいだろうし。次のイベントの掃除まで、いい断り方を考えるとしよう。  
 
ボクら以外に誰もいない屋上。それは別れ話をするにはおあつらえのシチュエーションだ。  
 
「え……?」  
「嫌だって言ったんだ。聞こえなかったか」  
「あ、明日は都合悪い? だったら、明後日でも、別の日でもいいよ。  
 桂馬の都合がいい日で」  
「別にいつでも同じだ。お前と食事はもうとらないよ」  
 
掃き掃除を終える頃、明日の約束を口に出した歩美。  
用意した台詞を投げつけてやる。  
 
「……私、なにか悪いこといった?」  
「別に。昨日今日とたまたまだっただけだ。  
 だいいち、ゲームをする時間が減る」  
「ちょっとだけでもいいよ。私がそばで見ているだけだって」  
「うっとうしい」  
 
歩美の表情が変わった。地のこいつは暴力的なところがある。  
オタメガネとして接していたボクにそういわれることはきっと気に食わないはずだ。  
けれどこらえた。表情を戻す。  
 
「何か嫌なところがあったなら、直せるんなら、努力するよ」  
「別にお前が嫌なわけじゃない。だから、直すこともない。  
 ボクが、現実の女子には興味がないだけだ。それに時間をとられたくない」  
「……そういわれると厳しいけど」  
 
なぜか歩美はしおらしいままだ。ボクを殴って屋上から出て行くと思ったのに。  
 
「……だいたい、どうして突然ボクにからむんだ。  
 エルシィの話だったら、明日から本人にしてくれ」  
「それは、あの、桂馬のことが……」  
「ボクのことが?」  
「……好きだから」  
「ふうん」  
 
他に方法がないからここで告白か。全然なってない。  
今告白するのなんか、失敗しようとしているようなものだ。  
 
「どこが、好きになったんだ」  
「?」  
「何か理由があるんだろう。ボクを好きになった理由はなんだ」  
「……わかんない」  
「わからない?」  
「意外とかっこいいとか、あげられればあがるけど、本当の理由はわかんないよ」  
 
エルシィの奴、本当にちゃんと観察したんだろうな。わからないけど好きってどういうことだ。  
校庭で、自信をなくして、涙を流していた歩美。  
それと同じような表情で、ボクの台詞を待つ。  
 
「なるほど。良くわかった。理由はとくにないけど、ボクが好きになったと」  
「……うん」  
「だけど、ボクには好きになる理由がない」  
 
正面から否定され、歩美は身体をちぢこませる。  
 
「……その、理由は、なんで?」  
「二次元じゃないから。だから、高原だからじゃない。現実の女子は好きにならない。  
 何度も言ってる」  
「……じゃあ、ゲームの女の子みたいな行動をとればいいってこと?」  
「わかってない。口癖や行動や表情や会話やリアクションをゲームと同じように  
 三次元でそれらしく演じられても、精度が低すぎる。  
 とても二次元の代わりになんかならない」  
 
「だから、ボクは、お前でも、誰でも、好きになんかならない」  
 
……歩美は下を向いてしまっている。そのまま帰るか、ボクを何発か張り飛ばして帰るか。  
それで終わりだ。  
まったく、本当に面倒だ。現実ってやつは。  
 
「……じゃあ、クラスで話しかけるのはいい?」  
 
カチンときた。思い通りに動かないその女に。  
 
「お前だったら、他の男にいけばいいだろう!  
 ボクにかかわろうとするなよ」  
 
歩美は顔を上げる。泣いてはいなかった。  
表情は落ち着いている。  
 
「他の男にいけばいいだろうって?  
 あんたこそ、さっきから、二次元、三次元ばっかり。  
 言えばいいのに。高原歩美が嫌いだから、好きになんてなれないって」  
 
腹が立った。どうしてここまで言われなければならない。  
 
「なんでお前はそんなにしつこいんだよ!  
 これだから現実の女は」  
「違う。私だけじゃない。  
 私だけじゃ、きっと泣いちゃうか、途中で諦めて、それで終わりだよ」  
 
「……なんだ。誰かが裏にいるのか?」  
「だれかじゃないよ。あんたが言ってくれたから」  
 
……ボク?  
 
「ボクが? ボクは何も言ってない」  
「言ったよ。あんたには何気ない言葉だったのかもしれないけど。  
 私は、それで、昨日の夜だって、今だって頑張ってられるんだから」  
 
何も言った覚えはない。混乱したボクに、歩美は声をなげかける。  
 
「あんたが、応援してくれるなら。  
 きっと私は、一等をとることだって、なんだってできるんだから!」  
 
応援してくれるなら。二つの光景が思い浮かんだ。  
 
「お前……ポーンって、高原が出したメールだったのか」  
「ハッピーエンドになるよう応援しています、って言ってくれた」  
 
正面からボクを見つめてくる。  
 
「最初は、あんたが気になる理由さえわかればよかった。  
 でも、あんたがそう書いてくれた。だから、私は頑張らないといけないんだ。  
 なんでかはわからないけど、そうしなくちゃいけないと思ったから」  
 
視線をそらせないようにボクに近づいてくる。  
 
「だから、私は絶対桂馬を諦めない」  
 
肩を落とした。  
……やるな。高原歩美。  
……そして、エルシィ。あのダメ悪魔め。  
ちくしょう。あんなメールなんて無視すればよかった。  
どうして2通とも返したんだ。そうすればこんなことにはならなかったのに。  
落とし神なんて。  
 
 
「……友達からだ」  
「え?」  
「言っておくが、ガールフレンドなんて生まれて初めてだからな」  
 
くそ……顔が熱い。  
 
「それに、ボクの攻略は、相当難しいぞ。譲歩は、ここまでだ」  
「……うん、ありがと。がんばる」  
 
ボクに笑いかけているらしい。見ていないから良くわからない。  
 
「じゃあ、握手」  
「?」  
「友達になったから、握手」  
 
ぷらぷらと右手を差し出す。横からボクを覗き込んでくる。  
 
「ね?」  
「……わかった」  
 
握手をされた。たしか、4回目だったか。手の感触も覚えちまった。  
小さな手のひらが、ぎゅっとボクの手を強く掴み、ボクの体に引き寄せられるように  
近づいてきた。  
 
キスをされている。いつかのように。  
いや、一つ違う。  
舌が伸びている。それを舌と感じないまま、ボクは受け入れている。  
くちゅくちゅと互いの舌が絡む。血流が全開だ。  
心臓が躍り上がりそうなのに、舌だけは歩美を追っている。  
身体中の血が下半身に流れ込もうとしている。  
気取られる前に、必死の思いで体を離した。  
 
「……友達なのに、キスしちゃダメだろ」  
「じゃあ、もう友達の次だ」  
 
口が回らない。口が回れば、こんな反則、いくらだって抗議できるのに。  
身体は離しても、まだ繋いだままの手が歩美の手から熱を伝えてくる。  
 
「女の子には武器があるんだよ。  
 男からじゃダメだけど、女の子からなら罪にならないの」  
「……不穏当な発言は控えてくれ」  
「だから、こんな台詞がゲームには出てきたよ。  
 据え膳食わぬは男の恥。  
 私、そんなに魅力ない?  
 わたしも、なにかしたほうがいいかな……  
 一回でいいの。忘れてもいいの」  
「……迷惑な台詞ばっかりだ」  
「迷惑って、わかっていってるんだよ。桂馬」  
   
唇が目の前に迫る。三回目のキスと、押し付けられる身体。  
その匂いと感触に、ボクは耐えられそうになかった。  
 
 

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