なぜボクが3次元の女のためにここまでしなくちゃいけないんだ。  
元はといえば悪いのはすべてこいつのせいだというのに。  
紛うことなく、現実はクソゲーだ。まったく。  
 
心の中で現実をいくらかののしってから、抱きついたまま続きを待っているエルシィを見る。  
……鳥のヒナじゃないんだから、エサを待つような目をするな。  
今度はついばむように唇だけをわずかに舐り、腰を曲げて首筋に顔を寄せる。  
ギロチン首輪がこいつの首にも締まっている。  
接合部のまったくない、黒曜石のような、実際には黒曜石なんて見たことがないがこういう  
黒い光沢のあるものはそう表現すると決まっているのでそれにならい、黒曜石のような首輪を見る。  
外す方法すらわからない。  
こういうものは外そうとすると爆発すると相場が決まっている。あまり興味を持ちすぎるのも良くないだろう。  
滑らかなその首輪と首筋に、舌を這わす。  
 
「ひゃ……」  
 
耳元で高い声がする。首輪と皮膚の隙間に舌先を差し込み、わずかにくすぐる。  
 
「エルシィ」  
「く、くすぐったいです……」  
 
頭をあげ、視線を合わせ、指先で首輪を少し浮かす。  
 
「いいか。この首輪をはずすなら、一緒にだ」  
「……あ」  
「返事は?」  
「はい、わかりました!」  
 
こいつにはちょうどいい位置の、ボクの首輪に同じように唇を近づけてくる。  
首もとのくすぐったさを感じながら、背中に手を回した。紐に触れる。  
見たことのない縛り方だが……どうやってはずすんだ。これ。  
くいくいと両側から引っ張ってみる。  
 
「ええっ! その、神、じゃなくて、神にー様!」  
 
慌てて腕の中から逃げ出そうとする。そのまま逃げ出すに任せたかったが、  
ゆるく巻いた腕は解かずに引き寄せて耳元で囁く。  
 
「嫌なら無理にはしない」  
 
腕の中でうーうーとうなりながら、混乱している。  
こいつも、見たところまったく慣れていない。  
初回はここで終わったって、ちっとも変じゃない。  
というか、嫌といって終わってくれ。背中の冷や汗に気づかれると困る。  
 
やがて、黙って和洋折衷な衣装の紐を自分ではずしはじめた。  
ボクの目をみないようにするのはいいが、そのせいで色々と体にぶつかるのをやめろ。  
 
……表情は変えないまま、聞こえないため息を心で何回か吐く。  
年齢制限突破。18禁突入。母さん、ジャンプ買ってきて。  
 
和服のような衣装の、紐が解けてずれた合わせに手を伸ばし、ゆっくりとそれを開く。  
下着はつけていたが、この間見てしまったその身体がボクの前に現された。  
 
視線に耐えるように手を握って、いかり肩で目をつぶっている。  
足指の丸まりがボクの緊張まで呼び起こそうとする。  
……現実の女なんかに動じたりしない。  
 
ボクが羽衣を外そうとすると、はじめて少しだけ抵抗した。  
 
「だ、ダメです。それは」  
 
とはいうものの、また縛り上げられるのはごめんだ。  
 
「両手を上にあげて」  
「……? こうですか?」  
 
なんのかげりもない腋がさらされる。だからか、あまり恥ずかしいとは思っていないらしい。  
 
「そのまま」  
「お兄様、あのー、それは何をされてるんでしょうか」  
 
手首を羽衣で縛る。見た感じはただの薄い布だけれど、どういう仕組みで色々変化しているんだろう。  
 
「と、といてください」  
「ダメだ」  
 
身体を持ち上げて、いわゆるお姫様だっこでベッドへと連れて行く。  
ボクでさえ持ち上げられるほどの軽い体は、ベッドの上でも軽く跳ね上がる。  
そのまま細い手首を押さえ、薄い胸にわずかにのっかっている下着をとりさった。  
 
目の前で起きていることについていけていないこいつは、目を白黒させている。  
生で見るのは初めてだ。主張の薄い胸に手を伸ばす。  
傷つけないように、逸る手を押しとどめ、速度を落とす。  
 
「ん……」  
 
柔らかい、という表現は嘘じゃなかった。ボクの身体にはない感触だ。  
指先が沈み込み、意外なほど深くに、筋肉か骨かを感じる。  
ふゆふゆと形を変える。  
 
唇をその先端へ場所を移し、桜色とでもいえばいいのか  
薄く色づいている部分を円を描くようにちろちろと周りをめぐる。  
舌先から人の肌の味わいを感じる。使い慣れたボディソープの匂いが  
鼻先をくすぐる。いつも使っているものと同じはずなのに、その匂いとともに  
下半身がむくりとより強くもたげたことを感じ取った。  
 
「……あぅ……っ」  
 
反応を返す。気持ちがいいのか、感覚がわからないのか。  
避けていた中心部を唇で含む。震えた体が沈み込んでボクの口から離れてしまう。  
それを追って、今度は離さないように唇で挟み込んだ。  
 
満足したのち。  
 
手首から手を離し、押し倒した体勢のまま片手で体重を支え、自分のシャツのボタンを外す。  
まだ火照ったままの顔で、目の前のボクから右往左往する視線が面白い。  
シャツを脱ぎすて、顔の横に手を置く。緊張が走る。  
 
そうだ。これ以上はもういいと思ってくれ。  
そろそろいいだろう。ボクのためにも、ストップをかけてくれ。  
 
体を下腹部に移動させるそぶりを見せると、あわてて話しかけてきた。  
 
「お、おにーさまっ」  
「なんだ?」  
「えと、その、ですねっ」  
 
動きを止めて続きを促す。そうだ、いい調子だ。  
 
「……聞きたいことが、あります」  
「何?」  
 
なんだか嫌な予感がする。  
めちゃめちゃに照れた表情で口走った。  
 
「神様で、おにー様は、私のこと、す、好きですよね?」  
 
……なんのプレイをさせるつもりだ。  
 
「あ、いえ、嫌いでもいいんですけど、たとえば、ほら、  
 綺麗好きなところは好きとか、そういうので!」  
 
そっちのほうがきついぞ。  
 
「……言えない」  
「い、言ってください! 嫌いなところは直すように努力します!」  
 
言えないっていってるだろうがお前は。  
そんなにダメなところを強調されたいのか。  
舌打ちをこらえながらなんとか優しく声を出せた。  
 
「全部」  
 
ああ、全部嫌いだとも。  
 
「ぜんぶ?」  
「ああ、全部だ」  
「……」  
 
ニヤニヤへらへらとひとしきりボクの裸の胸を叩くパントマイムを見せられた。  
縛られた両手でいっぺんに叩くな。痛いだろ。  
十分に楽しんだと思われた後に、まだ物欲しそうに付け加える。  
 
「……全部じゃなくて、一つ一ついってください」  
 
いいかげん帰るぞこのヤロウ。どんだけだ。  
わくわくする目で見つめてくるな。  
 
「それより、お前も、ボクのことをどう思っているか自分の口ではいってないだろう」  
「わ、私ですか? 私が、神……お兄様のことを?」  
「そうだ」  
「もちろん尊敬してますし、好きに決まってます」  
「……」  
「そのなかでもとくに、どこが好きかというと」  
「いわなくていい」  
 
くそ……臆面もなくいいやがって。もっと恥ずかしがって言え。  
 
「……っ!」  
 
手のひらを下着の上に乗せる。暖かさが伝わっているはずだ。  
ボクの指先にもわずかに凹凸が感じられた。  
身体をずらし、最後の部分へと顔を近づけていく。  
 
「ストップ、ストップです! あの、そこは……」  
「そこは、なんだ」  
「そんなところ、お兄様にはダメです!」  
「ダメなのか」  
「絶対ダメです!」  
「さっき、『もし嫌いな男の人からこんなことをされたと考えると、すごく嫌です』  
 と言ってたな」  
「……は、はい。言いました……けど」  
 
突然方向性を変えて責めてみる。  
こんなこと、との時を思い出したのか、いいかげんどこから熱をもってきているのか  
不思議なのだがさらに顔を赤くして言う。  
 
「じゃあ、こういうことをするのを嫌がられる、嫌いな男の人、なんだな、ボクは」  
「う、うぅ」  
「それなら止めるよ。ごめん、エルシィ、嫌なことをして」  
「お兄様は、好きな、男の人です!」  
「そうか、じゃあ、ボクにこういうことをされるのは好きということだな」  
「うー」  
 
からかわれているのがわかったらしい。うなり声を出している。  
 
「脱がすよ」  
「……嫌じゃないです」  
 
膝をこすりつけてわずかに抵抗するところをゆっくりと外し、足首にかけておく。  
 
現実感のない光景だ。  
まったく無毛のそれは、ボクのわずかな成人作品の知識からでも、人間と同じであることがわかる。  
こいつの体と同じようにまだ色づきの少ない閉じたソレを開く。  
当たり前だけど、擬音は響かない。衝撃は受けたけれど。  
 
「ええと、エルシィ。すごく綺麗だ」  
「……そんなところより、もっと早く言って欲しかったです」  
「それに、エルシィのここは好きだ」  
「……すごく微妙なところです」  
 
なんだか怒られる。珍しく心のまま口に出したというのに。  
 
いきなり口をつける。  
「ふぁっ!」  
まだあまり水分の多くない、そこに舌先をねじこむ。見えている太ももは驚くほどに細く  
片手で軽く、高くまであげられた。  
わずかに形を変え、奥が見えてくる。雫が浮かび上がる。  
 
「お、おにーさまっ」  
 
複雑な構造だ。ちぎれてしまいそうなほど容易にボクの舌と唇で形を変えていく。  
引っ張る。吸う。舐める。鼻をおしつける。にちゅにちゅと音を立て、エルシィの恥ずかしがる声が  
聞こえれば聞こえるほどボクの前でいやらしく色づき、ぬめりがボクの唇から逃げていく潤滑剤になる。  
だからボクは少しずつ大きく、そこへの力を強くしていく。  
 
「あうぅ……きたない、そんなとこきたないのにっ」  
 
ぽっちりとしたほんの小さな穴。鞘に包まれたままのクリトリス。  
こすりだすように唇でくわえ、合間から舌で吸い出す。  
 
胸が熱い。  
気づくと、空いている片手はズボンに伸びていた。チャックを開く音で、冷静になった。  
ボクはいま、それをしごくつもりだったのか、開放してそのままエルシィを犯すつもりだったのか。  
 
エルシィはかわいそうなぐらいに息を吐きながら、汗を出している。  
 
 
ボクの行動を待っているエルシィ。  
自分の身体も、すでに痛いほどに用意は整っている。  
 
しかし。本当に、いいのか。  
忘れるなんて方便にすぎないことはこいつにはわかっているはずだ。  
エルシィは、本当にボクのことを好きなのかもしれない。  
でも、ボクはこいつのことを好きだと言っていない。  
……きっと、好きだとも、思っていない。  
 
明日からは、ボクはその話題に触れることはしないだろう。  
それなのに、いくらエルシィを引き止めるためだからって、最後まで許されるのか。  
 
「……ここで止めても、明日には忘れられるんじゃないか」  
「……?」  
「心のスキマは、もう埋まってるよな」  
 
後悔をする。わかっているこいつに、そんなことを提案したことを。  
今更言われても困るだけだろうに、その言葉を止められない。  
 
「忘れてしまうことを、免罪符にしてよかったのか?」  
 
エルシィはふるふると頭を振る。  
 
「神様は、歩美様のとき、何にも反則なんてしていません。  
 歩美様にたいして、いろいろと向き合って心のスキマを埋めたんです。  
 駆け魂があらわれた以上、それは本当です。  
 記憶が失われても、好きになった気持ちはそのときには本物ですよ」  
 
……あいつはそうかもしれない。  
 
「けど、おまえは」  
「私も同じです。神、じゃなくて、お兄様はなんにも悪くなんてないのに。  
 私が、お兄様を好きなのは、本当です。だけど、忘れられます。  
 そういう約束、じゃなかった、そういうものですから。  
 だからもし、明日、忘れてしまっても、今の私は決して後悔なんてしないです」  
 
ボクを見て言う。  
 
「その上で、私はさっき足りないって言いました。  
 その、お兄様と、エッチなことがしたいからです……よ」  
 
照れながら。  
 
「お兄様、ええと」  
 
いつのまにやら外れていた羽衣。指先を自分の秘所へと導いて。  
 
「……私の、おま○んこに、おちん○ちんをいれて、ください」  
 
どうしようもない台詞を言い切った。  
 
「……もうひとつ、問題がある」  
「なんでしょうか」  
「避妊具がない」  
 
いまさらだ。いまさらだけどしょうがない。  
 
「問題ありません、私、悪魔ですから」  
 
ああ、そうか。妊娠なんてしないというわけか。  
本当に、都合のいい設定だな。  
 
 
「……わかったよ。おまえのおま○んこをボクの精液でべとべとにしてやる」  
 
 
先端をそっとあてる。ぴくんと震えるからだと一緒に、その場所も  
ひくひくと蠢いてボクを魅惑する。  
ぬるりと先端を包む。あまり温度差は感じない。  
 
先端でぐにぐにと表面を動かし、エルシィの体液をボクになすりつける。  
そのまま沈める。抵抗がきつい。  
生まれてきて、今までで最も硬くなっていそうな状態でなければ  
まるで負けてしまいそうだ。それを受けるエルシィを思う。  
 
「痛いか」  
「……いたくないです」  
「あ、そう」  
 
顔を見れば十分わかった。だけど止めるわけにはいかない。  
泣き顔にもうしわけなく思いながら、圧迫を乗り越えて最後まで埋めた。  
 
「入ったよ」  
涙を舐め取る。その動きでまたぴくんと動く。そうとう痛そうだ。  
けれど、このままというわけにもいかない。  
 
引く。エルシィはまだ頑張っている。  
短いストロークよりも長いストロークのほうが痛みは少ないようだ。  
 
前後にゆっくりと。気持ちいい。繋がっているのがわかる。  
それは明日になれば忘れている、できごとだ。  
 
エルシィの痛みは収まってきているようだ。ストロークを大きくする。  
 
「お、にいさま、もっとゆっくり、や、おっぱいダメです」  
 
律動にあわせて身体が動く。揺れる胸。  
ボクの行動に、反応を返す。  
クリトリスを撫で上げ、胸をいじり、髪を撫で、耳の穴に指をいれ。  
それごとに違う応答をする。  
強く挿せば締め付けられ、ゆっくり抜けば柔らかい顔をする。  
ボクの妹が。  
 
あの日。高原歩美を応援にいったボクは、誰かを探すような気配もない姿と、  
エルシィからの記憶を失うという説明でそれを理解した。  
表彰台に上がるところだけ見届けて、ボクは一人で帰った。  
歩美のときもかすかにそう思ったけど。  
そうか。寂しいっていうのはこんな感じなのか。  
 
「ひゃうっ! つ、つよいです。きゅ、きゅうにつよいのはいやっで、んんっ!」  
 
指先を結合部にそわせ、クリトリスに泡をまぶす。  
いやらしい。現実の音と色と匂いは皆嫌いだ。  
 
二回目の発射が近づくのがわかる。さっきよりはずいぶん持っただろう。  
それで、終わりになる。リプレイもできないなんて。  
やっぱりクソゲーだ。現実なんか。  
 
「エルシィ」  
明日以降、もう、一度だって名前なんて呼んでやるものか。  
「……エルシィ」  
ボクの呼びかけには答えられないように、じゅちゅじゅちゅと音を立てるように、  
強く動かす。すこしぐらいなら、痛がってもかまわないと思った。  
 
「くっ……は」  
荒く息をつきながら、先ほどよりもさらに多い量をボクの妹に注ぎ込んだ。  
 
 
翌日。  
 
「おはようございます、お兄様!」  
階下に下りたボクにそう声をかけてきた。  
台所で鍋の洗い物をしているエル……あいつの姿が見える。  
 
「お前、朝が早いな」  
「今日はお母様と朝ごはん一緒に作りましたから」  
 
トーストと野菜を刻みいれたスクランブルエッグに、味噌汁とぬか漬けだ。  
どういう取り合わせだ。  
 
「今日も駆け魂狩りに頑張りましょうね!  
 美生様も、きっと神様の言葉にならあっというまに恋に落ちちゃいます。  
 どんどん駆け魂をつかまえましょう!」  
「……そうだな、そうすればこの首輪ともお前ともおさらばで、  
 お前もお姉さんの元へ胸をはって帰れるだろう」  
「はい、その日が待ち遠しいです」  
 
……トーストを口に放り込む。しまった、まだ何もつけてなかった。  
しょうがなく、大根をこりこりと食べながら塩気でトーストを食べていく。  
ひたすら笑顔でこっちを見る悪魔女から視線をはずし、リモコンを探した。  
 
「それから、お兄様。  
 青山美生様をはじめとして、これからは口付けまではしょうがないですけど、  
 それ以上はぜったいダメですよ」  
「は? それ以上って何が?」  
「これを破ったら、大変です」  
「だからそれ以上ってなにがだ」  
 
リモコンを諦めて向きなおる。  
笑顔なのになんだか怖い。  
 
「お兄様を殺して、私も死にます。といいますか、その瞬間に  
 この首輪のせいで死んじゃいますね」  
 
軽く言い放つ。  
 
「大丈夫です。だってお兄様は言ってくれましたから。  
 『このおそろいの首輪をはずすなら、一緒にだ』って」  
   
やあボブ、これは心中にも便利なグッドアイテムだね!  
って言ってる場合じゃない。  
 
「……なんのことだ」  
 
あと、おそろいなんて言ってないからな。  
 
「いえ、なぜかわからないんですが、この言葉だけは覚えてるんです。  
 だから、お兄様、これからもずっと一緒にいましょう!  
 大丈夫です、私悪魔ですから、ずっと若いままですよ」  
 
……おい、おまえ嫉妬キャラだったのか!?  
素直で明るい前向きな妹で、嫉妬あり。  
怖い。なんだか怖すぎる。現実のヤンデレは洒落になりそうにない。  
 
ニコニコとご飯を進めてくるエルシィを見ながら、改めて思う。  
もう、本当に。現実はどうにもならないほどクソゲーだ。  
 
 

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