ソファーでうたた寝をしていたのがいけなかったのかも、しれない。  
ううん、結果を考えると良かったのかも・・・?とは、さすがに言えないか。うん。  
 
立花レーシングクラブに顔を出すと、オヤッさんと滝さんがばたばたと出掛けるところだった。  
「すまんなあ、律子。急用でな。時間があるんなら、ここで待っててくれんかな。」  
「悪ィ!ちょっくら行ってくるぜ!」  
「はあい。行ってらっしゃーい。」  
律子は口を尖らせながら、それでも口調だけは快く送り出す。二人の背中を見送ってしまうと、急に淋しくなった。  
あーあ。せっかくの休みに、オヤッさんたちに会いに来たのにな・・・。出掛けちゃうなんて。  
ここで一人で待ってるなんて、つまんない。バイクあんまり興味無いし・・・。  
ジャケットを脱ぐとソファーの背に引っ掛けて、すぐ横にぽすん、と腰を下ろした。  
それに、律子にはもうひとつ目論見があった。  
ひょっとして、アマゾンに会えないかなあと期待していたのだ。  
アマゾンは、普段どこにいるか分からない。  
あの野生児はどうやって生きているのか知らないが、定住する意志を持たないのだ。  
一応日本人のくせに、常識外れもいいとこで外見も行動も規格外で、  
噛み付いたりひっかいたり唸ったり吼えたりする獣みたいな人だけど。  
それでも律子は、アマゾンが好きだった。  
日焼けした肌で、輝くような笑顔の彼が大好きだった。  
会いたいと、思っても会えない。どこにいるのかわからないのだから、会いにさえ行けない。  
顔すら、もう1ヶ月近く見ていない。  
おやっさんのところには時々現れるっていうから(この時点で既に珍獣扱いだ)、こうして訪ねて来てるのにな・・・。  
切ない。  
ソファの背もたれに、頭をあずける。どうせやることもないので、そのまま目を閉じた。  
 
――― 一度だけ、抱き上げられたことがある。  
といっても、色っぽいシチュエーションなどでは、到底無い。  
得体の知れない気持ち悪い化け物に追いかけられて、転んで。  
なんで私がこんな目にと叫びたかったけどそんな暇もなくそれは迫って来て。  
もうダメ、と目をぎゅっと閉じたら、ふいにふわりと体が浮いた。  
え!?  
予想していたのとは全く違う優しい感触に驚いて目を開ければ。  
緑色をした逞しい腕に抱き上げられていたのだ。  
「ダイジョウブか?」  
少しぎこちない言葉だけれど、紛れもなく理性的な響きを持つ人の声であることにひどく安心した。  
緑色の人は、律子を少し離れた場所に下ろすと踵を返し化け物に向かって行った。  
血飛沫と断末魔を上げて怪物が倒れると、背を向けて立っているその人の緑色の腕は足は頭部は、  
次第に人間のものへと変化していった。  
呆然と見ていた律子のそばにとんで来て、人懐こい笑顔を寄せて再び、こう言った。  
「ダイジョウブ、か?」  
 
自分を追いかけていたアレ、が怪人というもので、  
助けてくれたその人が仮面ライダーと呼ばれる存在のひとりであることは、後で知った。  
ライダーたちの支援者である立花さん―オヤッさんや滝さんと知り合って、  
アマゾンが南米の密林で育った改造人間だということも知って。  
何度も顔を合わせるうちに、アマゾンの中身は外見の年齢よりもかなり幼い、ということに気付いた。  
見た目は、大人の男性なのだ。背だって結構高いし、容姿は整っている方だろう。  
けれどその行動はどう考えても一般的な大人、とは言えない。  
立花レーシングクラブに来ているときも、オヤッさんや律子と話すより、  
子供たちとはしゃいでいることのほうが多くて。  
だから律子は、望みは薄いだろうな、と常に思っていた。  
いくら自分がアマゾンを慕っていても、あの野生児がそういう気持ちを理解するかどうかも怪しい。  
それでも、どうしても、好きなのだ。  
会えるかもしれないというかすかな希望にすがって、何度も通ってきて。しかも必ず会えるわけでもないのに。  
私、バカみたいだな・・・。  
 
 
どうやら、居眠りをしてしまったらしい。  
律子は何かが頬に触れている感触で目を覚ました。  
「ん・・・ボス、くすぐったい・・・。」  
律子の家の愛犬、ボスは図体がでかいくせに甘えん坊だ。片手で払って、薄目を開けると。  
心臓が止まるかと思った。  
ボスじゃない。アマゾンの顔(しかもどアップ)が、すぐそばにあったのだ。  
ななな・・・何これ!?夢?ドッキリ?ていうかじゃあ、ほっぺた舐めてたのって、ええ!?  
頭の中が嵐が吹き荒れているように凄まじいことになっているのに、  
さらに追い討ちをかけるようにアマゾンが耳元で言った。  
「リツコ。オレの子ドモ、産んでクレ。」  
はい!?  
もう完全に何も考えられなくなって、頭が真っ白になった。  
アマゾンの指が律子の胸元にかかる。ブラウスのボタンが弾け飛んだ。  
その胸元に、高めの鼻梁がゆっくりと近づいてくる。  
急に、思考が戻ってきた。  
ちょっと、これは有り得ない事態だけどなんとかしなきゃ、そのうちオヤッさんたちが帰ってきてしまう!  
落ち着こうと必死に言い聞かせて情況を把握すると、アマゾンは律子の上に完全に覆いかぶさっている。  
力でどうにかなるとは思えない。  
「ちょ、ちょっと待ってください、アマゾンさん!あ、あの、そのこういうことは昼間からすることじゃないです!  
暗くなってからにしてください!」  
とっさに口から出た言葉。  
「・・・そうナノカ?」  
アマゾンが、首を傾げる。  
「そ、そうです!だから今は、ダメです!おあずけです!」  
「オアズケ・・・」  
しゅん、として律子の上から身を引いた。  
「分かっタ。アマゾン、我慢スル。」  
「あ、はい・・・。」  
とりあえず、事態を打開できたのにはホッとしたが。  
アマゾンがとても悲しそうな、打ちひしがれた表情をするので、律子はなんだか可哀相になった。  
「あ、その、夜に、なら・・・」  
まだバクバクと激しく打っている胸元を、手で押さえながらおずおずと言った。  
「ホントウ?」  
・・・その喜び方は、ずるい。心臓を掴まれているようで、何でもしてしまいそうに、なる。  
「私の家・・・、知ってますよね?夜、遅くに来てください。2階の、緑のカーテンの部屋です。」  
「ウン、分かっタ!」  
 
その格好でオヤッさんたちに会うわけにはいかなかったので、律子は置手紙をして帰ってきてしまった。  
ジャケットの前を、しっかりと閉じて。  
家に戻ると、母親に声をかけられた。ギクリ、とする。  
「な、何?」  
「最近、近所で不審者が出るって話、聞いてるでしょう。」  
「あ、うん。」  
当たり前だが、さっきあったばかりのアマゾンとのことを母親が知っている筈がない。それでも、少し安堵した。  
「昨日の夜、お隣の旦那さんが見たらしいのよ。」  
「そうなの?」  
「うん。何してるんだ、って怒鳴ったら逃げてったみたいだけど、アンタも気をつけるのよ。」  
「はあい。」  
「何だかお隣さんの話によると、裸みたいな格好をした男だって。」  
「そうなんだ。あったかくなると、変な人も出るんだね。」  
「そうよ。もう、イヤんなっちゃうわ。変質者なんて。」  
ホントだねー、と相槌を打ちつつ自分の部屋へ下がった。  
 
着替えようと服を脱ぐと、下に着ていた、キャミソールまで裂けていた。  
全く、私だったからいいようなものの・・・。律子は大きく、ため息を吐いた。  
 
 
夜。  
夕食も、お風呂もそれ以外の準備も済ませて、律子は自室でアマゾンを待っていた。  
来て、くれるかな。・・・しかもそういう目的なのだ、と思い起こして、律子は顔が赤くなる。  
本当に今日、あのときまでは考えもしなかったことだったのに。  
来て、くれたら。ううん、でも、その前に・・・。  
コンコン、と窓を叩く音が聞こえた。  
来た!  
「リツコ?オレ、アマゾン・・・」  
「入らないで!」  
強い調子で、言う。  
「そのまま、そこで、聞いてください。・・・私、聞きたいことが、あるんです。」  
少しだけ開けておいた窓のそば、顔を寄せて。  
アマゾンは多分、屋根の上にいる。庭木が隠してくれているから、目立ちはしないはずだ。  
「・・・ナニ?」  
「アマゾンさんは、誰にでもあんなこと、してるんですか?」  
「エ?」  
聞き返される。  
「だから、今日、オヤッさんのところで・・・私に、したような。」  
ひるんでしまいそう、だった。でも。うやむやには、したくないもの。  
「あんなこと、他の女の子にも、してるんですか・・・?」  
ちょっとふるえてしまったかもしれない。でも、どうしても、聞きたかった。  
アマゾンにそういう、女の子を好きっていう気持ちがあったのは、嬉しい。  
突然だったけれど、はい、と即答したくなるほど、彼が好きだ。  
だけど、誰彼構わずだったら、悲しい。・・・すごく、悲しい。  
それに、アマゾンのことをよく知らない女の子にあんなことしてたら、・・・捕まっちゃうじゃない。  
そんなの、もっとイヤだ。  
 
「チガウ!」  
アマゾンが、叫んだ。  
「他の、コには、してナイ。リツコ、だけ・・・!リツコ、にも、ホントウは・・・。」  
その後は、黙ってしまった。泣きそうになるのを堪えて、もう一度、聞く。  
「本当は、・・・何ですか?」  
ためらっているのか、なかなか答えてくれない。  
沈黙に、耐えられなくなりそうになったとき、アマゾンが口を開いた。  
「オレ、リツコに・・・、会いタイ、思っテ。ココに、来てタ。何回モ。」  
え?  
「デモ、なかなか、会えナカッタ。昨日は、怖いヒト、怒らレ・・・タ。」  
昨日?・・・って。・・・!  
「・・・今日、オヤッさんトコ行っタラ。リツコ、イタ。オレ、嬉しカッタ。リツコ、やっと、会えタ。嬉しカッタ。」  
こっちまで苦しくなってしまいそうな、そんな声だった。  
「リツコ、寝てタ。ダカラ、起きル・・・マデ。待ツ、しよう、思っタ・・・。」  
そこで一度、途切れた。  
「リツコ、くしゃみ、シタ。寒いカ、思っテ、オレ・・・。気がついタラ、ああ、シテタ。」  
言葉にならない。律子は両手で顔を覆った。  
 
「ゴメンナサイ!」  
心をまるごと全部ぶつけてくるような、謝罪。  
「オレ、リツコ、びっくりサセタ・・・。服、モ、ゴメンナサイ。ダカラ、謝り二、キタ・・・。」  
声が。言葉がこれほどに胸を締め付けるのを、律子は生まれて初めて経験した。  
「・・・ゴメンナサイ。リツコ、ゴメンナサイ。オレの顔、見たクナイ・・・?」  
「違います!」  
弾かれるように、今度は律子が、そう言った。  
「アマゾンさんの顔、見たくないなんてそんなことありません・・・!」  
「じゃあ、ドウシテ、入れてクレナイ・・・?」  
だからその声はずるい、と律子は思う。  
「本当に、私にだけ・・・なんですね?」  
「・・・ウン。リツコ、だけ。あんなコト、シタイの、リツコだけ。デモ、リツコがイヤなら、オレ・・・。」  
「嘘だったら・・・、オヤッさんに怒ってもらいますよ?」  
ああこんなことを言っていても、もう。  
「嘘じゃ、ナイ。リツコ、」  
「じゃあ・・・入ってきて、ください。」  
捕まっているんだ私。この荒っぽくて純粋なけものに、もうとっくに。  
 
トン、と部屋の中に降り立つ音が聞こえた。  
「リツコ・・・?ドコカ、悪いノカ?」  
律子がベッドに横になって壁の方を向いているのを見て、アマゾンが心配そうに言う。  
「いえ、これは、その・・・」  
言いよどむ。  
「ダイジョウブ、か?」  
おろおろと、近づいてくる気配がする。しまった、心配させてしまった。  
「あ、えと、全然元気なんですけど、その・・・」  
口に出すのは恥ずかしい。というか、やっぱり私バカなんじゃ、と律子はまた思う。  
「その・・・、お布団の中、入ってきてもらえます?」  
このセリフも充分恥ずかしいことに気付かないくらい、あがった状態で律子は言った。  
意味もよくわからないまま、アマゾンは布団をぺらりとめくる。そしてすぐに元に戻した。  
律子の白い背中の残像がチラチラと残って、目をこする。  
「リツコ!?」  
アマゾンが驚愕して小さく叫ぶのに、律子は頭を抱えて布団の中にもぐりこむ。やっぱりバカなことした!  
そろそろと顔を出して。  
「そ、その、あの、また服・・・破かれちゃうといけないと思って、このほうがいいかな、って・・・!」  
律子は、何も着けずに布団に入って待っていたのだ。  
アマゾンが、ベッドの上に飛び乗る。揺れてキシ、と鳴った。  
布団越しに、律子を抱きしめる。  
赤く染まった律子の鼻先で、思い切り微笑んで、言った。  
「オレの子ドモ、産んでクレル?」  
 
はい、と応えると、アマゾンは唇を合わせてきた。やわらかく、優しく。  
どくどくと高鳴る鼓動がうるさくて、でも心地よくて律子は目を閉じた。  
唇を離すとアマゾンは少し体をずらし、腕を覆う布に架かる紐を、歯で噛んで解いた。  
上着も脱ぐと、するりと布団の中に入りこんだ。  
肌が触れ合ったとたん、お互いの体に火が点く。  
熱い。  
アマゾンは律子の顔の両側に手を付き、耳を舐めた。  
くすぐったさに首をのけぞらせながら、律子はアマゾンの背中に腕を回し、遠慮がちに撫でる。  
胸と胸の間のわずかな距離が、もどかしい。だけど、自分から引き寄せるなんて、大胆だろうかと律子はためらう。  
舌が首に落ちると同時に、胸の先が触れて、擦れた。  
「あ・・・んッ!」  
思わず洩れた自分の声が恥ずかしい。  
アマゾンが顔を起こし、つぶらな瞳でじいっと見つめてくる。そんな純真な視線で見られたらもうどうしようもない。  
ぱちぱち、と瞬きをすると、少しいたずらっぽい表情になって。  
律子の乳房に、頬を寄せて懐いた。  
「んッ・・・ああッ・・・ん!」  
頬で撫でられ、唇で軽く、食まれる。ふにふにと揉まれ、舌でところ構わず、舐められる。  
アマゾンは自分が与える愛撫に対する律子の反応を、楽しんでいた。  
やだ、何、こんなイジワルなひとだったの・・・?ああ、でも。  
こうして快感を与えられること、嬌声を上げさせられること、を。  
私は、望んでいたんだ。  
 
律子はアマゾンの髪を撫でる。ウエーブのかかった、長めの髪。  
また、目が合った。  
今度は、反撃する。頬を両手で覆って、唇にキスをした。  
押し付けて、少し離し、斜めに傾けて、もう一度。  
そのまま左右に振り、熱くなった息を少しだけ、洩らす。  
アマゾンが肩を震わせたので、効いている、と分かる。そうよ、私だって。  
多分こういうことは知らないだろうな、と思いながら、薄く開いた唇に舌を割り込ませる。  
案の定、アマゾンはびっくりしたように身を引こうとした。  
ダメですよ?  
律子はアマゾンの唇を、ゆっくりと舌でなぞった。  
「ウ・・・」  
ん、やった!律子は心の中で快哉を叫ぶ。けれど、束の間の勝利だった。  
すぐにアマゾンのほうが、律子の唇に舌をねじ込ませて来たのだ。  
口の中深く、入れられて、舐め回される。  
「んんんん・・・ッ!!」  
舌って、こんなに体積があるものだっただろうか。  
脳裏が快楽一色に、塗り替えられる。  
気付くと乳房もまた、アマゾンの手で撫でられていて。  
ああ、やっぱり。勝てないのかも・・・と律子は思った。  
 
腰を、押し付けられた。  
熱い、硬いそのふくらみを感じて、律子は眉を歪ませる。ぞくりと、体を悦びが走り抜けた。  
アマゾンの首を、胸を、背中を撫でていた手を、するすると下半身のほうへと下ろしていく。  
腰に触れると、アマゾンがそれを気にするように、かぶりを振った。  
布越しにふくらみを撫でる。  
「ン・・・、リツ、コ・・・ッ!」  
耐え切れずにアマゾンが律子の名前を呼び、そして全身が密着するように、抱きしめた。  
腰を揺らして、何度も擦り付ける。  
きっと、本能ではどうすればいいのか分かっているのだ。  
最初から、その肝心なところだけを、求めているのかもしれない。  
でも、それなら、それだけなら、押さえつけて目的を達してしまえばいい。  
アマゾンの力なら、たやすいことだ。  
それをしないのは、私の話を聞いてくれたのは。  
近所の人に怒鳴られても、ここへ来てくれたのは。  
大切にしてくれているからだと、・・・うぬぼれてもいいだろうか。  
最後の砦を自分から解かないのは、私が受け入れるのを待ってくれているからだろうか・・・?  
幼いだけじゃない。本能だけじゃ、きっとない。  
アマゾンなりに考えて、悩んでそれで・・・。  
律子は、心を決めた。  
 
アマゾンの手を取り、自分の腿の間へ導いた。  
自分でしていることとはいえ、恥ずかしくて。とても見ていられないので、顔はアマゾンの胸板に押し付ける。  
もう、濡れているのは知っている。慣らさなくても大丈夫なんじゃないかとも思う。  
でも、その手で触れて欲しかった。わがままだけれど・・・。  
少しの間きょとん、としていたアマゾンだが、律子が望んでいることが分かったのか、指でそこを探り始めた。  
ぬるり、とその指が入り込む。  
律子はびくり、と体を震わせる。  
「ん・・・」  
爪で傷つけることを恐れているのか、おそるおそるというように動かされる。  
意識を集中していたそこから、ふいに指が抜かれたので律子は顔を上げる。  
アマゾンは律子の愛液が付着した、自分の指を舐めていた。  
「え、ちょっ・・・」  
やだ、と口から言葉が出る前に、足を広げさせられた。  
痺れるような甘い刺激が襲ってきて、思わず背を仰け反らせてしまう。  
先程まで縋っていたものを追って上半身を起こすと、その光景が見えてしまった。  
太腿にかけられた手と、その、間の・・・。  
「ア、アマゾン、さぁ・・・あん!」  
目を瞑り、それだけでは足りなくて顔を手で覆う。  
舌が、舌で、私の・・・、そんなあ!  
ぺちゃ、ぺちゃ、と聞こえる音が羞恥心を煽って、けれどゆっくりとそれを消し飛ばすように快感が生まれていった。  
 
やわらかく熱い律子の中をひとしきり味わい尽くした後、  
アマゾンが口元を手で拭いながら、どう?というような表情で戻ってきた。  
やっと解放されて荒い息の律子は、上気した頬をふくらませて抗議する。  
お返しとばかりに、アマゾンの腰のあたりから布の中へ手を滑りこませた。  
直にそこに触れると、もう充分に熱く張りつめていて。  
急な刺激にアマゾンはウ、と呻き声を上げる。  
包み込んで、撫であげた。  
「・・・ハッ・・・、ウ、ウウ・・・」  
律子の肩口に額を押し付け、堪えている。首をひねって、恨めしげな目を向けた。  
少し気がすんだので、律子はくす、と笑う。  
ちょっと待っててくださいね、と言いおいて、枕の下に隠しておいたものを取りに行った。  
アマゾンの前に正座する。  
「じっとしててください・・・。」  
律子がその小さな包みの封を切り、中身を取り出すのをアマゾンはじっと見ていた。  
そして真剣な顔で布を下ろし猛るモノをあらわにすると、その先端にあてがう。  
イヤがったらどうしよう、と律子は思っていたが、おとなしく着けさせてくれた。  
「はい、できました。」  
おまけにちょっとだけ、強く握りこんでみる。  
アマゾンはその快感に耐えて唸りながら着衣を脱ぐと、律子の上に圧し掛かった。  
 
真正面から、じっと目を覗き込まれた。真剣で純粋な瞳。  
逃げられない、と思った。そんな気も、ないけれど。  
腰を進めて律子の中へ入ろうとするが、うまく入らずに逸れてしまう。  
申し訳なさそうにするので、律子は気にしないで、とアマゾンの頬を撫でる。  
もう一方の手を彼自身にそえると、入り口まで導いた。  
ゆっくりと硬く大きなそれが侵入してくる。・・・少しばかりでなく、抵抗がある。  
律子は息を詰め眉をひそませる。  
「ツライ・・・?」  
入っていくのを途中で止めて、心配そうに聞くアマゾンの声も、荒く乱れている。  
「・・・だいじょうぶ、ですよ。きて、ください・・・。」  
「ウン・・・。」  
だってもう止められないんだもの。  
私だって、私のほうだって、欲情するけものだ。  
 
そして全部が呑みこまれきつく締め付けられると、たまらなくなってアマゾンは腰を振り始めた。  
リツコ、我慢してルのかもシレナイ、とアマゾンは考えるが、止まらない。  
昼間は衝動で動いてしまって、驚かせて。それでも優しいことを言ってくれた。  
興奮と、申し訳ないことをしたという気持ちとがグルグルと頭の中で混ざり合って夜まで落ち着かなかった。  
日が沈んで闇が降りてきて、やっぱり謝りに行こうと決めた。  
アレは、オレのしたいコトだったケド、ホントにしたいコトはそうじゃナイ。それを分かってもらいたい。  
拒否されて、窓の外屋根の上で目の前が真っ暗になった。  
このままリツコが、会ってもくれナクなったラ、ドウシヨウ・・・?  
後悔しても遅いけれど、謝るしかない。本当の気持ちを、伝えるしか、ないと思った。  
拙い言葉で、精一杯の。  
入ってきてもいいと言ってくれて嬉しくて、だけどやっぱり心は沈んでいた。  
律子がベッドから起きないので、体調が悪いのに無理をして話をしてくれていたのかと心配になった。  
その、それまでの気持ちは。  
律子に悪いと、自分がイケナイことをして、だから嫌われてもしょうがないと思ったのは、断じて嘘じゃない。  
けれど白い肌を目にした途端に吹っ飛んでしまった。  
律子も自分と同じコトを望んでくれているんだと、そう分かったとたんに理性のたがが外れてしまった。  
今も、甘やかしてくれるから、こうして。  
 
「ん・・・あんッ!あ、ああッ、は・・・ああんッ!」  
揺さぶる。  
下半身からの直接の刺激に加え、耳から入る快楽を示す声と背中に縋る腕が、興奮をさらに煽って。  
自分の好き勝手にしていることに胸を痛めながら、それでも何度も何度も突き入れ、責め立てた。  
律子の目に、苦痛のためか涙が滲む。  
アマゾンはそれを舐める。舐めながら、なおも激しく求め続ける。  
ゴメン、ゴメン、リツコ。・・・ゴメン。  
苦シイ?ソレトモ・・・。  
気付くとアマゾンの目からも涙がつうと流れて、頬を流れていった。  
律子は指でそれを拭う。息を切らしながらも、本当に嬉しそうな笑顔を見せた。  
イイノカ?と、アマゾンは思う。  
これは自分の独りよがりな欲望ではなくて、ふたりで一緒に望んだことなのだと、思っていいんだろうか?  
嬉しくて、苦しくて、気持ち良くて、胸がつぶれそうで。  
それが愛しいということなのだと、初めて、気付いた。  
 
 
 
 
「ん・・・」  
律子はぐったりとした体をベッドに横たえて、荒い息を吐いた。  
アマゾンが上にいて、額をペロペロと舐めている。  
あ、汗かいたから・・・身づくろいしてくれているのかな?  
一所懸命なされる行為に、思わず微笑んでしまう。  
「ありがとう、ございます。」  
頭を撫でると、無邪気に喜んでいつもの輝くような笑顔を見せた。  
「ジャ、こっちモ・・・」  
首筋に付いた汗も、舐め取り始めた。  
くすぐったくて、律子は身をよじる。  
「きゃ、アマゾンさん、そっちはいいですってば・・・!くすぐった・・・」  
しかしアマゾンははしゃいでしまって、なかなかやめようとしない。  
「もう・・・!」  
笑いながら、髪の毛をくしゃくしゃとかき混ぜる。  
こうやって遊ぶのも楽しいから、好きなようにさせておこうと律子が思ったそのとき。  
アマゾンがピタリと動きを止めて、気まずそうに横を向いた。  
「・・・どうしたんですか?」  
不思議そうに、律子は訊ねる。  
「ア、ウン・・・。」  
答えようとしない。  
律子はその顔を下からのぞきこむ。大きな目でじいっと見つめられて、アマゾンはたじたじとなった。  
「エット・・・。」  
口に出す代わりに、アマゾンは姿勢を少し、変えた。  
腿に触れたものに気付いて、律子は赤くなる。これって!  
「アマゾンさん!」  
「ゴメン・・・また、大キクなっチャッタ・・・イイ?」  
近づいてくる顔に、一瞬、あっけにとられて。  
それから首に腕を回し、律子は自分だけの愛しいけものに抱きついた。  
 

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