「乾杯。」
「・・・乾杯。」
ここは夜景の美しいホテルのラウンジでグラスを傾けているのは人もうらやむような美形カップル。
なのだが、雰囲気は最悪である。
「別に俺と来なくてもいいと思うんだが。」
「休み貰ったりここの予約取ったりするのに随分苦労したのに、
キャンセルするのもつまらないと思って。」
今日は結城の誕生日で当然、ここにいるのは彼であるべきなのだが、
敬介が負傷したと聞いて、治療に行ってしまったのだ。
で、それを伝えに来た風見はそのまま引っ張ってこられて今に至る。
「敬介だって好きで怪我したわけじゃないし、普通の医者には診せられないんだから・・・」
「それは良くわかってるわ。こんなことしょっちゅうだし。」
「そうなのか?」
「私の誕生日に誰かさんにエジプトへ呼び出されたこともあったし。」
「そ、それは!知らなかったんだ。あいつだってそう言ってくれれば・・・」
「はあ、どうしてあんな薄情な人と付き合ってるのかしら。」
「まあ、それはちょっと不思議だったんだが。」
「不思議?」
「君にとってはあいつは・・・ その、いわば家族の仇なんだろう?」
「それはあなたも同じでしょう。」
「まあな。だいたい最初に会った時は敵みたいなもんだったしな。
ロープで足引っ掛けられたり、ブルトーザーで埋められたり、崖から落とされたりしたし。」
「偽者の分も入ってない?私が会ったときには記憶喪失になって暢気に南の島ライフしてたわね。
そこに最低最悪の奴に襲われて、助けようとしたら串刺しにされたし・・・
大体、人の言うことちっとも聞かないんだから。」
「結構、喧嘩っ早いのも困るんだよなー、早とちりはするし。」
結局、その場にいない結城の悪口(ついでに佐久間のも)で盛り上がり
相当出来上がったアンリに肩を貸して風見(改造人間なので酔わない)は
予約してあった部屋にやってきた。
ベッドに寝かして帰ろうとしたが、アンリは手を離そうとしない。
「アイツと間違えてんじゃない。」
「間違えてないから。」
「え?」
「今日だけ一緒にいて・・・」
「・・・重いのね、改造人間って。」
「悪かったな、だったら上に乗れよ。」
強引に抱え上げられ、流石に力あるなあとか感心する間もなく慣れない行為に
気が遠くなってしまったアンリが目を覚ました時、もう風見はいなくて
『アイツに言ったりしないから安心しろ。言ったところで信じないと思うが。』
という無愛想なメモが置いてあるだけだった。
きっとそうね。とアンリはなんだか可笑しくなった。