あの光の輪…魔法陣とか呼んでる中継もあったけど。  
 「真美せんせ、すごいよね…ハヤトさん。」  
 夜空で、えらそうに光ってたあの輪っかが蹴り砕かれたのを見ていたら、後ろから、声。  
 「あ…ごめん」  
 買出しに出てきた町で、電器屋のテレビに隼人さん…仮面ライダーの姿だけど…を見て、  
足を止めてしまっていた。  
 一緒に来ていた年かさの男の子は、次々に映し出される惨状と、それを救うライダー達の  
姿に見とれていて、私が慌てた顔をしたのには気づかないでいてくれた。  
 最近のニュースの半分以上はBADAN絡み。  
 少し前までは、この国は世界で1、2を争うほどに危険な国だったけれど、今では、もう、  
世界のどこにだって、絶対に安全な場所なんて無い。  
 街の真ん中に、ある日いきなりブラックホールみたいな輪っかを作るような奴等相手なら、  
サマルカンドもホワイトハウスもバチカンも関係ない。  
 私たち…人間は、等しく危険にさらされている。  
 以前は誤って地雷原に踏み込んでしまうことや、ゲリラの襲撃に怯えていたけれど、最近は  
化け物がいきなりやってくることに怯えている。  
 「…行こう」  
 ニュース番組が終わったのを機に、私は荷物を抱えなおし、歩き始めた。  
 隼人さんだって頑張っている。  
 私も、何もしないでいられない。  
 大きく頷いて、午後の診療への気合が入ったのを嬉しく思いながら、足を運んだ。  
 
 
 だから、帰ってきた時に、彼の姿を見たときには本当に驚いて…その事自体に腹が立った。  
 
 
 「あれ、なに、みんな騒いでるんだろ?」  
 「本当…また誰か、差し入れでも持ってきてくれたのかな?」  
 聞こえてくるのは、どう聞いても悲鳴じゃなくて歓声だし。  
 子供って、本当に泥とか水溜りが好き。医者の立場からすると、細菌天国だし、世話してる  
立場からすると洗濯が大変だからご遠慮くださいって言いたい所だけど…  
 あの顔を見てると、こっちだって笑ってしまう。  
 そう、あの人みたいに…  
 「ハヤトさん!」  
 私の隣から、荷物を放り出していく子供。その先に…子供と一緒に泥だらけになって笑う顔。  
 一文字隼人。  
 仮面ライダー2号、と呼ばれてるみたいだけれど…私にとっては、やっぱり、隼人さん。  
 さすがにカメラバッグは脇に置いてあるけれど、顔もズボンも泥だらけ。  
 変わってない。大きな街を救おうが、恐ろしい化け物と戦おうが…やっぱり、変わらない。  
 なんだか、大きな塊みたいなものが心の深い所からあがってこようとしているのを感じて、  
私は荷物を拾い、食堂へ入っていった。  
 大きな塊は、まるで溶け始めたチーズの塊みたいに扱いにくくて、なかなか、元あった場所へ  
戻ってくれなくて持て余す。  
 それが余計に腹立たしくて、私は自分の胸元をわしづかんだ。  
 指に柔らかく絡むマフラーが、ほんの少しだけ、気持ちを静めてくれる。  
 食堂の入り口へ、歓声とともに近寄ってくる人影に向き直り、私は笑いながら言った。  
 「先に、裏の川へ行ってみんなで体を洗ってきなさい。隼人さんは、そのまま洗濯よ!」  
 
 
 夜。食事も、入浴も終わって、子供たちは眠りについている。  
 あの塊は、まだ胸のどこかに飲み込み損ねたパンのようにつかえていて、食事を終えても、  
体を流しても、唾液を吸ってますます大きくなっていくように感じていた。  
 それが苦しくて、私は眠るどころじゃなくて、虫の声と夜の生き物たちの気配のする  
闇の中、一人で眼を開いている。  
 転々と寝返りを打っても、全く眠気は訪れてくれなくて、シーツがよれて足に絡みつく。  
 何度目かの寝返りの後で見上げた先には…マフラー。  
 (隼人さん…)  
 名前を思い浮かべると、「いい夢を」と振り向いた笑顔や、パンツ一枚で、川で  
子供たちと跳ね回って洗濯していた姿や、よく咀嚼していた口の動きなんかがつられて  
次々と思い出されて、私の頬を熱くさせた。  
 確か、今は…診療室のベッドに寝ているはず。  
 「いい夢なんて…見れるわけ、ないじゃない」  
 つぶやいて、私は立ち上がった。  
 
 
 子供たちを寝かせているのは宿舎で、診療所は離れにあたる建物に作ってあった。  
 麻薬に手を出してしまって、時に刃物を振り回したりするような患者が運ばれてくる  
こともあったし、本当にひどい怪我は、やっぱり子供に見せたくないからだ。  
 診療所の扉を静かに開けると、健康そうな寝息が聞こえてくる。  
 足音を忍ばせて近づくと、ベッドの上に四肢を投げ出している隼人さんが見えた。  
 顔に、あの傷跡は浮かび上がっていない…満面の無防備な笑顔は、きっと、いい夢を  
見ているんだろう…それを見下ろしていると、なんだか泣けてきた。  
 夜の中で一人、男を目の前に立ち尽くしている自分は情けないし、いつも笑っていて、  
飄々としているこの人の鈍さには腹が立つ。両手両足じゃとうに数え切れない人の命を  
救ってきた人が、心地よい眠りの中にいるのに、それを起こそうとしてるのは自分だ。  
 やっぱり…やめておこう…  
 しゃくりあげそうになるのを唇をかみ締めてこらえて、落ち着いてから身を離そうと  
すると、もぞ、と隼人さんが身じろぎして、眼を開けて見上げてきた。  
 「ンぁ…真美さん?」  
 間の抜けた声に、せっかく冷えて素直に元いた場所に戻ろうとしていた胸の塊が、  
一気に溶けて、べたり、と体の内側全部に張り付いた。  
 体を起こそうとしたのを、上から抑えつける。  
 「!?…真美さん…?」  
 慌てたような隼人さんの声に、私は答えることはできない。  
 だって、何を言えばいい?貴方が私に何もしてくれないのに腹が立って、代わりに  
襲いに来ました、だなんて…絶対に言えない。  
 言葉の代わりに、のしかかったせいで、眼に溜まっていた涙が隼人さんの頬に零れた。  
 私が普通じゃないのは判っていても、それをどう判断すればいいか考えあぐねている  
ようだった隼人さんが、眼を見開く。  
 「真美さん、まさか…あの時の!?」  
 一瞬、隼人さんが何を言っているのか判らなかった。  
 彼が何を言おうとしているのか判ったのは、首の後ろ…以前、蜘蛛の化け物が、私の  
体を操った時に針を刺した、あの場所へと手を伸ばしてきた時。  
 …その勘違いに、私は乗ることにした。  
 
 手に一層の力を込めて、彼の上半身をベッドに押し付ける。  
 本当なら引き剥がせるけれど、彼は絶対にそんなことをしない…それが判っているから。  
 「隼人…さん…」  
 シャツとパンツのみの姿の隼人さんの厚い胸板が、上下しているのが妙に生々しい。  
 「ごめんなさい、私…隼人さん…」  
 謝罪の言葉は素直に出てくる。だって、そこだけは嘘じゃない。  
 隼人さんの顔は気遣いと焦燥で少しこわばっている。  
 その視線を避け、私は彼の首筋に顔を伏せた。鼻をくすぐるのは、遊びすぎた子供の匂い。  
 私の息がかかると、彼の体に、さざなみのように小さな震えが走る。  
 上半身同士を密着させるようにして抑えつけたまま、シャツの裾から手を入れていく。  
腹筋の溝、臍、肋骨…指先で、彼の鼓動を感じる。  
 (改造されたときに…アレもなくなっちゃってるかも)  
 一瞬、そんなことが脳裏を掠めたけれど、ベッドにあがりこんだ私の腿あたりで、熱く  
何かが硬度を上げ始めているのを感じて安堵する。  
 隼人さんの手は、いたわるように、ずっと…私の首の後ろ。あの傷跡を労る様に撫でる。  
 「真美さん…大丈夫…?」  
 そんな優しい言葉に、私はただ、泣けてきてどうしようもなかった。  
 そして、止まらない私の手もまた、どうしようもなかった。  
 手荒く隼人さんのシャツを取り払い、胸板を撫で…皮膚が薄い場所を中心に這い回る。  
彼が息を詰めるような気配があれば、そこをしつこく撫で、くすぐり、つねる。  
 泣きながら、男を押し倒して体を触りまくる私は、相当にこっけいな姿だろう。  
 そんな私に隼人さんは囁く。  
 「泣かないで、真美さん」  
 「だ…だって、隼人さん…」  
 「俺、いやじゃない」  
 自分の体を私にゆだねたまま、彼は微笑んだ。  
 「俺は、真美さんにこうされるの…いやじゃない」  
 
 そんな言葉を聴かされたら、私は…本当に、止まらなくなった。  
 彼のパンツに、ゆっくりと両手を滑り込ませていく。  
 すでにすっかりと上を向いている彼のアレがつっかえて、ちょっと手間取ってしまうけれど、  
指先にアンダーヘアがあたった。軽く毛先を遊ばせると、下腹部が震える。  
 腰周りをゆっくりと撫でながら、手を背中へ伸ばすと、応じるように隼人さんは少し腰を  
浮かせた。  
 覆いを取り払われ、窮屈だったと抗議するみたいに勢いよく彼のペニスが身を起こす。  
 パンツにこもっていた体臭が、私をくらくらとさせる。  
 月を仰ぐように彼の中心から隆起しているペニスは、両手で包むとひどく熱い。  
 「ッ…ぉ…」  
 私のついたため息がそこにかかると、隼人さんは小さく声を上げた。  
 多分そんなに大きいってわけじゃないけど、張り出したエラや胴体の太さが、圧倒的なくらい  
存在感を強くさせていて少し私を怖気づかせる。  
 こんなのを、私、自分の中に…と考えると、手が止まってしまいそう。  
 「んぅ…」  
 一瞬、隼人さんの顔をうかがうと、私はすぐに目を伏せ、大きく口を開いた。  
 
 誰だったかな、男は顔で判断できるって言っていたのは。  
 かっこいいとかキレイとかそういう事じゃなく、性格とかそれまで生きていた時間が  
どういうものだったかとか、人格の全てが顔に出ているんだそうだ。  
 唇が先端に触れる瞬間、そんなことを思い出した。  
 じゃあ、これ。一番恥ずかしい場所だけど、つながるためにも使う場所。ここにも、男の  
人格とかは出たりするの?  
 息をかけるだけで震えて、エラ周りになぞるように舌を這わせれば更に反りあがる。  
 歯を優しく当てれば驚いたようにピクっと脈打って、強く先端に吸い付けば…  
 「んぐ!」  
 根元を強く握り、唇を離して出すことを阻むと、隼人さんは裏切られたような、重たい  
呻きを漏らす。声と同じように、先端からも、たらたらとねばついたものが溢れる。  
 先端が膨らんだ筒状の器官。生殖器。検体や患者たちと、基本的には全く変わらない  
ここも、実は一人一人違う、特別な場所なんだろうか?  
 そんな事を考えたのは、久しぶりのフェラで焦っていたからかもしれない。  
 まだ始めたばかり。もっと、可愛がりたい。  
 正直、口の中に全部入れるのはつらいけど、口をあけたまま、ペニスと粘膜を擦り合わせ  
続ければ涎が出て滑ってくれるので、少しは楽になる。  
 ぬちゅる、とか口の中で起きた音は、増幅されて耳に届く。  
 「真美さ…んん!…口…ぬるぬるして…はっ…」  
 私の肩にしがみつくように手が。体を起こし、もう片方の手で私の首の後ろをなで続ける。  
 右手でいたわり、左手で快感を伝えるなんて、器用だな、と少し思う。  
 隼人さんの左手の下で、夜気避けに着てきた白衣の繊維が軋む。  
 本気で力を入れたら、きっと私の肩の骨なんて砕けてしまう。  
 きっと、今、彼は力を入れすぎないようにしなくちゃいけないのと、射精したがる自分と、  
二つを相手にしているのだろう。  
 
 かわいそうに。  
 そう思っても、口の中でピクピクする感覚がいとしくて、何度も焦らしてしまう。  
 「真美…ッ…さ…ぁああっ!…ぐ…」  
 「ごめんなさい…隼人さん」  
 ごめんなさい、こんなに意地悪で。  
 出したい、出したい、と叫ぶように先端が口を開き、戦慄いている。  
 涎と先走りのネバネバで、月光にいやらしくぬめ光る粘膜を、指先だけで撫で上げる。  
 「ぅぐぐ…も…う…」  
 隼人さんが出す声が、切羽詰った色に加えて助けを求めるような気配になる。  
 でも、まだ。  
 今の私は、蜘蛛の毒に中てられた雌。  
 
 
 「ごめんなさい」  
 
 
 正義を口にする彼を、汚すんだ。  
 袋の部分を揉みしだき、中の硬いものを指先で転がせば、隼人さんの腰がひける。  
 それを手で押さえ、胴体を擦りつけ、舐めあげる。  
 熱くなっているのに、そのまま弾けることを許されないそれは、太く血管を浮かべて  
いっそ、グロテスク、と表現したくなるような、動物的な姿をさらす。  
 左手の指先が震えて汗ばみ、私の首筋に触れる右手の動きがぎこちなくなっている。  
 「ぁ…真美さんっ…俺…お願い」  
 言いかけた所で先端を口に含むと、にゅちゅっ、と粘液質な音。  
 「んぃッ…ぁあああっ!!」  
 その音にかぶさるように、悲鳴じみた嬌声が上がる。  
 「俺っ、もう…出したい…真美さんっ…出させて…」  
 哀願の声が聞けた。  
 それでも、しばらく手で嬲り、舐めて、もっと恥ずかしい言葉を出させる。  
 「頼む…苦しいんだ!俺の、コレ…真美さんの中に…ぉああっ…お願いだから!  
出さないと、俺!真美さんっ!うあああ!ぁああっ!!」  
 隼人さんのペニスの根元を嬲っていた手をベッドの下に伸ばせば、つるりと硬い無機質が  
指先に当たる。気付け用に用意してあるボトルウイスキー。度数は57。  
 闇の中に漂う酒の香りに、何かを悟ったのか、隼人さんの内腿がひきつる。  
 「それっ…な…」  
 
 けものじみた叫びと、勢いよく射精する音。  
 二つを聞きながら、私の舌先は酒の味と精液の粘り、脈動を感じ取る。  
 左肩の骨が少し軋んだ気がする。  
 熱くて粘った趣味の悪いカクテル。だけど、飲み下せばスイッチが入っている私には、  
生臭さも喉に絡みつくどろどろも、媚薬に変わる。  
 ねぇ、気持ちよかった?  
 もっと、気持ちよくなろう?  
 次は二人。私と二人で。  
 割りに量が出たと思ったけれど、隼人さんのペニスはまだ衰えていない。  
 もう一口、酒を口にすると、引き出しから配布用のセカンドスキンを取り出し、開ける。  
 「…真美さん…」  
 安堵したような、待ち焦がれているような、重くかすれた呼びかけ。  
 振り向けば、荒い息に肩を上下させながら私に手を差し伸べる隼人さん。  
 「…俺、自分でつける…」  
 嬉しかった。  
 でも…今の私は…  
 指先を先端に添え、捻りあげるように強く擦る。  
 「っ…ぐぅぅ!」  
 貴方を汚す雌だから。お願いは聞いてあげない。  
 
 ショーツの股布も湿らないくらい、私の中はまだ準備できていない。  
 だけど、もう、我慢できない。隼人さんとしたい。彼を感じたい。  
 薄いラバー越しに一度舐めると、隼人さんの腰にまたがり、股布を横へとどける。  
 「っ…」  
 隼人さんが息を呑んで腰を引こうとするけど、さっきのフェラでよほど消耗したのか  
もぞもぞと腿と腕が動いただけだった。  
 「っあ…ぁあああう…隼人さ…ぁ……!!」  
 やっぱり、きつい。叫んでしまう。隼人さんの腕を掴んで、なんとか飲み込むけど、  
私の中が広がっちゃうんじゃないかと思ってしまいそうなくらい。  
 「く!…ぃん!んぅ!」  
 あまりのきつさに声が出てしまうし、隼人さんは歯を食いしばって何かをこらえて  
いるような表情を見せている。眼を伏せ、ギチギチと音を立てそうな結合を進めて  
いると、ふと、隼人さんの手が伸びてきて私の両頬を包んだ。  
 重なる唇。  
 跳ね上がる心臓。途端に鼓動を早めるそれに促されるままに、隼人さんの体に  
しがみつく。  
 「っ…かは…ぅ!ん!ん…んぁ?」  
 私の体を包むようにまわされてくる腕に、自由に腰を動かせなくなる。  
 上下の動きの幅が短くなり、その代わりに、私の中が彼の太さに少しずつだけれど  
慣れはじめて、ちょっと結合が楽になる。  
 「大丈夫、真美さん?」  
 快楽はまだ遠くに見えるだけだけど…その抱擁が、ゆっくりと、私をほぐしていく。  
 思ったよりも疲れていたのか、酒のせいだったのか。力が抜けて、私は隼人さんの  
腕の中に倒れこんだ。  
 
 お互いの荒い息だけが夜の底に漂う。  
 じわり、と罪悪感が再び心の表に出てくるのを感じて、私はつながりを解くために  
腰を浮かせようとした。  
 と…その時、思いがけなく強い力が、私の腰を捉えてきた。  
 
 
 俺は少しだけ腹を立てていた。  
 せめて、体をつなげる前に、抱きしめたかったのに。  
 気づいたのは、コンドームのパッケージを出してきた時。  
 あれはお互いの体を守るための道具。俺を傷つけるために動かされているなら、そんな  
斟酌が行動に出せるわけはない。  
 恥ずかしい話だが、真美さんのフェラがあんまり気持ちよくて、出したときには一緒に  
体中の力もどっかにいったかのように、腰が抜けたみたいに体も起こせなかった。なのに  
俺のは全身の血を集めたように勃起していて。  
 真美さん…俺だって、気持ちよくさせたいし、キスだってしたい。  
 そう言葉に出す前に、真美さんのパンツの脇から、俺のは彼女の中に入っていた。  
 「っあ…ぁあああう…隼人さ…ぁ……!!」  
 狭くて、引っかかる抵抗が強すぎて…酒に洗われて腫れ上がったように感じる亀頭で  
感じる彼女の中は、熱すぎる。前戯だって全然してないし、俺がこれだけ強く摩擦感を  
受けているんだったら、彼女は多分、快楽どころじゃないんじゃないか?  
 こわばった体、白衣に包まれた小さな肩は断続的な震えを見せて、食いしばった唇から  
聞こえてくるのは押し殺した悲鳴だ。  
 真美さんは馬鹿だよ。  
 気づかない振りをし続ける事が正しいと思っていた俺も、馬鹿だ。  
 俺のと、真美さんのと、馴染むのを待てばいいのに…動き出して。きつすぎて、痛いに  
決まってるのに。そんな風にしてしまうくらいに、彼女を追い込んで。  
 向かい合い、視線をひたすらそらそうとするその顔を捉えて、キスをする。  
 「大丈夫、真美さん?」  
 狭くて、熱くて、ぬるぬるし始めた彼女を、薄皮一枚隔てて感じながら、抱きしめる。  
 動こうとする彼女の体を、抱きしめる俺の腕で抑え込み、少しでも、真美さんが俺のに  
慣れてくれるように、と激しい上下の動きを、ストロークを短くゆるいものになるように  
導く。  
 しばらくして、彼女の動きが収まった。抱きしめた俺の胸に倒れこんでくる。  
 
 真美さんが体を離そうとする気配を感じ、俺はぎゅっ、と腰に回した手に力を入れる。  
驚いて、俺を見上げてきた彼女が、何かを言う前に、唇を重ねて…今度は深く、キス。  
 「俺…真美さんとしたいんだ」  
 呆然と、俺の舌を受け入れた彼女の口には、精液の匂いもなく、ただ酒の香りがする。  
真美さんとのキス自体が強い酒みたいに、俺の脳の芯を熱くさせる。  
 涎が唇の端からあふれ、お互いの頬を濡らすけれど、気にしない。  
 つながったまま、彼女のパジャマの前を広げ、スポーツブラを押し上げると、白く丸い  
果実のような乳房があらわになる。  
 「あ…」  
 どうしようというような戸惑いと羞恥とがない交ぜになった小さな声を出す真美さん。  
さっきまで、あんなに俺を翻弄していた彼女から、そんな声が聞こえて…正直、背筋が  
震えるくらいに興奮してしまった。  
 一番正直だったのは、下半身で彼女の中に入り込んでいる俺の息子で、熱く俺の血を  
集めて反りあがり、真美さんに眉を歪めさせる。  
 唇の端から溢れた唾液が描いたラインに合わせて、顎、首筋へと舌先を伝わせ、軽く  
吸い付く。  
 あらわになった胸の肉を、手のひらと指でゆっくりと揉みほぐしながら、首筋から  
鎖骨へ滑らせると、真美さんの中がピクピクと脈打つ。  
 顔や手は、強い太陽にさらされてほんのりと日焼けしているけれど、衣服に覆われて  
いる胴や腿は、白くきめ細かな肌を保っていた。  
 「ふぁっ!…ぅぅン…んううぅ!んくぅ!」  
 指先で固くなった乳首を摘み、軽くしごくようにすると、喘ぎをこらえて真美さんは  
唇をかみ締めいやいやと首を振る。このまま、シャッターを切って残したくなるような、  
可愛いけど、ちょっとやらしい表情。たまらず、もう一度キス。  
 
 「真美さん…我慢しないで」  
 「あはぅ…んあ!くぅん!ぁんん!…だ、だめぇ…」  
 「駄目なの?」  
 パンツに手を忍び込ませお尻を撫でさすり、つながった場所の周りに指を這わせる。  
鎖骨に吸い付きながら、乳首をきゅうっと弄い続けると、真美さんが出す声がだんだん  
高くなっていく。  
 長い髪を束ねていたバンダナが振りほどかれ、黒髪がゆさっ、と白衣に散る。  
 俺を飲み込んでいる場所がどんどん熱くぬるついてくる。  
 「だ…だって…」  
 「俺は真美さんを気持ちよくしたい。せっかくこうしてるのに、真美さん…苦しい  
ばかりで、あまり気持ちよくないんじゃないか?」  
 「ああん!」  
 少しだけ腰を引き、それと連動させて強く乳首を吸い上げると、甘く鳴く。  
 「駄目なの?」  
 もう一度尋ねる。潤んだ黒い眼を覗きこみながら、ゆるゆると、愛液で溢れ始めた  
真美さんの中で行き来させて…答えやすいように、他の部分を責める手を休めて。  
 「駄目じゃ…な…い…」  
 「真美さんと、イきたいんだ」  
 「うん…隼人さん…」  
 吐息を震わせながら、真美さんの口から了承の言葉が出た。意地悪だったかな、と  
思わなかったわけじゃないが、それよりも。  
 たくさん可愛がることができる、と思って、それが嬉しかった。  
 
 笑わない子供たちの姿を眺めて、深く息をついていた横顔。  
 ゲリラが押しかけてこようが、治療が先だ、と退去を求めた毅然としたまなざし。  
 手の施しようの無い怪我人が運ばれてきても、出来る限りの処置をしていた  
真摯な顔。柔らかい、温かな笑顔。  
 今まで、いろんな真美さんの顔を見てきたけれど、今夜は今までに見る事が  
できなかったいろんな表情を見ている。できる事なら、あるだけのフィルムを全部  
使い切って、今の彼女との時間を切り取り、残しておきたい。  
 乳房の肉を弄べば、困惑と恥じらいの顔。乳首を弾き、摘んでしごけば、息を  
つめ、目を伏せるように甘く吐息をつく。  
 「ひゃん!ああっ!あ…ふっ!くぅん…」  
 可愛い声。指で、唇で、耳で、彼女を知っていく。  
 「真美さん…動いて、いい?俺も、そろそろ…限界」  
 愛撫の度に蠢く彼女の奥に締め付けられ続け、喘ぎながらも俺を見上げる  
真美さんの紅潮した顔を見てると、じっとしている事が苦痛になってきた。  
 「うん…」  
 小さな声で応じてくれた真美さんと唇を重ねて。  
 十分に濡れてほころんだ彼女の花は、蜜を溢れさせて下着を濡らし、入ってる  
俺のを優しく包んでいて、さっきほど余裕が無いわけじゃない。  
 細くくびれた真美さんの腰を抱え、しっかりと抱きしめた。  
 
 「…動くよ、真美さん?」  
 「んぁ…は…ああぁぁぁ…」  
 対面座位で深くつながっていたのを、姿勢を変えてベッドに寝かせ、自由を  
取り戻し、ゆるゆると腰を引いていくと、長く糸を引く喘ぎが口から零れる。  
 真美さんの中の繊細な凹凸を、ラバー越しに感じながら、ゆっくり前後の  
動きを速め、大きくしていく。  
 「っ…隼人さ…ッ!あッ!…いっぱい…」  
 「真美さんの中…すご…く!…ん…気持ち…いい」  
 水っぽい音がするたびに、赤く染まった躰を揉むようにして、真美さんは  
恥ずかしがる。その様子が見たくて、時々前後だけじゃなくて掻き回すように  
動くと、真美さんは俺を食いしめる部分を震わせながらのけぞる。  
 「あぁっ!あはぁ!…音…すごい、…駄目、音させるの…ぁああん!」  
 「どうして?こんなに…っん…感じてくれてるのに…」  
 両手で支えたお尻の肉に指を沈み込ませ、彼女の亀裂の入り口の位置を  
調整して、もっと深いところを一息に貫く。  
 「やぁ…ひぅ!はっ!ひぁああ!…はや…とさ…んんぅ!!」  
 「今の真美さん…やらしくて、すっごくキレイだ…撮っておきたいくらい」  
 じゅぐ、ごぶっ、と井戸を掘る作業のように、彼女の快楽を見つけ出し、  
愛液にして汲みだすために、俺は動き続ける。  
 互いの肌に浮いた汗が混じりあい、ベッドに滴る。熱帯の夜は、汗をかいた肌を  
冷やすどころか、その熱を保たせたまま更に先、狂うような熱情を煽ってくる。  
 もっと、気持ちいいところに行こう?  
 真美さんを組み敷いたまま、幾度も幾度も突き上げ、舌を絡める。  
 俺の動きにつられて月に照らされた白い乳房が妖しく揺れている。そこに  
引き寄せられるように吸い付き、とがった乳首を軽く噛む。  
 「ぁああ!っくひぃ!私…やっ…ぁあっ!」  
 やがて、彼女に頂点が来た。  
 激しくそらされた背。ベッドに広がった黒髪が生きているかのようにうねり、  
つながった場所から、彼女の全身へとわななきが走る。  
 「っ…ぐぅ…ううっ!んぅ!」  
 それが俺の射精感を煽り、今度は阻まれることもなく、俺は真美さんを  
抱きしめて放出の快感に酔った。  
 
 
 する事で、お互いに、何かが変わったわけではなかった。  
 未明に運ばれてきた急患の治療をした真美の手に、狂いが生じる事もまったく  
無かったし、子供たちの先頭に立って朝食の用意をする隼人の笑顔は晴れやかで、  
口笛交じりの包丁さばきはボードビリアンじみて、子供の歓声を呼んだ。  
 もし、何か変わる事があったとすれば…  
 ほんのちょっとの気恥ずかしさと、言葉にはできない自信のようなもの。  
 「じゃ…また」  
 「…真美さん…」  
 皆の目を盗み、唇を重ねる。  
 「また、来るから」  
 次の約束をする事に、特別な意味がこもる。  
 満ち足りているはずなのに、きっと、いつかまた、腕の中に相手を抱く事を  
求めずにはいられなくなるのも判っている。  
 サイクロン号は、診療所を後にする。  
 悪に踏みにじられようとしている命を守るために、志を同じくする仲間に力を貸すために。  
 
 そして…また、という約束を守るために。  
 

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