熱帯の淀んだ夜気の中に、ピチャピチャと淫猥な水音が響く。
剥き出しにした一文字の股間に顔をうずめ、眼鏡の女医は息を弾ませながら彼の雄の徴を貪っていた。
「ちょ……も、やめ……やばいっスよ、こんなコト」
屈強な改造人間である彼にも、如何ともしがたい状況というものはある。
一文字は目覚めた瞬間、自分が窮地に陥っていることを悟った。
相手が敵ならぬ顔見知りの女性では力ずくで跳ね除けることも出来ない。
ましてや下半身から這い登る強烈な快感は、彼から抵抗の力を根こそぎ奪い取っていた。
「うふ、もうココこんなにしておいて、何言ってるの?」
痛いほど隆起したソレから唾液と先走りにまみれた唇を離すと、相手はクスっと笑った。
煤けたランプの灯りに照らされた化粧ッ気の無い顔は欲情に上気して
普段の彼女からは想像できない色香を放っている。
「こんな男日照りの所に、あなたみたいな人がいたら我慢できるわけないじゃない。
真美ばっかりに独り占めさせるの、勿体ないわ」
そう言うと彼女は再び熱心な口淫を開始した。
絞りとるようにきつく幹の部分を吸い上げ、括れの部分から先端までねっとりと舌を這わせる。
「うわ、も……ッ! クッ!」
白衣一枚を羽織っただけの裸身が一文字の霞む眼下でうごめいている。
不意に快楽に朦朧としてきた意識の隅で、彼はもう一人別の人間の気配を察知した。
(!? ヤバイ! あれは……)
一文字の困惑も空しく、外の人物は部屋の様子を察してか、つかつかとドアのそばまで近寄って来る。
「ねえ……ちょっと何やってんの?」
(い、いかん! 鍵が!?)
そう思う間もあらばこそ、ノックも無くドアを開けて闖入したのは案の定、真美だった。
「え!?」
夢中で情事に耽っていたメガネ先生がギクリと振り返る。
開け放したドアを挟んで、三人は硬直した。
改造人間、千載一遇の大ピンチである。
「あ……あのね、真美さん……これは、その……」
しどろもどろに状況を説明しようと試みる一文字だったが、
なにぶん半裸の女性と一つベッドの上という状態で、何の申し開きも出来る訳がない。
事態に凍結したメガネ先生の手は、それでもちゃっかりと発起状態の一文字自身を握り締めている。
たっぷり十数秒は膠着していた場の空気を最初に破ったのは真美だった。
「な!? 何やってるのよ、あなたたち……」
「え……えっと、真美?」
「ズルイじゃないの!!」
と続いた台詞に「へ……?」とベッドの上の二人は揃って間の抜けた声を上げた。
「私だって……私だってまだ隼人さんにシてもらってないのにー!!」
そう呂律の回らぬ口調で言った、真美はしたたかに酩酊していた。