神林龍之介は妻と共に食堂に向い、目を剥いた。  
そこに梅園みゆきがいたからだ。  
(何故ここに……)  
動揺して心臓の鼓動が早くなる。  
着座し、オーナーの赤城恵美、  
従業員の白河雪乃が料理を運んでいる間も気が気でなかった。  
「わぁ」  
食欲をそそる香りに宿泊客達が声を上げる中、  
神林は向かい側に座るみゆきと視線を合わさず、ビールを飲み続けた。  
「あなた、どうしたの?」  
珍しく無口な夫を心配し、妻のローズが気遣う顔を向ける。  
「ん、いや、なんでもないさ」  
作り笑いを浮かべ、神林は若者達に話題を提供した。  
(そうだ、態度が変われば妻に怪しまれる……)  
みゆきはといえば、何事もないかのように談笑し、食事を楽しんでいる。  
神林は気を和らげる為に、ワインをいつもより多く飲んだ。  
「お強いんですね」  
作家志望の青年、坂巻が感心したように言う。  
「いつもより多いわ。大丈夫?」  
ローズは心配なようだ。  
「ははっ、年寄り扱いしてくれるな」  
神林は陽気に笑って見せた。  
食事が終わり、みゆきは「ごちそうさまでした」と明るく言って席を立った。  
友人の沙都美は随分に酔っていて、足元がおぼつかない。  
みゆきは沙都美に腕を貸しながら一緒に食堂を出て行った。  
神林は、その背中を不安げに見送った。  
(どういうつもりなんだ……)  
 
妻と一緒に部屋に戻った後も、みゆきの事が気になって仕方がなかった。  
神林は、みゆきと不倫していた。ローズはその事を知らない。  
(ローズに自分の事を話すつもりか……?)  
みゆきが、なぜ妻との旅先に現れたのか気になる。  
「風呂に入ってくる」  
「駄目よ。ずいぶん飲んだじゃない」  
「軽く浴びる程度だから大丈夫だ。先に寝ていてくれていい」  
そう言ったが、本当は妻から離れ、一人で頭の整理を付けたかったからだ。  
廊下に出ると、思っていたよりも酔っている事に気付く。  
足元に気を付けながら階段をおり、風呂場の暖簾をくぐった。  
脱衣所で羽織、浴衣を脱ぎ、内風呂の戸を開く。  
皆、酒がかなり入っていた。だから誰もいないだろうと思ったのだが、どうやら先客がいるらしい。  
浴槽の中で背を向けている上、酔ってぼやけた視界と湯煙のせいで誰なのかは分からない。  
「やぁ、どうも」  
一声かけ、体を洗おうと鏡の前の風呂椅子に座る。  
「龍之介さん」  
背中へ親しげに声をかけられ、神林は驚いた。その声に聞き覚えがあったからだ。  
振り返ると、みゆきだった。浴槽に身を沈めたまま、神林に向かって微笑んでいる。  
アルコールのせいか目がトロンとしていて、頬が赤い。  
「ど、どうして……」  
「ここ、女湯よ」  
「なに?」  
(酔い過ぎて間違えたのか……)  
神林は慌てて出て行こうとするが、みゆきが止めた。  
「待って。私の話を――」  
「こ、ここでか?」  
構わず出て行こうとすると、みゆきの声に冷たさが宿った。  
「声を上げるわ、襲われるって。どう言い訳するの?」  
「お、おい……」  
 
みゆきは浴槽から上がると、裸体を一切隠そうとせず、神林の傍に寄った。  
その美しさに神林は息を呑む。  
健康的で綺麗な白い肌。形の良い乳房の膨らみ。そして桜色の乳輪――。  
神林が幾度と溺れ、抱いてきた体だ。思わず生唾を飲む。  
「どうしろというんだ」  
「話を聞いて欲しいの」  
みゆきは神林を椅子に座るよう促し、自分も座った。  
「何故ここにいる。調べたのか」  
神林は軽く睨むが、みゆきはクスッと笑う。悪びれる素振りひとつない。  
「あなたが奥さんとどこに行くのか突き止めてね。  
でも女が一人じゃなんだから友達を誘ったの」  
「どうしてそんな事を……」  
「あなた、私のこと愛してるって言ったじゃない。  
それなのに私との約束を破って、他の女と旅行だなんて許せないわ」  
神林はゾクッとした。  
「私なんて所詮、遊びなのね」  
「い、いや……」  
その通りだ、とは流石に言えなかった。  
神林にとって、みゆきはあくまでも浮気の対象でしかなかった。  
妻のローズとは、長い間夫婦をしていれば色々なことがあった。ずっと順調だったわけではない。  
しかし、本当に愛しているのはローズしかいないのだ。  
仕事の疲れ、体の衰え等、思い通りにならないことの鬱憤を晴らす為、  
結婚以来、初めて浮気した相手がみゆきだった。  
鍛えた体は並の壮者に劣らない自信があったが、  
その反作用的ともいえる、若い肉体を眩しく思う気持ちがあった。  
最初は憂さ晴らしのつもりだった。だが、みゆきは期待以上に神林を救ってくれた。  
生活でも、ベッドの中でも。  
老いらくの恋――。自分でもそう思ったことがある。神林は若く、美しい娘の体に溺れた。  
だがふと、憑き物が取れたかのように目が覚めた。  
妻と別れ、みゆきと一緒になる覚悟はない。ローズを失いたくもない。  
神林は自然、みゆきを遠ざけるようになっていた。  
「男の人って勝手なのね」  
みゆきは妖しい瞳で言いながら、神林に体を寄せた。  
 
「み、みゆき……」  
みゆきは神林の股間に手を伸ばし、ペニスに触れる。  
「よ、よすんだ。誰かが入って来たら……」  
みゆきは答えず、ボディソープをローションにしてペニスを刺激した。  
神林の背後で立ち膝になり、体に乳房を押し付けながら腕を回してペニスを撫でていく。  
「う……」  
神林は自分の意思とは裏腹に、勝手にペニスが硬直を始めた。  
「硬くなってきたわ、龍之介さん」  
みゆきは耳元で甘く囁き、ペニスを握ってシゴきはじめる。  
「前にもこうしてあげたよね。あれは、そう。二人で旅行した時に家族風呂で」  
あまりの快感に、神林のペニスは完全に勃起していた。  
「あの時は龍之介さん、優しかった。エッチだって凄く激しくて」  
知り合った時、みゆきは処女だった。それが情交の快楽を知るなり、  
みるみる床上手になって、中年の男をますます溺れさせたのである。  
「も、もうよすんだ。話なら後で」  
「後?」  
「旅行が終わってからだ。戻ったら会おう」  
「嫌よ」  
みゆきはキッパリ即答した。  
「どうして」  
「分かれると言って、それで終わらせるつもりなんでしょう?」  
「い、いや……」  
図星だった。  
みゆきは神林に湯をかけてボディソープを流すと、腕を取って露天風呂に誘った。  
「外は寒いだろう」  
「少しだけよ」  
こんなにも強引な娘だったのかと驚く。神林が溺れた娘は清楚で、控えめな性格だったはずだ。  
近頃の自分の冷たい態度が彼女を変えてしまったのだろうか? そんなふうにも思う。  
みゆきは抗議を無視して、すりガラスの引き戸を開けた。  
神林は寒さを警戒して身構えるが、思ったほど寒くはなかった。風も少ない。  
 
「さぁ」  
促され、仕方なく神林は露天風呂の湯に浸かった。  
下手に抵抗すれば本当に騒ぎ出しかねないと感じたのだ。  
(こんなところを見られたら……)  
神林はどんどん不安になってくる。もしも他の女性客が来たら……。  
心配して妻が捜すかも知れないし、  
入浴時間が終わればオーナーの赤城か、従業員の雪乃が姿を見せるだろう。  
「旅先まで来るなんて……」  
情けなくぼやくが、みゆきは気にも留めず乳白色の湯を楽しんでいる。  
神林は緊張していた。それは愛人の登場と、女湯に浸かっていることだけではない。  
こんな状況では、嫌が応にもみゆきの裸体を想像できてしまうのだ。  
そして、それは目の前にある。  
乳白色の湯で隠されているものの、胸元の辺りまでは薄っすらと見えてしまう。  
出来るだけ視線が向かわないように気を付けるのだが、  
どうしても抑えられず、チラチラ見てしまう。  
神林は、艶のある豊かな黒髪と白い肌の組み合わせに欲情の火が灯り、そそられていた。  
(これじゃあイカン)  
神林は決意し、みゆきを見据えて頭を垂れた。  
「すまない。許してくれ」  
「龍之介さん……」  
「妻を愛しているんだ」  
「……そう、分かったわ」  
意外にも、みゆきは静かに応じた。  
「でも、最後にもう一度だけ抱いて。思い出に」  
「………」  
「ここで」  
「ば、馬鹿を言うな。気は確かか?」  
「本気よ。抱いてくれなきゃ大声を出すわ」  
みゆきは言うなり、突然、神林にキスをした。  
「ン、ンン」  
みゆきの舌が神林の口の中へ捻じ入れられる。  
(最後だ。これが最後……)  
それでみゆきが諦めてくれるのなら――。  
神林はみゆきの舌に自分の舌を絡ませ、ヒップを撫で回す。  
 
「神林さん、好きよ」  
みゆきの積極さは神林を驚かせた。盛りが付いたとしか思えない性急さで神林を貪る。  
突き出された舌を、まるでフェラチオをするかのように口を窄めて吸う。  
(こんな娘だったか?)  
神林は乳房に手を伸ばし、膨らみを揉んだ。  
若い娘らしい弾力。今まで幾度と愉しんだ乳房だ。  
乳首を軽く摘み、弾くようにさする。  
「あっ」  
思わず漏れたみゆきの声は、明らかな艶事の声だった。  
みゆきは立ち膝になる。神林は湯から出た乳房を口に含んだ。  
「寒くないか?」  
「平気。ねぇ、龍之介さん……」  
みゆきは浴槽の端の岩部分に腰掛け、脚を開いて神林を誘った。  
以前なら考えられないが、自ら陰唇を拡げて見せる。  
「ふん」  
まだ世間知らずの小娘だと思っていたみゆきに主導権をことごとく握られ、  
神林は不快そうに鼻を鳴らした。しかし同時に安堵もしていた。  
これで全てのケリがついてくれるのなら、リスクを負うのも悪くはない。  
不満そうにしつつも応じる神林に、みゆきは薄く嘲笑を浮かべた。  
神林は秘裂を口で愛撫する。  
「あぁっ」  
みゆきが喉をそらせる。  
湯冷めしても可笑しくないはずなのに、二人は震えることがなかった。  
むしろ冷たい空気が火照った体を撫でて気持ち良いほどだ。  
神林は、既に潤みを帯びていた膣内に指を挿れて動かした。  
「んっ」  
クチュクチュといやらしい音がして、  
みゆきは自分の指では絶対に得られない、男の指ゆえの感触に昂る。  
「グチョグチョになっちゃう。。自分でするのとは全然違うもの。ああっ、ダメ」  
手の動きを止めようと、みゆきの手が伸びるが神林は無視して続けた。  
欲情する一方で、どこか早く終わらせてしまいたいという気持ちがあった。  
 
グチュ グチュ  
「ああんっ」  
ビクンと、みゆきの体が震えた。  
「イッたのか?」  
「今度は私がしてあげる」  
みゆきは照れ笑いを浮かべると湯に体を沈めて、立ったままの神林にフェラチオをした。  
ペニスを睾丸から亀頭の先まで唾液でベトベトに濡らしていく。  
カリに舌を這わせ、そこから勢い良くストロークする。  
みゆきは神林の好みを承知し尽くしていた。  
顔を真っ赤にしながらも、時折、神林の反応を伺って上目遣いに見る。  
神林はその態度、仕草を可愛らしく感じてしまった。  
(駄目だ。駄目なんだ)  
自分に言い聞かせる。  
これ以上、関係を続ければ取り返しの付かないことになると確信していた。  
「龍之介さん、ちょうだい。良いよね」  
みゆきは岩の部分に手を着いてヒップを向けた。  
「………」  
神林は片手をみゆきの腰にやり、もう片方の手で疼くペニスを膣口にあてがった。  
ペニスの挿入を待ち侘び、膣口はヒクヒクとうごめいている。  
「挿れるぞ」  
「あぁんっ」  
グィッと、神林のペニスがみゆきの膣内に挿いっていった。二人は立ちバックで繋がった。  
あまりの快感に、神林は全身に鳥肌が立つような気がした。脚からは力が抜けていくような感覚がある。  
元々、神林に浮気をさせた理由の一つは、妻とのセックスに満たされない部分があったからだ。  
みゆきは、そんな熟年の男を虜にする肉体を持っていた。外見だけでなく、膣内でさえも。  
神林は上半身を屈め、心地よい乳房を揉みながら、せっせと腰を振った。  
みゆきは甲高い声で喘ぐ。  
「あはっ、龍之介さんのオチンチン、気持ち良いよ」  
「わ、私もだ」  
「オマンコの奥に響くの! もっと、もっと突いて!」  
呼吸を荒く乱しながら、二人は久しい一体感と快楽に我を忘れていく。  
繋がったまま、今度は神林が岩部分に体を預け、  
みゆきは立ったまま同然で腰をピストンし、嬌声を上げた。  
神林はみゆきの腰に手をやり、動きが早くなる手助けをする。  
「みゆき、もうイキそうだ」  
「私も。このまま出して!」  
「そ、それは……」  
「いいから!」  
みゆきは腰を止めず、高まりの頂点でそれまで以上に膣を締めて射精へ導いた。  
二人は同時に絶頂を迎え、肌を重ねたまま呼吸を整える。  
ようやくみゆきが離れると、膣口から白濁液が溢れ、太股を伝い、湯に落ちた。  
 
(終わった……)  
これで本当にみゆきが別れてくれれば良いと思う。  
妻に知られぬまま、この難渋から解放されたい。  
みゆきの、関係を肉体で繋ぎ止めようとするような振る舞いも癪だった。  
自分の身勝手さに呆れながらも、それが神林の本音だった。  
「――お金だったら、出来る範囲で何とかする」  
思わず口にしていた。  
その言葉を聞いた瞬間、情交の余韻にあったみゆきの表情がムッと変わった。  
「どういうつもり?」  
「どうって……」  
「私がお金目当てで追いかけたとでも思ってるの?」  
神林はハッとして、声が上擦った。  
「いや、そういうつもりじゃない。ただ君の助けになればと思ったんだ」  
「冗談じゃないわ」  
みゆきは浴槽から上がると、引き戸に向かって歩いた。  
面倒なことになる。そう思った神林は湯から上がり、みゆきを肩を掴んだ。  
「待ってくれ」  
「いいわ。全部、奥さんに話すから」  
「なんだと?」  
「全部よ。あなたの家庭なんて滅茶苦茶になれば良い。  
きっと離婚よね。せいぜい孤独な老後を楽しむと良いわ」  
「いい加減にしないか」  
神林は感情的になって、みゆきのを体を押した。  
「きゃっ」  
それは軽くだった。  
しかし、みゆきはバランスを崩すと後ろに倒れ、後頭部をぶつけていた。  
「み、みゆき、大丈夫か」  
罪悪感で助け起こそうとするが、反応がない。  
「なっ……」  
みゆきはピクリとも動かず、目を見開いていた。  
「そんな……」  
みゆきは死んでいた。  
一滴も血が流れていないというのに、打ちどころが悪かったのか、あっさりと。  
神林は愕然として、その場に立ち尽くした。  
(どうする?)  
あらゆることが一瞬のうちに脳内を駆け巡った。  
仕事、社会的地位、家庭、全てが崩壊するだろう。  
警察が遺体を調べれば、みゆきが神林と交わったことなどすぐに分かる。  
そこから以前のことも明るみになるはずだ。  
「………」  
神林はみゆきの遺体を隠すと、部屋に戻った。完全に動転し、冷静さの欠片もなかった。  
 
 
「遅かったじゃない。心配したのよ」  
ローズは寝ずに待っていた。  
「う、うん……」  
ベッドに入って頭から布団をかぶる。  
「顔色が悪いわ。風邪でもひいたんじゃない?」  
神林は返事をする気にもなれなかった。  
――どれほどの時間が経ったのか。神林は暗闇の中、目が覚めた。  
隣のベッドではローズが背を向けて寝息を立てている。  
常夜灯の明かりを見つめながら、あれが夢ではないことを確かめる。  
少し冷静になると、自分がいかに馬鹿げたことをしたのか実感が湧いてきた。  
(いくらなんでも、あのまま彼女を隠してしまうなんて……)  
自分のしたことの残酷さに恐ろしくなる。  
殺めてしまっただけでなく、その遺体を侮辱するような事をしてしまった。  
自首しなければならない。そう思い、身を起こそうとした。  
(ン……?)  
動かない。金縛りにあったように、体が言うことを全く聞いてくれなかった。  
辛うじて首だけは何とかなる。  
心臓の鼓動がバクバクと大きくなる。このまま破裂するのではないか思うほどの動悸だ。  
(一体どうしたんだ、私は……)  
恐怖感と不安感が押し潰さんが勢いでのしかかってくる。気が狂いそうだ。  
「うっ……ぐぅ……!」  
隣のベッドで寝ていたローズが突然、苦しみ出した。  
(おい!)  
声をかけようとするが声にならない。  
ローズは苦しみのあまり、自分の首を何度も引っ掻いた。  
(……!)  
ローズの首には人の手の跡のようなものが見える。だがそこに手など存在しない。  
手の形に押し潰され、ローズの首が勝手に締まっているのだ。  
神林は何も出来ないまま、妻が苦しみ、絶命する様を見届けなければならなかった。  
(夢だ。これは夢だ。いや、あんなことをしたから罰なんだ……!)  
涙が溢れ、横に流れる。  
カチリ  
突然、ドアの鍵が外される音がしてドアノブが回った。  
(誰だ!)  
叫ぼうとしたが、やはり声にならない。  
おもむろにドアが開き、室内に体を入れたのは、寝巻き姿の雪乃だった。  
 
神林は訳が分からない。  
なぜ死んだ妻を目にしても驚かないのか。なぜ声ひとつ上げないのか。  
『フフフ』  
不意に女の笑い声が聞こえた。  
その声は明瞭さに欠け、残響があり、まるで頭の中に直接届いたような感じがあった。  
だが紛れもなく分かる。みゆきの声だ。  
(まさか、みゆきなのか……)  
死んだ彼女の霊が妻を殺し、この少女を操っているとでもいうのか。  
『あなたの奥さん、殺したわ』  
(何故だ! 悪いのは私の筈だ!)  
『そうよ、あなたが悪い。だからあなたの全てが嫌になったの。奥さんも憎くなったのよ』  
(許してくれ! なんだってする!)  
『駄目よ。あなたは苦しむの。私の分もね』  
雪乃が服を脱いでいき、白い華奢な裸体を露出する。  
(な、なんのつもりだ)  
『女なら誰でも良いんでしょう?』  
(みゆき、よせ)  
『私じゃなくても良かったのよね。あなたの逃避先にさえなれば、  
若くてセックスをさせる女なら誰でも良いんでしょう? 望みを叶えてあげる』  
(その子は関係ないだろう!)  
全裸になった雪乃が神林の布団を剥ぎ取り、のしかかってくる。  
操られているとはいえ、暖かい人の温もりは雪乃のままだ。まだ少女の香りが鼻腔をくすぐった。  
雪乃は神林の浴衣の前をはだけさせ、小さな手で胸を摩ってゆく。  
顔を近付けると神林の首筋、顎、唇を吸い、下着の上からペニスをまさぐる。  
(この子を汚すわけには……)  
『そう。あなたは女を汚したの。若い娘を自分の為だけに。そして自分の都合だけで捨てた』  
雪乃は下着をずり下ろすと、ペニスをシゴきながら神林の乳首を舐めた。  
『気持ち良いでしょう。あなたが私に教えたの』  
雪乃は神林に秘裂を押し付けるように跨って、小さな口でペニスを頬張り、しゃぶった。  
ジュッ ジュルッ  
『ほら、あの時のようにすれば良いの。私を初めて抱いた時のように』  
自分の意思とは関係なく勝手に舌が突き出され、神林は雪乃の幼い割れ目を舐めた。  
『こんなにオチンチンを硬くして。  
若い娘どころか、あどけない少女が好きなのかしら? とんだ熟年紳士ね』  
雪乃の息遣いが荒くなり、クリトリスが突起して愛液が溢れる。みゆきはくつくつと笑った。  
『この子だって自慰くらいするだろうけど、それにしても随分あっさり濡れるものねぇ』  
みゆきは、雪乃に対面騎乗位でペニスを膣口にあてがわさせた。  
そして、狭い膣口へ亀頭を割り入れさせる。処女膜が破れ、出血した。  
雪乃の表情に苦悶が浮かぶ。  
 
「くぅっ……」  
神林を今までに経験したことのない窮屈さが襲っていた。  
雪乃の腰が前後にグラインドし、快感に誘う。  
(この娘に今、私と同じように自我はあるのだろうか)  
もしもあるのならば地獄だろうと思った。  
処女であったのに、こんな好きでもなんでもない中年男に跨り、  
ペニスに貫かれながら自分で腰を振っているのだから。  
その腰使いが段々と早くなっていき、切ない声が漏れ始める。  
みゆきに操られると同時に、雪乃は痛さや苦しさといった感覚が鈍くなっていた。  
神林は己の意図ではないとはいえ、体温を失いつつある妻の遺体を前に、  
少女を汚してしまっている自分が悍ましく感じた。  
「あっ……あぁっ……!」  
雪乃は上下に激しくピストンを繰り返し、髪を振り乱しながら喘ぐ。  
『さぁ、あなたもしてあげなさいよ』  
神林は操られるがまま、雪乃の動きに合わせて自分も突き上げた。  
ついには身を起こし、雪乃を組み敷いて正常位で貪るように突く。  
初めて男根を受け入れたばかりの膣内を、一切の加減なく掻き回して蹂躙する。  
成熟しきっていない乳房を荒々しく揉みしだき、突起したピンク色の乳首を口に含んだ。  
『覚えてる? これ、あなたが初めて私を汚した体位よね。  
私は経験が無くて少し怖かったけど、あなたは半ば強引に私を抱いた』  
(ああ、覚えてる、覚えてるよ! だから勘弁してくれ!)  
神林は泣いていた。しかし体は快楽に反応し、無情にも登りつめようとしている。  
「うっ……!」  
耐え切れなくなり、神林は雪乃の中に射精した。  
途端に全身が脱力し、雪乃に覆いかぶさったまま動けなくなる。  
『まだよ。あなた何度も私を求めたじゃない。一晩で四回したことだってあった。  
私を慰み者にして、弄んで愉しんでいたのよね。そして挙句には殺した』  
神林は、ぐったりして口端から唾液を流す雪乃をうつ伏せにし、  
寝バックで挿入して獰猛に責め立てた。  
雪乃は意識が朦朧とし、半分失神したようになりながら突かれている。  
「はぁっ……! はぁっ……!」  
心臓も呼吸も苦しく、このまま死ぬのではないかと神林は思う。  
『あなたに捨てられるとなったらね、今までのセックスが全部、犯されていたような気になったの』  
(そんな……)  
『私、あなたの傍にいるわ。ずっと』  
「みゆき……!」  
幾度目かの膣内射精と同時にようやく声を出せたが、意識が遠のいていた。  
誰もこんな体験を信じてはくれないだろう。気が狂ったとしか思われない。  
不倫相手を殺し、妻を殺し、少女を犯し続けた男――。  
この先、自分を待つ運命が恐ろしくて体を震わせるが、それ以上にあるのは贖罪の感情だった。  
 
 
おわり  
 

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