怪しい。どうも最近、怪しい。  
僕の妻、真理のことだ。僕は、彼女が不倫しているんじゃないかと疑っている。  
もちろん違ってくれれば嬉しい。  
だけど近頃、やたら香山さんがシュプールに顔を出すようになった。  
仕事で近くまで来たついでに顔を出すと、香山さんは僕に言う。  
本当にそれだけだろうか?  
夏美さんを失って以来、香山さんは悲しみを紛らわせる為に、がむしゃらになって働いた。  
その甲斐あって、今では全国に店を出店するほどの成功をしている。  
そんな香山さんが余生を鑑みて、ふと再婚を思い立っても不思議ではないではないか。  
そう、僕の愛する妻、真理を狙っているかも知れないのだ。  
疑心暗鬼になった僕は、夜、満足に寝ることすら出来なくなってきている。  
今日も香山さんがやって来た。部屋を二階に運ぶと、談話室で真理と親しげに会話をする。  
真理の笑顔、ひとつひとつが、なおさら僕を疑心へと掻き立てる。  
「なんや透君、わしの顔に何かついとるかいな」  
僕は知らず、香山さんの横顔を思わず見つめていたらしい。  
「い、いえ」  
ぎごちない愛想笑いを浮かべて、僕は仕事に戻った。  
香山さんが来るのは今月だけで二回目だ。いくらなんでもおかしい。  
大阪を拠点に仕事をしている香山さんが、そうそう毎月、何度も長野まで来られるものだろうか?  
だが、それも真理と関係があると考えれば納得がいく。真理は仕事上、シュプールを離れることは  
あまりできない。だから香山さんが、しげしげとこちらに通って来るわけだ。  
香山さんが本当に僕ら夫婦の事を心配して顔を出してくれてるのなら、こんなに有難いこともない。  
けれど、僕だってもう学生ではない。童顔のお人好しじゃあないのだ。  
 
ついに僕は、隠しカメラを仕掛けることにした。僕ら夫婦の部屋と、香山さんが泊まる部屋にだ。  
二人に関係があるとすれば、このどちらかの部屋で『事』が行われる可能性が高い。  
『事』……。  
「くそっ」  
僕は聞かれないように小さく悪態を付き、真理に買い出しに出かけると告げた。  
真理は笑顔で僕を送り出した。その笑顔が本物なら良いのだが……。  
僕は出かけたフリをして、車を目に付かない場所に置き、裏口からシュプールに戻った。  
こそこそと、泥棒のように忍び足で空き部屋に入り、用意していたモニターをチェックする。  
すると、夫婦の部屋に真理が入って来た。なんと、すぐに香山さんまで。  
やはり二人には関係があったのだ。僕はギリギリと歯軋りをした。  
「透君、行ったんか」  
「ええ」  
音声も聞こえるようにセットしている。しかし、止めた方が良かったかも……。  
これから行われるであろう密会の目的を想像し、僕は胸が張り裂けそうだった。  
真理が香山さんに抱きつく。香山さんは優しげに抱き返し、二人は、久しい体の触れ合いを実感している。  
真理、どうしてなんだ? 僕じゃダメなのか?   
香山さんが好きなら僕と別れれば良いのに、何故そうしない?  
二人はキスをし、舌を絡ませる。  
止めてくれ!  
僕は堪らず目を逸らす。しかし、ゆっくりと再びモニターに視線を戻す。  
堪らなく嫌なはずなのに、確かめずにはいられない。そんな心境だった。  
第一、そんな感情が無ければカメラを仕掛けたりなんかしない。  
 
奮発した機材のせいで画質がすこぶる良い。モニターは、二人の行為を余すことなく僕に伝える。  
唾液の交換をしながら、二人は服を脱ぎ合って全裸になった。  
香山さんの腹の突き出た中年太りの体。お世辞にも美しいとは言えない。  
それとは対照的に真理の体は美しい。色白でスタイルが良く、胸やお尻の形も素晴しい。  
僕は喉を鳴らし、気が付くと勃起していた。  
不覚だ。妻の不倫現場を見て反応してしまうとは。  
香山さんの無骨な手が真理の乳房に伸び、太い指が膨らみの中へ埋没する。  
そして、ちゅうちゅうと音を立てて乳首を吸う。  
「あっ」  
真理が喉を逸らせて喘いだ。  
ちょっと待て。僕との時は、そんなに気持ち良さそうにしてたっけ?  
香山さんは真理をベッドに仰向けにし、その欲情せざるを得ない裸体にむしゃぶりついた。  
ちょっと待て。そのベッドは僕と真理がエッチする時に使っているものだ。  
ガクン、と肩を落とすしかない。  
香山さんは執拗に乳房を揉み、乳首を吸う。白い肌が赤みをおび、うっすらと汗を浮かばせる。  
首から顎、腹部から脚まで、香山さんは唇を這わせ、なめて、吸った。  
その一連の愛撫に、真理は妖艶な微笑すら浮かべて喘ぎ続けた。  
そして、愛撫はとうとう秘裂へと到達する。  
「あんっ」  
真理はビクッと体を震わせた。  
 
香山さんはクリトリスを口で刺激しながら、とっくに愛液で濡れている膣口に太い指を挿れる。  
「んんっ」  
動かすと、クチュクチュとイヤらしいな音がした。  
「真理ちゃん、ずいぶんと濡れとるな」  
「だ、だって気持ち良いから」  
真理の顔は僕が知らないほど真っ赤だ。僕が知らない真理だ。  
「スケベやなぁ」  
「香山さん、もう我慢できないの。挿れて」  
「分かった」  
香山さんはベッドの上で立ち上がり、ペニスを大きくするように促す。  
真理は彼の股間に手を伸ばし、その大き過ぎるイチモツをシゴく。  
「ふぅ」  
香山さんは気持ち良さそうに吐息を漏らし、真理はその反応を愉しむかのように微笑んだ。  
「すごい、大きい」  
竿さけでなく、亀頭、睾丸のことまで言っているらしい。  
確かに、僕のよりずっと大きい。長さも、太さもまるで違う。  
香山さんのペニスは、まるで何か別の物体であるかのようにそそり立っていた。  
そしてついに、真理はフェラチオを始めてしまった。  
「うっ、真理ちゃん、相変わらず上手やな」  
「本当?」  
上目づかいに綺麗な黒い瞳を向ける。僕にする時よりも愉しそうだ。  
 
「透君は、どのくらいもつんや?」  
「ふふ、ダメです。すぐイッちゃいます。だから加減してあげるの」  
……!  
「はは、なんだ、そうなんかいな」  
真理は、すっかり限界まで隆起したペニスを口に含み、音を立てて吸う。  
手コキを忘れず、睾丸を吸い、竿の裏筋をなめ上げ、亀頭を巧みな舌づかいで刺激する。  
「アカン、イキそうや」  
訴えるように言うが、真理は行為を続けて、香山さんを簡単に射精させた。  
「わしも自信あるんやけどなぁ」  
「こんなに」  
真理は笑顔のまま、舌の上で震える白濁液を見せた。  
「ぎょうさん出たなぁ。自分でもビックリや。挿入る前に出てしもうた」  
「また大きくしてあげる」  
真理は精子を飲み込むと、自分の手に付いたものも、ペニスに残ったものも綺麗になめとった。  
真理、僕のは口の中に出すのも嫌がるじゃないか……。  
「真理ちゃんにこんなことしてもろて、わし、なんと言うたらええか……。透君に悪い気がするなぁ」  
初めてでもないくせに、よくも言うものだ。僕は憤慨したが、いつのまにか自分の男根を握っていた。  
どうやら、この状況に興奮してしまっているらしい。僕はおかしいな、きっと。  
「あれ、終わりですか? 自分だけスッキリして、私にはしてくれないんですか?」  
僕は目を丸くした。セックスで、真理があんな挑発的なことを言ったことあったっけ?  
 
香山さんは自分の娘のような若い子に翻弄されてるというのに、まるで不快じゃないらしい。  
二人は再び互いを刺激し合い、頃合を見て、真理がまたフェラチオをした。  
先程よりもずっと激しく、もう、あのペニスが欲しくて欲しくて堪らない、そんな感じだ。  
「はぁ、はぁ、アカン、またイッてまう」  
「ン、ダメ」  
「ああ、分かっとる」  
真理が口を離すと糸が引く。限界まで勃起したペニスは、唾液のせいで黒光りしていた。  
「よっしゃ、いくでぇ」  
香山さんは真理を押し倒すと、怒涛に隆起したペニスを正常位で挿入した。  
「ああんっ」  
可愛らしく、同時に色気に満ちた喘ぎ声が、香山さんどころか僕の欲情さえ増幅させる。  
「透君、スマン!」  
言いながら、香山さんはせっせと腰を振っていた。  
「あっ、あっ、香山さん、素敵!」  
真理は香山さんの背中に腕を回す。  
「真理ちゃん、わしのチンコ、気持ちええか?」  
「うん!」  
真理の瞳は切なそうに潤んでいた。その言葉が世辞ではないくらい、僕にも分かった。  
そう、僕との行為で感じているようにしているのが演技なのだ。  
僕の愛撫で気持ち良いなんて言うのが世辞なのだ。  
 
二人は座位で行為を愉しみ、そしてバックになった。  
香山さんは、四つん這いの真理のヒップに片手を沿え、もう片方の手でペニスを膣口へと持っていく。  
そして、一気に貫く。  
「あっ!」  
真理は短く悲鳴を上げた。勿論、それは快楽に満ちている。  
「ええで、ええで真理ちゃんマンコ。最高や。こんなん他にない」  
香山さんは真理のヒップを掴むようにして、乱暴なのではないかと思うほど激しく腰を打ち付ける。  
パンッ パンッ  
その度に真理は嬌声を上げ、僕はもうどうにかなりそうだった。  
ぼんやりモニターを眺めていると、香山さんが仰向けになって横になる。  
「真理ちゃん、自分で挿れられるかいな」  
香山さんはニンマリしながら言った。  
真理は顔を見せるように彼に跨り、腰を落として、手でペニスをそっと掴む。  
そして亀頭の先端を膣口へと導く。  
「んっ」  
亀頭が膣内に挿入った。  
真理はさらに腰を落としていき、香山さんのペニスを根元まで受け入れた。  
「はぁ、はぁ、香山さんのオチンチン、大きくて苦しいくらい」  
「ホンマかいな。わしも、真理ちゃんもマンコが気持ち良過ぎるで。  
濡れまくっとるくせに、驚くほど締め付けてくるからなぁ」  
「ヤダ」  
真理は恥ずかしげに目を逸らすが、まんざらでもないようだ。  
 
真理は脚をM字に開き、両手を彼の両太腿に置いて、淫らに腰を動かす。  
心底気持ち良さそうに吐息を漏らし、体をくねらせる。  
じっとしていられなくなったのか、香山さんは激しく腰を動かして真理を突き上げた。  
「んんっ、あぁ!」  
堪らず声を大きくする真理。  
「イクッ! イッちゃう!」  
「わしもや! たっぷり中出しするで!」  
真理には戸惑う気配すらない。いつものことらしい。  
ブルッと香山さんの体が震えた。真理もビクンっと痙攣したようになると、  
香山さんの胸に倒れ込み、しばらくそのままだった。  
「はぁ……はぁ……」  
二人は荒々しい呼吸を整えながら、絶頂後の余韻を愉しんでいた。  
どうしようもない焦燥感に駆られながら、僕は腰を上げた。ある決意をしていた。  
そして、二人が行為をした夫婦の部屋に入る。  
いないはずの僕が突然鍵を開けて現れたことに、二人はさすがに驚いた。  
慌てて体を離す。真理の膣口から香山さんの精液が流れ、太股を伝い、ベッドを汚した。  
「と、透君、これはなぁ」  
僕は香山さんを無視し、真理に問いただした。  
そして、二人が体だけの関係であることを知って安堵した。  
それなら、僕も交えてくれさえすれば良いのだ。  
きっと、その方が愉しいのだから。  
 
 
おわり  
 
 

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