夕食後、すったもんだの末に強烈な眠気に襲われて、気がつけば割り当てられた部屋のベッドで寝てしまっていた。
せっかく彼女に久しぶりに会えたというのに、何という失態だろう。
時計を確認すると、就寝するにはまだ早い。
あたしは軽く身なりを整えると、扉を開けて部屋を出た。
「!」
廊下に出てすぐ、その声は耳に入ってきた。
「あぁぁああんっ、あっ、いいっ、いいのぉおお!」
思いっきりの喘ぎ声。
なんてはしたない!
誰よ。こんなところまで来てAVなんか見てる人は!
と憤って、直後に思い直す。
この館にはテレビなんて一つもない。
それに、この声は!?
あたしは胸騒ぎを覚えて、緩く曲がった廊下を声のする方へと慎重に進んだ。
そして見てしまった。
素っ裸で睦み合っている男女の姿を……。
あたしはショックに全身を震わせ、傍の壁に寄りかかった。
いやぁああ!! あたしの、あたしの可奈子が!!! 汚らわしい男に犯されてる!!!!
一気に頭に血が上って、可奈子に覆いかぶさるようにして腰を振っている俊夫を突き飛ばそうと思ったけれど、
あまりにも可奈子の声が盛った女そのものだったので、あたしはその場に硬直してしまった。
「あっ、ああっ、ぁあんっ、あああんっ、はああぁああんっ」
「いいよっ、可奈子ちゃん。最高だ!」
まるで犬か猫の交尾のように、俊夫が可奈子に腰を打ちつけている。
肌のぶつかり合う音が、重い空気の停滞する廊下に響いていた。
……確かに入っている。
可奈子の、神聖であるはずのあそこに、男の不浄で不潔で下品なアレが入っている。
ああ、どうしてこんなことに!?
あたしは無意識にすがりつく壁に爪を立てた。
すぐに助けなくちゃと思いつつも、よくよく考えれば、彼女とはここ最近疎遠になっていた。
理由もちゃんと分かってる。
だから、今ここであたしが出て行っても、余計可奈子を刺激して、彼女の心を頑なに閉じさせてしまうだけだと
思われた。
あたしは泣く泣く諦めた。
でもでも、そうこうしているうちに、俊夫の腰の動きが早くなった。
はたから見ていると本当に滑稽な動きだ。
相手が可奈子でなければ、大いに笑い飛ばしてやっただろうに。
「あーああっ、あっ、あっ、んっ、もうっ、わたしっ、あんっ、だめぇええ!」
「っ俺も、そろそろ、やばいっ」
「あっ、出してっ…このまま、熱いのをっ、あっ、あっ、ああっあぁああぁぁあああーーん!!」
俊夫が逃げられないように可奈子の腰を掴んで、これでもかと密着して突き上げている。
あ! だめ、そのままはだめぇえええええええーーーー!!!
そして、切迫していた俊夫の動きがぴたりと止まった。
ひぃいいいいいいいーーーーっ!!!
あたしは悲鳴をあげそうになった。
あいつ中で出して……。
無垢な可奈子の汚れを知らない胎内に、俊夫が汚い子種を注いでいる。
それでもまだ足りないとばかりに、腰をゆすって可奈子の奥を抉っている。
すると次の瞬間、可奈子が白い背中を仰け反らせた。
そして、二人の繋がっているところから、ぷしゃあーっと派手な音をたてながら、透明な液体が飛沫となって
飛び出してきた。
ああ、可奈子。それはどういうことなの?
あたしが放心していると、可奈子は床に崩れ落ちてしまった。
突き出すように持ち上げられた可奈子のお尻の陰から、俊夫の卑猥な松茸がびよんと間抜けに跳ね上がった。
その大きく張り出した傘の部分には、白い液体がまとわりついている。
……本当に出したんだ。
可奈子が穢されてしまった。
気がつけばあたしは泣いていた。
二人が何か話しているけれど、その内容は全く耳に入ってこなかった。
やがて、俊夫が可奈子を抱きあげる。お姫様抱っこだ。
「ああ、可奈子……」
俊夫に抱かれた可奈子の股間が、あたしの方に向けられて、あたしはしっかりと見てしまった。
可奈子の清楚な女性器がぐちゃぐちゃに歪んで、男の精を吐きだす様を。
奥からこれでもかと溢れる白い粘液を見て、あたしは心臓が止まりそうになった。
けれど、そんなあたしに気がつくことなく、二人は目の前の部屋に入っていく。
扉が閉まった瞬間、あたしははじかれたように駆けだしていた。
さっきまで可奈子がうずくまっていた場所に視線を落とすと、濡れた床の上に、塊が混じるほどの濃い白濁が
水たまりを作っている。
吐き気を催す忌々しい臭いが辺りに漂っていた。
あたしは二人の消えた扉を睨んだ。
すると、扉越しに、再び嬌声が聞こえてくる。
可奈子、これ以上自分を堕とさないで!
あたしは、そっとドアノブに手をかけた――。
平衡感覚を狂わせる緩く曲がった廊下をふらふらと歩く。
もう、何もかも終わりだ。
可奈子が壊れてしまった。
覗いた部屋の中では、五人の男女がくんずほぐれつに絡み合っていた。
一つしかないベッドの上で、可奈子の上に美樹本さんがのしかかり、香山さんと俊夫にサンドイッチのように
挟まれた小林真理が聞くに堪えない喘ぎ声をあげていた。
みんな狂っている。
何もかもが嫌になったあたしは、あてもなく、ただ延々と続く廊下を歩いた。
と、またどこからか厭らしい雌犬の声が聞こえてくる。
探り当てて扉を開けてみれば、ここにも盛りのついた犬がいた。
ベッドに素っ裸で寝転がる透さんの上に、これまた全裸で目隠しをした春子さんが跨っていた。
「透さん! ああんっ、もっとっ、もっとちょうだい!!」
春子さんが身体を上下させるたびに、白く汚れた二人の繋ぎ目から、じゅぶじゅぶとおぞましい音がしていた。
……春子さんまで堕ちてしまった。
あたしはその場から立ち去ると、自室に戻って天井を見つめた。
そして、色々考えて、一つの結論に達する。
やっぱり、可奈子を救えるのは自分しかいない。
そう決意して、クローゼットから物置部屋で調達したものを引っ張り出す。
可奈子、待ってて!
あたしは可奈子を救うために、コートを帽子を身につけた。
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(終)