突然の事に、私は困惑するしかなかった。
アルバイトで雇用している、みどり君の事だ。
キッチンで突然、彼女に誘いを受けた。
いきなり私の股間に、彼女の手がズボン越しに触れていた。
「ど、どうしたんだ…」
月並みな台詞を漏らしながら、私は無様なまでに困惑した顔を向ける。
若く、妖艶な瞳を浮かべた、みどり君へ。
「オーナー、前から私のこと、気にしていたじゃありませんか」
クスッと、少し雪焼けした顔に小さく笑みをこぼす。
「そんなことは…」
私は否定しつつも気まずそうに視線を逸らし、彼女が言った事を認めていた。
無理もないだろう。
私は自分に言い訳していた。
妻の今日子とセックスをしなくなって、随分とたつ。
その間、セックス、女性の体に興味を無くしたわけではない。
本屋に立ち寄れば、人目を気にしながらも、成人向けコーナーで本を手にしてみたこともある。
単なる興味ではなく、まだ自分に『その気』があるのかを確かめる為だった。
脱サラ時の多忙を機に、いつの間にか今日子を抱かなくなっていた。
意識していたわけではない。いつのまにやら、気が付いた時には、そうなっていた。
彼女も積極的に求める方ではなかったから、私も気にする事が少なかったのだ。
そんな時、みどり君のような若く、魅力的な女性が現れた。
雇用の理由に、全く下心が無かったと誓える自信はない。
「私だって、馬鹿じゃぁありません」
みどり君は言いながら、私の股間に当てられた手を動かした。
「止めるんだ」
理性が言わせた。
「どうして?」
気安い口調で訊ねられる。それは雇っている従業員というよりも、女としてのそれだ。
「当たり前じゃないか。私には妻がいるし、君には…」
私だって馬鹿じゃない。俊夫君がみどり君に向けている好意くらい察しが着く。
しかし、どこまでの仲までかは把握していない…。
「それなら大丈夫ですよ」
みどり君は言いながらズボンのファスナーを下げると、
器用に私のペニスを掴み出した。
「な…」
久しい感覚に、私はさらに動揺した。
暖かいだけではない。女性特有の柔らかさと、繊細さを持った手だ。
心臓の鼓動が早まるのが分かる。まるで若い頃、女性など知らない頃を思い出すかのようだった。
(どうしたというんだ。ハッキリ断れば良いだろう)
分かりきっている事だというのに…。
どこかで、これが続くことを期待してる。そして私は、そんな自分に気付いている。
私は閉口した。
「今日子さんだって、今頃…」
「え…?」
一瞬、耳を疑う。
「俊夫君が、相手をしているはずです」
「そ、それは…」
「だから大丈夫ですよ」
「大丈夫なわけないじゃないか」
「オーナー、鈍感なんですね」
みどり君は、また小さく笑った。
「な、何が…」
私は、必死に上司としての威厳を保とうとするかのように訊いた。
「俊夫君、前から今日子さんに関心があったらしくて…。それで、今日決行するって」
「…何だって?」
俊夫君が? 今、みどり君が私にしているように、今日子にしているというのか…?
以前から今日子に好意があった…。
それが事実だとすれば、私はまるで俊夫君の本意に気が付かなかったことになる。
毎日のように顔を合わせながら…。
「今日子さんの悲鳴が上がっていないんですもん。今頃、今日子さんだって楽しんでるんですよ、きっと」
そんなはずがあるか!
私は内心怒鳴った。
内心…。
やはり、私の中にみどり君の行為が終わるのを恐れている一面が、どこかであるのだ。
みどり君はそれを見透かしたように、再び小さく笑った。
会社員時代に部下として使っていたような若い娘に、こうもあしらわれるとは…。
だが屈辱的だと感じる反面、どこか愉悦すら感じた。
(私はどうしてしまったんだ…)
そう思った途端、ペニスが暖かいモノに触れた。
「…!」
経験が無いわけではない。
状況を考えれば、何が行われているのか察しはつく。
視線を落とす。
みどり君が姿勢を下げ、私のペニスを口に含んでいた。
「み、みどり君…」
私は情けなくも、快感の溜め息を漏らしていた。
これは現実か。それとも夢か。
その様子に、みどり君がペニスをくわえたまま、満足そうに笑みを見せる。
そして彼女は、急かされるかようにフェラチオに勤しんだ。
私には妻がいる。みどり君は部下で、彼女には俊夫君がいて…。
複数の条件が、私を興奮させていたらしい。
気が付けば、私は彼女の頭を両手で抑えるようにして、自ら腰を動かしていた。
知らず、呼吸が荒くなる。
「ン…ンッ…」
みどり君は時折苦しそうにする素振りを見せたが、行為そのものを止めようとはしない。
ペニスに舌が絡みつく。ねっとりとした、唾液と摩擦の感覚。
「うっ…」
私は全身が熱くなる感覚がした。それと同時に、彼女の口の中に射精していた。
自分でも驚くほど早かった。
「はぁ…はぁ…」
私とみどり君は、一緒に肩を上下させていた。
(何てことを…)
後悔の念が脳裏をかすめる。だが、みどり君は例の調子で笑う。
「凄く、濃いんですね」
「みどり君…すまない」
「どうして謝るんです?」
言うなり、みどり君は服を脱ぎはずめていた。
「オーナーのそれ、まだ元気ですね」
私が射精後の虚脱感に暫し呆然としている間に、みどり君は服を脱ぎ終えていた。
白い、シンプルなパンティを残して。
「オーナー…」
彼女は少し恥らうようにしながら、私を招くようにする。
私は年甲斐もなく緊張した。その、美しい肢体に。
スタイルが良いのは勿論、程良い肉付きと、きめ細かい肌…。
魅入られない方が、どうかしている。そう感じた。
だが、まだどこかで躊躇いがあるのだろう。
私は右手は、彼女の左胸にそっと触れるようにした。
「遠慮しないで」
みどり君は私の手を自分の手で上から押さえ、乳房を揉むようにした。
「ン…」
その柔らかさと弾力に、私は怯みそうにすらなった。
しかし、いつまでも臆してはいられない。
そんな思いに駆られ、おもむろに右の乳房に顔を近付けた。
そして、綺麗な色をした乳首を口に含む。
「あ…」
みどり君は短く吐息を漏らした。
「気持ち良いです、とっても」
その言葉に勇気付けられて、吸う力を強める。
興奮しているせいか息が荒い。乳房に熱い吐息をかけつつ、行為を続ける。
右手は次第に下がり、引き締まった腹部、太股、臀部をさすり、揉んだ。
首筋にキスをし、今度は後ろに回る。
そして背後から両手で、やはり両方の乳房を揉みしだいた。
「ああ…」
みどり君の呼吸も荒くなり、体は少し汗ばんできている。
「オーナー、私もう、我慢できません」
その言葉が何を意味するのか、勿論分かった。
「みどり君…」
私は彼女に、両手をダイニングテーブルに付かせた。
そして後ろから、臀部を撫で回す。
「あ…ン…」
みどり君は誘うように、腰を少し浮かせる。
「ああ、分かってる」
私は彼女の白い、最後の下着を慎重にずり降ろした。
現れたのは、想像していた以上に美しい、女性の秘部だ。
「綺麗だ、みどり君」
膣口は勿論、彼女自身の愛液で指先を濡らし、クリトリスに触れる。
ビクン、と彼女の体が反応する。
「あっ、ああ…。私、それだけで、もう…」
私は立ち膝になって、彼女の秘部を口で丁寧に愛撫する。
「オーナー、そろそろ…」
私は膣口が十分に濡れている事を確かめ、そこにペニスを押し当てた。
「みどり君、本当に良いんだな?」
「はい」
左手で彼女の腰を押さえつつ、私はペニスを膣内に挿れた。
「あ、ああっ! オーナー!」
膣が収縮し、私のそれを締める。
「はぁ…はぁ…みどり君、気持ち良いよ」
「わ、私もです。ンッ…」
パン パン
小気味いい音が、時に早く、時にゆっくりと、キッチン内に鳴り響く。
私は快感に酔いしれた。何かにとりつかれたかのように、夢中になって、
ひたすら彼女を突き上げた。
…だがふと、ある考えが脳裏を過ぎった。
(もしも今、今日子がキッチンに入って来たら…)
私は愕然とした。
みどり君は今頃、俊夫君が今日子と愛し合っているのだと言った。
今日子の悲鳴が聞こえないのが、その理由だと。
だが、それが事実である証拠は?
全ては彼女の嘘で、今にもキッチンのドアを開けて、
今日子か、俊夫君が入ってくるのではないか?
そんな恐れが、瞬時に沸き立った。
だが、私は腰の動きを止められないでいる。
あいも変わらず、みどり君の中に自身を突き挿れている。
(まったく、私は…!)
呆れたものだ。いい年をした男が快楽に溺れ、理性的な行動が出来なくなっているのである。
だが―
(構わんさ!)
私は諦めていた。みどり君が言ったことが嘘で、今日子か俊夫君にこの情事を見られれば大変なことになる。そんなことは分かっている。
だが、その危うさがなお、私を興奮させているのだ。
「みどり君、いくぞ」
「はぁ…はい。来てください。私の中に、全部、出して!」
「ああ!」
……。
私は、みどり君の中に全てを放った。
「はぁ…はぁ…」
二人とも息を荒げ、行為が終わった後の虚脱感に身を任せている。
私は彼女に覆い被さるようになった。
その時、ガチャッと、キッチンのドアが開いた。
「…ッ」
さすがに、私は慌てて振り向いた。
そこには、今日子がいた。
「あなた…」
「今日子…」
今日子の変わりように、私はすぐに気が付いた。
…裸だ。白く、年齢の割りに若々しい、張りのある肌を晒している。
前かがみなっていて、後ろには裸の俊夫君の姿があった。
体勢から察するに、何がどうなっているのかは分かる。
俊夫君のペニスが、今日子の中に挿入っているのだ。
「ほら、俺が言ったとおりでしょう、ママさん」
「ああ、ああ…」
今日子は恥ずかしそうに、両手で顔を隠すようにした。
パン パン
先ほどまで私がみどり君にしていたように、俊夫君は今日子に自身を突き挿れている。
「クスッ」と、みどり君の笑う声がした。私は視線を戻す。
「これから楽しくなりそうですね。皆で」
みどり君はそう言って、屈託なく微笑んだ。
終わり