「振り落とされないように、しっかり掴まっててよ?」  
 言うが早いか、真理はスノーモービルを発進させた。  
掴まる? どこに? 捕まるところなんか見つからない!  
僕はのけ反るような格好になりながらも、両腕を闇雲に伸ばし、  
真理の体をたぐり寄せた。  
 「エッチ!」  
 冗談じゃない! 路面は凍てつき、アスファルトよりも硬く  
なっている。何よりもヘルメットをかぶっていないので、  
 
このスピードで投げ出されれば、命の保証はない。  
 「お……落ちそうなんだ!」  
 蚊の鳴くような声を引き絞ると、真理にも伝わったらしく、  
その肢体を自由にまさぐるという暴挙を黙殺してくれた。  
 「ちょ……やだ。透、どこ触ってるのよっ?」  
 「おまんこ!」  
 どこ? と訊かれたのだから、率直に答えたまでだが、  
言ってしまってから、己の暴言にハッとした。  
 
 「言う事ないじゃない!」  
 「真理のおまんこ!」  
 「透!」  
 真理の声など、耳に入っていなかった。死にたくないという  
本能と、真理の性器をまさぐっているという現実の境に、  
僕は生死の境を見た。  
 「ここがっ、真理のクリトリスでっ、ここは大陰唇!」  
 ばか! と聞こえたような気がしたが、まんざらでもない  
 
声色が混ざっていたのを、僕は聞き逃さなかった。  
 ……感じてるのか? 暴れるハンドルを全力で握り、御しながら、  
しかし女性器を指で揉みしだかれ、感じているのだろうか。  
 僕の胸中に、どす黒くて邪悪な、ひとつの考えが浮かんだ。  
 イカせよう……。  
 僕を騙した罰だ。さっきも殺されそうになった。いや、一度や二度じゃない。  
最初から事情を話してくれれば、もっと協力できたはずだ。  
 真理は、罰を受けなければならない。  
 

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