「リーチッ!」
美樹本の快活さを伴った明るい声が響き渡る。
それをうんざりとした視線を向け、三人は一様に渋い表情で押し黙っていた。
ここにいる四人とも、徹夜で興じる程麻雀は好きだし経験もある。
だが、美樹本以外の三人の顔は、ここまで暗いのだろうか。
特に透の表情など、蒼白を通り越して、死者そのものにも見える。
震える手で透が牌を捨てると、それを待ち構えたかのごとく美樹本が声を張り上げる。
「ロンッ! ロンッ! ロォォォンッッ!! これは高いよ――ッ!?」
「――また透くんが直撃やな」
「――そのようですね」
香山と俊夫が同情する視線を、透に向けた。
四人麻雀にも関わらず、激しい点数の増減があるのは、透と美樹本の二人のみ。
勝負の枠外で見学しているかの様に、香山と俊夫には思えてならなかった。
金を掛けている訳ではない。
しかしかの二人の表情は天国と地獄と二極化しており、純粋な勝負論の観点から見れば不自然さ極まりない様子を印象付けた。
「透くん、トんだ? トんだ?」
「……何とか二千点残ってますよ」
「ちぇ、それなら全部は無理か」
ひそひそと香山が俊夫に耳打ちする。
「あそこで真理ちゃんと可奈子ちゃんが帰るとは思わなんだ……」
「しかも勝負の趣旨をどこで聞きつけたのか、美樹本が透くんを引き連れてくるとは……」
「素直に金掛けてたら良かったわ……」
「まさに……」
やけに説明的な内緒話を応酬させていた二人を無視し、美樹本は透に勝利者としての特権を告げた。
「さあ、次はズボン上の下着いってみようか!」
そう、これは――
世にも怖気を感じさせる男四人での脱衣麻雀なのだ。
しばし透のストリップショーを男三人で堪能もとい鑑賞しながら、――美樹本と他二人の意味合いは逆だが――ー嘆息を付いた。
透は崖淵の心境から、涙目で縋り付く様にして訴える。
「やめましょうよ、こんな麻雀! あまりに不毛ですよ!」
「いや、正直ワシらも止めたいんやが……」
「蚊帳の外だしなあ……」
「やめないよ」
美樹本は反論を良しとせず、云い切った。
「今日は徹夜だよ。なあに、脱ぐ物が無くなったら、体で払ってもらえば済む事だしね」
「何ですか、その思考の飛躍の仕方! 嫌だ、こんな奴と夜を越すなんて!」
「なあ、美樹本君。男四人での脱衣麻雀なぞ、無為もいい所や。君の嗜好を理解出来ないワシらから見れば全くメリットが無い」
「むしろデメリットしか無えよな」
「――何が云いたいんですか?」
美樹本の目付きが、温和で好色さを伴ったもの(かまいたち2、3の美樹本)から、剣呑なそれ(かまいたち1の美樹本)に変わる。
「返答次第じゃ、何をするか分かりませんよ。香山さん」
「ちょ、そ、そんな睨み付けるのは止めてもらえるか。心臓に悪い。何、提案や」
「提案――ですか?」
「そうや」
香山は鷹揚に頷きながら
「簡単な話や。最下位の者は、トップを取った者の云う事を何でも聞く」
「ほほう」
途端、美樹本の目が爛々と光り輝く。
俊夫も興味を惹かれたらしく、身を乗り出すようにして香山の話を聞いていた。
「ま、あくまで節度ある範囲やで。例えば、死ね!とか全財産寄越せ!とか無茶な願いは禁止や」
「ふむ。例えば、透くんの貞操とかならば良いって事ですよね」
「節度無いですよ、それ!」
だが透の主張は次の俊夫の言葉で棄却された。
「いいんじゃねえの、別に。俺も面白そうなの思いついたしな」
「と、俊夫さん!」
「何。透くんが勝てば済む話じゃないか」
「そ、そんな……」
議論を打ち切る合図として、パンと両手を叩いて、香山が場を仕切った。
「それじゃ、初めからやり直しや。勝者の特権は先ほど述べた通り! それじゃ行くで!」