夕飯時に勧められるままついつい酒を何杯も呑んだせいか、夜中に突如尿意をもよおしたので、真理は心中慣れぬ館内に不安を感じつつも、手洗へ赴く事にした。
自分の部屋からは遠く離れており、薄気味悪さから両腕を抱えたまま体を震わせ、手早く済ませてしまおうと足早に廊下を歩く。
しいんと静まり返った通路は、改装したばかりだというのに、幽霊が出没しても不思議では無い程の年季を思わせた。
静寂が館を支配する中、自身が立てている足音に理不尽な恐怖を感じ、透を起こせば良かったと内心自分の失態を嘆いた。
直に彼女は自分と、少しずれて聞こえて来る足音の存在に気付いた。
足を止めると、示し合わせた様に、半歩分ずれて足音はぴたりと止んだ。
再び足を動かすと、又同じく、足音が余計に響く様に聞こえてくる。
背後を確認する余裕も無く、最初は早足で、その内逃げる様に走り始めた。
しかし、背後の足音は、挑発しているのか真理と同じペースを崩さない。
周りを確認せずに移動していたツケで、目前には壁が立ち塞がっていた。
絶望的な面持ちで、膝から崩れ落ちた。
自らを追い立てる何者かの存在を視認しようと、ゆっくりと背後を振り返る。
そこにはk
そこには黒い影が立ちはだかっていた。
灯かりの無い暗闇ではその影の持ち主が誰なのか見当も付かなかった。
ただ、体の大きさから、体付きの良い男だという事だけは分かった。
ただただ怯える真理。黒い影はゆっくりと真理の体に覆い被さってくる。
床に崩れ落ちてしまった事を後悔した。すでに膝は男の手に抑えられている。
これじゃあ自慢の足技も決められない、いや既に、膝は震えて使い物にならなくなっているのだが。
男は真理の足の間に入り込み、寝巻き代わりのジャージのジッパーに手を掛ける。
唯一自由が利く腕を使って抵抗を試みたが、膝同様力の入らない腕ではどうしようもなかった。
下着を付けていない体が露になる。男の唾を飲み込む音が聞こえる。
形の良い乳房に男が手を掛けようとした頃、ようやく真理の目は暗闇に慣れ、その影の持ち主が誰k
その影の持ち主が誰か判別出来る様になった。
名を告げようと口を開きかけるが、瞬時に相手が顔を近づけ、そして唇で塞いでしまった。
突然の事態に真理は混乱してしまい、されるがままに舌を口内に挿入された。
舌による蹂躙は心地よい刺激を与え、真理の思考を霞み掛けていく。
自覚の無いまま、互いに求める様に舌を絡ませ合った。
やがて、相手が唇を離すと、唾液が糸を引き、真理は顔を赤らめて熱っぽい視線を向けた。
強引ではあるが情熱的なキスは、必然的に彼女の秘部を濡らす要因となった。
相手はそれを見て取ったのか、唇を歪ませて、真理に下を脱ぐ様に指図した。
羞恥心からかささやかな抵抗とばかりに睨み付けるが、効果が無いと分かり溜息を付くと、いそいそとパンツを下ろし始める。
いやらしい笑みを浮かべたまま、観察する相手を咎める様に口をとがらせて
「もう。k
「もう、こっち見ないでよ……」
群青色のズボンと、白桃色の下着が、無機質な鋼材の床に落ちる。
相手は満足げに数度軽く頷くと、ジーンズのファスナーを下げ、自らの性器を取り出した。
猛々しく隆起した自身を、真理の顔元に近づけていく。
意図を理解して、真理は恐る恐る舌を差し出す。
亀頭に当たる部分に触れると、敏感なそれはぶるっと震え、舌を軽く叩く。
徐々に舌が当たる面積を増やしつつ、唾液を満遍なく擦り付ける。
やがて大胆に舌を性器に絡めると、飴の様に、美味しそうに舐める。
両腕を組みながら、しばし任せるままにしていたが、やがて、真理の手を自らの陰嚢へ導いた。
「……k
「……ケロック!!!!!!!!!!」
「ケロック? 」
理解不可能な発言に、性器を触っていた手がぴたりと止まった。
思い浮かぶのはシリアル食品のメーカーの名前だ。
人語を解する虎が、今一つ冴えない子供に、その食品を勧め、超人的な能力を体得させると言うサクセスストーリーのCMで有名だ。
しかし、この状況で何故それを――。
ケロック、シリアル、健康……と、様々な言葉を連想していく。
――そうか、と真理は理解した。そういう事だったのか。
シリアル食品に付き物と言えば一つしかない。
「ミルク? 」
口一杯を大きく歪めて喜びの表現を表すと、
「グゥゥゥゥゥゥルェイトォウゥゥゥゥゥッ!!!!!! 」
それを合図に、膨大な量の精液を真理めがけて発射した。
「k
「きゃあっ!! 」
性器を律動させながら、雪崩の如く轟音を成して、射精は続く。
ますます勢いを増して白濁液のシャワーが真理の全身に降りかかる。
呆然としたまま、尋常でない量の精液を浴びていた。
永遠とも思えたミルクシャワーは、やがて稀に排出された精液が垂れ流されるぐらいに収まった。
全身を白化粧で固めた真理は、生臭く性的な臭いに当てられたのか、頬を紅潮させたまま、顔から口に垂れる精液を味わっていた。
「……凄い量……。あなた本当に人間? 」
揶揄するかの様に、唇の片端を歪める。
「k
「香山さん……」
驚愕の余り、思わず呟きが漏れてしまったのだろう、真理はその言葉に背後を見据えた。
言う通り、少し離れた場所で、香山が自らの、無駄毛で覆われた肥満体を余す事無く――ようするに全裸だ――見せ付けながら、正座していた。
能面の様な表情、背中から湧き出てくる黒い霧、見るに堪えない醜い体……。
上下の歯を音を発しながら軋ませ、眼は充血していて赤い。
「キエエエエエエエエ」
異様な奇声を上げながら、座した状態のまま、猛スピードでこちらに直進して来る。
どういった技法を用いたのか……、最早怪奇ですらある。
「な、何なのっ? あれっ!?」
「やはり来たか――、k
「やはり来たか――、カップラーメンください」
「あいよ」
先程の形相はどこにいったのか。香山は威勢良く、剛毛の中に隠していたと思しき、カップ麺を取り出した。
「でも、お湯がないわ」
真理の指摘は的を得ていた。これには俊夫も愕然として、やがて絶望となって、両膝を床に付け、天を仰いだ。
悲嘆にくれる二人を交互に見回して、決意の面持ちで、香山はどんと胸を叩き
「安心せい! ワシに考えがある」
「「え!?」」
両腕を交差させる様に組んで、何度も肯きながら
「真理ちゃんの小便や! 」
「え!? 」
「それはいいアイデアだ。さすが香山さん! 」
真理は口を大きく縦に広げ呆然と、俊夫は目を爛々と輝かせた。
「足りないようやったら、ワシのも入れ」
「いりません。真理ちゃん、頼むよ」
「え、ええと……、わ、分りました」
カップラーメンの封を開けると、床に置き、その上を跨る様に、蟹股座りの体勢になった。
「ん……んんん……」
先程まで失念していたが、丁度トイレに行く途中であったおかげで、小水が出ないという事は無い。
ちろちろと音を立てると、じきに勢い良く噴水の様に、放物線を描きながら、飛んでいく。
見事、小便は、的であるカップ内にじょぼぼぼぼと音を立てながら、注ぎ込まれていく。
色は健康である証拠に限りなく透明であった。
やがて、必要量を示すラインに至る間際で、小水は勢いを失っていった。
稀に、雫を垂らす程度だ。
カップからは湯気が立っていて、実に美味しそうな匂いを醸し出していた。
問題は塩分を過剰に含んでいる事だが、まあ、些事に過ぎないだろう。
蓋(真理は股間の蛇口)を閉め、皆、律儀に三分、座して待った。
百八○秒丁度。
香山は片目を瞑り、真理は親指を立て、そして、俊夫は蓋を大げさな仕草で破いた。
ここで箸が無いのに気付いたが、犬食いでいいやと、自分自身を納得させると、大口を開けて食事に取り掛かった。
「……うンマーイッ!!!!!!!!!!!!」
END 初めての共同作業