と、突然、扉が大きく開け放たれた。
部屋に居た全員の注目がその方向に向けられる。
そこには全身を黒装束で覆った男がいた。
それは俊夫さん。
真っ黒な、俊夫さんだった。
血走った眼で周りを見渡す。
そしてうなり声を上げながら、真理達の方に早い歩調で向かって来た。
啓子ちゃんや可奈子ちゃんは怯えきってて見ているだけだった。
ぼくは庇う様に真理の前へ立つ。
「と、俊夫さん!?」
襲い掛かるように、俊夫の両手が向けられた。
避けようと、ひっと小さく叫びつつ、後ろ向きに倒れこんだ。
俊夫は無視するかの様に、今度は真理の方に向かってきた。
しまったと思ってももう遅い。
「ま、真理! やめて下さい、俊夫さん!」
真理は恐怖のあまり、体も動かせない様だった。
あっさりと俊夫さんに肩を捕まえられる。
「やめろ、真理を・・・・・・真理を離せ!」
何とか飛びついて脚にしがみ付く。
俊夫さんと
「ト・・・・・・は・・・だ」
不明瞭な言葉を呟く。
「は?」
様子がおかしい。聞き返してみる。
「何ですか? 大きい声で言ってもらえませんか?」
俊夫さんは顔を真っ赤にして叫んだ。
「トイレはどこだと聞いてるんだ!! さっきからもう溜まって溜まってどうしようもないんだっ!」
下腹部を抑え、小さく何度も飛び上がっている。
ああ、そんなに動いたら・・・・・・。
と、俊夫さんの動きが止まった。
頭の上になにか生暖かい物が流れ落ちてくるのを感じる。
雨?雨漏りでもあるのだろうか・・・・・・いやもう判っている。
俊夫さんは満足そうな溜息をついている。
頭に掛けられた液体とは逆に、僕の心は冷えてくる。
周りの視線も冷ややかになるのを感じる。
寒い・・・・・・。
軽やかな足音と共に春子さんがやって来た。
一瞬不審げな表情になったが、すぐに優しい笑顔を浮かべながら言う。
「・・・・・・おや、皆さんお集まりの様ですね。そろそろ夕食の用意ですが何かリクエストはあるでしょうか?」
しいんと静まり返ったままだ。
誰も何も言わない。
あまりに重い雰囲気にぼくは思わず貰いお漏らしをしてしまった。
長い時間が経ち、ようやく、俊夫さんはぶるっと震えながら答えた。
「カップラーメンください」