春子の意識が混濁しはじめていた。縛り上げられた
両腕は鬱血し、痺れている。ワインが揮発したのだろうか、
少し動かしただけでべとつくのを感じた。
美樹本は強引に、春子の体を俯せた。無惨に染まり上がったシャツは
彼女の背を離れ、床に貼り付いている。春子の白い背中が
浮かび上がった。ほっそりとした肩幅、遠慮がちに
形を見せる肩胛骨。背筋のカーブは緩やかで、
肉の柔らかさをよりたおやかに見せる。
美樹本はようやく、春子の枷を断った。ぴりぴりした、
痒みにも似ている痛みがじきに彼女を襲うだろう。
ずりあげきったスカートをも切り裂きながら、
春子の裸身を眺める。
改めて見た腕には真っ赤な拘束の痕が残っている。
美樹本の太腿が打ちつけられた双臀は、
赤く腫れているようにも見えた。元が白いだけに、
それは余計に際立つ。
「手、もう落ち着いただろ。四つん這いになれ」
美樹本は赤くなった春子の手をつついた。まだ僅かな
痺れがあったのだろう、彼女はうめき声を上げた。
暫時を待てば、手は床へ爪を立てる。精一杯の力をこめ、
生まれたての家畜のように身を起こす春子。
スリムに見えていたその体は重々しく、振り上げた尻は
でっちりという言葉が最も似つかわしかった。
やっと素直になったか。
美樹本はほくそ笑み、その尻をはたいた。
「春子。いいか、おまえはもうあのおっさんの奴隷じゃない。
俺のものだ。俺が自由にする。俺の命令は絶対だ。
俺が奉仕しろといえば奉仕しろ。死ねといえば死ね」
ちょっとした好奇心から、彼はそう告げた。
試したくなったのだ。
この気丈で賢い女が、何処まで自分を愉しませられるのだろうか、と。
春子はようやく自由を得た四肢を突っ張りながら、
しかしそれが真の解放でないことを悟った。
腹の中を直接貫かれるようなセックスだった。
春子を駆けめぐる余韻は長く、重い。
――まだ、お腹が熱い……
美樹本の精液が種付けに成功したのかはわからない。
しかし、その白濁液が自分の奥へと到達したのはよくわかる。
春子は蕩けた目つきで、新たな主人を見上げた。
逆らわなければ。
これ以上自分を奪われるぐらいならば、
殺されてしまったほうがよかった。
そのはずなのだが、心も体もいうことをきかない。
波濤のような射精が、全てを飲み込んでいったのだった。
婉然たる様をさらし、春子は鼻を鳴らした。
円を描く腰は誘うようにねっとり揺れる。
美樹本に巻き付いていた女陰はその口を開いて、
彼の性技のすさまじさを物語っていた。
春子の尻肌へもう一度打擲を与える。
ひいっと悲鳴が上がるが、それは喜悦に歪んでいた。
美樹本はその豊かな臀部を掴み、深く入った切れ込みを割り広げた。
ふくれた花弁から伝い落ちる淫液はその繊毛へと絡みつき、
肛門へと至っている。蟻地獄のように窄まったそこにも
毛はしっかりと根付いていた。汗と体液が絡み纏われたそれは
じくじくと滾る情欲を更に掻き立てる。美樹本はそこを、
ゆっくりとなぞった。皺の一本一本に馴染ませるように
指を滑らすと、そこが息づいているようにきゅっと
身を縮めようとする。
空いている手で、春子の下腹部を撫でた。
柔らかく、贅肉は薄くついている程度だろうか。
女体そのものの持つしなやかな感触は、美樹本の手に吸いついていく。
膨らんでいる箇所は探り当てられない。
腹筋を特別鍛えている風でもなかったが、
美樹本は確認を怠るべきではないと踏んだ。
「洗浄は済んでるんだろうな。今夜はここでお楽しみ、
のつもりだったんだろ」
菊座を嬲っていた指先はそのまま上下に動いた。
臀部のまろみをなぞるようにしながら、ねちねちと
その箇所をいたぶる。
美樹本は汁をたっぷりとまぶされ閉じた、
春子のアヌスを押し広げた。柔らかくなるのに
そう時間はかからず、それは彼女がその行為を
日常的なものにしているという事実だった。
「あひっ……は……はい、さっき……洗いました……」
春子から手を離し、美樹本はその告白を聞いた。
床でぐちゃぐちゃになったシャツで、指先を拭う。
浸透してしまっているとはいえ、アルコールだ。
大なり小なり、消毒効果はあるだろう。美樹本は
ヒップポケットへ手を伸ばし、その中を改めた。
四角いビニールに突き当たる。避妊具だった。
ちょっといやらしい好青年、を気取るに際して、
必須のものといえる。舞台でいうなれば小道具であるそれは
使われないはずであったが、状況が変わった。
備えあれば憂いなし、とはよくいったものだ。
美樹本は勝手に冗談めかし、笑った。
春子は自分の乳房のせいで、彼の姿を確認できていないようだった。
重くぶら下がったふたつの果実は彼女の視界を塞ぎ、
何が起きているのかもしらせない。
肛門に加えられたささやかな愛撫でも、充分に春子の体は
反応を見せた。丁寧になぞりあげられたそこはびくつき、
美樹本の本懐を誘うように息づく。
彼は避妊具をわざと派手に開封し、手早く装着した。
春子の秘孔はそれに慣れているとはいえ、
まだまだ挿入できる段ではなかった。外見から把握した印象よりも
その場所は狭く、春子の内部は侵入を拒んでいる。
勃ち上がったペニスを避妊具が締めつけ、女を征服するよう
訴えているのを感じた。慌てるなと己に言い聞かせ、
いつの間に乾いた唇を舐める。
不意に春子の腕をひいた。片腕ではそのバランスが保てず、
彼女の上体が崩れる。肘をつき、どうにか姿勢を
取り戻そうとする様はいじらしく見えた。
美樹本は柄にもない感想を抱きながら、彼女の股間へと
その手を導く。
「さっさと突っ込まれてえんだろうが。緩ませろ」
春子自身の指先が、己の陰核を捉えた。
鼻から脳天へと抜けるような快楽が突き抜けていく。
「一人でやってるようにやれ」
続けて美樹本の命令が下った。春子は大きく肯んずると、
部屋でする自慰さながらに指を動かした。
まずはゆっくりと、敏感になったそこを撫でる。
膨らんできた楕円形の球体を慈しむように、指の腹で円を描く。
美樹本に擦られていたそこをゆっくりと剥き、
隠れていた秘芯を暴き出した。一度大きく、体が跳ねる。
「あっ、あ、あん、ああっ」
美樹本の手に合わせ、春子はその指先を動かした。
いたぶりつくした性感を、あえて焦らしているかのように
緩慢な愛撫。
春子はついた方の腕を伸ばし、腰を揺らして媚を売る。
もっと奥までちょうだい、と、その秘孔は美樹本を求めていた。
いや、秘孔だけではない。
春子の全身は、今股間を嬲るこの男を、求めていた。
彼女の媚態を食い入るように見つめる美樹本。
その両目が、春子の腋窩にそよぐものを見つけた。
「なんだ。あんた、腋毛なんか生やしてるのか」
美樹本は目にとまったそれを、即座に口にした。
腕を前に突き出したことによって、春子の腋がまる見えになる。
小高い丘のようになったカーブにそって密集する体毛が
しっかりと確認できた。ふっくらと浮いたそれは
汗でしっとりと濡れており、顔を近づければ
それなりの臭気を感じることができた。少々香ばしく、
酸を感じるにおい。美樹本はその密林に指を絡めたかと思うと、
数本をくいと引っ張った。春子からひうん、と甘い抗議が漏れる。
美樹本はそこから手を離すと、再び肛虐に意識を戻した。
この熟女を、嬲りつくして堕落させてやる。
今まで年上の女を抱くことは珍しかった。年上といっても
精々が自分よりも二つ上程度で、大して魅力もない
女ばかりだったのだ。年下の女は特別可愛らしくなくとも、
これという魅力がなくとも、若さという武器がある。
美樹本の女性経験からしてうまく切り抜けることも可能だし、
手軽に遊ぶには丁度よかった。
しかしこの人妻はどうだろう。美樹本の出す要求にことごとく、
予想通りの、いや予想以上の応答や態度を返してくる。香山という男がどれだけ有能であったのかは知らないが、
彼女にかなり支えられてきたのだろうことは犯してみて
尚更わかった。
春子の意思に反して、いやもう反してとはいえないだろう。
彼女の菊座は美樹本の指を受け入れ、その出入りを
かなりスムーズなものとしている。慣れる早さは
調教を受けてきた証なのだろう。
そして春子の口端からは溢れた唾液が流れ、
赤子がぐずる様にも似ていた。
白痴のようにその目は何を映すこともなく、ただ快楽に澱んでいる。
――いちいちいやらしい体をしてやがる
美樹本は笑みを禁じえなかった。見れば見るほど、
この淫婦は壊し甲斐がある。
白く丸い肩、滑るような背筋、柔らかで曖昧な腰のくびれ、
体が揺れるたびに音を鳴らす乳房。上向きになった腋窩、
恥丘、そして尻穴までもを覆う体毛。他がきちんと
手入れされている分、それらが余計に目立つ。
春子が自身でいたぶっている女の口の締まりも、
今美樹本が指を挿し入れる尻穴も、年下女にはない
熟れた魅力に溢れていた。
「み、みきも、と、さ……」
酸素に飢えた金魚のように、春子は口を開いた。
「美樹本様、だ。いってみろ」
しかし美樹本はそれに返答せず、己の主張を通す。
春子はその表情をうっとりと綻ばせながら、彼に従った。
「み、みきもと、さま」
「何だ」
短く返し、美樹本は相変わらず春子の腸管を刺激していく。
かなりほぐれたところで指を引き抜き、春子の手首を掴んだ。
無論、シャツで指を拭うことは忘れない。
「ひっ……お、お願い、もう……許してください」
唐突に止んだ愛撫が、嵐の前の静けさであることに
気づいているようだ。春子の嘆願を心地よさげに聞きながら、
美樹本はその彼女の乳房を鷲掴みにした。
「俺に命令するな、といったよな。……お仕置きだ」
耳元で囁きかけ、彼は自身の先端を春子へ宛った。
美樹本のそれはすっかり硬度を取り戻し、彼女を責め嬲る準備は
万端といった様子だ。
春子はその熱を感じると、身をよじった。
艶麗な笑みを浮かべ、美樹本を陶酔的に見つめる。
背筋を、何かが駆け上っていった。その媚笑は
美樹本の何かを、ぐっと引き寄せる。そしてそれは
更なる嗜虐心に火を点け、後戻りの道を狭窄していく。
奴隷ごときの分際で。美樹本は様々に理屈をこね、
春子の痴態を見下した。
あてがわれた肉瘤が、ゆっくりと飲み込まれていく。
本来、外部からのものを受け入れるためではない穴。
しかし春子のそこは美樹本を欲していた。開発され、
躾け抜かれ、円熟した穴。逞しい肉の幹を呑み込んでいく春子。
内部ははじめこそ狭いものの、くぐり抜けてしまえば
空洞になっている。ぽっかりした肛門は短い。
本来それは、あまり強引に突けば破れてしまいかねないほど
繊細にできている。しかし春子の様子からするに、
そのような気遣いは無用と見えた。
美樹本はコンドームをかぶったそれをゆっくりと、
スライドさせていく。
たっぷりと粘液をまぶした成果だろうか、
互いに苦痛をもたらすことはない。一度の抽挿で、
彼女がどれだけ肛交に慣れているのかを悟る。
美樹本は理解するや否や、半ば無意識的に腰を打ちつけ始めた。
じきに、春子のよがり泣く声が聞こえ始める。
さすがに突き込まれての絶頂はなかったようであったが、
しかしその唇は震えていた。はみ出した舌から
唾液が伝い落ちている。家畜未満、という言葉が脳裏に過ぎった。
美樹本は彼女の両腕を掴み、引っ張りながら腰を叩き付けていく。
性感のないはずのそこで、しかし彼女は噎び泣いた。
こそぐように蹂躙され、悦びを露わにしている。
この女は心底、被虐趣味があるようだ。
美樹本は己の情動を受け止める奴隷に、
せめてもの情けをかけてやる。
そしてそれは、あまりにも残酷な道だ。
膣肉とまるで同じ速度、力でその場所を抉り犯しはじめる。
美樹本の熱はまるで、鉄ごてが己を刻みつけてくるような
錯覚すら与えてきた。
「はあっ、あ、あ、あん、あっ」
艶に染まったその声は落ち着いたものから跳ね上がり、
鼻にかかって濡れている。男を誘うその色香は
むっとするほど肺に染みとおり、百戦錬磨といっていい
美樹本ですらも惑わされた。
根本まで飲み込むことに慣れたそこは、ぽっかり空洞を
作っているとはいえ狭い。
心理的作用でのみ感じるといわれている肛門性交に、
春子は身悶えていた。今までアヌスで感じると
主張していた女たちの言葉が、まるで嘘であったかのような
よがり泣きだ。美樹本は邪悪な欲望が再び、擡げてくるのを感じた。
「おい、春子。もっと気持ちよくなりたいか」
美樹本は、厚い胸板を押しつけるように上体を倒した。
掴んでいる腕は再び這う形をとらせ、自分の両手は
乳房を揉みしだく。
春子は甘えるようにその額を髭にすり寄せた。肯定のサインだった。
よく躾られた犬は無駄吠えをしないものだと、
美樹本の口角がつり上がる。
「じゃあ自分でやってみな。乳は揉んでてやるからよ」
美樹本はピストンをやめることなく、命じた。
固く尖った乳首をきゅっとつねりあげる。
「は、はひっ」
まともに返答できなくなった春子の片手が、揺れながらも
己の股間へ到達した。自分でもいたぶった陰核へ再び触れ、
その手を忙しなく動かす。指先で軽く擦っているに
過ぎないであろうに、春子の肉体の弛緩ぶりから
その快楽は容易に想像できた。
さすがに普段は閉じた器官であるだけに、そこは狭かった。
吐息を漏らしながら、美樹本は片手で乳房を嬲る。
打ちつける腰の速度は増し、空けたもう一方の掌は腋窩にやり、
擦り立てた。しょりしょりという音は小気味よく、空間を支配する。
「あっ!あっ、ああ!」
春子の体が再び、反った。美樹本の胸へ、その頭部が
押しつけられる。彼女が指を、己の膣へと侵入させたのだ。
絶頂には至らずとも、その快楽は計り知れない。
美樹本は腰を打ち込みながら、しかし巧みにその性技を
使い分けていく。入り口をゆるく嬲ったかと思えば、
奥を掻き乱した。デリケートな腸管はしかし、
繰り返される摩擦に充足を覚えている。
膣とはまた違う、内壁の感触。美樹本は早くも、
射精の予感を腹に蓄えていた。そして彼の種子を吸収したいと
告げるかのように、春子の腸はうねる。
美樹本は歯を食いしばり、それに耐えた。
吐き出してしまいたいという本能と、痴態を見下ろし
責め嬲っていたいという欲求の二者が鬩いでいる。
摩擦によって温まったそこは膣のようなからみつき方は
しないものの、抜き取ることを拒むようなきつい締めつけがある。
外側から開かれることをよしとしないその場所はしかし、
大きくその口を開かされ、ひくついていた。
「一人じゃ、寂しいだろ」
美樹本の指先が、春子の秘所へ向かった。既にそこは
春子の指が二本入り、自身を慰めるべく円を描いている。
美樹本の太い指がその脇から、春子の内部へ踏み入れた。
たった一人の侵入者は彼女の襞へと攻撃を開始する。
指同士が絡み合い、二人さながらにまぐわっているようだった。
春子の淫肉はぱっくりと、それらをくわえ込む。
美樹本は弛緩したそこへ、最後の抽挿を開始した。
大量の愛液で濡らした菊座は肉棒へと全力で食らいついてくる。
痛苦は感じない。そこを押し広げるように腰を沈めれば、
春子の女の口は噎ぶようにその身を濡らした。
汗と体液の臭いが混ざる。後背位と相俟って、
それはまさしく獣の狂宴に見えた。
「み、みき、もと、さまっ、いく、いきますっ」
腰の動きと同時に声が揺れ、春子は絶頂に達する旨を報せた。
それは波打つ内壁と肛門の収縮から明白であったが、
悪いものとは思わない。美樹本は心底、彼女が奴隷気質に
染め抜かれていることを知った。
掴んでいた右の乳房を持ち上げ、春子の顔へと近づける。
搾りあげたその先端で突起は尖りきり、痛々しいまでに
その姿を誇示していた。
「自分で舐めてみろ。気持ちいいぞ」
余裕のない声で、美樹本は告げた。射精が近い。
春子は言葉に従い、突き出された己の蕾を口に含んだ。
赤子がするように舐めしゃぶり、吸い出す。
美樹本の唾液が乾いていたのだろう、口の中でそのにおいが溶けた。
春子はそれを、まるで彼の唇を貪るように慰め続ける。
自慰によってわき起こる圧搾機のような両穴の締めつけに、
美樹本は荒く息を漏らした。奥まで一気に突き込む。
咽喉に絡んだような声が低く漏れた。
同時に、白濁をそのゴム壁に叩き付ける。
それは一枚の薄皮ごしにであっても、充分な熱であった。
春子は震え、びくびくと精を吐き出すそれを感じながら昇天する。
数えるのもいやになる回数だった。ランナーズハイにも似た状態に
陥ったまま、美樹本の手へと体を預けた。腕に力が入らない。
その絶頂は、美樹本に喜ばしい現実を差し出している。
完全にこの女を、その手の中に堕としたという事実だ。
美樹本はゆっくりと、射精を終えた己の蛇を抜き出した。
春子の体はがっくりと崩れ、未だ激しい絶頂の
余韻に浸っているようである。美樹本は己の股間を見やった。
吐き出した白濁を溜める小さな膨らみはその役目を終え、
自分がそこを退席することを待っているかのようだ。
美樹本は液体にまみれたそれを器用にはずすと、
口を結んで放り捨てる。
例のシャツでその手を拭うと、春子に最後の命令を
下しはじめた。
「起きろ」
ぴしゃっと一度その高く持ち上がったままの尻を打ち、
意識をこちらへ向かせる。びくっと一度跳ねたかと思うと、
おずおずした動作で必死に身を起こす春子。
その瞳は淫楽に染まりきって、ひどく猥らだ。
汗も涙も、まだ乾ききっていない。鼻水と涎は床で
こそげ落ちたのだろうか、あまり目立たなかった。
無論、完全に拭われたわけではない。陶酔的な美が、
そこにはあった。
その顔にまだ、表情は戻らない。呆けたような目で美樹本を
見上げているだけだ。凄絶な様といってよかった。
全身を嬲られた春子に、理性の防波堤は存在しない。
「どうすればいいか、わかるよな」
素振りはないが、そこには恫喝が含まれていた。
俺の機嫌を損ねるな。声色はそう告げている。
春子は聞いているのかよくわからない状態であったが、
かくかくと首を縦に振ってみせた。壊れた人形のようになっている。
ようやく自由になりはじめた体を前に倒し、
春子は這いつくばって近づいてくる。
進む幅に合わせ、その顔へ笑みが滲んだ。
美樹本の足元へ跪き、春子は顔を上げた。
淫蕩な艶笑を湛えたまま、三つ指をつく。
そのふたつの瞳は、真っ直ぐ美樹本を見つめた。
見上げられた彼は、意外に彼女の顔立ちが幼いことを知る。
或いは若い頃から、あまり変わっていないのかもしれない。
ともあれ、昔から美女であったろうことは想像に難くなかった。
そして春子は眼の奥で、美樹本を捉えていた。彼の瞳は
粗野な色を浮かべ、欲望に染まりきっていると思っていた。
だが、その眼差しの中に宿るものは、ひとつではなかったのだ。
美樹本の中に、もう一人の美樹本を見た。
彼は己という怪物に食われ、助けを求め喘いでいる。
破壊性を抑えつけようともがいているその男は、
救ってくれと手を伸ばしているように見えた。
周囲に悟らせず、ここまでの人間を殺してなお、
彼は理性を保っている。正気でないと言い切れば
それまでであったが、春子にとってそうは見えなかった。
寂寞と悲哀。それに、春子は母性を感じ始めていた。
彼を救うなどと、おこがましいことは考えない。
だが苛烈な性拷問に屈服し、不貞をはたらいた自分を思えば、
何処まで堕落したとて構わなかった。
夫を忘れることはできない。また、美樹本を許すことも
できはしないだろう。
何より、彼はいつか、自分を殺すかもしれないのだ。
彼女はその靴の先端へ口づけた。隷従の契約。
しかしそれは、春子の償いに似た思いの証だった。
美樹本は彼女の髪を、掴み上げた。汗でしっとりした感触のそれは
彼の手に馴染み、よく手入れされていることを伝える。
春子の双眸は熱を含んで潤み、美樹本を真っ直ぐに見つめた。
何処までも従います、とその目は語っている。
春子は床についていた手を美樹本の腰へ向かわせた。
牛革のハンドステッチベルトにその指先がかかると、
器用にその戒めを解いた。
続けて、ホックをはずす。ジッパーだけ下ろされていたズボンは
太腿へ滑り、ブリーフが明らかなものになった。
隙間からこぼれたままの一物は、邪悪な涎を滴らせたように
濡れている。春子と繋がっていた証であった。
痛みがないよう慎重に、彼女の手は美樹本の下着を
ずり下ろしていく。汚れぬよう布を引っ張り、
陰毛をつままないよう気遣った。ズボンの落ちた位置まで
それを移動させると、全貌を露わにした美樹本の力を見つめる春子。
反射的に、ああ、と声を上げた。それは横になったまま
見るよりずっと立派だった。
翳っていて見えなかった付け根は濃い陰毛に覆われ、
雄々しい姿を引き立たせている。先刻よりは萎んでいると思しいが、
こうべを垂れたそれはしかし凶悪な大きさで以て春子を威嚇する。
その真下にぶら下がる陰嚢にまで、体毛がびっしりと生えていた。
うっすらと覗くその地色は素肌より更に浅黒く、
男性のシンボルをなお主張する。上方に比べれば短い繊毛は
少々柔らかく、しかし産毛と呼ぶには強すぎた。
春子はその白い手を伸ばし、美樹本の中心へと触れた。
竿を両手で優しく包み込む。許可を取るように美樹本を
上目遣いに見やり、彼の頷きを確認すると亀頭へ口づけた。
二人の粘膜の混ざった味がする。濃い雄の臭いが
鼻腔に差し込んだ。
春子は口を少々窄め、頬を膨らませた。
数分とたたずその朱唇が、開かれる。唾液を溜めていたのだ。
持ち上げた美樹本の切っ先へ、たっぷりとそれを垂らす。
「ん……ふ」
粘膜に唾液が絡み、じわじわと竿を伝っていく。
それが根本へ流れ着ききる前に春子の口は美樹本の幹を這った。
力をこめた舌先で、その肉茎を丁寧に何度もなぞる。
春子は尖らせた唇をあてがうと、時折啄むようにしながら
裏筋を辿った。再び亀頭へ戻ると、懸命に開口する。
雁首を含むときゅっと窄め、締めつけながら左右に首を振る。
舌は温めるようにべったりと粘膜全体に貼り付かせ、
右手は皺だらけの陰嚢を掌に転がした。確かめるように
マッサージしていたかと思うと、ごく僅かな距離を置いて
くすぐるような感触を与えてくる。繊毛と彼女の掌が擦れた。
反対の手は美樹本のシャツに差し込まれ、鋼のような
腹筋を愉しんでいる。
尺八、ハーモニカ、などとはよくいったものだ。
春子は仕込まれたその技術で以て、美樹本に口唇奉仕を繰り返す。
強く押し当てられた舌先が鈴穴を抉り、早くちょうだいと
急かしているようだった。腹筋にある手はその位置をずらし、
会陰部を刺激している。
美樹本は、商売女でもそうそうこなせる者を知らない性技を
受けながら、春子の髪に指を差し込んだ。
女性慣れしているからこそわかる部分もあるが、
その技術は見事なものである。
春子の両手が離れ、自分の乳房へ向かった。体を近づけ、
持ち上げながらその谷間を肉棒へ押しつける。
柔らかな果実に挟まれ、それでも美樹本の男根は
顔をのぞかせていた。嬉しそうな春子の笑顔が見える。
紫がかった亀頭へ愛しげに何度も口づけしながら、
彼女はその両乳房を揺すり立てた。左右を交互に動かし、
小刻みに上下へ振るう。確認するように美樹本を見上げた。
続けろと視線で伝えれば、春子は極上の笑みを浮かべる。
美樹本はその笑みに、甘美な倒錯したものを感じた。
神経が毛羽立つようなその快美は彼の獣を、更に呼び覚ます。
優しく差し入れていたはずの手に力がこもり、
春子の持ち上がった乳首をぎゅうと捉えた。
ひいっと泣き声を上げ、彼女は姿勢を保とうと必死になる。
美樹本はにやつきながら、腰を打ち込み始めた。
「どうした。続けろよ」
春子はしばらくびりびりと麻痺したように喜悦の涙を流していた。
が、美樹本の意図を理解すると、その肉竿をもう一度口に含む。
彼の腰遣いに合わせ、懸命に頭を動かした。咽喉まで
長大なそれが到達すると、さすがに一瞬餌付く。
しかし主にそれを悟らせてはならない。春子は気に入られるよう、
ただそれだけを考えて奉仕を続ける。その両手は精巣を
転がすように、再び彼の太腿際へ伸びた。先走りが春子の咽喉へと伝う。
皺まみれであった陰嚢が、張りつめていく。
内部で睾丸がせり上がってきているのだ。来るべき射精にそなえ、
春子は思いきり吸いつきはじめる。乳首をつまんでいた指が
したたかにひねりあげると、怯みそうになる。
それでもどうにか耐え、春子は行為を続けた。
「……全部、飲め」
息がひどく荒くなり、腰の運動も性急になる。
美樹本は短く吐き出すと、己の枷を解放した。
春子の口内で、それははじけた。はじけたというよりも、
美樹本はバキュームを受けた気分だった。
尿道をくぐっていったそれは、春子の体内へ次々走っていく。
苦く、雄臭かった。三度目ともなるとさすがに薄かったのだろう。
しかしそれは、充分に子を成せる濃度を持っていると
春子は確信していた。
灼けつくようなその味と臭いに、春子は陥落していく自分を見つけた。
何処まで、この悪鬼に取り憑かれた男と行くのかはわからない。
夜露はまだ、滴っている。