美樹本の膝はそのまま、春子の柔らかな割れ目に
ぐいぐいと食い込んでくる。鍛え上げられた太腿によって、
柔らかな肉が変形した。
そこはたしかに美樹本の言葉通り、湿り気を帯びて
男を欲しがっている。自分でも、ショーツを濡らす
液体の存在を把握できた。
「お……お願い、乱暴に、しないで……」
せめてもの懇願だった。紅潮して火照った顔が美樹本を向いた。
潤んだ眼差しで彼を、説得するように見つめる。
だが美樹本がそれに従うはずもなかった。それどころか、
ぶつけられるようだった膝の動きは陰湿なものになっていく。
円を描くように陰部へ、ショーツを押し込むような動きだ。
春子は駄々をこねるように身悶えた。
どうにか、気を逸らさなければ。
美樹本の思考をそらすことができれば或いは、
辱めを受けずに済むかもしれない。
「ど、どうして、人を殺したりしたの」
回らない頭で考えはじめ、口にした言葉は今更なものだった。
本来ならばもっと早くにしていておかしくない質問であったが、
美樹本が答えるとは思えなかったのだ。
そしてその認識は今も変わらなかったが、とにかく何か
ぶつけてみるべきだと悟ったのだ。
美樹本は足を止め、驚いたように目を丸くした。
彼も恐らく、ここにきて何か尋ねられるとは
思っていなかったようだ。考え込んでいるのか、
しかし春子の乳肉を揉む手もそのままに美樹本は
視線をあさっての方へやった。
「そうだな……何だと思う」
逆に問い返し、美樹本は足の愛撫を再開した。
愛撫と呼ぶにはあまりに無礼なそれは、しかし春子の官能を刺激した。
人を殺す、人の心。
わかりたくない。春子はしかし、自分の脳髄を
情報が行き交っているのを感じた。考えなければ、
間をつなぐことができない。
だが、美樹本から与えられる獣欲に似た「悪戯」を受ければ、
それも散漫なものとなる。
断片的に掬い上げられた言葉を、春子は吐き出し始めた。
「あっ……あの人に……恨みでも、あったっていうの」
甘い色の滲んだその声では、美樹本を制することはできなかった。
首を傾げるその男は、不思議そうに春子を見下ろしている。
「いいや。……ううん、でもある意味恨みになったのかな」
取り繕うわけではないのだろうが、青年として見せる笑みは
何処までも気色が悪かった。硝子をフォークで引っ掻くより
不愉快な声音が、春子の答えを否定する。
他に何があるというのだ。そして、今の言い回しは。
春子は奥歯で頬の内側を噛んだ。痛みに少し、意識が明瞭になる。
このまま淫欲にとろかされてはならない。春子は自分を叱咤した。
「まあ、詳しく話すと少し長いからね。興が冷めても困るから伏せるよ。
……まあ、簡単にいえば……あれだね。金。お金のためだ」
優位に立っていることを自覚すると、この男はどうにも
能弁になるようだ。そしてそれによって自分の立場が
揺るがないことを、よく知っている。春子は顔を顰めて、
解せないといわんばかりに尋ね返した。
「お金……?」
尋ね返すというより、歯列の隙間からこぼれたという
形容が正しいかもしれない。美樹本は深く肯んじた。
金。
天下の回りものと称される、あれ。
わざわざそのようにまどろっこしい考え方をしなければ、
日常手にしているそれに認識を及ばせることもできなかった。
混乱している。金。それがどうして、自分の夫を
殺すことに繋がるのだ。
財布や鞄はまだ部屋にあるはずだし、夫はとにかく
他の客らを殺害した理由がわからない。
「まあ、奥さんは知らないほうがいいんじゃないかな。
いらないおしゃべりで命を縮めたくないだろう」
「そんなもののために……あんなに、人を」
吐き捨てるように、しかし春子は反論した。くだらない。
命をどうでもいいと思っているわけではないが、
死への恐怖よりも呆れが先だった。
目の前で自分を汚している男は、口ぶりからするに
殺人など恒常的な行為であるようだった。爛れた世界に生きる、
自分とは全く違ういきもの。春子はかぶりを振って、
美樹本の視線を払った。
「そんなもの、か」
鼻白んだように愛撫の手が止まった。肩を竦めてみせ、
言葉を継ぐ美樹本。
「じゃあきくけど。あんた、あの旦那と結婚したとき、
何も期待しなかったってのか。どっかの社長さんなんだろう。
大声で話して、五月蠅くてかなわなかった」
そこに不快そうな調子はなかった。気が短いと思っていた彼は、
意外にも動じていないようだ。
「本気で恋愛して、あんな中年太りのおっさんを選ぶものかよ。
もしそうなら、あんた……目がどうかしてるぜ。
もっと身分相応の恋をしろよ」
美樹本は全く的はずれな会話を続けた。
「夫を悪くいうのはよして!」
春子はここにきてはじめて、大声を張り上げた。
美樹本の気を乱そうとして、それを逆手に取られたのだ。
彼のにやついた口元を見て、春子はようやくそれを悟った。
「したたかな人だよな、まったく」
美樹本は小馬鹿にしたように笑って、彼女の企みに
気づいていることを仄めかした。
悔しい。
春子は眉根を寄せ、睨め付けた。
しかしそれも、美樹本の手によってじき、歪められる。
「あ、ああっ」
彼の指先が、ショーツをずらして陰唇へと差し込まれたのだった。
それは大して深くめりこんだわけでもなかったのだが、
潤いを確認するには充分すぎた。春子の熟れた体は、
ひくついて彼に絡みついていく。濃い陰毛がはみ出ていた。
ショーツがひどく小さいものであろうことを証明している。
「こんなにべとべとなんだ、気持ち悪いだろ。
――そろそろ脱がせてやるよ」
言いながら、美樹本は指を抜いてショーツの前面を掴んだ。
そしてそのとき、思わぬ事態に気づく。
「……こりゃ驚いた」
春子の身につけていた下着は、たしかにそこにあって
違和感をおぼえるものであった。布を食い込ませ引き絞るべく
持ち上げたことにより、それがひも状であることがわかった。
Tバックというやつだ。
無論美樹本は、商売女以外にそれをはいている相手を、
数度抱いたことがあった。が、いずれも若い女だ。
新たな興奮をおぼえ、美樹本は湧然と起こる嗜虐心に
逆らわなかった。
意図せず笑いがこぼれる。
「さ、触らないでえ」
今にも泣き出しそうな声だった。髪を振り乱し、
美樹本の視線から逃れようとする春子は悲痛にも見える。
しかし、彼からの責め苦が止むことはない。
「あんたの趣味か。……それとも、旦那の指示かな」
区切って後の言葉に、春子の目が美樹本を向いた。図星か。
大声で笑ってやりたい気分になった。美樹本は更に、
手にした下着を引っ張った。下着と呼ぶにもおこがましいそれは、
春子のクレバスへと容赦なく食らいつく。
「あのおっさん……変態くさいとは思ったが、予想以上だな」
いいながらも美樹本は、香山に感謝していた。
そうそう転がってはいない美人を、好きに蹂躙できる材料が
またひとつ増えたのだ。
美樹本はその上体をずらし、彼女の内腿へ手をかけた。
吸いつくような湿り気のあるそこは、男を誘っている。
先程までは触感でしか確認できなかった下着を目視した。
それはたしかに、予想していた通りのものだ。
美樹本は引っかけたままの手を、ぐいと上方へ持ち上げた。
「はあ、あん」
春子の腰が浮いた。美樹本の目に、二つに割れた
小さな丘が目に入った。肉厚なそこにはしっかりと
陰毛が生い茂っており、淫靡な様を呈している。
陰唇に近い箇所のそれは濡れて光り、ところどころ
束ねられているように見えた。春子の意向に反して、
そこは雌の本能が支配している。
浮いた尻と床の隙間へ、美樹本は左手を差し入れた。
乳房を揉む要領で、がっちりとその肉を掴む。掌に余るそれは
さすがに人一人の体重を支えるだけあった。
適度に引き締まっているが、そこにはきちんと脂肪が乗っている。
美樹本はその重みを叱るように、持ち上げた方の手を
左右に振った。眼はぎらつき、春子が悶絶する様を
心から愉しんでいる。
掴んだ尻たぶをこね、マッサージするように揉みほぐす美樹本。
床についていた分、温度は低く湿り気を帯びている。
引き上げた紐は春子の愛液を吸って固くしなり、
彼女の自身を激しく弄していた。
美樹本の力が加わり春子の体重がかかれば、
恥部へ与えられる虐待はよりひどくなっていった。
今にも千切れそうな紐は菊座を跨いで一直線に花弁、
膨張の進んだクリトリスを押しつぶしている。
上下するたびにそこがひくつき、僅かでも侵入してくるものを
逃すまいと絡みついていた。
「あ、ああっ、ああん」
さすがに急所へ与えられる快楽には抗いきれず、
春子は不本意にも己を明け渡す。いやいやをするように
首を振り、美樹本の攻撃を回避するために尻を持ち上げた。
しかし紐によって制御される春子の体からは
簡単に力が抜け、そのたびに紐が彼女を食らった。
美樹本はもがき苦しむ春子を見下ろし、咽喉の奥で笑いを
噛み殺した。愉快でたまらない。のけぞった際に
突き出す顎が淫らで、同時にさらされた首筋へと歯を立てた。
吸い上げてからこすってやると、ぼかしたような痣が姿を現す。
赤く血の集中したそれはやがて、青く滲んでいくに違いない。
そのまま体を下方へずらしていき、まるでキスするように
柔肌へ痕跡を残していく美樹本。
首筋にひとつ、鎖骨にひとつ、乳房にひとつ、へその横にひとつ。
無論下半身を嬲る手は力を緩める様子もない。むしろ体を
強引に折り畳み、春子の肉欲をはっきりと覚醒させようとしていた。
春子は疲弊しはじめていた。美樹本の言葉、態度、
愛撫によって抉られ、掻き混ぜられたそこは明敏さを失っている。
ただの雌。原初の欲求に翻弄され、その肢体に嘘が
表現されることはない。
理性が瓦解し始めている。風浪によって波蝕していく断崖。
そしてその存在は最早、春子を守りはしない。
駄目よ、駄目。しっかりしなさい。自分に言い聞かせてはみるものの、
下半身から訪れる悦びは春子を爛れさせ、
正常な思考能力を奪っていく。
肉体が、この快楽を覚えているのだ。
「こんなやり方で感じまくってさ。仕込まれたのか、
旦那さんによ」
美樹本の手が不意に緩み、囁かれる。春子の、
触れて欲しくない箇所へと土足で踏み込む発言だった。
かっと頬が熱くなり、眦へその目が寄る。唇をひき結び、
答えたくないと告げるかわりに床へ頬をつけた。
「奥さん、素直にいってみろよ。そういうのが好きなんだろう」
勝手に決めつけた美樹本の腕に、再び力がこもった。
つねり上げるように尻肉を揉みしだき、ただ上方へ
引き上げていた手は春子の顎に向かってその紐を引っ張った。
力任せのそれは痛みを伴うものであったが、しかし彼女が
認識するのは快感であった。
夫でもない男に、自分を殺すかもしれない男に、嬲られている。
それは大変な屈辱であるはずなのに、春子の太腿は
ぴんと張りつめ、与えられる愛撫を甘受しているのだ。
いっそこの喜悦に溺れてしまえたなら、どれだけ楽になれるのだろう。
春子の脳裏に、禁断の選択肢が浮かぶ。
振り払うように、必死でかぶりを振った。
肉体の連鎖反応でしみ出た雫が飛び散る。
それは汗を振りまいて、男を誘う姿にも見えた。
私はそんな女じゃない。春子を襲うのはしかし、
悪魔の囁きだった。
本当に、何も期待しなかったのか。
本当に、愛していたのか。
熱烈なアプローチを繰り返され、絆されるように
結婚を承諾した春子。
だが、そこに自分からの思いがあったのだろうか。
強引に押され、断り切れなかっただけではないのか。
そして、金に目がくらんだだけではないのか。
違う、違う、違う。
春子は思考を断ち切るように、心で叫んだ。
私は夫を愛していた。夫に尽くしたいと思った。
それでいいではないか。何がおかしいというのだ。
何故疑うことがあるのだ。
そこまで至ったとき、ふと下半身の愛撫が止んだ。
尻が頼るように乗っていた紐が、途中から裁断されたのだった。
彼女が見ていない間に、ナイフで切ったのだろう。
申し訳程度でも布をかぶっていたそこは遂に露わになり、
白熱灯の下で蠢いた。
世辞にも若々しいとは言いがたいラヴィアに、
バルトリン氏腺液が纏っている。いわゆる愛液というやつだ。
紐によって空気を含んだのだろうか、小さな水泡が
確認できる。
そしてその液体は洪水のように溢れかえり、
春子の菊座までをもしとどに濡らしていた。
皺の一本一本まで染み込むように垂れ流れている。
美樹本の食い入るような視線は、たしかにその様を射た。
それはまさに蜜壺、と形容するに相応しかった。
美樹本は小陰唇へ親指をかけ、広げてみせた。
陰阜で縮れた毛がこすれたのか、内側へ逃げ込むように
絡みついている。突きだした陰核は既に小豆大に勃起しており、
包皮の下で今か今かと愛撫を待ち望んでいるようだ。
くちゃっという静かな音をたて、春子の内部が明らかになる。
痙攣し、怯えたようにぱくついている秘所は暗い。
しばらく、ただそこを見た。
片手でその広げた形を維持し、もう反対の手は下方へと
ずらしていく。
「あっ、いや、そっちは」
流れた液体を追うように、その指は谷間を辿った。
尻肉を器用に押し広げ、もうひとつの穴も視界にさらさせる。
美樹本は眉をひそめ、思わず呟いた。
「こっちまで開発済みかよ」
きゅっと引き締まった肛門はしかし、正常な形とは異なった。
肛門性交経験者の証。ぼやいたその声に怒りや呆れはない。
事実を把握してせり上がってくる感情はひとつだけだった。
「たっぷり愉しめそうだな。旦那に感謝しておくぜ」
春子に無惨な宣告を突きつけると、美樹本はまた一度笑った。
夫にかわった性癖があるとわかったのは結婚後のことだった。
はじめこそ軽い緊縛、目隠しといった程度であったが、
徐々にそれはエスカレートしていった。
中でも肛門性交に夫は執着し、クンニリングスに際しては
必ずそこも手に掛けていた。
それを、こんな相手に知られるなんて。
春子は情けなさと自分の処遇に、再び涙腺が熱くなるのを感じた。
美樹本が想像するより、彼女はずっと上玉であった。
開発された肢体はまさに熟女と呼ぶに相応しく、
その外見の清廉さとかけ離れた色香を放っている。
既にぐったりとしており、力も入らないのだろう。
汗と体液の揮発したにおいが鼻腔をくぐると、
彼の獣欲は更に煽られた。
「病気はないみたいだな」
指を二本、よく濡れて熱いそこへ差し入れる美樹本。
器用に襞を引っ掻き、割っていく。くうん、と春子は
鼻を鳴らした。たしかに彼女は感染症の類になったことはなかった。
それは夫の心遣いや自身でのケアをしっかりと行った成果である。
この男に捧げるためではない。
美樹本はそんな心情をはじめから気に留めるつもりも
ないのだろう。春子はこみ上げる嗚咽を堪えながら、
最後の抵抗を見せた。泣いていることに気づけば、
そして今耐えていることに気づけば、また春子を責め嬲ることだろう。
弱音を吐けば、神経の隅々までも侵略されてしまう気がした。
しかし美樹本はそれに気づいているのか否か、
無視してその手を自らの股間へ伸ばしているようだ。
ジッパーを下ろす音が耳に届き、春子の視線は嫌でも
美樹本へと向いてしまう。
彼の手は正に、固く膨らんだ隆起を解放しようと
しているようだった。ダークグレイのブリーフを押し上げている、
それは薄暗い中に見てもはっきりと形を主張している。
片手を春子の秘所へ差し入れたまま、美樹本は器用に
ブリーフの裂け目へ手をかけた。カーキ色の登山用ズボンから
勢いよく、影が飛び出す。
暖色の照明にさらされたそれはしかし、凶悪な形状をしていた。
えらは大して張り出していないものの、亀頭ははっきりと
その形を誇示している。そのまま根本の方へ辿っていくと、
地肌よりも黒い肉茎が目に入った。血管が僅かに浮き出している
それは下ぞりで、女を泣かせてきたことを伺わせる。
下着の中からはみ出した陰毛は不自然なほど艶を帯びて、
光ってみえた。今まで経験した人数は少ない方ではないが、
その中でもそうそういなかった長さもある。
日本人特有の太さ、硬さを維持したそれは、非の打ち所を
探すほうが難しい。
春子は思わず息を呑んだ。夫のものではない肉棒。
比べてみれば、美樹本のそれはやや細いかもしれない。
しかし空洞を埋め、擦り立て、彼女を喘がせるには充分な逸物だ。
そして先刻挙げた長さでいえば、美樹本が圧倒的に優っている。
年齢的なものを鑑みても、生物学的に魅力的であることは
明白であった。
余裕ぶってはいても抑えきれない情欲が、そこには見て取れる。
もう三十路も過ぎるころだろうに、美樹本のそれは
立派に上方を向いていた。さすがに若々しいとまでは
形容できないが、その年齢にしては充分すぎる
勃ち上がり方といえる。それはまさしく、雄の凶器と呼ぶに
ふさわしいものだった。
そしてそれはなおも、膨張しつつある。
まだ大きくなるのかと、春子は目を瞠った。
この男を、受け入れなければならない。
春子の中で、女としての本能が叫んでいた。
だが同時に、香山春子としての自分が咎める。
何を弱気になっているの。諦めてはいけない。
この男は自分に暴虐の限りを働き、蹂躙し、全てを
奪うつもりなのだから。
激しく自分を叱責する。
覆い被さるように、美樹本はのしかかってきた。
春子の割れ目へ、その裏筋が触れる。熱を含んだそれは
やはり見た目通り固く、逞しく、荒々しい。
美樹本はそれを浅く、緩慢な動作で以て擦りつける。
「くうっ……う、ああ」
亀頭の粘膜が触れる。それは肉の柔らかさを持ちながらも、
剛直と呼ぶにふさわしい硬度を保っていた。
春子はしかし、耐えなければならなかった。耐えなければ、
全てが終わってしまう。突き崩され、砕かれ、
香山春子という人間の全てを奪われてしまう。
死よりも恐ろしいことがあるとするならば、生きたまま
何もかもをなくすことだと思っていた。
しかし美樹本の怒張は何の躊躇いもない。春子の愛液を
ローションのように身に纏わせ、挿入の準備を開始している。
ただ、来るべき結合の瞬間のために、その肉体を
反応させているに過ぎない。
「……っふ」
美樹本の口から吐息が漏れた。元々近かった顔を更に落とし、
耳の傍でそっとぼやくように告げる。
「精々、よがりな」
美樹本の手で一指尺にあたるだろうか、肉棒は春子の
内部へと侵入を開始した。彼女は思わず嗚咽に似た声を上げる。
先程指で開いた陰唇へ、慎重に亀頭が埋め込まれる。
春子は震えながらも、美樹本の目を見据えた。
懲罰に怯える子供のように、その瞳はおののいている。
美樹本は一物を支えていた右手を移動させると、
自らの体を支えた。春子の顔の真横に置いていた左手で、
彼女の頬を撫でる。それはひどく優しいもので、
髪に差し込まれた手には思わず安堵をおぼえかける。
しかしそれは甘かった。
「あああっ!」
美樹本は春子の緊張が緩んだその瞬間、
一気に己の楔を突き入れたのである。
熱い。ただ、熱かった。肉の塊が、彼女を押し広げている。
あまりの衝撃に春子の全身は弛緩した。背をそらし、
ぶるぶると小刻みに痙攣する。瞼が翻った。
口を半開きにし、それ以上声も出ずに悶えた。
ぴんと力のこもった体はしかし、本能に従う。
「もしかして突っ込んだだけでいったのかよ。大したもんだ」
だが責め咎める美樹本の声に、先程までの余裕はなかった。
春子の狭さに眉をひそめ、より邪悪な笑みを浮かべてみせる。
ふっと息を吹きかけ、彼女の反応を確認する。過敏になった
体が揺れ、美樹本の端倪が的中していることを暗に示した。
奥まで挿入された彼のものはぴったりと春子の中を塞いでいる。
もしもこのまま擦られたのなら。得てはならない
淫楽の誘いが、春子の頬をなぞる。
開始された抽挿は激しく、その前後運動の中に
彼が跨いできた女の数を見た気がした。美樹本の舌は
野蛮にも乳房を舐め始め、頬を撫でていた手は尻肉へと至る。
麻痺したように舌を突き出す春子。
ズボンをくつろいだのが中心部だけであるため、
二人の股間から奏でられる音は僅かだ。しかしながら
その動きは鋭く、春子を狂わせる。叩き込むようなそれは、
春子を奥まで犯していることを嫌でも認知させる。
耳に届くその音色に、腕の中で気絶せんばかりの獲物に、
美樹本は目を細めた。
緩いかと思っていた秘所は意外と狭く、その締めつけが
与える快美に口元も綻ぶ。
しばし、直線的な運動で春子を貪っていく。内壁を雁首が擦ると、
言葉にならない喘ぎで彼女は返した。仰け反り、
春子はなおももがき苦しむ。首を左右に振り乱し、
胴欲な獣から逃れようとしていた。だがそれがかなえば、
今このような状況にはならなかっただろう。
しかし最早、春子にそのような思考回路の余裕はなかった。
業突張り、という言葉はまだ生やさしい表現になるだろう。
美樹本は春子の絡みつく襞を返し、擦り立てるように
抉り犯していく。
「あっ、あ、あ、あ」
打ちつけるたび、春子の口から声が漏れた。それは既に、
彼女の箍がはずれはじめている証だった。
春子は瞼を伏せ、その凌辱が早く去ることを祈りたがった。
しかし奥まで突き込まれれば体は痙攣し、美樹本の姿を
その視界に受け入れた。春子を食らい尽くそうとする彼は、
彼女にとって獰悪な怪物と何ら変わりがなかった。
生殖行為であるはずのそれは蛮行としか呼べない。
理不尽な性交渉。
春子の肉体はしかし、己を楽にするための液体を噴出し続ける。
美樹本の運動によって泡立った愛液はぶちゅぶちゅと
下品な音を奏で、彼の耳を愉しませた。
背中がワインまみれのシャツと擦れる。痛みよりも
与えられる快楽のほうが上であった。夫のそれよりも
長大なそれは春子の急所を確実に抉り、刺激する。
「あひっ、あ、だめ、い、いく」
口にすまいとしていた言葉が、ついに春子の口からこぼれた。
達したまま過敏になっている箇所を無理矢理嬲られているのだ。
反射的に叫んだとして、不自然ではない。
だが春子は、己の放った言葉に愕然とした。
自分が絶頂を迎えそうなことを報告して、どうなるというのだ。
それは彼にとって、彼女が隷属しはじめているという
事実にほかならないのだ。
美樹本は吸い上げていた乳首から口を離し、
春子へと再び顔を近づけた。
「悪いな。聞こえなかったよ。もう一回言ってくれ」
あれだけ突いていたというに、美樹本のグラインドは更に
力のあるものへ変化する。春子は断片的であった言葉も奪われ、
嬌声ばかりを紡ぎ出した。
腰を持ち上げ、体重をそのままかけ、落とす。
原始的で何とも単純な運動であるが、彼女と美樹本の
体格差を考えればその効果は明らかであった。気の赴くまま、
嬲られていく春子。
「あっ、あ、あ、ああ……!」
二度目の絶頂だった。今度は先程と比べ、より克明に
その様が窺える。かくかくと顎が震え、春子の肢体は
ひきつけを起こしたようになった。
しかし美樹本がその腰を休めることはなかった。
まだ自分は物足りないといわんばかりに、彼女を翻弄していく。
愛液を残らず掻き出され、すくい取られていくような
性悦に身をよじった。
春子は自分の中で、何かが確実に壊れていくのを感じていた。
それは一度目の絶頂で既にあった事実である。
が、心は肯定することを許さなかった。
夫への操。
自分の誇り。
その何もかもを、この大男に打ち砕かれた。
春子の目の中に、どろりと濁った色が浮かんだ。
美樹本の太い胴に、春子の腿が絡んだ。
それまでの拒むような動きではない。
もっと、奥でこの男を受け入れたい。
もっと、この男に嬲り犯されたい。
いっそ、抱かれ殺されてしまいたい。
春子の脳裏に過ぎるものはいずれも、理性ある生物の
結論ではなかった。
ただ肉体の求めるままに、優れた雄を受け入れたいという欲求だけが
体を動かしている。
それにまるで応えるように、美樹本の凶悪な肉塊は
入出を繰り返した。春子の熟れた恥肉は彼にあてられたように
熱を発し、蠢いて彼を求めていく。
「いいのかよ、奥さん。俺は旦那じゃないんだぜ」
その一言に、色欲に塗りつぶされかけた意識が戻りかける。
しかし美樹本自身によって、春子は再びその情炎に
身を投じることとなった。
夫によって目覚めさせられた被虐心は皮肉にも、
忌むべき男への媚態を許す。
びりびりと脳髄に麻酔がかかっていく感覚。
全身が春子の自由にならない。最早彼女を操作できるのは
美樹本であり、与えられる快楽であり、淫欲だけだった。
達した春子の内部で、彼は暴れ回った。
はじめ、ただひたすら打ちつけるばかりであった運動は
回転を含んだものになり、執拗に彼女を狂わせる。
しかし美樹本に告げられた言葉が不意に蘇れば、
春子の理性が否応なく奮い立つ。
従ってはならない。
堕落してはならない。呼吸を荒げながらも、春子は必死に
歯を食いしばる。
私は夫のものだ。春子は目を固く閉じ、嵐のような
この陵辱劇がさっさと終焉を迎えることを願う。
しかしそれは許されなかった。
尻肉を愉しんでいた美樹本の手が、春子の最も敏感な箇所へ
移動したのだ。腰の動きにあわせ、ゆっくりと腿の付け根を
沿いながら、焦らすようにその指先は陰核へ辿り着いた。
びくんと大きく体が跳ね、春子の目が見開かれる。
「い、いやあ、いやああ」
泣きじゃくるように、彼女は首を振った。美樹本の手は
まだ、あてがわれただけで動かされてもいない。
しかし春子は断続的に悲鳴に似た嬌声を上げながら、
その両脚に力をこめた。美樹本の片目が細められる。
笑っていた。
「おねがいっ、も、もう、堪忍してえ」
途切れ途切れに、春子は哀願した。
がくがくと寒気がするかのように下半身を震わせながら、
無様に歪められた顔を向ける。それは淫蕩で、
下腹部を更に熱くするものだった。
「俺に命令するんじゃねえよ」
美樹本はわざと囁いて後、彼女の唇へと噛みついた。
春子は拒もうと顎に力を込めたが、ついに与えられた
陰核への愛撫によって遮られる。立てようとした歯は
弱々しく美樹本の舌を挟み、意図せずして奉仕する形になった。
条件反射と呼ぶべきかもしれない。先程も流し込まれた唾液には
煙草と、若い男がにおう。
口を離すと二人の間に、透明な糸が伝った。
綱渡りのようにそれが撓んでいる。美樹本はそれを舌先で切り、
わざとらしく音を立てた。
「いい具合だぜ、奥さん。もう出ちまいそうだ」
切羽詰まった声に、春子は総毛立つ。美樹本の言葉には、
彼女を震撼させるだけの力がこもっていた。
汚されてしまう。その事実が、春子を駆け巡った。
「だめ、きょ、うは、危な……あうっ」
できるだけ滑舌よく、春子は叫んだ。それは無論
美樹本によってひどく乱され、安定しない嘆願である。
だが言葉と裏腹に、美樹本自身を求める。ぎゅうぎゅうと
肉竿を締めつけ、脱出すべく通ってきているであろう
種子を欲しているのだ。
春子の雌としての本能は、この優秀な雄の子を孕めと命じていた。
彼女は別段、不妊であるわけではなかった。
夫の事業の忙しさと、彼の連れ子を気遣ってのことだった。
美樹本は乳房へ手をかけながら、春子の目を覗き込む。
「あんたの都合は関係ねえんだよ」
それは残酷な通告だった。内襞を押し広げるような運動は
回転から直線へと戻る。その力は先刻の非ではなかった。
ばすんばすんと打ち込まれる肉茎は力任せに春子を穿ち続ける。
そしてそれは、発射の準備運動にほかならない。
弾むような呼吸は一層その速度を増す。一回の空気量は
反比例して減っているのだろう。それは春子にもいえることだった。
美樹本がうう、と低く唸った。短い吐息と共に漏れたそれは、
一動物としてのものである。同時に吐き出されていく
欲望の印は一気に子宮へと到達し、卵子へと向かう。
その量は多く、熱かった。彼女を犯す雄の奔流は、
一滴も漏れることなくその内部へと注がれる。
「はっ、あ、ああ、あーっ……!」
あられもない声を張り上げ、春子は悶絶した。
乳房を美樹本の掌が掴み、もう一方の指先は
陰核をひねりあげている。
やがて、春子の身が一度、今までになかった震えを見せた。
美樹本は異変に気づくと、射精を終えたペニスを抜き取った。
未だ萎え切らないそれを見て、思わず自身に苦笑する。
体はまだ、射精後の気だるさを覚えていた。
春子の太腿へそれを擦りつけて拭う。
ぶるりと一度震えた彼女の下半身は美樹本が出ていくと、
一気にその力を抜いた。次の瞬間、潮とも尿ともつかない
液体が噴き出す。美樹本の液体も混ざっているのだろうか、
半透明なそれは床を汚していった。
「……漏らしたか。そんなによかったのかよ」
美樹本はわざと下卑た笑いを浮かべ、嘲弄した。
その心に反し、見事な放物線を描いて春子の割れ目は噴水する。
「いやあ、みな、いで、みないで……」
かちかちと歯を鳴らしながら、必死に春子は首を振った。
その咽喉に引っかかるような嗚咽が混じり、
やがて稚児のように泣きじゃくる声になっていく。
液体が噴き出し終えると、次は放屁のような音が響く。
空気が入ったのだろう。逃れるために姿勢も変えられないほど
ぐったりした春子の顔は、それでも鮮やかな色へ上気した。
細かな飛沫が床に散っていく。派手な音はないが、
たしかにそれは彼らが繋がっていた証だった。
「しばらく溜まってたんでな、気が早っちまった。
悪く思わないでくれよ」
美樹本は再び余裕を取り戻すと、不敵に笑ってみせた。
未だ肉体の自由にならない春子を見下し続ける。
気絶するかとも思っていたのだが、絶頂責めにも
慣れているのだろうか。躾の腕は一流かと香山へ、
内心でごちた。
元より化粧は薄かったのだろうか、或いはしていなかったのだろうか。
春子の顔は液体にまみれている。
半開きになった紅唇からは、痙攣に合わせて声が漏れた。