私は人間として、最も恥ずべき行為に及んでいるのかもしれない。
両の手のひらと膝を床につけ、四つん這いになった私は穴の開いたゴルフボールのような物を
銜えさせられ、息を荒げていた。ボールはベルトでしっかりと固定され、口の端やボールの穴からは
飲み込むことが不可能な唾液がだらだらと糸を引いて床に水たまりを作っていた。
衣服は身に着けておらず、下半身に食い込みのきつい、薄手の黒いビキニパンツをはいていた。
当然、股間のものはくっきりと浮き出ており、私の意思に反してそれはじょじょに膨張していった。
「あぅぅっ……んうぅぅ……」
私は言葉にならないうめき声を上げて、目の前にいる支配者に息苦しさを訴えた。
支配者は質素な椅子に腰掛け、その脚線美を見せつけるかのように脚を組んで嘲笑を浮かべた視線をこちらに向けた。
「何を言っているのかさっぱりわからないわ」
艶を帯びた真紅のボンテージを身にまとい、同色のピンヒールをはいている支配者はその足先を私の顎に持っていき、
その爪先で私の顔をくいっと上げた。
「もう一度言ってみなさい?」
持っている鞭を指揮者のようにくるくると回し、ルージュをつけた唇をわずかに緩ませて、支配者は私の顔を覗き込んだ。
私は支配者を見つめた。
「うぅぅんっ! むぅぉうっ!」
聞き取ることが出来ない苦悶の言葉を必死に訴えた時、私の唾液が支配者のピンヒールに飛んだ。
小さな唾液の玉に気付いた支配者はすっと立ち上がり、態度を一変させ、持て余していた鞭先を床に思いっきり叩きつけた。
「奴隷の分際で何をしたかわかっているの!?」
鞭先を私の眼前に突きつけ、支配者は怒りの形相で私を睨む。
私は萎縮した。
支配者の機嫌を損なうとどうなるか、今まで散々その怒りの仕打ちを受けてきた私は恐怖を覚え、許しを請うよう額を
床に擦りつけた。その瞬間、顔全体に痛みを感じた私は何が起きたのか瞬時に理解した。
「この汚らわしい豚! また酷い目に遭いたいの!?」
支配者が私の後頭部をヒールで勢いよく押さえつけたのだ。顔の痛みに続き、後頭部に刺すような痛みが走る。
私はその痛みに耐えかね、懸命に謝罪の言葉を繰り返す。しかし、それはやはり言葉とはいえないものだった。
支配者は軽く舌打ちすると、ヒールを退けてベルトの留め具を外した。
私の口からボールが床に転がり、大量の唾液が吐き出された。
慌てて顔を上げると新鮮な空気を求め、思い切り息を吸い込む。
「息を吸う前に、何か言うことがあるでしょう!」
支配者が私の眼前で鞭を振り下ろし、甲高い音が響いた。
「は、はいぃっ! 今日子様のお召し物を汚してしまい、申し訳ありません!」
上ずった声で叫ぶと、私は今日子様から少し離れ、両手をついて平身低頭した。
今日子様は鼻で笑うと、椅子に戻り再び腰を下ろした。
「……挨拶はどうしたのかしら?」
威風堂々と背もたれに体重を預け、今日子様は私を凝視する。その眼光は鋭く、その射抜くような視線に
私は震え上がった。
「はい……お待ちしておりました、今日子様。本日もこの奴隷めを存分に嬲ってお愉しみください……」
頭を床に下げたまま、私はゆっくりと言った。
恐怖、あるいは期待を感じてか、私の声は掠れていた。
心臓は停止せんばかりに高鳴り、唇が震えていることが自分でもわかった。
何も言わない今日子様が気になり上目で様子を窺うと、今日子様は薄ら笑いを浮かべながらじっと私を見つめていた。
沈黙が、私の想像を掻き立てた。
今回もその鞭先を、私の股間へ容赦なく打ちつけるのだろうか……それとも、蝋燭を?
私はそれに耐えられるだろうか……苦しみ悶える私の姿を、今日子様はどんな言葉で罵倒するのだろうか。
身悶えながら許しを請う自分……だが、私がひそかに狂喜していることを、今日子様はきっと見抜くだろう。
そして、哀れむように笑って、得体の知れない快楽を私に与えてくれるだろう……。
私は……どうなるのだろうか。