「犯人はあなただ」
そう言って僕は美木本さん、いや殺人犯に"さん"をつけるのはやめよう…
僕は美木本の髭を引っ張る。
驚いた顔でみんなが僕の手元の髭を見る。
「……まさかこんな簡単にバレるとはね」
美木本はツルツルになった顎をさすりながら感慨深げに言う。
「そんな、それじゃ本当にあんたが…?」
小林さんが情けない顔でそう言う。
「ああ、そうだよ透君の言うとおり。
部屋の死体は俺が用意したもの。
ついでに言うなら、みどりさんだったかな?
彼女を殺したのも俺だ」
「貴様がミドリをッッ!!」
僕の隣にいた俊夫さんが美木本に殴りかかる。
あわてて僕が俊夫さんの体を抑えようとする。
俊夫さんは美木本を殺す。
その場にいた誰もがそう思ったのだろう。
気がつくと加山さんも俊夫さんの体を抑えていた。
バン
不意に耳を劈く音がする。
「全員死にたくなかったら動かないことだ。
僕は無駄な人殺しは好まない。
大人しくしていてくれるなら俺は金が届き次第ここから逃げる。
君らには一切手出ししない」
美木本はその手に拳銃をちらつかせる。
「ふざけるなよ! お前はみどりを!!」
俊夫さんが再びどなるが、その声は先ほどのものより幾分か弱い気がする。
「彼女は仕方なかったんだ…」
「仕方なかっただと!」
美木本のその言葉に再び殴りかかろうとする俊夫さんを僕と香山さんは必死に抑える。
「彼女にも言われたのさ。
『あなた田中さんでしょ?』ってね」
美木本は拳銃を俊夫さんに向ける。
「…まぁまぁ俊夫君。
君の気持ちも分かるが、それよりも大切なんはわいらの命や。
大人しくしとけば手出しせん言うとるんや。
ここはみんなのために押さえてぇな」
俊夫さんは香山さんをすごい顔で睨み、
そして何も言わずにそのまま項垂れた。
「どうやら意思は固まったようだね。
俊夫さんに向けた銃口を下ろしながら美木本は続ける。
「それじゃ、真理ちゃん。
君ロープでも持ってきてくれ」
「え…」
突然の名指しに真理はうろたえる。
「何か縛るものだよ。
みんなを縛っておかないと安心して僕が寝れないだろ?」
美木本はにこやかにそう言う。
その顔は談話室で談笑していたその表情となんら変わりがなかった。
「わかり…ました…」
「それじゃ真理ちゃんみんなを二人一組で後ろ手に結んで。
後で僕が確かめるからちゃんと結ぶんだよ」
真理がロープを持ってきたのを確認すると今度はそう真理に命じる。
真理は泣きながら「ごめんなさい…ごめんなさい…」そう呟きながら僕らを縛っていった。
「よし、ちゃんと縛れたみたいだな」
美木本は全員の結び目を確かめていく。
不思議な事にそれまで張り詰めていた空気は多少弛緩していた。
少なくとも命だけはは助かるんだ。
後ろ手に縛られながらもそう思えることが空気を弛緩させたのだろう。
だが美木本はまるで当たり前の事の様にこう続ける。
「それじゃ真理ちゃん、上の服脱いで」
その瞬間再び空気が張り詰めていく。
「おい…、何…言ってるんだ」
口を震わせながら僕はやっとそう言う。
「何って…、子供じゃないんだ。
分かるだろう?
夜はこれからって事さ」
美木本は楽しげに優しく微笑んだのだった……。