まだ手をつけていない酒瓶と、灰皿代わりのビールの空き缶を持って、  
ぼんやり廊下に立っている美樹本と目が合った時、可奈子は  
すでにしている後悔よりも強い、苛立ちの気持ちが沸き上がった。  
「何やってるんですか、こんな所で。」  
詰問口調に気圧されたのか、赤ら顔の男は細い声で答えた。  
「いや。誰か…小林さんあたりと呑もうかと…。」  
「こんな時間に?バッカじゃないの。だいたい小林さんの部屋は  
あっちよ。あれからずっと飲んでたみたいですね。クサい。」  
「そうか?俺には宵の口なんだが…。やはり非常識だったかな。」  
「知りませんよ。どいて。邪魔。」「ちょっと待てよ。」  
「な、なに?あたしは厨房に用が…」動揺する言葉を気安く遮って  
酒瓶を捧げる。「一杯だけ。付き合えよ。な?」  
可奈子は改めて美樹本を見た。寝呆け顔に潤んだような瞳。  
今、一人で部屋に戻るのは辛い、と思っていた。それに、  
恐らく待ち構えている啓子から、煩わしい話を聞かされるような  
気がする。更には飲みたい気分でもある。  
しかし、相手がこの男となると……  
思案している間に、美樹本は近くの空き部屋に入ってしまい、  
ドアを開けたままベッドに座って煙草に火を付けた。  
「一本頂戴。」  
可奈子は壁に寄り掛かり、きつい煙草の煙を吐いた。  
美樹本は部屋の隅にあった椅子に座り直すと「まぁ飲めよ」と  
瓶を差し出した。  
「このまま?止めとくわ。ホントに酔ってるのね。」  
あざけるように言いながら、苛々と灰を空き缶に落とす。  
無意識に甘えているのだ。  
八つ当たりをしている事は自分でも分かっているが、  
その底にある己には気が付いていない。  
 
「そこまで本気だとは思わなかったよ。」  
いきなり核心を突かれて、可奈子には隠し立てする間も無かった。  
「アンタに関係無いでしょっ!」  
廊下を響く自分の声に驚いて、可奈子は慌ててドアを閉めた。  
「…絶対に。誰にも言わないでよ。」  
「言わないさ。馬鹿馬鹿しい。」  
意外に冷静な口調に、ふと、この男は酔ってなどいないのでは…と  
可奈子は思った。妙な安堵感に戸惑う。  
「あなたにはバカに見えるかも知れないけど、あたしには…。」  
「心意気は買うが、手段は頂けないって事。」  
(なによ。聞いたふうな事を。)  
恐らく、多くの事を知っているからこそ出てくるのであろう  
その台詞が、可奈子には説教じみて聞こえた。  
いきなり美樹本に向かって手を挙げる。  
殴られるのでは、と反射的に身構えた美樹本の手から酒瓶を  
奪うと、可奈子は緩い液体に喉を鳴らしてした。  
瓶を突き返すと、濡れた唇を手の甲で拭いながら言う。  
「偉そうな事言ってるけど、あんただってあの男とたいして  
変わらないんじゃないの?」  
「かもね。」返された瓶に口を付ける。  
「今だって。どうせやりたくて声掛けたんでしょ。」  
「よく、おわかりで。」  
相槌は適当だが、その答えに嘘は無かった。  
(ぬけぬけとまぁ)だが、こんな言われ方も悪くない。  
けれどもそれは、美樹本にしてみれば数分前までの話だった。  
この男は、もっと簡単にコトが運ぶと踏んでいたのだ。  
眠気に襲われる美樹本の目の前で、可奈子は服を脱ぎだした。  
 
細く伸びた手足に形のいい乳房。堂々とした姿勢が、優しげな肩の  
ラインを強調している。濃い陰毛が扇情的で、下着の痕がちょっと  
痛々しく見る者を誘っている。  
女の裸身は見慣れている美樹本だったが、流石にその価値は  
認めざるを得なかった。しかし、今は欲しいと思えない。  
「せっかくの酔いが醒めるね。」疲れたように言う。  
「なら、出来るわよね?」反応に不満な女はなおも詰め寄る。  
可奈子はベッドから降りると男に近づき、首に腕を回して  
濃厚なキスをする。美樹本はされるがままだ。  
(ばーか。さっきまであいつのをくわえてた口なのよ。  
アンタみたいのにはお似合いのキスね。)  
激しく舌を絡ませながら、煙草臭いシャツの下に手を入れる。  
美樹本はその両腕を掴み引き離した。「本気?」  
態度とは裏腹に睨み付ける目を覗き込む。  
「本心からやりたいのか?」  
「何よ。誘ったのはそっちじゃない。」酒が廻るには早過ぎる。  
(面倒な事になってきたな…)  
そう思う反面、僅かに反応している自分を美樹本は認める事にした。  
裸になって、無防備に横たわる可奈子に覆い被さっていく。  
「違うの。」「え?」「あたしが上。」(…やれやれ)  
姿勢を変えて、可奈子が跨る。  
見下ろす長髪が美樹本の顔に降りかかる。この場にそぐわない  
清々しい香りが漂った。可奈子は美樹本の首筋に唇をあてると、  
顎、耳、とゆっくり這わせていった。その流れを追いかけて、  
浅黒い胸に当たる乳首の道筋も上に伸びてゆく。  
背中にまわされた手をとって胸にあてる。  
大きなマシュマロのような感触が掌からこぼれる。  
美樹本が確かに受け取るのを確認すると、可奈子は少し身体を  
上にずらし顔中にキスをした後、そっと抱える様に頭を抱いた。  
 
温かい肉塊に窒息しそうな錯覚を覚えながら、美樹本は先端を  
口に含んだ。口中で弄んでいるうちに硬くなっていく乳首の  
周りに優しく歯を当てる。「…ん…はあっ………」  
片手の中にあるものと、顔に押し付けられているものと、  
なんで二つもあるんだろう…などど、下らない疑問が頭をよぎる。  
ビデオから流れるような喘ぎ声が遠くから聞こえている。  
「ねぇ」ふいに呼ばれて見上げると、可奈子がうっとりと  
微笑みながら「触って」と促した。言われるままに探ると、  
そこは充分なほど潤っていた。ためらう事無く指を入れる。  
「…はあっ…あぁ……ん…」  
初めは中指。次は人差し指。そして指が三本になった時には、  
可奈子の声は断続的になり、僅かだが腰をひくつかせていた。  
それでもなお股間に顔を近づけようとする可奈子に、  
美樹本は遠慮がちに言った。「もう…出来るんじゃないか?」  
「どうして?まさか、フェラされるの嫌い?」  
「そんなにしてくれなくても、俺はもう…」  
“早く済ませたい”とはさすがに言えない。  
「ふぅん…。なら別にいいけど。」  
可奈子は若干の優越感を感じながらも、物足りない気がした。  
奉仕したいとは微塵も思っていない。相手を満足させる事で、  
自分が優位に立ちたいだけだった。なんだか今日は調子が狂う。  
仰向けに寝転んで、美樹本が来るのを待つ。  
滑らかな肌触りの太股を抱えて、美樹本はゆっくり入っていった。  
「ッは……あァん……」お互い聞き飽きた吐息をBGMに、  
次第に速く動いていく。長い睫毛の潤んだ瞳が、男を見つめたり、  
切なそうにそらしたりする。少しずつ、中で絞める力が強くなる。  
美樹本は、汗ばんだ尻を撫でながら、右手で胸の弾力を味わう。  
だが、別人と居る様で、妙な違和感ともどかしさを感じていた。  
(飲み過ぎかな…歳のせいとは思いたくないが…あぁ怠い)  
心の中で苦笑しながら、激しく突き上げ、時が来るのを待った。  
 
ふと見ると、可奈子は片手を臍の下に持っていこうとしている。  
(……?!)  
その手は真っ直ぐ降りて、自らの茂みの中に隠れた。  
「…おいっ!待った!ちょっとストップ!」  
美樹本はその手を掴むと、自身を引き抜きながら怒鳴った。  
「な、なによ。」  
「お前、それ。いくら何でも露骨過ぎないか?!」  
見透かされていたのかもしれないという照れから、思いがけず  
語調がきつくなってしまう。  
しかし、可奈子は平然と反論した。  
「何が?お互い気持ち良けりゃそれでいいんじゃないの?  
それとも下らないプライドが傷つくってワケ?」  
あまりの単純さに、美樹本は言葉に詰まってしまった。  
プライドの問題などではない。が、今の彼女にそれを言っても  
始まらない事は、その開き直った口振りを聞けば容易に想像できた。  
「気になるならバックですればいいでしょ。途中で止める方が  
よっぽどみっともないわ。」  
(よくもこうベラベラと)  
美樹本は、大人げない悪戯心で欲情してくる自分を感じた。  
 
「分かった。バックで続けよう。」  
太股を抱えて勢い良くひっくり返すと、俯せにされて驚く可奈子に  
いきなり進入していった。  
若干の抵抗はあったものの、先程の名残のせいで、そこはすんなり  
受け入れてしまう。  
「……っは…」「……あぁ…」  
彼女はもう気持ちを切り替えたようだ。  
それが今までのやり方だったのだろう。  
そしてこの時も、そうして過ぎてゆくと思っていた。  
挿入したまま、美樹本は可奈子を後ろから抱き起こし、邪魔な髪を  
払うと、白い背中に唇を這わせてみた。  
「…くっ……くすぐ…った……」ビクビクと仰け反る。  
先程の可奈子より巧みに、うなじや耳朶を責めていく。  
同時に大きな掌で両胸を揉みしだく。  
可奈子の腰は規則正しく動き続けている。  
美樹本の両手の中で、二つの乳房はさっきよりぐっと重みを増して  
跳ねた。「…っは…ああっ…はあっ…」切なそうな息が洩れ続ける。  
やがて、再び可奈子が右手を使おうと伸ばしてくるのを、美樹本は  
見逃さなかった。  
乳房から片手を離すと、細い指を追っていった。  
「……なに…?…」「ここか?」「…ちょ…っと…そん……あっ…」  
「こうかな。教えろよ。」「…はぁっ…ア……ぁあンっ……」  
僅かに躊躇したが、可奈子の右手は美樹本の指に重なり、  
手ほどきするようにクネクネと動き出す。  
 
見た事はあってもあまり触れる事は無かった、女が呑み込み、  
自身が躍動するぬらぬらした感触に、美樹本は複雑な興奮を覚えた。  
「そ…ぉ……っは……そ・んな……カン…じ…あっ…ハアっ…」  
頼りなくふわふわしていた一部分が形を露わにし始め、  
溢れ出る粘液にまみれて、硬い粒がころころと泳ぎ出した。  
美樹本はそれを捕まえて軽く擦り上げた。  
「んクぁぁっ………………!!」  
可奈子の声が変わった。  
幼い子供が泣く時に、思い切り息を吸い上げて出す様な、  
そんな小さな悲鳴が聞こえる度に、中の美樹本は締め上げられる。  
陰嚢と太股の内側から、飛び散る汗や分泌液が匂いを放つ。  
可奈子の腰の動きが不規則に速くなっていく。  
やにわに可奈子は伝えていた手を放し、振り向いて唇を求めてきた。  
男の湿った髪を掻き回しながら、ねだる様に口を開けて舌を差し出す。  
美樹本は荒い息で見下ろしながら、乳首をつねっていた指を与える。  
「…はぁ・む……グ…」可奈子はその指を熱心に舐め回し始めた。  
三本の太い指が見る間に涎にまみれていく。やがて掌も手の甲も。  
指の股を熱い舌が這う度に、美樹本はゾクゾクと沸き上がる  
心地良さを感じた。可奈子の下腹部の中で、肉の壁が急激に強く  
締め上げ始めた。「…い…く……っ」絶え絶えに声が洩れる。  
「ィ……っちゃう…あ……ああ……アぁあああああっ」  
可奈子は激しく反り返り、濡れた髭に鼻を埋めて、男の指を  
頬ばりながら達した。  
 
可奈子は美樹本を迎えたまま、男の胸にクタリと寄り掛かった。  
まだ硬い陰茎のせいで、痙攣し続ける自分がはっきりとわかる。  
相手が射精していない事には気付いていた。この女はその種の  
ヘマはしない。要求されたら舌技で満足させる自信を持っていた。  
しかし、誤魔化しきれない敗北感も、おなじように感じていた。  
何に負けたのかは分からない。勝てなかった、という方が  
正しい気もする。どちらにせよ、可奈子は素直に認めていた。  
「ゴメン…。イッてないよね。フェラで良かったら、あたし…」  
乱れた呼吸で伝える可奈子に、美樹本は答えた。「続けるよ。」  
座った目の奥は暗く、何も写っていないように見えた。  
まだ火照りもおさまらず、脱力した躰の向きを楽々と変えて、  
可奈子を真下に見下ろしながら、美樹本はもう一度始めた。  
抵抗するつもりは無かったはずだが、可奈子は咄嗟に逃げようとした。  
「嫌なのか。」動きを止めて、意外そうに美樹本は聞いた。  
両の二の腕を押さえつけられ、去ったはずの快感が再び迫って  
くるのを感じながら、やっとの思いで可奈子は言った。  
「…いや……って…いうんじゃ…」(違うの。もうこれ以上は…)  
「なら、そんな顔するなよ。」本気で不満に思いながら続ける。  
互いの真意が伝わらないまま、興奮だけが高まっていく。  
「で、でも…アッ……ぁんっ…」不安と快感が可奈子を混乱させる。  
「これじゃあ俺が強姦してるみたいじゃないか。」美樹本は  
不満というより淋しさを抱き始めた。そして更に激しく攻める。  
「だって…ぁあっ……だ・だって……」「だって?」  
「こ……んなの……。くっ…くちで…する・から……おねが…」  
引き上げる息と絞り出す声とベッドが激しく軋む音。  
 
「ソレじゃおまえの顔をよく見られなくなるだろ。」  
誉められているのか、責められているのか、可奈子にはもう判らない。  
初めて襲われるこの感覚に、どう対処すればいいのかも判らない。  
「…やっ…イヤァ……も……やめてっ…」「まだだ。」  
低い声が響く度、答えるように狂った膣がきつくまとわりつく。  
それのせいで、こんな意地の悪さが可奈子を追いつめている事に、  
美樹本は気付けない。  
「…おね…が」溢れる涙を隠そうとする両手を引き剥がし、  
美樹本は囁く。「泣き顔も綺麗だ。」「…やだよぉ……く・ぁ…」  
「泣けよ。もっと泣いて見せてくれ。」愛おしく頭を撫でる。  
「やだぁ…あ・クッ…や……ひっく……う…っくぁ…あ・アァ…」  
喘いでいるのか、しゃくりあげているのか、区別のつかない声に  
美樹本はうっとりと聞き惚れていった。  
さっきとは違った激しさで、可奈子の中は吸い上げていく。  
得体の知れないものが噴き上がってくる恐怖と恍惚で、  
可奈子は今にも失禁しそうだった。そして、昇りつめていった。  
「……やだ…やだぁっ………やっ…やだぁぁぁああああっ!」  
慌てて口を塞ぐのと、自分の高まりを察して引き抜くのと、  
ほとんど同時だった。  
慣れない左手でしごかれた先端から飛び散ったものが、  
可奈子のみぞおち辺りに流れるのを見て、美樹本は今度こそ  
本当に酔いが冷めた。  
途端に羞恥と後悔の念が襲ってくる。  
 
濃く染まった耳と対照的に、暗い目をして起き上がる可奈子を  
見つめながら、落ち着かない気持ちで言葉を探した。が、  
それを待たずに、可奈子は少し震える声で、だがハッキリと言った。  
「この部屋、シャワー無かったのね。」指の腹で目尻を拭うと、  
美樹本が差し出すハンカチを払って、自分の服からティッシュを  
取り出し、フラついた足取りで下着を拾おうとしている。  
「もう行くのか。」あっけにとられて美樹本は言った。  
「だって…。終わったんだからいいでしょ。」  
「なぁ、可奈ちゃん。」「何よ。」「風呂上がり。」  
ふやけて皺だらけの指を向ける。  
「馬鹿っ!あんたって本当に嫌な奴ね!二度とこんなの御免だわ!」  
「俺はあんたに惚れてる。」  
出し抜けに言われて、可奈子は呆然と美樹本を見つめた。  
「…かもしれない。」ニヤニヤ笑う顔に、一瞬殺意さえ覚えた。  
可奈子は声のトーンを落としてゆっくりと言った。  
「ねぇ。人をからかうのがそんなに面白い?結構な趣味ね。」  
「こっちも弱みを見せようって事だろ。」  
「くっだらない冗談には付き合いきれないの。」  
「じゃあ俺と付き合うってのはどうかな。」  
「セフレかな。」「せふれ?」「セックス・フレンド。でもやっぱり嫌。」  
「あぁ、そういう意味か…」  
ここに来て、こんなやり取りにはさすがに心底疲れてきた。  
傍らの瓶に口を付け、煙草を探す。  
「おやすみ。」可奈子はひとこと言って出て行った。  
残さえた男はパンツを引き上げながら無言で見送った。  
 
終  
 

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