――西暦20XX年――  
 
人とロボットが平和の内に共存していた鹿児島の街は、たった一夜にして  
恐怖のどん底に突き落とされた。  
ここに住んでいた少年を逆恨みする科学者の亀頭が、持てる科学力の全てを  
駆使して完成させたロボットを市街地に放ち、彼らに破壊の限りを尽くさせたのである。  
脅迫、盗撮、痴漢、婦女暴行――  
彼らの魔の手から逃げ惑う市民を助けようと、一人の科学者が反旗を翻した。  
ロボット工学の権威、毒田博士その人であった。  
彼の姪である岡本そあらには、将来彼女の夫となる予定のボーイフレンドがいた。  
蘭堂月斗――  
英語と体育以外に何の取り得もない、頭の中は年中エロの事しか考えていない  
平凡な少年であったが、毒田博士は彼を自分の趣味から、  
もとい、  
鹿児島の街に平和を取り戻す為の戦闘ロボットに改蔵、もとい改造したのだった。  
それが、ゲットマンである。  
 
ゲットマンの活躍によって亀頭の野望は三度に亘り阻止され、元凶である亀頭自身も  
戦いの渦中で行方不明となった。博士の願い通り、平和な日常が訪れたかに見えた  
鹿児島だが、再び新たな脅威がこの街を襲う。  
若き天才科学者、天草健太郎くん(17)が、彼らの配下を引き連れての犯罪と  
破壊工作を開始したのだった。  
親友である天草くんの暴挙を止めるべく、ゲットマンは再びヘルメットを被って  
戦いの舞台へと戻る事を決意した。  
この頃には西駅まで延長されている筈である、800系新幹線つばめの屋根の上で――  
 
「寒いじゃねーかこの格好!ブーツとグローブとパンツ以外素っ裸なんてひでーよ!」  
そうは言っても、そあらのブルマーを穿いても良いというお墨付きを博士から貰って  
まんざらでもないゲットマンであった――  
 
グローブにブーツ、ヘルメットにそあらのお下がりブルマーという戦闘スタイルに  
着替えた所で、ゲットマンは毒田研究所の一室に呼び出された。  
何でも毒田博士が、彼の武器であるゲットバスターの改良に成功したとの事で、  
一刻も早く天草くんの下へ行きたいと思うゲットマンにとって、武器の改良など  
どうでもいい話だった。  
だが、もし来なければ殺すと岡本そあらに脅されたら――  
さしものゲットマンでも生きてはおれまい。彼が苦手とするのは何も、  
針の敷き詰められた床だけとは限らないのだ。  
渋々訪れた毒田研究所の入り口で、岡本そあらが彼を出迎えてくれた。  
「月斗いらっしゃい。あ、今はゲットマンだったわね」  
にこやかな笑顔でそう言うなり、そあらはゲットマンの腕を組んでぴったりと寄り添った。  
そあらは女房気取りでゲットマンの手を引き、研究棟へと入る。白を基調とした  
内装が、整然と片付けられた廊下と相まってこの上ない清潔感を醸し出していた。  
「叔父さんは第二ラボで待ってるわ。ここ広いから私の案内がないと迷子になるでしょ」  
いらねーよ、とゲットマンは腕を振り払おうとした。そあらの腕力は殊の他強く、  
強化改造を受けたゲットマンでも手を離す事は叶わなかった。  
背筋に冷や汗を覚えつつ、ゲットマンは仕方なくそあらの為すが侭である事を選ぶ。  
ただしそあらのお節介な態度に、文句を付ける事は忘れなかった。  
「広いったって毒田研究所は平屋建てで、しかも単純な部屋割りでキレイに区切られてるだろ。  
子供じゃないんだから入り口の案内図を見れば分かるよ。大体何の為にインターホンがあると  
思ってるんだ」  
まーまー、とそあらは笑顔でゲットマンを宥めた。この程度の皮肉では、ゲットマンと  
一緒に居られる事で良くなっていた彼女の機嫌を崩すには至らなかったらしい。  
「出番少ないんだから文句言わないでよ。あ、それから今回は私がナビするから」  
まかせなさい、とそあらは胸を叩く。  
相変わらず成長の乏しい胸だな、とゲットマンはその必要もないのに口に出し、  
ヘルメット越しでも充分に効く拳骨の一撃を食らった。  
 
教室ほどの広さを持つ第二ラボに入室するや、ゲットマンは博士からニューゲット  
バスターの説明を延々と聞かされた。  
毒田博士が、見た目にも明らかに苛立ったゲットマンの態度を咎めるような口調で問う。  
「聞いておるのかね月斗くん?いや間違えた、ゲットマンか」  
聞いてますよ博士、とゲットマンは目の前の博士に向けて面倒臭そうに返事した。  
博士は失望も露に肩を落とす。はぁ、と長い息を吐いた。  
「そういう返事をするのは、人の話を聞いていない証拠じゃ。いいかゲットマン。  
もう一度説明するが、今度のゲットバスターは溜め撃ちが出来るのじゃぞ」  
博士はそう言うと窓際に足を進め、壁に立てかけてあったアイスホッケーの  
スティックを手に取る。三度ゲットマンの武器として活躍した割には傷も少なく、  
説明がなければ新品と見紛うような品だった。  
ラボの滑らかな床にパックを置き、スティックを構え、博士は数メートル離れた  
一辺約50センチメートルの強化コンクリートブロックに狙いを定める。  
現役のアイスホッケー部員よりも正確な動作で飛ばされたパックが、一直線に  
ブロックへと当たる。パックが弾き飛ばされたが、ブロックには僅かな皹も  
生じなかった。  
ゲットマンはそれを無表情で見つめる。博士は彼に顔を向け、新たなパックを  
床に置きながら説明を続けた。  
「これが今までのゲットバスター。しかし今度はゲットマン、君のエネルギーを  
チャージする事によって……」  
構えの姿勢に入る。スティックを振り上げ、博士はそれを握る手に力を込めた。  
そのまま暫し。時間にして三秒だったが、ゲットマンにはかなり長く感じられた。  
博士のショットを、ゲットマンは目で捉える事が出来ない。  
豪快な破壊音と共に、強化コンクリートのブロックが四散する。額に汗を浮かべ、  
博士はどうじゃ、と満足げに笑った。  
「どうでもいいっすよ」  
さも興味無さそうなゲットマンの態度に、博士の目が点になった。  
「何で?」  
「確かにニューゲットバスターの威力は凄かったけど、でもオレ」  
――アイスホッケーやらないもん  
 
(次回:ブライトマンステージ攻略予定)  
 
 
〜ブライトマンステージ〜  
READY  
 
そこは何の変哲もない住宅街に建てられた、ひっそりと静まり返った一軒家だった。  
本当にこんな所にキャプテンの配下がいるのだろうか、という疑問を抱きながら  
ゲットマンは門の呼び鈴を押す。  
 
ぴんぽ〜〜ん  
 
間延びした音に続いて、お邪魔しまーす、とゲットマンは元気よく挨拶した。返事はない。  
ヘルメットの内側で短い電子音が鳴った。研究所からの通信を知らせる合図だ。  
メットに内蔵されたイアホンのスイッチをオンにすると、そあらの呆れ声が聞こえた。  
『月斗、じゃなかったゲットマン。何でそこで普通にチャイムを押すかな?』  
ゲットマンは返事した。集音マイクの性能が良いため、普通に話す要領で喋るだけで  
彼の声がラボ側でクリアに再現されるのだ。  
「何言ってるんだそあら。初めて行く家には、ちゃんと挨拶して入らないと  
いけないだろ?中の人に断りも無く入ったら犯罪なんだぞ」  
そーゆートコだけ律儀なのね、とそあらの溜息がイアホンから漏れた。  
『いい?ブライトマンはどうやらその家から一歩も出ないらしいわよ。  
近所の人の話だと、電話も玄関の呼び出しにも応じないんだって』  
そあらの説明を聞いている内に、ゲットマンはドヨンドと落ち込んで行った。  
それではただのヒキコモリではないか。名前はブライトマンなのに、  
話から受ける印象はちっともブライトじゃない――  
「家から一歩も出ないんだったら、全然問題ないじゃねーか。そんなヒキコモリ  
なんかほっといて、キャプテンの所に行った方が手っ取り早いだろ?」  
だめよゲットマン、そあらの声がメットの内側で窘める。  
『キャプテンの居所について、配下の者が何かの手掛かりを持っているはずよ。  
だからブライトマンの所に来たんでしょ。応対がなくても気にせず、その家に入っちゃいなさい』  
わかったわね、とそあらの声に念押しされ、ゲットマンは渋々門から玄関に向かった。  
 
鍵の掛かっていない扉を開けて一歩踏み入る。日中でも家中の雨戸やカーテンを  
閉めているらしく、採光を考えて施工された家とは思えないほど重い空気が支配していた。  
「せめて電気くらい点けろよ。これじゃ暗くて何も見えやしない……」  
手元に電灯のスイッチを見つけたので、ゲットマンはそれを触る。  
ショッキングな光景がゲットマンの眼前に広がった。  
 
床一面に敷設されたNゲージ。足の踏み場もない、という言葉はこの場合修辞に留まらない。  
床板の一枚につき一本の軌道。コンセントというコンセントが、列車模型の動力源として  
フル活用されている。  
すぐ近くに見えた二階への階段も、スイッチバック専用の軌道が占領している始末だった。  
――マニアだ  
天草くんにも匹敵するマニア振りに、ゲットマンは少したじろいだ。  
カチカチと無機質な音を立てて、列車の模型が台所から走って来た。総延長距離の割に、  
列車はこの十二両一編成しか見当たらない。軌道に予算を注ぎ込みすぎたのだろうか。  
しんと静まり返った家の中に、列車の走る音だけが響く。どこまでも寒々しい光景だった。  
既にかなり削がれていたゲットマンのやる気は、ここに至って完全に失せてしまった。  
研究所のそあらを通信に呼び出す。出て来たそあらに状況を説明し、ゲットマンは  
泣き言を漏らした。  
「そあら、オレもう帰りたいよ……」  
『頑張ってゲットマン。ブライトマンに勝ったらチュー一回だからね』  
貧乳女のチューなんて別に要らない、と声に出さずゲットマンは唸った。  
「何でこんな不気味な家の主人を訪ねないといけないんだ。ここの家にいるのは  
間違いなくマニアで、しかもヒキコモリだよ……」  
『マニアでヒキコモリだから何だって言うのよ。ブライトマンは二階よ、早く上がりなさい』  
「そりゃ二階からしか人の気配がしないから判るよ、でもそあらはここに居ないから  
そんな風に普通に言えるんだ。一回ここに来て見ろ、キャプテンの部屋より凄い事に  
なってるんだから」  
ラボからの声が一瞬途絶える。息を呑む音がイアホンに伝わった。  
 
天草くんの例を挙げるまでもない事だが、マニアは自分の持ち物に恐ろしく執着する。  
二階へ昇るにはNゲージの軌道を踏んで進まなければならないが、それをやると  
ブライトマンが怒る事は目に見えている。ヒキコモリなだけに小心者だろうから、  
彼が怒り狂ったら何を仕出かすのかゲットマンには予想も出来なかった。  
とはいえラボのナビゲーションシステムと音声だけでやり取りを交わしているので、  
そあらにはゲットマンが浮かべた困惑の表情までは判らない。彼女はあくまで冷静に、  
優等生そのままの的確な指示を与えた。  
『ここに見取り図があるけど、それによると二階まで吹き抜けになってるわね』  
「だから?」  
『ケントコイルがあるでしょ。今から犬斗そこに送るから、大ジャンプで二階に上がりなさい』  
ゲットマンの背後でわん、と声がする。犬斗、いやロボット犬のケントが、  
既にケントコイルを背中に装備して三和土の上に立っていた。さも嫌そうな顔だ。  
毎度の事ながら、どこからこの家に侵入したのだろう。それに来るのが早過ぎる気もする。  
いつも心に浮かぶ疑問を、ゲットマンはいつものように忘れ去った。考えても仕方のない事だ。  
ケントの背に飛び乗った。  
「ぎゃん!!」  
ケントの痛そうな鳴き声と共に、強力なバネの付いた台がゲットマンを天井近くまで撥ね上げる。  
幸い二階の床は、一階ほど軌道に占領されていなかった。着地。階下からケントの吼える声がする。  
ゲットマンはイアホンの万能翻訳機をオンにした。相手が犬でもパートナーである以上、  
細やかな意思疎通は欠かせない。  
犬の鳴き声が、徐々に人間の言葉へと置換されて行く。ゲットマンは注意深く耳を傾ける。  
――人を足蹴にしておいて礼の一つもないのか!動物虐待で訴えてやる!  
ケントの訴えを聞かなかった事にして、ゲットマンは軌道を踏まないよう慎重に進む。  
半開きになったドアを開け、暗闇が支配する一室へと侵入した。  
 
〜BOSS ATTACK:ブライトマン〜  
 
ゲットマンが部屋の明りを点そうと、ドア周りのスイッチに手を掛けた所で、  
「電気を点けるな!」  
と暗闇の奥から怒声が飛んで来る。少し甲高いが、少年の声だと判別できた。  
ヒキコモリのマニアだ。姿は見えずともゲットマンには解る。だが電気を  
点けないと暗くて不便である。おそらくは室内にも敷かれているだろう  
Nゲージの軌道も、ゲットマンは出来れば踏みたくなかった。  
「何言ってるんだ。昼間なのに雨戸全部下ろして、おかしいじゃないか。点けるぞ」  
きょえー、とテンパッた怪鳥のような声を無視して、ゲットマンは室内灯をともす。  
60Wの消費電力から光度を予想していたゲットマンは、突如として室内を包んだ  
眩しい光に目を塞いだ。  
恐る恐る、ゆっくりと目を開く。キャプテンにも匹敵するマニアの正体は――  
小柄な少年だった。どうやらブリーフ一丁らしいが、それについてゲットマンは  
何も言わない。自分だって似たような格好なのだから。  
少年の頭部が、天井からの光を反射している。眩しさを堪えてよく見ると――  
頭頂部が波平さんクラスの後退ぶりを示していた。ゲットマンは少年の  
禿げ上がった頭部を反射的に指差して叫ぶ。  
「その頭、オマエはブライトマンだな?!」  
「ブライトマン言うな!だから電気を点けるなって言ったのに!」  
少年は怒りの形相でゲットマンを睨む。だが彼がどう否定しようとも、ゲットマンの  
中で彼の呼び名は既に決定していた。  
何せ貧乏ゆすりする度に、頭頂部が電灯を反射してぴかぴかと光るのだ。  
小柄な体格もあってか、少年の動きはコミカルな印象をゲットマンに植え付ける。  
ゲットマンは笑いを堪えるのに必死だった。笑ってはいけないと意識すれば、  
かえってブライトマンのおかしさが目に付いて仕方がない。  
そーだよハゲてるよ若ハゲが悪いのかよ、開き直った口調でブライトマンが捲くし立てると、  
ゲットマンは余りのおかしさに、ついに腹を抱えて笑った。ブライトマンがキー、と  
金切り声を上げた。  
「オマエ今オレの事笑っただろ?笑ったな?笑うな、オレを笑うな!」  
 
YES・NO枕が、いきなりゲットマンの顔面を直撃した。2ゲージ分のダメージ。  
間髪入れず電気スタンド、マンガに教科書、月刊おっぱいに勉強机と、あらゆる物が  
次々にゲットマンを襲う。大きな洋服箪笥は14ゲージ、もし二発食らえば死んでしまう。  
それは攻撃と言うより、寧ろ家庭内暴力と言った方が表現として適切だった。  
「ヒキコモリでマニアで、その上家庭内暴力かよ!コイツ性格暗すぎるぞ!」  
『ゲットマン、バスターで反撃するのよ!こんな時の為のチャージショットでしょ!』  
ラボからモニターしていたそあらが、一方的に攻められる様子に耐えかねて指示を出す。  
飛来するベッドをスライディングで掻い潜り、ゲットマンはそあらに向かって叫んだ。  
「出来るかっ!チャージどころか普通のゲットバスターも撃てねえよ!」  
その通り。しかも他所様の家でホッケーのスティックを振るったら、押し込み強盗  
そのものではないか。  
床に落ちたベッドの脚がNゲージの軌道を粉々に砕く。自分の宝物が塵へと変わったにも  
関わらず、ブライトマンは一向に意に介さない。  
むしろ投げる物が増えたとばかり、破片を拾っては石飛礫の要領でゲットマンにバラ撒く。  
再び2ゲージのダメージ。ゲットマンの足が止まる。ブライトマンが悲痛な調子で叫んだ。  
「モテないわパシリにされるわストーカー呼ばわりされるわドーテイだわ、  
テメーみたいなチャラチャラした奴にオレの苦労が解ってたまるか!」  
オマケにてっぺんもハゲたしな、とブライトマンは付け加えた。頭頂部がきらりと光る。  
「この頭のせいで、近所の湯屋に行くのにも人目を忍んで参らなきゃいけないんだぞ!  
だからこうしてひっそりと隠れていたんだ!そうするとな、気分が滅入ってくるんだよ!  
今じゃもう、誰かオレを殺してくれないかな、とか思ってる位だよ!」  
「だったら外に出て、明るい太陽の日差しを浴びればいいじゃないか!」  
きえー、とブライトマンが金切り声を上げた。ゲットマンにすれば彼を励ました  
つもりだが、かえって彼の傷口に塩を塗り込んでしまったらしい。  
「太陽がまぶしいと余計死にたくなるんだよっ!若ハゲも目立つしな!  
大体この頭のせいで外に出られないんだって、何度言ったら解るんだテメエはっ!」  
 
床に倒れて身動きが取れなくなったゲットマンの上に、割れたガラス片や壁の建材が  
雨あられと降り注ぐ。2ゲージずつとは言え、身体が硬直した所に細かく攻撃を受け  
続けたら、蓄積するダメージも相当な量になった。例え今ブライトマンの攻撃が止んでも、  
ゲットマンには瓦礫から這い出る為に必要な腕の運動だけでも苦痛を伴う有様だ。  
『ゲットマン!月斗!ねえ月斗、しっかりして……』  
意識が朦朧とする。そあらの呼び掛けにも涙声が混じる。それすら耳から遠のいて行く――  
 
破壊に伴う激しい物音が、いつの間にかぴたりと止まった。  
唐突に訪れた静けさの中で、ゲットマンはゆっくりと瓦礫を押し退けた。目を見張る。  
室内の様子は一変していた。最早屋外と室内を隔てる壁まで消失し、家の骨組みまで  
剥き出しになって、これではもう部屋とは到底呼べまい。  
全壊、という表現がまさに相応しい。  
そんな解体現場なみに散らかった元部屋の中央で――  
 
白目を剥いたブライトマンが、胸から血を流して宙に浮いていた。  
 
どう、とブライトマンがうつ伏せに倒れる。背中には包丁が突き刺さっていた。  
彼が立っていた場所に、血染めワンピースを身に着けた長い黒髪の少女が立っている。  
髪型こそ違うが、体型も背丈も顔立ちも、どことなくそあらに似ているような――  
――そあらよりも胸がない女なんて、初めて見たぞ……  
『月斗、月斗聞こえてるの?』  
そあらからの通信でゲットマンは我に帰る。事態は貧乳どころの騒ぎではない。  
これは明らかに殺人だ。それにこの少女、一体いつどこからやって来たのだろう。  
何でブライトマンを殺したのか。訊きたい事は山ほどあったが、ゲットマンは  
何を訊くべきか判断に迷ってしまった。言葉が出て来ない。  
少女の口が、沈黙を破る。やや掠れ気味の声で、やはりそあらと良く似ていた。  
「殺されたがってたから、殺したの。それだけよ」  
そう言って彼女は、いきなり高らかな笑い声を上げた。瓦礫と死体を前にして  
大笑いする少女を前に、冷たい汗がゲットマンの背中を滴る。  
少女は素早く跳び上がり、無事に残った天井も屋根も突き抜けて空高く去った。  
彼女を追って問い正そうにも、ゲットマンの体力は既に消耗しすぎていた。  
 
ゲットマンは女の跡を目で追って、天井を仰いだ。彼女が開けた穴が屋根を突き破って  
青い空が見えている。その他の場所はきれいな物で、天井の室内灯も無傷で残っていた。  
「……これでいいのか?」  
ゲットマン自身の出る幕はなかったようだ。それにキャプテンの行方も判らず仕舞いだった。  
実写版キャシャーンを見終わった後のような、割り切れない感情が胸にしこりとして残る。  
とは言えブライトマンは倒れたし、これにて任務完了だろう。そうと決まれば長居は無用。  
ただしここを去る前に、警察に電話ぐらいはしておくべきだとゲットマンは判断した。  
通報は善良な市民の義務だ。皆さんも犯罪の現場を目撃したら、すぐに警察を呼ぼう。  
「確か一階に、電話の親機があったはず……」  
ゲットマンはNゲージの軌道が敷き詰められた廊下へと踏み出し、今や機能的には  
バルコニーと呼んだ方が相応しいまでに全壊したブライトマンの部屋を後にした。  
 
〜ブライトマンステージ クリア〜  
YOU GOT NEGATIVE STOPPER  
 
(次回:ファラオマンステージ攻略予定)  
 

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