〜ファラオマンステージ〜  
READY  
 
ゲットマンは首まで砂に埋まり、顔を上気させて寛いでいた。  
ここは指宿、砂風呂で有名な観光地である。毒田博士の指示でこの地に降り立った彼は、  
真っ先に砂風呂へと向かった。  
何しろ彼はブーツとグローブ、それからそあらのお下がりブルマーを除けば全裸に近い  
格好なのだ。砂風呂で暖まって行きたいと思うのは人情だろう。温泉と違って手足を  
自由に動かせないが、諦めて熱い砂に身を委ねると快適快適。  
いつも身体の冷えているゲットマンは、周りの観光客以上に砂風呂をじっくりと味わった。  
メットの内部で鳴った電子音が、ゲットマンの極楽気分に水を差す。しばらく放って  
おくと、研究所からの遠隔操作で強制的に回線が開かれた。  
『ゲットマン、呑気に砂風呂なんか入ってないでさっさとピラミッドに向かいなさい』  
ああもう、と舌打ちして、ゲットマンは応答に出た。  
「何だよそあら。人がせっかく砂風呂で暖まっているのに邪魔するなよ。  
一緒に入るとか言うんじゃないのなら切るぞ」  
別にいいよ、そあらは動じる様子もなくさらりと答える。ゲットマンは思わぬ返事に  
回線を切るタイミングを逸した。  
――そあらの事だから、スケベとかヘンタイとか叫びながら回線を切ってくれる筈だったのに。  
思惑が外れてゲットマンは黙り込んだ。そあらはそのまま率なく話す。  
『砂風呂なら身動きできないから、エッチなイタズラされる心配もないしね』  
アハハとイアホンの声が笑う。挑発を切り返されて、ゲットマンは少しむくれた。  
『それよりブライトマンの所でもキャプテンの手掛かりが掴めなかったんだから』  
「わあってるよ。今度こそ、だろ?」  
ゲットマンは殊更に大きな声で返事した。  
「だからオレはファラオマンの所に来たんだろ?早くキャプテンを見つけて  
何で鹿児島の街を襲ったのか訊き出さないと」  
そうよ、そあらはゲットマンそっくりの口振りで強調した。  
『そこから海が見えるでしょ、ずっと波打ち際に枕崎方向に進んだら、ピラミッドが  
見えるはずなんだけど』  
 
ゲットマンは首を動かして、そあらが言った方角を確かめる。空気が澄んでいて見晴らしが  
良く、ゲットマンは弓状に窪んだ入り江の先に、それらしき三角の影をあっさりと見付けた。  
『そのピラミッドの中にファラオマンはいるわ。早く砂風呂から出て――』  
嫌々ながらもゲットマンは手足に力を込め、砂風呂から出ようとした。  
が、力んでも彼を覆う砂はびくともしない。足も同じだった。  
「――悪いそあら、何か体が沈んでるような気がするんだ」  
えー大変じゃない、と叫ぶそあらの声が、ゲットマンの耳から徐々に遠のいた。  
 
辛くも砂風呂から脱出し、ゲットマンは走ってピラミッドに向かう。  
さっきは危なかった。あの時咄嗟にジャンプを思い付かなければ、今頃は砂の圧力で  
ペシャンコに潰されていた所だろう。  
今も時折ジャンプしないと、流砂に足を飲まれそうになるほど足元が不安定だ。  
まったく指宿の砂浜というのは、いつから流砂帯になってしまったんだよ――  
などと思いを巡らせている内に、ゲットマンはピラミッドの正面に到着したようだ。  
足元には巨大な陥没、ゲットマンの跳躍力では飛び越えられそうにない。  
『ゲットマン、そこはケントコイルで飛び越えた方がいいわ』  
折り良くそあらからの通信が入った。ゲットマンは応答する。  
「方がいい、ってゆーのはどういう事だ?穴に入ってもいいと言う事か?」  
『確かにその穴からもピラミッドに侵入できるんだけどね、そこを飛び越えた  
先のルートではバルーンが手に入るらしいの。膨らませると足場として使えるわ』  
そんな便利な物があるのなら、当然穴を飛び越えて進むべきだろう。ゲットマンが  
呼ぶより早く、研究所からケントコイルが到着する。  
矢張り前回と同じく、踏み台役が嫌で仕方ないといった不機嫌な様子だった。  
ぎゃん、という悲鳴と共に高くジャンプ。穴を飛び越えたゲットマンの背後で  
ケントが怒りに吠え狂う。  
「悪いケント、もうオマエを踏み台にする事はないから安心しろよ!」  
ゲットマンは振り向かずにそう呼び掛ける。さらに続く流砂の上を、時々飛び跳ねて進む。  
ピラミッドの正面に辿り着いた。高さおよそ三十メートルほどはありそうだ。  
入り口近くに、小さな紙箱が落ちていた。ゲットマンはそれを拾い上げ、箱に書かれた  
文字を目で追った――  
 
「えっとこれは『臼臼 一ダース入り』……ってこれじゃ足場にならねーじゃねーか!!」  
確かにコンドームは風船のように膨らむ。だがこれを足場にしろと言うのか。  
こんな物を足場にしたら恥ずかしい上に、第一ゲットマンの体重を支えられそうにない。  
とは言え――足場以外に使い道はいくらでもある。  
「まあいいか――折角だから貰って行こう」  
ゲットマンはあっさりと立ち直り、四角く開いたピラミッドの入り口から侵入した。  
 
道中は案に反して、易々と進む事が出来た。ツタン仮面(カーメン)が石室や通路の壁に  
整然と並んでいたが、それらは別にゲットマンに対して危害を加える事はなかった。  
ただ、固まった笑顔をゲットマンに向けるだけだ。それでも十分気味が悪かったが。  
悪趣味な演出から早く逃れようと、ゲットマンは最深部を急いで目指した。  
針の床を飛び越え、立方体の石を並べて築かれたブロックを走る。一見行き止まりの  
石室にあったごく狭い通路は、スライディングで潜り抜ける。  
正に本家本元のロックマンと比較しても、遜色のないアクション振りだった。  
少し南国のカラーとは違うような気もするが――  
最深部の石室へと続く扉の前に立つ。恐らくこれが最後だろう。  
意を決して扉に体当たり。鍵は掛かっていなかった。  
 
その先にあったのは、一際広い立方体の空間だった。壁や床、天井を構築する石も  
道中にあったそれらと比較して滑らかである。素人目にも堅い材質だと判断できた。  
――王の間――  
天草くんから聞いたピラミッドの話を、ゲットマンは思い出した。ピラミッドの重心に  
位置する空間は、王の間として利用されるのだ。用途は王の遺体を安置する場所と  
いうより、むしろ祭壇としての意味合いが強い。  
感傷に浸る余裕は無かった。ゲットマンは石室の中央に位置する直方体の石棺を視界に捉えた。  
その上には――  
ツタンカーメンの仮面を被り、黄金の軽装鎧に身を固めた男が一人立っていた。  
 
BOSS ATTACK:ファラオマン  
 
「オマエがファラオマンだな?」  
ゲットマンが身構えながら、石棺に立ったマスク男に問う。マスク男はゲットマンを横目で  
見下ろしつつ、否と返事した。しなやかな動作で右手を掲げ、天を指差す。  
「予の名は――」  
王の仮面が口から顎にかけて、腹話術人形のように四角くぱかっと開く。その奥には  
ダッチワイフの口と似たラバーの丸い穴。その形にゲットマンは卑猥な形状を連想し、  
ファラオマンならぬマスク男の名に思い至る。果たして、ゲットマンが予想した通りだった。  
「予は――フェラオマン」  
『下品ねっ、本当に下品ねっ!』  
モニターしていたそあらが、フェラオマンの名乗りに対して反射的に大声で突っ込みを入れる。  
鼓膜が破れる思いを味わったゲットマンが、耳鳴りを堪えながらすかさずそあらに通信を返す。  
「えーいカマトト振るなそあら!元々南国なんだからお約束だろこーゆー展開は!」  
『けど前回のブライトマンはマジで戦ってたじゃない!こんな下品なの私イヤよ!』  
「イヤでも何でも、ナビはちゃんとしてくれよそあら!」  
『ヤだー!ゲットマンが自分で何とかしなさいよ!』  
この、と叫びかけた時、ゲットマンは下半身の異変に気付いた。いつの間にかブルマーが  
足首まで擦り落ちて、そあらが言う所の「カワイイおちんちん」が剥き出しになっている。  
恐らくはブルマーのゴムが切れたのだろう。中古のブルマーを穿いていれば何時でも  
起こり得る事態ではあるが、しかし何も――  
――この大事な時に!  
ゲットマンが舌打ちしたその間に、フェラオマンが美しいピッチングモーションから  
振り被って、手にしたツタン仮面《カーメン》を投げ付ける。道中にあった仮面と同じ物だ。  
ツタン仮面は一直線にゲットマンの股間を目指し、カワイイおちんちんへと喰らい付く。  
仮面がおちんちんを口に含み、唾液を舌で塗し出す。すぐにゲットマンのおちんちんは  
反応し、ツタン仮面は口内で膨張した感覚に一瞬顔を顰めた。  
ちゅぱちゅぱと音を立て、ツタン仮面がゲットマンのチンコを吸い上げる。ゲットマンは  
自分の屹立から伝わる快感に、思わず顎を上げて叫んだ。  
「ああ……いやっ!」  
 
ゲットマンは自分の上げた声に驚いた。これではやおい同人漫画の登場人物ではないか。  
が、すぐに彼は己の正気を取り戻す。仮面を股間から剥そうと、両手を掛けてぐいと押した。  
――このままではツタンカーメンのマスクでイった男、ツタンカーメンファッカーとして  
一生十字架を背負っていかねばならない。  
イッてしまう前に、早く――  
あっさりと仮面は剥がれた。唾液の付いたゲットマンのおちんちんが、だらりと地面を向く。  
ツタン仮面のテクニックに翻弄されたのが嘘のようだ。イキそうになったのも錯覚だったの  
だろうか。  
「これは?!」  
ふふふ、とフェラオマンは口を下品に開いたまま笑う。ちなみにこの口の開け方で笑うと、  
普通は決して彼のような笑い声にならない。大抵は「ほほほ」となるだろう。  
暇な方は試してみると良い。  
フェラオショットなるぞ――フェラオマンは威厳ある低い声で語った。  
「その正体こそはタタンカーメンの呪い。其方のチンコは、これでもう二度と勃たぬ。  
其方はこの先、女人と契る事も適わぬ体で生きて行かねばならぬ運命に有るのだ」  
「そんな!」  
試して遣わそうか――フェラオマンは口を丸く開けたまま不敵に微笑んだ。間抜けな  
絵面ではあるが、そんな事を気にする余裕はゲットマンに残っていない。  
フェラオマンがぱちん、と指を鳴らす。石棺の真上にあった天井が左右に開き、半畳ほど  
開いた穴からゲットマンのよく見知った人物が、手首を荒縄で縛られた状態で  
吊り下ろされて来た。  
 
「マ○コちゃん?!」  
ゲットマンが言い終わるよりも早く、そあらの怒鳴り声がゲットマンの耳元で響いた。  
『本当に下品ねっ、ゲットマン!何がマ○コよ、伏字にすれば何を言ってもいい訳じゃないのよ!』  
――このカマトト女め、自分の方がマ○コとか言ってんじゃないかよ。  
再び耳鳴りを堪えながら、ゲットマンが返す。  
「何を勘違いしてるんだ、俺はマイコちゃんって言ったんだよ!今オレの目の前にいるんだ!」  
イアホンの声が一瞬息を呑んだ。彼女の級友が、人質に取られていると知らされたのだから。  
 
人質が辛うじて石棺の上につま先立ちできる程の高さで、荒縄の降下が止まった。  
ゲットマン助けて、とマイコちゃんは涙目で叫ぶ。キャミソールに短めのスカートと  
いった格好は、街を歩けば通りすがる男の目を惹き付けて止まないだろう。  
荒縄の食い込んだ手首が痛々しい。ゲットマンは彼女の姿に魅入り、呟いた。  
「できれば全身亀甲縛りの方が……ってマイコちゃんに何をする気だ?!」  
何を当然のように、とフェラオマンは小馬鹿にした口調で首を竦めた。  
彼は顎が刃のように尖った仮面を新たに出して、右腕に装着しつつマイコちゃんへ近付く。  
「決まっておろう。其方が例え如何程に欲情しようとも、チンコが勃たぬ事を示して遣わすのだ」  
右腕が唸った。一瞬マイコちゃんが、紙吹雪そっくりの細かい布切れに包まれる。  
丸く大きく突き出した胸、あと三センチ細ければそあらと同じ位になる括れた腰、下着や水着の  
線に合わせて手入れの行き届いたアンダーヘア。  
徐々にその姿を現すマイコちゃんの見事な裸体に、ゲットマンの目が釘付けとなった。  
何とか裸体を見られまいと、マイコちゃんはじたばたと足を宙に泳がせる。が、手の不自由な  
状態ではどうにも出来ぬと渋々諦めた。  
マイコちゃんはクラスメートに見られる羞恥から顔を伏せた。それがまたゲットマンには可愛らしい。  
「如何だ下郎?この娘の生まれたままの姿は」  
フェラオマンの声に、ゲットマンは我に帰って反論する。  
「それがどうした!オレはいつもマイコちゃんの裸を見てるから何ともねーよ」  
『ホントなのゲットマン?』  
そあらがイアホン越しに怒声を浴びせる。いい加減通信を切りたい所だ。  
「成程。では斯様にすれば」  
フェラオマンは腕の仮面を投げ捨てるとマイコちゃんの後ろに立ち、彼女の膝の裏に手を回す。  
ぐい、彼はとマイコちゃんの片膝を大きく持ち上げた。  
「いやぁ!」  
叫びながらマイコちゃんは、自由な方の足を浮かせて抵抗を試みた。手首に食い込む荒縄の  
痛みに、マイコちゃんが顔を顰める。ゲットマンの血走った視線が、肉付きの良い太腿の付け根を刺した。  
日焼けの少ない白い肌を覆うアンダーヘアの中央に、大陰唇が赤くふっくらと盛り上がり、  
その中央を走る亀裂の間から覗かせていた控えめな陰唇が、普段よりも大きく開かれた。  
 
『ちょっとゲットマン何やってんの?!マイコの悲鳴が聞こえたわよ!』  
そあらの苛立った音声がゲットマンの耳に呼び掛けた。うるせー、とゲットマンが怒鳴る。  
「せっかく今いいトコなのに、邪魔するなよそあら!」  
『いいトコって何なのよ?!今マイコは何をされてるの?!』  
こちらを見よ、とフェラオマンに呼ばれ、ゲットマンは通信を切った。マイコちゃんが  
何も覆い隠す物がなくなった秘部を人前に曝け出され、恥辱でメソメソと泣いている。  
「下郎」  
ゲットマンだ、とフルチンヒーローから訂正を受け、フェラオマンは言い直した。  
「ではゲットマン。女人のここを見て何も感じぬのか?」  
フェラオマンが目を細め、クククと淫靡に笑う。ゲットマンは嫌悪感を覚えつつ言葉を浴びせた。  
「ムラムラするに決まってるだろ?!バカじゃねーの?」  
果たしてそうかな――フェラオマンの言葉に、ゲットマンは違和感を覚えた。  
「ならば其方のチンコを見るが良い。欲情を示しておれば勃起する筈だが、如何」  
フェラオマンの指摘通りだった。  
普段は滅多に見られぬマイコちゃんの秘部を見せ付けられたにも関わらず、ゲットマンの  
おちんちんはすっかり萎れて頭を床に向けていた。普段なら既にぎんぎんに勃起している  
筈なのに、どうして――  
内心の動揺を隠しつつ、ゲットマンはそれでもフェラオマンと対峙する姿勢を崩さなかった。  
「それがどーした!オレはマイコちゃんのハダカぐらい、しょっちゅう見てるんだよ!」  
『それ、本当なの月斗?まさかアンタ、マイコとデキてるんじゃないでしょうね…』  
冷静にそう語るそあらの声に、ゲットマンの背筋に冷たい物が走った。彼女から、まるで  
ブライトマンステージに現れた謎の女そっくりの静かな威圧感を覚えたのだ。  
あの時の惨劇が脳裏に蘇る――  
頭から血の気が引いて行く様子を自覚しつつ、ゲットマンは必死の思いで通信を返した。  
「違う、違うんだそあら!マイコちゃんには手を出してないぞ!大体マイコちゃんは処女だよ、  
マ○コ見てるから判るって……」  
口走ってからゲットマンは、しまった、と頭を抱えた。今のは明らかに余計な一言だった。  
 
回線は開かれているなのに、応答はなかった。ゲットマンはごくり、と唾を飲む。  
「左様か、では斯れならば」  
鷹揚な声に、ゲットマンは状況を思い出した。今はマイコちゃんが剥かれているのだ。  
フェラオマンの指が、マイコちゃんの秘所にすっと宛がわれる。彼女が身を硬く震えさせた。  
 
「いや……こんなの、いやぁ……」  
ビラビラした部分を撫でられ、二本の指で開かれた内側の粘膜まで露出させられて、  
マイコちゃんは啜り泣きながらフェラオマンに抗議する。指の動きはあくまで淫靡で、  
彼女に痛みを感じさせる事なく、本能的な動きを引き出して行く。  
ぴくり、ぴくりと腰を前後させ始めた。滲み出てきたマイコちゃんの体液が、秘部と  
恥毛を妖しく濡らして行く。粘膜と指が奏でる、くちゅくちゅとした水音が漏れ出した。  
そんな状況に至っても、ゲットマンの露出したおちんちんはピクリとも動かない。  
普段の彼なら既に頭には血が昇り、戦闘衣装を脱ぎ捨てて、マイコちゃんへ獣のように  
襲い掛かっている所なのだが――  
蛇に睨まれた蛙のような目付きで、彼はフェラオマンの方を見ていた。  
「女人の痴態を前にして、チンコが機能せぬ心境はどうか」  
マイコちゃんを弄る手を止めて、フェラオマンは訊ねた。マイコちゃんが首をがくんと垂らし、  
息も絶え絶えにゲットマンを上目遣いに見やる。  
苦虫を噛み潰したような顔で、ゲットマンは渋々答えた。  
「認めたくない物だな、若いのにチンコが勃たないという事実は」  
彼は言いながら、せっかく手に入れたバルーンも使えないじゃねえか、と内心で悪態を吐く。  
フェラオマンはふん、と鼻を鳴らした。  
「どうやらこの娘、もうそろそろ気を遣りそうだわ。ここで一気に」  
マイコちゃんの顔が再び蒼褪めた。持ち上げられた膝をじたばたさせて藻掻く。  
 
「イヤイヤイヤ、もう止めて!これじゃ私、お嫁に行けなくなっちゃうよぉ……」  
陰毛に隠された突起をぬるりと触られて、マイコちゃんはヒッ、と短く叫んだ。  
フェラオマンはそれを指で剥き、あくまで優しくあくまで猥褻にその中身を擦る。  
持ち上げた太腿を腕に巻き込み、フェラオマンは二箇所同時の責めに入る。  
一方は茂みの奥の敏感な突起、もう一方は襞の狭間の入り口ごく浅く。  
「いやっ、やっ、やっ、ああっ……!」  
マイコちゃんの喘ぎが、フェラオマンの指の動きに合わせて間隔を徐々に狭める。自分で  
触る時には得られない、ぞわぞわした感覚に身も心も支配されたようだ。  
傍目にはまるで痴女そのものだった。まだ本物の男を知らないと言うのに――  
マイコちゃんが目を強く瞑った。絶頂の訪れを予感したのだ。  
「……あああっ!」  
マイコちゃんは喉を仰け反らせ、大きく戦慄いて足を脱力させて、再び完全な宙吊り状態となった。  
 
達してもまた責められ続けるマイコちゃんを前に、ゲットマンはどうすればいいのかと自問する。  
マイコちゃんを嬲り者にされ、その間自分はその様子を見ていただけだ。  
ナビを頼もうにも、そあらが通信に出ない。ということは――  
そあらがピラミッドに向かっている可能性を、ゲットマンは否定し切れなかった。  
もし、ゲットマンが何もせずマイコちゃんの痴態を見物していただけだとそあらに知られたら  
彼はどうなるか。考えるのも嫌になる、一つの結論しか思い浮かばない。  
――殺される?!  
当然の帰結だった。その前に何としてもフェラオマンを倒さねばなるまい。  
ケントコイルが出動に要する時間を考えれば、今すぐそあらが現れても不思議ではなかった。  
早く倒さねば、何か手持ちの武器で有効な物はないのか。  
ゲットバスターは、マイコちゃんがフェラオマンと密着している為に危険だ。この場にケントを  
呼んで、一体何をすれば良いのだろう。残るのは――  
フェラオマンがマイコちゃんに気を取られている隙に、ゲットマンは特殊武器への換装を敢行した。  
 
――面妖な。  
――女人に対して、奇妙な疼きを感じたのは初めての事だ。  
――今まで幾千人もの男に呪いを掛け、彼らの前で女陰を弄び、  
――それでも勃たぬ事実を見せ付けて、再起不能に追い込んだ。  
――女人などその為の道具に過ぎない存在だった筈だ。  
――それなのに。  
――今まで感じ得なかった疼きに苛まれる。  
――こんな事は初めてだった。  
――この世に生を受けて以来、  
――女人への興味など  
――予は持ち得ぬと信じていた。  
――だが。  
――今はこの娘が欲しい、さもなくば  
――身を焦がすほどの疼きが収まらぬ。  
――予に責められ、本能的に男を求める  
――この乙女の痴態に中てられて  
――蜜の滴る肉に身を埋めたいと切に願う。  
――しかし  
 
 
――勃たぬ。  
――如何程切に予が望もうとも  
――予の男根は一向に首を擡げぬ。  
――かつて我が呪いで屠った  
――幾千もの男共と同じ様に。  
――今頃になって、彼らの無念が少しばかり解る。  
――斯くも辛く  
――斯くも虚しい心持ちで在ったのか。  
 
――疼きと女人を抱けぬ無念とが心を黒く淀ませ  
――それが水底深く沈み、静かに暗く腐敗して  
――心身の至る所に腐敗した瘴気を充満させ、  
――おぞましくも狂おしく我が身を朽ちせむ。  
――女人との交わりを持てぬ者は  
――呪われしゲットマンに在らず。  
――タタンカーメンの化身、  
――呪いの本体、根源たる  
――予こそ女人を抱けぬ者なる。  
――これまでも  
――これからも  
――童貞として  
――生きて行かねばならぬ。  
――命続く限り  
――女を知り得ぬ者として。  
――予は法老王  
――君臨する者。  
――下々の内で最も愚なる者にも経験し得る出来事を知らず  
――虚しき屈辱の内に  
――永劫の時を過すなど  
 
――耐えられぬ。  
 
フェラオマンの手が動きを止め、彼は静かにマイコちゃんから離れた。  
解放されたマイコちゃんは最後に短く引き攣って叫ぶと、力なくその場に崩れた。  
 
「ゲットマンよ」  
フェラオマンは静かな声で、石棺の下から自分に右掌を向けた敵に呼び掛けた。  
ゲットマンはその姿勢のまま全身に力を込め、フェラオマンを強く厳しい目で見据える。  
童貞の法老王は口を丸く開いたまま、フルチンの若い勇者に温かな眼差しを向けた。  
今ひとつ――どころか非常に間の抜けた絵柄だった。フェラオマンが告げる。  
「予の負けだ。従って予は消滅を選ぶ。我がマスターは――」  
「キャプテンはどこにいるんだよ!」  
ゲットマンが叫ぶと同時に、フェラオマンが石棺からゆっくりと降下する。彼は着地して、  
法老王に相応しい堂々とした足取りで出入り口へと向かった。  
ゲットマンの掌は、常に彼の方向に向けられていた。フェラオマンは振り返らずに言う。  
「天草健太郎は、眩しき光の中に在る」  
扉が自動的に開き、フェラオマンはその先へと歩み去ってしまった。  
最後に一言、我が人生に一片の悔いあり、と残して――  
 
フェラオマンの姿が完全に消え去ると同時に、ゲットマンはがっくりと膝を付いた。  
特殊武器のエネルギーを全二十八ゲージ分消費してしまったのだ。疲労もかなり蓄積していた。  
ゲットマンは今すぐ仰向けに寝転がってしまいたい気分だったが、広い石室にはまだ人質が  
残っている。マイコちゃんを解放しなければならない。  
近寄って荒縄を解くと、マイコちゃんもだらしない格好で床の上に倒れる。  
フェラオマンの指攻めで何度もイッていたので、これも当然だろう。  
彼女を仰向けに寝かせて、肩を起こすように抱く。マイコちゃんはようやく落ち着いた  
面持ちでゲットマンに尋ねた。  
「フェラオマンは?」  
ゲットマンは無言で首を左右に振った。彼の生死や消息について、マイコちゃんはそれ以上  
質問する事を諦めた。  
「そうなの。私も気が付いたらここにいたから何も分からないわ」  
「キャプテンがどこにいるか、マイコちゃん知らない?」  
マイコちゃんは力なく首を振った。キャプテンと仲良しのマイコちゃんが知らないとなると、  
手掛かりはフェラオマンが最後に残した言葉、『眩しき光』のみ。雲を掴むような話だ。  
 
「ところでゲットマン」  
何だよ、と彼はマイコちゃんに応じた。頭の中で考えが纏まらず、つい苛立った声で応えてしまう。  
「フェラオマンは勝手にどっか行っちゃったみたいだけど、ゲットマンは何かしたの?  
何もしてなかったように見えたんだけど……」  
その事なら、と口に出しながら、ゲットマンは問題を一旦頭から片付けた。少し元気が  
戻ったような気がした。  
「ネガティブストッパーを使ったんだよ」  
マイコちゃんは疑問形でゲットマンの言葉を繰り返す。ゲットマンは頷いた。  
「説明するとだな――」  
 
ネガティブストッパーとは、ゲットマンがブライトマンを倒して(?)入手した特殊武器である。  
武器エネルギーをマイナスエネルギーに変換し、対象をネガティブ思考に追いやって活動を  
中止させる、一種の精神波攻撃と考えて良い。  
効果はステージ全体に及ぶ。これを受けた敵は悉く自信もやる気も失い、例外無く己の人生に  
絶望する。稀なケースではあるが、副作用の結果自ら来世へ旅立ってしまう例も有り得るという。  
 
「何せヒキコモリでマニアの家庭内暴力少年から手に入れた武器だからな」  
「何それ、キモいよゲットマン」  
マイコちゃんは早々に引いていた。だがゲットマンの説明はこれでまだ半分だ。  
「フェラオマンの場合、自分がインポだって事に気付いたんだろうな。何せ本人がタタンカーメン  
なだけに、仮にSEXしたいと思っても出来なかったんだろう。憶測だけど、あいつドーテイだよ。  
ドーテイのまま一生を過すなんて、プライドの高いファラオには多分できない相談だったんだ」  
「キモい、キモすぎるわ!私インポのドーテイに嬲られたっていうの?!」  
イヤー、と甲高くマイコちゃんは叫んだ。ゲットマンは彼女を優しく抱き締めて宥める。  
泣きじゃくるマイコちゃんは、普段のセクシーで大人びた物腰からは想像も付かないほど  
しおらしく可愛らしい。おまけに全裸で、身体にはまだ火照りが残っている。  
男の欲を誘われ、血迷った一言がゲットマンの口を突いて出た。  
「オレが代わりに責任を取ってあげるからね」  
 
どん、とマイコちゃんが彼の胸板を突き飛ばす。石棺のすぐ傍らに尻餅を付いた  
ゲットマンの一物は、すでに充分な漲りを誇示していた。  
おそらくフェラオマンが去った事で、タタンカーメンの呪いも同時に解けたのだろう。  
彼は既に戦闘ロボットのゲットマンではなく、ヘルメットを被った蘭堂月斗に戻っていた。  
災難なのはマイコちゃんである。せっかくフェラオマンの魔の手から逃れられたというのに、  
今度は悪名高いスケベ少年と密室に二人きり。しかも身を守る物は何もない。  
「バルーン一杯持ってるから、避妊対策もバッチリだよ!マイコちゅわ〜〜ん!!」  
「いやああぁ!!月斗くんやめてぇ!!」  
月斗は素早くマイコちゃんを押し倒して覆い被さる。音を立てて彼女自慢の巨乳を吸い始めた。  
マイコちゃんの下腹部に手を伸ばす。指弄りの余韻が残っていて、まだ充分に濡れていた。  
「痛いもっと優しく、って優しくされてもヤだーっ!!」  
一難去ってまた一難。マイコちゃんは足掻いて抵抗するが、膝を掴まれて足を大きく広げられ――  
 
ごん、と言う激しい衝撃音と共に、月斗はマイコちゃんの上に倒れた。  
 
ゲットマンのメット越しにタンコブが生じる位の拳骨を当てられるのは、この世に一人だけ。  
そあらが到着したのである。すっかり失念していたが、彼女が応答に出ない事から導き出された  
ゲットマンの推論は正しかったのだ。  
あと一秒到着が遅ければ、マイコちゃんの処女は散華させられていた。まさに、危機一髪。  
「まったく、人が心配して来てみればこのスケベ男が。何が『マイコちゃんには手を出して  
ない』よ、聞いて呆れるわね」  
そあらは気絶した彼の首根っこを犬のように掴み、マイコちゃんから引き摺り離した。  
「さ、帰るわよっ」  
返事を待たずに、ゲットマンを引き摺って出入り口へと大幅で進む。ぴた、と歩みを止め、  
そあらは呆気に取られてその様子を見守っていたマイコちゃんを振り返る。  
「ゴメンねマイコ。急いでたから忘れちゃったけど、替えの服はとれのに持って来させるから」  
空いた手で拝む真似をしつつ、そあらは片目を瞑って最高にチャーミングな笑顔を見せた。  
 
〜ファラオマン、もといフェラオマンステージ クリア〜  
YOU GOT FELAOH SHOT  
(次回:リングマンステージ攻略予定)  
 
 
蛇足:  
 
「え〜ん!幾ら出番が少ないからって、私こんな格好ヤだー!」  
岡本そあらの妹、とれのの声が、ピラミッドの石室に反響する。いい歳をして姉の使い走り、  
それもドラム缶を被らされた上でだ。そりゃ女子高生でなくとも怒るだろ普通――  
マイコちゃんはとれのから受け取ったそあらの服を身に着けながら、胸が苦しいわね、  
と軽くぼやいた。  
 

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