夕方、地丹と亜留美はあっさり仲直りした。そして夜、何度も求め合う二人。
あまりの濃厚さに、モニタしていたすずですら身体の疼きに堪えられなくなり、とうとう彼女も自分で
…彼女自身を慰め始めた。
白衣の前を開き、プラの下に右手を入れ、乳房を揉み始める。さすがに乳首の色は仕方ないが、柔らか
さも弾力も大きさも10代から変わっていない、亜留美のそれよりさらに豊かなふくらみ。
モニタからは、
『あ、地丹くん…あっ、あっ、いい…もっと…そう、もっと、もっと…』
と、亜留美のおねだりの甘い声が聞こえてくる。
モニタ画面の亜留美の表情は実にエロティックだ。そんな亜留美に、今夜のすずはどうしても感情移入
してしまい、自分がまるで愛されてるような気分になってしまう。もう熱く濡れて仕方がない。
いけないと思いつつ、地丹が亜留美にしているのと同じ事…アソコの小さく硬く膨れた所を、濡らした
右手中指と薬指でつまんでこねる…を、自分に対して行ない始めた。
白衣の前ボタンを全て開けた。黒いタイトスカートをめくりあげ、下着の股間の部分を左にずらして、
自らの液で濡れた肉の襞を刺激する。
亜留美のあげている悦びの声と、自分のそれがだんだん重なってゆく。
深夜だし、この診察室に他人が入ってくる気遣いはない。だけどあまりにもはしたない…すずは思った
がもうやめられない。
モニタの中で、地丹は亜留美に挿入し、それを一生懸命往復させている。
すずも、自分の中に指を入れて、同じリズムで往復させる。
美しい脚が宙に浮く。太腿までの長さがある紺のストッキング。
もう下半身は完全に露出させている。上半身も肩から今にも白衣がずり落ちそうだ。
長いこと自ら封印していた愉びが、全身に満ち溢れてゆく。
地丹の動きがどんどん激しさを増し、亜留美は半泣きになりながら叫び始める。
『あ、ああーっ…いい、イク…嬉しい…今夜はイケそう…地丹くん、地丹…あ、ああ、あっ…!!』
背中に爪を立てる。また出血が…。
そして、すずも自席の事務用椅子を軋ませながら絶頂に達した。
翌朝になった。スタッフたちはすずが出勤するのが遅れると連絡を受けた。
ナースセンターで朝のカルテの整理をしている看護師達もその話題をしている。
「珍しいわね、決して遅刻なんてした事のない人なのに。」
「身体の不調とかじゃないんでしょ?どうしたのかな、離婚調停とかは今週は関係ない筈だしね。」
やいのやいの、みんな当てずっぽうを言い合う。だが結論は出ない。まあ、夕べ深夜の事情など誰も知
らないし、彼女がどれだけ恥じ入っているか知りようもないのだから当然なのだが。
その話題が一回転した所で、亜留美がため息をついた。というか、前から何度もついていたのだ。
「?どうしたの亜留美ちゃん?」
「うーん…聞いてもらえます?なんか私、今になって、先輩たちが何で『地丹くんなんかとエッチして
平気なの?』って言ってたか、ようやく判って来たような気がするんですよね…」
「あれ?ケンカは仲直りしたんじゃなかったの?」
「しましたよ。」
他の看護師たちは、もうカルテ整理の手は止まってる。憶測での話題より、具体的な話のほうがいい。
「仲直りしたのなら、なんで地丹くんに対してさっきみたいな感想になるの?」
「自分でもよくわかんないですけど…まあ、仲直りできたからこそ、さっきみたいな事を感じ始めてる
ってのを人に話せるんで…って言ってもわかってもらえませんよね?」
「ううん、わかるわよ。たまにあるわそういう事。」
「そうですか、よかった…でも、ホント地丹くんって、スケベで自分勝手で…だいたい結局、私の私物
とか持ち出したりしてたストーカーって、地丹くんだったらしいじゃないですか。」
亜留美が愚痴りだした。先輩たちは適当に相槌を打ったりする。
しばらくしてそれも一回転した。
「なるほどね、亜留美ちゃんも大変だわ…ところで亜留美ちゃん、今日の下着はどんなの?」
「え?ピンクのレース地です、けっこう透けてたりするんで恥ずかしいんですけど。」
「あらセクシーね。何でそれにしたの?」
「あ、えっと、地丹くんがこれお気に入りみたいなんで…何でですか?」
「いえ別に。さ、仕事仕事。」
カルテ整理が終わり、別の用のある亜留美を残し、看護師たちは廊下を通り休憩室へ戻りつつある。
「亜留美ちゃんも、地丹君のことぐちぐち言うわりに、彼好みの下着をつけたりしてまあ…」
「いいじゃない、あなたにもそういう事あったでしょ?」
「まあありましたけど。そうそう、亜留美ちゃんの話に戻りますけど、おとといかな、『なんかやだなあ、
私って自分のエッチが先生とかにモニタされてるの、恥ずかしいって思うようになってきたんですよね
最近。』って言ってましたよ。」
「そう。初めの頃は見られてるのを知っても『あははー』とか笑ってたのにね。」
「まあ、あの頃の彼女の感覚ってちょっと…まあ、あの娘にも普通の羞恥心が出てきたって事ですか。」
「地丹くんに対する感覚も、だいぶ普通っぽくなってきたし…あら噂をすれば本人だわ。」
地丹が、給湯室で竹田先生と会話しているのだ。
彼の脳内では、バイト先のハンバーガー屋で会話中、ということらしい。
「まいっちゃったよ夕べは…彼女、昼間はあんなに怒ってたのに、仲直りしてエッチをし始めたら『ご
めんね、昼間はごめんね』って言いながら何度も求めてくるんだもんなー。」
「う、うらやましいッス…先輩は恵まれてますねぇ。」
後輩役にされている竹田先生も大変だ。
女性心理の専門家で、『ガールフレンドとのトラブル相談室』みたいなコーナーを男性週刊誌に連載し
ているほどの人なのに…よく地丹に話が合わせられるなあ、と周囲は感心する事しきりだ。
ふと、地丹がこちらに気づいた。
「やあ山一さん、今日は天才塾とのバトルはお休み?」
おいおいまだ『山一さん』扱いかよ…と隣で聞いていて思うしえ。
『山田さん』が結婚して『山口さん』になったのを知り、まだ治療中だった改蔵が面白がって「名前が
次第に失われていく奇病」というヘンな設定を作ったのはもうだいぶ前の事だ。
もちろん、その後、彼女は『山一さん』になどなっていない。下の名前だってちゃんとあるのだ。
もっとも当の彼女はほとんど気にしていないようだ。地丹に笑顔で言葉を返す。
「そうね、今日は天才塾も襲ってきていないわね。ところで地丹くん、先せ…じゃない、竹田くんとず
いぶんエッチなお話をしてたみたいね?」
「う、うん、えへへ。」
「地丹くんのガールフレンドって誰なの?教えてくれないわよね。」
「そうなんッスよ、自分にも教えてくれないんスよ、相手の女の子が誰なのか。」
「な、内緒にしようね、って約束してるんだよ…でもさあ、彼女さあ、なんていうか…自分が年上だか
らっていろいろ主導権を握ろうとしたり、鉄道に関心がまるでなかったり、『何でこんな事で?』って
ちょっとした事で機嫌を悪くしたり…あー、女の子って大変だなぁ…」
「あら、仲直りしたんじゃなかったの?」
「うーん…まあ、仲直りした今だから、こんな愚痴もいえるんだけど。」
「あっそ。おアツいことで…あ、そうそう、関係ないけど、ねえしえちゃん、亜留美ちゃんって今日は
ピンクの透けた下着をつけてるそうね。」
「え?あ、そうみたいですね、山一さん。」
地丹の目つきがかわる。
「え?そ、そうなんだ、あの下着…今日つけてくれてるんだ…」
「あら地丹くんどうしたの?亜留美ちゃんの下着の話は、地丹くんとは特に関係ないでしょ?あなたは、
あなたの彼女の事だけ気にかけていればいいじゃない。」
「いやそうなんだけど…あ、そうそう用事を思い出した。店長に今日はこれであがらせてもらうって言
っといて竹田。」
地丹は給湯室を飛び出した。
看護師たちは、再び休憩室に向かいつつ、カップルの次の行動を予測する。
「亜留美ちゃんを呼び出すわね。彼的には携帯を使ったつもりで、実は病室のインタホンで。」
「そうね、恐らく亜留美ちゃんは、仕事をほっぽり出して彼の元に行くわね。」
「で地丹くんは、その透けたセクシーな下着を鑑賞しつつ脱がせる、と。」
「亜留美ちゃんは恥ずかしそうにしながら、でもわざと無抵抗で脱がされる、と。」
「あとはもう昼間だというのに、ハメて入れて咥えこんで、出してイッてまたハメて…」
「で、明日になると、またなんだかんだ愚痴を言ったり『女なんて』って言ったりする訳ね。」
ちょうど休憩室についた。
そこで山一さ…じゃない、『山口さん』が、皆の思いを締めくくった。
「ほんと…やっかいな患者さんと、やっかいな看護師さんのカップルね。」
彼女は微笑みながらそれを口に出し、そして口に出した直後に気づいた。
『やっかいな』には、好意を込めて言ったつもりだったのだが、考えてみると別な意味にも取れる。
あの二人がこのまま甘い生活を続ける時間はもうあまりない。これから起こる出来事に関し、自分たち
は出来る限り彼らの支え役になってやらなければならない訳で…。
地丹の病気が治る時、それは―――あの二人の別れの時でもあるのだから。
すずは正午前に出勤した。
もう夕べのダメージも癒えている。自分の気持ちに折り合いを付けるのに関してはプロである。
今彼女は自分の診察室で、地丹や改蔵、羽美の治療レポートを見直している所だ。
治療レポートの見直しはしばしば行なっている。理論や計画に誤りや抜けがないか確認する為だ。
レポートは医療関連(特に精神医学関連)の専門用語、データや数字が溢れていて普通の人には読みづ
らいものだが、それを平易な言葉に直して示せば以下のようになった―――
『勝 改蔵。中学三年生の時、家族の一家心中に遭遇。本人のみ一命を取り留める。
心中から生還して意識を取り戻した際、自分が集中治療室にて医療装置類に無数の管で繋がれていた印
象からか、自らを改造人間と思い込むようになった。トラックを止めようと道に立ったり、空を飛ぼう
と10階のベランダから宙にとび出ようとしたため病院へ。
箱庭療法では主導的な立場、その世界を構築する牽引的な役割を演じる。
治療を開始するとすぐ、自分が改造人間であるという妄想はほぼ消えた。ちなみに、この事実が
「箱庭世界内で妄想の自分に住人の役割を演じさせ、その病的部分をその世界内に吐き出させることで
現実の本人の精神バランスを快復に向かわせる」
というこの療法の有効性に対する最初の実証例となり、その後の計画にはずみをつけることとなった。
彼はしかしヘンな空想力・妄想癖をその後も根強く保ち続け、空想と現実の区別がつくようになるまで
は時間がかかった。詳細は今後の解析が必要だが、観察によれば、名取羽美と坪内地丹がこの世界で吐
き出した病的部分の受け皿としての機能を彼が担っていた為、という印象を受ける。
それでも名取羽美と入籍後はかなりすみやかに精神状態の正常化を見せた。
2004年4月退院、現在は予後経過観察中。』
『名取 羽美(現在は勝羽美)。中学三年生の時、家族の一家心中に遭遇。本人のみ一命を取り留める。
事件後、彼女は「自分は心の奥に殺人衝動を持っており、それがいつか抑えきれなくなって街中で凶器
を持って暴れだしかねない」という妄想を抱くようになる。
「被害者を出す前に自分は死ぬべき」と考えリストカットを繰り返しため病院へ。
ちなみに、現実の彼女は、自分の腕に止まって血を吸っている蚊に気づいても、かわいそうといってそ
れを叩くのが出来ない性格である。また、どのように深層心理を探っても、本人の言うような凶暴な衝
動・別人格は現れてこなかった。一人生き残った罪悪感が歪んだ形で現れたものと考えられる。
箱庭療法では、初期と後期ではかなり異なった立場になった。初めのうち彼女は、心の中の「妄想の人
格」をさらけ出すことをせず、一種普通の女の子的立場を保ち続けた。「痛い性格でキレると街中で暴
れだす」という妄想の人格を箱庭世界に解放させるようになるのはある程度経過してからである。
そうなってから後はリストカット騒ぎは一度しか起こさずに済んだ。
病的部分を箱庭世界に吐き出すレベルがある一線を越えた後は、きわめて順調に回復が進むようになり、
勝改蔵と入籍後まもなく退院可能なレベルまで達した。
2004年4月退院、現在は予後経過観察中。』
さて、とすずが次に地丹のレポートを読もうとしたところでインタホンが。
机の上のiMacの液晶画面をつける。まだ昼間だというのに地丹と亜留美が部屋にこもっている。
ピンクの透けた下着姿の亜留美を、地丹がスケベそうに見回しながら愛撫する。
やがて亜留美は『脱がせて』と言い…モニタの中央には、彼女の幼女のような性器が丸映しになった。
つづく