「ああ、地丹くん、気持ちいいよお…ね、一緒にいこうね、ね?」  
亜留美のそんな反応で、地丹の気持ちが加熱した。  
それまで夢か現実かわからず釈然としないままそれでも何とかコントロールして腰を使ってたのが、制  
御不能な無茶苦茶な刹那的な腰の動かし方になってきた。  
もう、出る寸前なのだ。  
亜留美が地丹の背中を掻きむしるようにして身体をのけぞらし始めた。おっぱいがプルプル揺れる、も  
ちろんホクロも一緒だ。綺麗な眉根を寄せ、びくんっと硬直し、彼女は搾り出すように言う。  
「あ、地丹くん、いい、イク…ウ…ッ…」  
もうたまらない。ぴゅ、ぴゅっ…地丹はまた果てた。  
今日一回目よりは、射精の実感があった…気持ちも良かった。  
だが、何か物足りない、まだ『こんなものなのかな』という気がしているのも事実だった。  
亜留美が真下で、軽く微笑んで地丹を見つめている。  
「よかったよ…ね、チュウして。」  
下半身が繋がったまま、二人は唇でも繋がる。  
しばらくは、上下の二箇所で粘膜を擦り付け合い、体液を混ぜ合い、抱きしめ肌を重ね合った。  
 
深夜。隣に全裸の亜留美が寝息を立てている。地丹は寝付けない。  
欲情しているわけではない。  
ただ、同じ寝床にやわらかく暖かいものの違和感が眠りを妨げているのだ。  
毎晩こうしてるはずなのに、どうして今夜だけ眠れないんだろう?  
慣れてるはずなのに、なんで今夜だけ、隣に寝てる亜留美ちゃんを異物みたいに感じるんだろう?  
地丹は思う。  
(どうもまだ、以前から二人が『押しかけ婚約者との引きこもり同棲状態』だったって記憶に実感がな  
いなぁ…でも、この暖かくって柔らかい肌には実感があるな。それにSEXにも…)  
逆説的だが、SEXに物足りなさやぎこちなさを感じたという事実が、地丹に今回のSEXが現実に行  
われた出来事だとの確信をさせている。  
 
地丹は昔からずっと亜留美を抱く夢や妄想は見ていた。  
夢や妄想では自分も亜留美も理想化される。  
そこでは、地丹はテクニック抜群で亜留美を自由自在にいかせまくりだった。  
だが、今回は腰使いも思い通りに行かなかった。それに、今思えば亜留美の絶頂もなんか演技っぽい。  
地丹にとって、『現実』は思い通りには行かず少し不満が残るくらいのほうがリアリティを実感できる  
のだ。今回がまさにそれであった。  
そして他にもこまごましたリアリティが――例えば、始める前は全裸では少し肌寒いのが、挿入の頃に  
は暑く感じてきて、イッた直後は汗だくになるとかいったことだ。その他にも瑣末だが『そうだよな、  
大した事じゃないけど、実際のエッチではそうでないとおかしいよな』と納得がいく小さな経験がいく  
つもあった。  
その積み重ねが、地丹に今回の事が『本当に起きたことだったんだ』と実感させているのだ。  
そこでふと地丹は、さっきイッた時になぜ物足りなさを感じたのかに気づいた。  
オナニーでイク時と違い、女の子の膣の中に出してしまう時は当たり前だが自分の射精は見えない。ど  
くどくっと出るのを見れなかった事が、射精時に今ひとつ満足感を得られなかった理由だったのだ。  
そんな物足りなさも、今の地丹にとっては結ばれたという実感の一部であった。  
隣では亜留美があどけない寝顔を見せている。  
地丹はシーツをめくり、彼女の全裸を改めて観察してみた。胸の双丘が寝息に従って上下している。そ  
のてっぺんにある乳首が可愛らしい。ホクロも彼女の呼吸に従って上下している。  
そっとおっぱいを触ってみた。軽く揉みしだいてみる。マシュマロのように柔らかい。  
「うーん…」  
亜留美は少し反応した。少しもぞもぞする。しかし目覚めはしないようだ。  
(暖かいなぁ…スベスベだし…ほんとに亜留美ちゃんとエッチしたんだオレ…でも明日起きたら元通り  
一人きりって事、あり得るよな…)  
例によって悲観的な考え方をする地丹であった。  
しかし、SEXを2回した疲れは思いのほか強い。  
地丹は彼女のおっぱいに手を置いたまま、いつの間にか眠りに落ちていった。  
 
<以下、病院内>  
すずはモニタで地丹が眠りに着くのを確認すると、回転椅子を反転させてレポートにその旨記入した。  
もう少しして完全に彼が寝入ったら、催眠誘導で彼から今回の感想を聞きだす予定だ。  
そして同時に、今回の出来事のどこかに矛盾を感じなかったかも聞き出して、それに応じて記憶に小さ  
な変更や補完も加えて具体性を補強する必要もあるだろう。  
もちろん、地丹が目を覚ました時、それらの処置は一切覚えていない。  
(でもそれをするのに亜留美ちゃんを起こすのはかわいそうね。彼を一時的に別の部屋に移そうか…)  
考えながらもレポートとカルテをすずは書き進める。  
モニタの中で地丹がもぞもぞと動いたが、またすぐ寝息を立てた。  
すずは、ふと、全ての発端に思いを巡らせ始めていた。  
いまから5年前の事である…。  
 
この街で、同じ日の、夜半のほぼ同じ時間に、3件の家族が無理心中を図った。  
そして、3件とも、中学生の子供一人ずつだけが生き残った。  
その3人の子供が同一中学に通う同じ学年(3年生)の同じクラスの生徒だったため、事件は注目を集  
めた。これが偶然のはずがないというのだ。  
警察もマスコミも3つの家族の接点、心中の原因を探ったが、結局何も出てこなかった。  
3人はクラスメートだったがそれ程親しいというわけでもなく、それぞれの親もPTAで一度顔をあわ  
せた他は全く付き合いはなかった。同一日時に申し合わせたように心中をする理由は何もなかったのだ。  
家族構成も心中の原因も場所も三者三様、3人が生き残った理由も全く別々であった。  
すずもあとで何度か彼らの深層心理を探ってみたが、やはり接点は見つけられなかった。  
つまり…『全くの偶然』というのが真実だったのだ。  
3人の15歳の少年たちは一時的に警察に身柄を移され、その後色々もみくちゃにされた挙句この病院  
に連れてこられた。3人とも心に傷を負っており、その頃はすでに言動に変調が出始めていたのだ。  
もちろん中学の卒業式には出られなかった。卒業写真では、3人は、よくあるように写真の上の方に楕  
円で囲まれて載っている。  
 
3人の心の変調はそれぞれの性格・個性に応じてかなり違っていた。ただ、連れてこられた当初から治  
療を任されたすずには、3人を一緒にグループ化して治療を試みるのが最良と考えた。  
他の方法もいくつか試みて破棄された末、たどり着いたのがこの療法であった。  
――『箱庭の街を作る』という療法。  
青松理事をはじめ、この計画を頭から否定する上層部は多かった。  
にもかかわらず予算がおりて実行に移せたのは、院長が後押ししてくれたのが大きい。  
なんとかそのうち二人を社会復帰させることができた。後は地丹、この子だけなのだ…。  
すずはそこまで思いを巡らせると、先ほど計画した処置を開始するために席を立った。  
 
<以下、箱庭世界>  
朝。地丹が目を覚ますと、ベッドに独りだ。  
(あー。やっぱ、あれは夢だったんかな…あれ?でもパンツ綺麗だ、夢精してないぞ?)  
とんとんとん、と階段を上がってくる足音。学校の制服姿で亜留美が顔を出した。  
「おっはよー。地丹くん起きた?ご飯持って来たよー。」  
朝食を食べながら、地丹は夕べの事を反芻する。  
亜留美の柔肌…ぬるぬるして熱いアソコの中…背中に爪を立てられた痛み…。  
それ以前の、押しかけてきてからの細々した記憶も蘇ってくる。昨日はなんかあいまいで抽象的だった  
それらの記憶が、なんか具体的に細部まで脳内に刻み込まれてる気がする。なんでだろうと地丹は思っ  
たが、それより亜留美のパンツが気になりだした。  
彼女は床にじかに座り込んで、地丹と一緒にのりたまご飯を食べているのだが、正座ではなく脚を崩し  
ているのでミニスカの裾から水玉模様のプリントのパンツが丸見えなのだ。  
「もっと見たい?しょうがないなぁ、サービスだよぉ。」  
亜留美が微笑みながら言う。立膝になりパンツ丸見えの状態にし、そのままご飯を食べ続ける。  
地丹は亜留美が押しかけてきたときに家に持ってきたパンツの枚数とその柄を思い出す事にした。  
(うん、全部覚えてるぞ、マンボウ柄、イチゴ、青い縞々、水玉模様、花柄三種類、無地が4枚…。お  
となっぽいシルクのレース飾りのも3枚あったけど、あれはまだ穿いたことがないんだよな。)  
 
記憶と目に見えるものが昨日より一致するし具体的だ。地丹はすっかり、二人がずっと以前から同棲状  
態だったというのを信じきる気になっていた。  
(ぐふふ。なんておいしいシチュエーションだろう。竹田の奴に教えたら鼻血を出して羨ましがるだろ  
うな、だけどこれって学校のみんなには内緒なんだよなあ…それより俺、今夜になるまでエッチをガマ  
ンできるんだろうか?困ったなぁ、ぐふふ。)  
 
一緒に登校する。  
「ねえ亜留美ちゃん、今夜も帰ったらエッチしようね。」  
「ば、ばか、聞かれるでしょっ、それ、人前では言わないでよ。」  
亜留美は顔を赤くしてたしなめる。少し歩調を速め、すたすた先を歩いてゆく。そして言葉を継ぐ。  
「するのは当たり前じゃない。ずっとずっと、そうしてきたでしょ私たち。」  
地丹は亜留美のミニスカの尻とそこから伸びた太腿に気を取られている。スカートの中、ちらちら見え  
ているパンツ。このパンツの内側の濡れたアソコに自分のものを挿れ、さらに射精までしたんだよなあ  
と思いながら。  
「ね、もう学校の前だよ…わかってるよね?」  
「え?あ、そうか…」  
地丹は思い出した。『婚約者、同棲中なのは学校では秘密。普通の先輩と後輩の関係になること。』そ  
うそう、二人は同棲関係になった直後、そう約束したんだ…  
って、あれ?先輩と…後輩?  
「じゃね、私は日直だから先に行くよ。」  
「あ、亜留美ちゃん…」  
「こーら。亜留美ちゃんじゃないでしょ、『亜留美センパイ』でしょ?ね、『2年坊の坪内地丹クン』?」  
彼女は子供を諭すように言い、背を向けるとそのまま足早に校舎に向かう。途中で地丹と同じクラスの  
娘から「お早うございます、泊先輩」と声をかけられて「よ、おはよっ」と返す。  
あいかわらず切り替えが早いなぁ…そう思いながら、自分も校門を通り校舎に向かう地丹であった。  
 
つづく  
 

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