朝になった。
目覚めると数センチ先に改蔵の寝顔。
全裸で抱き合って寝てる二人。改蔵の素肌が温かい。窓から朝の光と雀の鳴き声が漏れ入ってくる。ま
るで少女漫画で主人公カップルが結ばれた翌朝の典型的なシーンみたい。
改蔵と結ばれて、3日経ったのかぁ。
はじめて二人同時に昇り詰め、本当に結ばれたんだなと実感できたのが昨夜。そのまま私たちは満ち足
りた気持ちで眠ってしまった。夏涼しく冬暖かいこの布団はセミダブル。まるで始めから私たちがこう
いう関係になるためにあったようにおあつらえむきだ。
よし、新妻みたいに振舞っちゃえ。
チュッ、と寝顔にキスをした。夢にまで見た、改蔵とのモーニングキッス。改蔵が目覚める。
「おはよ。」
私は微笑みながら朝の挨拶。改蔵はまだ眠そうにしてる。
服を着終わるのを見計らったようにおばさんが部屋に来た。
ちなみに布団は一つしか使ってないから、それがばれないよう既にしまってある。
「おはよう。もう起きたんだ、昨日の朝が遅かったから、今朝もまだ寝てるかと思ったわ。」
おばさんはいつものようにくずかごを覗き込む。私はハッとなった。布団の事に気を取られてくずかご
を忘れてた。だって、くずかごには…その…夕べの…。
でも、別に顔色も変えずにおばさんは「すぐに朝ご飯よ」と言うと出て行った。
おかしいな、気づかなかったんだろうか?私も覗き込む。ちゃんと、昨夜の愛の行為の後始末のティッ
シュが丸まってる。普段はこんなの入ってないし、不審に思わないのってかえって変だなあ。
昨日の朝はくずかご覗かなかったわね、そういえば。それにシーツを洗濯するからって持ってくのもし
なかったな。幸い初体験の出血はわずかでシーツは汚れなかったから、持ってかれても…
あれ?
ひょっとして、おばさんがいつもくずかごとシーツを点検してた理由って。
まさかね、なら気づく筈だし。
朝ご飯時も私たちは「夕べ?別になんて事もなかったよ、いつもと同じ」みたいにふるまう。
別におばさんの目が気になってる訳じゃない。単純に夕べの事を思い出すとまだ恥ずかしいんだもん。
そんな私たちにおばさんは、区役所に多数の届出用紙を貰いに行くというお使いを頼んだ。
二人でお出かけだ。いってきますを言う。
と、玄関から家の居間におばさんがいるのが見えた。電話してる。なんか妙に嬉しそうに笑いながら。
おばさんのこういう表情って久しぶりに見るなー。残念ながら会話の内容はほとんど聞こえない。誰と
話してるんだろ?なんかうちのママっぽいんだけど…まあいいや、出かけなきゃ。
「いっぱい貰ったね。印鑑証明、転出届、転入届…それにこれに…婚姻届まで。こんなに何するの?」
「届出用紙のカタログ作るんだとさ。でも、婚姻届って言うと、あれ思い出すな。」
帰り道の私たち。うんうん、思い出すなあ『けっこんとどけ』。
小学生の時だ。私が改蔵を公園のジャングルジムから突き落としてしまい、気絶して皆で大騒ぎになっ
て(天才がアホに、ってのまんがの中だけだよ)…私は大泣きし、改蔵が気づいた後「せきにんとるか
ら」と私のそれを書いて…。
それを見た改蔵が、じゃあ自分もと同様にけっこんとどけを書いたのよね。
「あれ、私の書いた方だけタイムカプセルから出てきて、すっごい冷やかされたんだよね。改蔵は自分
の書いた方は慌てて捨てちゃってさ、ずるい奴よね…ところで改蔵、私たちの関係、しばらく人には内
緒にしとこうね…サンデーへの報告も。まんがの中の私たちは、清らかな関係のままでいいじゃん。」
「まあいいけど…あ。部長。」
「あら、おうちにうかがう所だったのよ。どう?二日経てば、さすがになんか進展あったでしょ?」
…私はほとんど呆然。
だって、人の彼氏を寝取っておいてよ、それでいて、心も身体も傷つく痛い経験をして彼との関係を繋
ぎ戻した私の目の前にしれっと現れて、私と改蔵の初エッチを聞き出そうとする、なんてありなの?
「その反応、無事に結ばれたみたいね。おめでとう。」
「…あのですねぇ。てか改蔵何よその表情?さては部長が今日うちに来るってわかってたのね?」
「うー。たしかに『二日後にうちに来て進展具合を聞くから』って言ってたけど…まさか本気とは…」
結局、3人で喫茶店に入ると、部長は何も悪びれることなく私と改蔵から二人の初エッチ、二度目三度
目のエッチの様子を尋問(ほんとにそんな感じなのだ)していった。
「へぇ…3回目でもう一緒にイクことできたんだ。やっぱりあなた達SEXの相性もいいみたいね。」
部長はそう言うとお茶を一口飲んだ。
「もっとも私ですら一回でイッちゃったくらいだから、改蔵くん自体の能力が高いのかもしれないけど
ね。おとといの夜のことは今でも思い出しちゃうわ…あんな気持ちよかったの久しぶり…。」
部長はうっとりした表情。私の頭には改蔵が部長と裸で絡み合い2人が同時に達するシーンが強制的に
浮かび、嫉妬で胸が焼き付くように痛む。これで何回目か、もうわからない。
「あのですね部長…聞くのも嫌なんですけど、それをあえて聞きますけど…何であんなことしたんです
か?部長があんなことしたせいで、私がどれだけ苦しんだかわかってます?」
「あら心外ね。壊れ始めてた二人の仲を繋いであげたのよ私、彼に『女の子の扱い方』を教える事で。」
「はあ?」
「ねえ羽美ちゃん。ここ最近、改蔵くんに対する勘って言うかアンテナみたいなもの、鈍ったって感じ
てなかった?以前ならすぐ解った彼の言う事が不可解だったり、予測したのと行動が違ったりとか。」
「え…」
「改蔵くんもそうでしょ?当たりみたいね。あなた達はね、身も心もお互いを男と女として意識し始め
てたのに、相手をまだ幼馴染としての扱い方で接し続けようとしてたの。違う?」
「幼馴染としての…扱い方?接し方?」
「そう。あのままで一緒にいたら、意識と行動のギャップが原因で、いつか二人を繋ぐ糸は切れてた筈
よ。どっちかに相手をちゃんと異性として扱えるノウハウを教えておく必要があったって訳。」
すましてそう言うと部長はお茶を飲み干した。
支払いをしてる改蔵を店に残して表に出た。思い切って私は部長に聞いてみる。
「部長…改蔵とエッチしたのが私たちの仲を繋ぎ止める為だったなら…もうしないって事ですよね?」
部長は、2秒ほど間を置くと(彼女にしてはずいぶん長い間だ)軽く微笑んだ。
「どうかしら。実は私の気持ちもかなり揺らいでるのよ、彼への興味と好意の間で。じゃ、ご馳走様。」
外ハネを揺らし部長は去る。私は再度呆然として立ち尽くしてる。
そして年末は慌しく過ぎてゆく。あとは二人は喧嘩もせずに、仲睦まじく、夜になるとエッチを繰り返
しながら、2002年は終えていった。
大晦日。二人は2003年を一緒にコタツの中で待つ。年が開けたらもう寝ようね…ちょっとドキドキ。
昨日してないし、憧れの「姫初め」…ああ、早く新年来ないかな。みかんと雪見大福おいしいな。
そしてついにTVの中で除夜の鐘の108つ目が鳴り、2003年が明けた。
約束通り、二人は新年の挨拶をコタツの中でする。一緒に暮らしてる二人にしか出来ない、小さな幸せ。
「おめでとうございます。」
「おめでとうございます。」
さて、布団を敷こうか…と思ったら玄関のチャイムが鳴った。
「おめでとうございます。」
地丹くんだ。
「…あんた、なんでいんの?」
私はたぶんすっごい迷惑そうな顔のはずだ。地丹は意地悪そうにニヤニヤしてる。
2年参りにはならないけど、急遽普段着のまま神社に真夜中の初詣に行く事にした。外は寒い。元旦は
雪が降るかもって言ってたっけ、どんより曇ってる。
地丹は福引で当てたごーか旅行の話を自慢げに何度も繰り返す。私はそれを「どうせ最初で最後、一生
の運使い果たしたね」とかまぜっかえす。で、それを改蔵がネタにし始め、騒ぎながら神社についた。
神社は結構混んでいる。
改蔵は、わざと人ごみの多いほうに私と地丹くんを連れて行くと、わざと地丹くんとはぐれた。
そして私の手を引っ張って神社の裏の人気の少ない所へ。今年初めてのキス。いい雰囲気。なのに…。
「おーい、かいぞうくーん、うみちゃーん。どこいったのー?おみくじひこうよー。僕大凶だったんだ
よ、ほんとに一生の運使い果たしちゃったのかなー?もう一度引きたいんだよー小銭貸してよー。」
無視したいんだけど、声はこっちに近づいてくる。やむなく私たちは声のほうに向かう。
あーあ。ちょっとしらけた。
でも、これで家に帰ったら…ね。
毎年お正月になるたび思うんだけど、おばさんのお雑煮は、うちのママのよりずっと美味しい。今年は
毎食これが食べられて幸せだぞっと。いや、ひょっとすると、来年以降もずーっと…。
だけどお雑煮とおせちを食べながら、私はおばさんに対し少し罪悪感を感じてる。
だって、今朝は午前2時に初詣からそーっと戻ってきて、おばさんを起こさないように気づかれないよ
うにと必死で口を塞いで姫始めをして、4時に寝て10時ころ起きてきて、彼女の実の息子とエッチし
たなんておくびにも出さず何食わぬ顔で『明けましておめでとうございますおばさん』って…。
やっぱちょっと後ろめたいでしょ、そういうの?
それはさておき。少し御屠蘇も飲みながら、私はちょっとそわそわしてる。
今日の夜から明日の夕方にかけて、私と改蔵はこの家で二人きりになるのだ。
勝家は御年始の回り先が多く、毎年元旦から二日にかけて家を空ける習慣なの。
去年までは、その間は改蔵が私の家に来て泊まってたんだけどねぇ…。
午後まだおばさんがいる時間に名取家が来訪。なぜかパパが私を見るなり、肩を両手で掴むと大げさに
涙ぐんだ。まるで娘を嫁に出す直前の父親のように…そして改蔵に、
「改蔵くん、羽美を…羽美をよろしく頼むよ…」
と言った。ちょっとちょっとなんなのよ、私の知らない裏側で一体何が起きてるのよ?
そうこうするうち名取家が帰って夜。おばさんが年始の贈答品とかを抱えて慌しく出て行く。
二人っきりになった。では、さっそく…。
隣のおうちから新春かくし芸大会のテレビの音が聞こえてくるのを聞きながら愛し合うのはなんか変な
気分。でも、それ以外は別にいつもの夜とあまり変わらない。おばさんがいないからって大きな声を出
すわけにも行かないしね、なんせ隣のテレビの音が聞こえるくらいだから。
元旦2回目のエッチ…だけどイクのは今日はもう4回目…私どんどん淫らな女になってくなぁ…口を塞
いでいられなくなり、改蔵に夢中でしがみつく…そして…終わった後の気だるい心地よさ。
指を絡めあわせて布団の中、しばらく甘々にしてる二人。彼が急に目をきらきらさせた。
ん、この目、なんか企んでるな。
「なあ羽美、久しぶりに、一緒に風呂に入ろうぜ。」
私が洗い場で石鹸だらけになりながら身体を洗ってると、改蔵が湯船の中で呟いた。
「オマエ…身体を洗う順序、昔とちっとも変わってないんだな。逆だろ、それ。」
「何よ、またその話?身体はね、脚のつま先から順に上に向けて洗うの、当たり前でしょ。」
「違うって、手から腕、胸から下に向けて洗うもんだって。絶対それが正しい。」
「ちがいますー、これが正しいってママが言ってたもん。でもさ、小学校のころからお風呂に入ると5
回に1回はこの議論になるけど、未だに平行線なのね私たち。へんなのー。」
言いながら、やっぱり私は上へと向け洗い続ける。
「改蔵のエッチ、おっぱい見ちゃやぁだ…だからってモジャモジャな所見るなー、気にしてんのに。」
「昔はつるつるだったのにな、ソコ。でもオマエ、生えてきたのも早かったよな…」
ちなみに、今話題にしてるトコ(私の恥丘)に毛が生えてきたのを最初に見つけたのは、ママでも私自
身でもなく改蔵だったりする。やっぱりお風呂に入ってた時だ。
「そんな事あったな。あんときゃ、オマエすごい剣幕で、俺は溺死寸前にさせられたんだっけ。
でもオマエ、恥ずかしがるくせに隠さないんだな。SEXん時も暗くしろって言うくらいだから、風
呂でも隠すかと思ったよ。まあおかげで、久々に明るい所で思う存分鑑賞できて嬉しいけど。」
「それはさ、私たち17年間で一緒にお風呂に入らなかった時期ってここ数年、いってみればほんの最
近だけな訳じゃない?だもの、お風呂場だと、今さら部分的に身体隠すのってかえって意識しちゃうし
恥ずかしいよ。ねえ私もお湯に浸かりたい。ちょっと身体ずらして…おじゃましまーす。」
「そうか、ずーっと10何年も丸出しで一緒に入ってたのが、急に隠したら不自然だよな…」
私は浴槽に脚を入れ、慎重にお尻を沈める。
「わ、溢れる溢れる、お湯もったいねー…てか無理ないか?高校生二人が一緒に風呂の中って…」
「こ、この湯船こんな狭かった?でも、これでアヒルのオモチャとジョウロがあれば昔のまんまだね。」
何とか身体を落ち着かせようとする。だけど…。
「いてて脚が絡まる…だめだ、この体勢じゃ…羽美、向こうむけ、俺が抱きかかえるようにするしかな
いな…そうそう、そのまま背中向けて腰下ろして俺の両脚の間に…これでどうだ?」
何とかその体勢で落ち着いた。静かになった浴室内、たまにパチャ、パチャとお湯の音がする。
「ふう、いいお湯ねぇ…ってちょっと、おっぱい揉まないでよ…」
「そんなこといったってなぁ…こうして抱きかかえてて、手の位置に胸があったら、揉みたくなるだろ
う普通。おお、やわらかいな、いつ揉んでも…」
「ねぇ、お尻に…アレが硬くなってあたってるんだけど…」
「お、乳首勃ってきた。感じてんのか?」
「アレがお尻に当たってるってば。なんか、ビクビク脈打ってるわよ…」
「な、なんかムラムラしてきたんだよ…なあ、このまま…」
さらに手を出してくる改蔵。その手をつねってやったけど、平気であちこち撫で回し股間へと…。
私は改蔵の両脚の間から逃げ出そうとし、改蔵は私の身体を抱きかかえてお湯に引き戻そうとする。
きゃあきゃあ言いながら私は何とかシャワーに手を伸ばし、改蔵の顔に水をかけた。
ひるんだ改蔵の腕から逃れて洗い場に飛び出す私。おっぱいをぷるぷる揺らして大笑い。
「あっはっはっ、どーだ改蔵まいったかー!」
「やったなこのやろー!」
改蔵も笑いつつ手桶で私の顔にお湯を浴びせかける。
私は、目をつぶり歓声を上げながら、改蔵がいるとおぼしき方向に闇雲にシャワーの水を振りまく。
お湯掛け遊びになっちゃった。小学生の頃よくやったなぁ、これ。
改蔵は湯船で沈みかけ、私は石鹸で転んで何度も尻餅をつき、それでも掛け合いは続く。
尻餅ついた時、絶対見せないぞと以前誓った筈のアソコをずいぶん見られちゃったけど…ま、いっか。
あまりに楽しかったので、二人ともエッチする気になるまで少し時間がかかった。
「あ、だめだよ改蔵…だめだよ…あ、イク、イク…っ、だめ…あ…!」
…イッちゃった…改蔵もくたっと私に体を預ける。密着した胸を通じ彼の鼓動がじかに伝わってくる。
ふと窓のカーテンを見た。朝日でうっすらオレンジ色に染まり始めてる。
あれぇ、もう1月2日の朝なんだ…ええと、夕べはお風呂場で遊んで、出たらすぐこの部屋に来てそれ
っきり一歩も部屋を出ずにさっきまで…お腹すくわけだな…。改蔵が、私の上から退く。
結局元旦早々私たち何回したんだろ?一年の計は元旦にありっていうけど…。
「…さてと。なあ羽美…」
なんだろどうしたんだろ。ひょっとして今からまたエッチ?ひえー。まあ、あと一回くらいなら…。
「俺な…カレーが食いたいんだけど。」
「は?」
私の目が点に。
「まだおせちあるんだけど。お雑煮も…」
「昔っから『おせちもいいけどカレーもね』って言うじゃないか。カレーが食いたい。早く食わせろ、
ほら急げ。勿論ちくわの入ってないやつだぞ。」
…色気より食い気か、あんたは。
私は上体を起こし、何か着ようと探す。だけど昨日の昼に脱ぎ捨てた私のどてらが落ちてるだけだ。
そっか、夕べはお風呂から出たらバスタオル姿のままこの部屋に来たんだっけ。
改蔵がカレーカレーとうるさい。たんすを開ける間もなく、全裸にどてらだけ羽織って台所に行く。
お皿にサトウのご飯を盛ってボンカレーをかけて電子レンジに。
ボーダーシャツだけ被り改蔵も台所に来た。あいつも着るものを見つけられなかったらしい。
ちなみに勝家では冬になると屋内全体が暖房入れっぱなしになってて、こんな格好でも少しは平気。
「もうちょっと待ってね。すぐ温まるから。」
「なんかオマエ…いっそどてらなんか脱いじゃえよ。」
「はあ?あんた馬鹿?私、下に何も着てないんだよ?」
「台所だしエプロン着ければいいじゃん。ま、ちょっとした余興だな。」
変な奴…ま、いいか。さほど変な事にはならないよね。従う私。
「…これでいい?恥ずかしいよぉ、風邪ひいちゃう。ちょっとだけだよ、すぐ着込みに戻るからね。」
私はレンジに屈み込んで表示を読む。また改蔵のほうに振り返り「あと1分だよ」と…
改蔵が勃起してる。しかもパンツを穿いてないので、反り返ったソレがボーダーシャツをめくり上げじ
かに見えて…押し倒された。冷たい木の床に裸の背中がゴチンと当たる。
「やーっ!!痛い痛い痛い、冷たいっ!改蔵やめてー!!」
改蔵はエプロンをずり下ろし私の胸にむしゃぶりつく。こんな興奮してる改蔵初めてだ。
この格好が、久々にあいつの「けだものスイッチ」を入れちゃったみたい。
電子レンジが、チン、と鳴った。
「カレー!改蔵、カレー出来たってば!カレーと私のどっちがいいの、カレーのほうがいいでしょ?」
何を言ってるんだ私は。
だけどやたらに強引だ、クリスマスの夜の半レイプの時より強引なくらい。何とか腕を振り払い、改蔵
に背中を向け四つん這いで逃れようとする。すると腰を鷲掴みにされて引き戻された。
いけない、お尻とアソコ丸出しで、四つん這いだと改蔵から全部見えちゃってるんだ…改蔵の興奮が倍
増し、この体勢で挿れようとしてるのを背中で感じる。
「ダメダメダメー!後ろからなんてやだー!そんなにしたいならお部屋行こ、居間でもいいからー!」
「居間か…まあいいか、はあはあ…ただし裸エプロンのままだぞ、そのカッコでソファーで…」
「それでいいからっ!」
うちの居間は、カーテンを閉めてても私たちのお部屋よりずっと明るい。
しかもソファーで屈曲位。
だから私には、彼が私のアソコに出たり入ったりするのがいやでも見えちゃう…もちろん初めて。
恥ずかしくって一生懸命エプロンの裾でソコを覆い隠そうとする私。
すると改蔵はよく見えるようにそれをめくり上げる。ただしエプロンを外す気はないらしい。
なんか変態っぽいよ…改蔵がめくり上げたエプロンの下裾が、私の胸の位置にある。私はその裾を引き
上げて顔を覆った。下半身はおへそあたりから下が丸出しだ。
そんな自分の痴態を、エプロンの裾で自らの目から隠しながら、羞恥心に耐える。
そして私は、いつもより恥ずかしさ三倍増しで、歓喜の瞬間を迎えた。
あとは普通に何回か愛し合った。さすがに疲れちゃって、二人とも今夜はエッチはする気にならない。
おばさんも帰ってきたしね。で、一人の布団の中、私はちょっと反省してる。
『こんなエッチばっかししてよかったのかな?なんかここ数ヶ月で、意地張り合って喧嘩ばっかの仲か
らやりまくりカップルへと、まあ我ながら極端にふれたよね。どっか中間に落としどころないかなぁ…。』
ふと私は部長が言った「相手を異性としてきちんと扱える幼馴染」ってのを思い出していた。
3学期が始まった。始業式の今日は寒い晴れの日。二人で登校、一緒に教室に入る。
主だったクラスメートとは、冬休み中に会ったり電話したりメールしたりしてるので、特に明けまして
おめでとうも言わない。ただ、一部の娘たちが…
「明けましておめでとう改蔵くん。今年もよろしくねっ。天皇杯の京都優勝、改蔵君の予想大当たりね。」
「ああ、おめでと。な、予想通りだったろ。」
「改蔵くんあけおめ。ねーねー、新年会って事でカラオケ行かない今日の午後?」
またこれかよ。
あのね、もう改蔵は私のものなんですからねっ。
だいたい何よこの娘達のカッコ。いつもよりさらに短いミニスカで、ほとんどパンツ見えてんじゃん。
改蔵を誘惑してるつもり?彼はそんなのに惑わされ…って、こら、改蔵どこ見てる。
結局、改蔵を私一人の完全独占状態にできたのは、このお正月だけだってことか。結ばれた結果、改蔵
が私以外をはねつけるようになってればいいなと淡い期待を抱いてたんだけど…まあ無理か。
部長、改蔵が『女の子の扱い方』を覚えた結果、かえって二人の危機は増えそうですよ。
例によって私はやんわりと、でも断固と、改蔵と女の子の会話に割って入った。
「ねぇあんた達。改蔵とカラオケいったって、オタク系の歌しか歌わないわよ。」
「…いいでしょ、私たちは知った上で改蔵くんと行きたいんだから。」
「よくないわよ、だいたいね、改蔵ってのは、電波でガサツでスケベで男のくせに肌…」
「おい羽美。」
改蔵がさえぎり目で「今はやめとけ」と合図を私によこす。私も目で「何よ黙って見てろって言うの?」
と合図を返す。二度三度、無言の会話が行き来した。それを見ていたクラスメートが言う。
「…あんたたち、何を目と目で通じ合ってんのよ。」
「え?いえ別に…」
「通じてねーよ。こんな電波女、一緒にいると色々大変なんだぞ、訳わからんこと言い出して。」
「誰が電波女よ、まんがの私と混同すんじゃないわよ。だいたいあんた…」
周りをそっちのけで口論開始。またかよとの表情の周囲。
数分やり合って口論が途切れた所で、中等部から一緒だった男の子がなんかしみじみ言った。
「お前ら、幼馴染っつーか…ずいぶんとよくわかりあえる間柄になってきてるみたいだな。」
「な、なによ、口論見てるだけでそんなのわかるの?違うの、私と改蔵は…」
「今の口論の端々でわかるわよ。てか、私たちは彼とカラオケの相談してたのに、羽美ちゃんはさ…」
「判ってる、幼馴染だからって特別な権利があるわけじゃないってのはこの前聞いたわよ、だけど…」
「は?判ってないじゃん、もうあんたたち、幼馴染の権利とか言うレベルじゃないんでしょ。」
「あ、あれ?違うの?ひょっとしてまた空気読めてないの私?」
「…そうじゃなくって。まあいいわ、カラオケはキャンセル。あーあ遅かったか…ほかの娘はみんな改
蔵君の事あきらめるのかなぁ、どうしよ私…。」
言われてみると、改蔵を取り巻いてた娘たちが散り散りになって彼女一人になってる。散って行った娘
たちの表情はそろって諦め顔だ。なんでだろ?
ま、改蔵との肉体関係がばれた訳じゃないからいいか。
始業式だけの学校から、まっすぐ帰る。なぜか大工さんが私たちの部屋で作業中。おばさんが言う。
「あらおかえり改蔵。急で悪いけど、あんたの部屋リフォームするわよ。」
リフォームは、一日ちょっとであっという間に完了した。したのはいいんだけど。
なんか変な部屋になっちゃったのだ。フローリングで今風なのはまあ許そう。問題は、変なオブジェが
天井からぶら下がってる事、ベッドがWベッドな事…。
おばさんは例によってこともなげに「ああ、これ?どーせだからと思ってね。」と言った。
でもなんか、もろに「愛の巣」って感じなんですけど。何考えてんだろあの人…。
この話をサンデーへの定期連絡で言ったら、センセイが「ぜひ見たい」と編集さんと見学に来た。恐ら
く次のまんがでこの部屋、思いっきり誇張されて出てくるんだろうな。
そうそう、同時に、秋にいきなり運び込んだあのおっきな荷物が運び出されて消えていた。
結局あの荷物、梱包を解かずに返却したのかぁ。あれ、何のために取り寄せたのかな?うーん謎だ。
それはともかく。私たちは数日でこの部屋になじんでしまった。Wベッドでのエッチは、まだほんのちょ
っと恥ずかしいんだけど…まあいいことだよね、仲良くできるし。
でも、このリフォームがきっかけで、思わぬ「不発弾」が爆発したのだ。
不発弾…それは、改蔵の書いた、私に対する『けっこんとどけ』。
「改蔵、あんたこんなの書いてたのね。私も知らなかったわ、仲良かったもんねあの頃あんた達。」
と、おばさん。もともとリフォームの時改蔵の私物は運び出したんだけど…押入れの隅に隠すようにこ
れが一枚だけ残ってて、大工さんがごみと思って捨てようとしたのをおばさんがキープしたんだって。
改蔵が赤くなる。こんなに真っ赤になった改蔵は久しぶり。微笑みながらおばさん退室。
私の記憶が、連鎖的に鮮明に蘇ってゆく。
郊外の林に作った秘密基地。そこで二人で、これと、私の書いたあれを見せ合った事。
そしてその時、将来を誓い合った事。
「ねえ、このけっこんとどけ、どうして取っておいてあるの?捨てたって言ったのに。」
「いや、その…いいだろ取っといたって…忘れてくれよ。な?」
「やだ、忘れない。これ、記念になると思うよ…ずっと、ずっーっとあとで。」
「るさいな、ならねーよ…あー典型的な不発弾だよなーそれ…暮れに思い出した時にかたしときゃ…」
言いつつ向こうをむいたが、背中すらすごく恥ずかしそう。
男の子っておっかしいの。エッチの時は、私の前で恥ずかしい所とか平気で見せるし恥ずかしい言葉も
平気でささやいたりするのに…こういうのはそれより恥ずかしいってわけ?なんか可愛い。
あいつに対する、幼かったあの頃みたいな親しみを含んだ愛情がよみがえってゆく。
もちろん、今現在のオトナの男女としての(エッチなそれを含む)恋愛感情はそのままで。
今夜は、ちょっといつもより私の方から積極的に愛してあげようか。
絶対やらないからねと言っておいた彼への口での愛撫も、今夜なら出来そうな気分…。
部長に言われたのをヒントに、理想像というか二人の関係の落し所みたいに考えつつあった「相手をち
ゃんとした異性として扱い、愛を交しあえる幼馴染」…それに少しずつ、近づけていけるかな。
改蔵はまだ赤い顔。急に立ち上がり部屋を出て、ドアを慌しく閉めた。
指を挟んだのか「いてぇ」との声。
あいつは改蔵、私と将来を誓い合った事もある幼馴染の男の子だ。
そして、その誓いは、少なくとも私にとってはすでに…。
―つづく―