今夜はクリスマスイブ。正確には2002年12月24日の夜9時を少し回った所だ。  
改蔵との外食を終え、夜の公園を歩く。あいつの少し後ろをついて行きつつ、ふと私が言った。  
「でも改蔵…今日、私となんかいっしょにいていいわけ?」  
「だってオレ…予約してしまったんだもの。」  
予約?なんだっけ…改蔵がすぐ脇のベンチを見ている。つられて私も見た。  
そうだ、このベンチ…クリスマスイブにこのベンチに座ってて、改蔵が言ったことがあったっけ。たし  
か小学校低学年の頃のことだ。  
『大きくなったら、クリスマスは毎年羽美ちゃんといっしょにいるよ。』  
あれって予約だったのか。幼い日の甘い記憶。  
「当日のキャンセルは効かないから。」  
改蔵は振り向きながら話を継いだ。すこし冗談めかして。  
「それにキャンセル料、いくら取られるかわからないからな。」  
…そんな昔の事、覚えていてくれたんだ…。  
雪はとくに降っていない、普通の曇りの夜。おばさん(改蔵のお母さん)が「外で食事して来て」と言  
ったので外出したのはいいけど、イブだからとそこら中が予約客やらで混み混みで、やっと何とか食事  
できた。そんな今ひとつだった夜が、急にロマンチックになってゆく。  
 
腕を組んだまま家に帰った。書置きがある。  
『急に用事が出来ました。今夜は日付けが変わるまで戻りません。 母』  
クリスマスイブ、改蔵と一つ屋根の下二人きり。  
書置きを前にしてキス。改蔵はもちろん私の身体をまさぐり始めている。厚ぼったいセーターの裾から  
手を入れてじかに胸を揉み始める。冷えた手。初めて乳首をいじられる。先端が感じて硬くなってくる  
のがわかる。あいつはさらにロングスカートの腰のボタンを外そうとする。  
私は囁いた。  
「待って…ね、シャワー浴びさせて…っていうか、改蔵が先に浴びたほうがいいかな…お願い、せっつ  
かないで、お部屋でちゃんと布団の上で…ね?」  
 
改蔵の後、入れ替わりにシャワーを浴びる。  
私は思う。ここ2ヶ月、寝床の二人の間には衝立をおいて寝てた。結ばれそうでタイミングがつかめず  
悶々とするのに二人とも疲れてしまってそうしていたんだけど…それも終わにすべき時よね。  
二人の歩みにはなんか迷路じみた回り道や微妙な曲がり角があったけど、とうとうゴールかぁ。  
こういう時が来るかと思って買っておいた、とっておきの下着を身に着け、パジャマを着る。  
浴室から部屋の前へ。ドキドキする。二回深呼吸、ドアを開ける。  
布団の上の改蔵が、慌てて携帯を隠した。  
…なによそれ。  
 
「…どしたの改蔵?何で隠したの?」  
ごく平静にそう聞いた。だけど改蔵はなんか曖昧に答える。それが私の心を刺激した。  
渡してよ、いや渡さない、で二人はなんかだんだんムキになってきた。奪い合いになる。  
私はとうとう改蔵からソレを奪い取った。唖然。今夜の女の子からの着信だけで25件あるのだ。  
一件だけ、ボイスメモが残されていた。改蔵の手を払いのけて再生。  
『ヤホーメリークリスマースかいろーくーん。いまねーみんなでシャンパン空けてんのー。かいぞーく  
んとえっちしてもいいってゆってるこもいるろー。ほかのよやくなんれみんなすっぽかしておいでー。』  
「おい羽美、これはな、あのな…」  
「ばかあああ――――っっっ!!!!」  
私は携帯を改蔵の顔面に思っきし投げつけた。ストライク。  
「…ってぇなーこの馬鹿…わかんねーのかよ、女の子達が一方的にかけてきてるだけだろ!」  
「るさい、この電波人間、スケベ、薄情者、歩くオタクデータベース、1000年に一度のまれに見る  
大馬鹿野郎、惑星大直列規模の大災厄男、有史以来最悪の浮気者、えーとそれから…」  
「アホかお前、落ち着けこら、せっかくの夜だろが!」  
「せっかくの夜だからでしょうっ!!なんで女の子と…電話なんか…ううう」  
「かかってきただけで取ってねえよ、かかってきただけで浮気かよ!!大体酔っ払い女の…」  
突然『光速エスパー』の主題歌が部屋に響き渡る。改蔵の携帯の着信メロディだ。  
 
畳に転がってたその携帯を改蔵より先にまた取り上げる。別の女の子からだ。私は通話ボタンを押した。  
「呪う呪う呪う呪ってやるー!!あんたなんか、一生しんでろー!!」  
向こうに何も喋らせずにそれだけ叫ぶと通話を切って、また改蔵に投げつけた。ツーストライク。  
 
日付が変わった深夜。  
帰ってきたおばさんが私たちの部屋を見て、さしものあの人がちょっとだけ呆然。  
部屋は喧嘩でモノが飛び交って酷い有様、私も改蔵もぐちゃぐちゃの格好になってる。  
とっておきだった下着も、喧嘩の最中に自分で何かに引っ掛けてかぎさきを作ってしまった。  
おばさんのとりなしで、お互い何とか我慢して、また衝立をおいて寝た。こんなクリスマスイブ最悪だ。  
 
朝になった。私は(夕べはちょっと大人気なかったかな)と思い直し、改蔵に挨拶する。昔はこのくら  
いの喧嘩なんてしょっちゅうしてたんだし、どおって事ないはずだ。  
「改蔵、おはよー。」  
だが改蔵は答えない。まだ怒ってるらしい。  
私もむっとする。せっかく、こっちは昨日の事はなしにしてやろうとさわやかに挨拶したのに。  
そうなの、その気なの。じゃ、私だって考えがあるからね。  
朝ご飯もずっと無言で、お互い怒ったまま食べる。もちろん学校には別々に登校した。  
まあ、前もごくまれにはあったけどね、こういう事。  
ちなみに今日12月25日は、うちの学校は終業式の日だ。授業はない。終了式と大掃除だけ。  
大掃除の最中の教室、今度は改蔵がさわやかに話しかけてきた。  
「おう羽美、帰る前、部室に寄ってくだろ?」  
だが私は答えない。まだ怒ってるのよ、と誇張した態度を見せる。  
改蔵がむっとする。むっとしたまま教室を出て行った。朝と逆パターンだ。  
あれれ。以前こんな喧嘩した時は、私がこんなだと「そんなヘソ曲げんなよ」とか言って困った顔でさ  
らに謝って来たもんなのに。おかしいな。なんかいつもと違うこと言ったかな私。  
やだな、今までとちょっとパターンが違ってきてる。ずるずるっとヘンな方向に行きそう…。  
 
仕方ない、とりあえず「実はもうさほど怒ってないのよ」って言っとこうっと。  
掃除をほっぽりだして改蔵を探しに行く。  
でも、おかしな事にあいつが見つからない。私のいつもの勘でいるはずの所に、今日はいないのだ。  
私の勘、狂いだしてる…?私は少し焦りだした。  
あ、部長だ。訊いてみようっと。  
「部長、ええっと…改蔵見ませんでした?」  
「どうしたの?なんか、喧嘩してるって聞いたけど。」  
「え?な、なんで…わ、私たち喧嘩なんてしてませんよっ。」  
「あらそう。じゃ、私は改蔵くんの居場所は知らないわ、それでいいわね?またね、良い2003年を。」  
なんか妙に含みのある言い方で部長は去る。  
おっとそれどこじゃない。あっちへ行ってみよう。あ、今度は地丹くんだ。  
「地丹くん、改蔵知らない?どこかで見なかった?」  
「ぐひひ、タダじゃぁダメだね。喧嘩してるみたいだし、情報料高いよ?」  
「…セコイわね。てか、なんで私と改蔵が喧嘩してることになってんの?誰にも何も言ってないのに?」  
「誰だって見ただけでわかるよ一発で。でもさ、改蔵くん見つけてどうすんの、謝るの?くふふ。」  
「謝る?何で私が?改蔵の方が謝るべきなのよ、まあもっとも改蔵が土下座して謝ったって許す気は…」  
言葉に詰まった。改蔵が、廊下の曲がり角から出てきたのだ。冷たい表情。  
「あ…う…なによ…か、改蔵が…悪いんだし…土下座ってのは…アレだけど…あんたが謝るほうが…」  
改蔵が、もと来た道を引き返す。どうも私を探していたらしい、謝るつもりだったのかも…。  
地丹がしどろもどろで「僕じゃない、羽美ちゃんが自分で勝手にヘンなこと口走っただけだぞ」と言い  
つつ立ち去るのを、私はぼんやり聞いていた。  
 
一人での帰り道。私はまたむかむかしてきた。  
なんなのこれ。確かに地丹に冷やかされてむっとした勢いで意地悪な事言ったけど、私そんなに悪い?  
だいたい、私が、今までどれだけあんたの事を考えてきたと思ってるのよ。あんたは気付いてないだろ  
うけど(私も最近まで気づいてなかったけど)、私の今がこうなのは、あんたの影響じゃないか。  
 
私が髪を伸ばしてるの、あんたが「長い髪の子っていいよなぁ」って言ってからじゃないか、小4の時。  
染めないのだってあんたが「日本人はやっぱ黒い髪だよ」っていったからじゃないか、中2の時。  
この学校に進学したのだってそうじゃないか。他にあれだって、これだって、それだって…  
はあ。  
怒るのももう疲れた。ブスになるだけだ。  
何度もため息をつきつつ、家に帰ってきた。重いコートを脱ぐ。制服も脱ぐ。  
着替え終わると壁にもたれかかるように座り込む。そして思う。  
何でこの喧嘩こじれてるんだろう。いつもと何がどう違うんだろう。どこで違ってきたんだろう。  
たった一箇所曲がり道を間違えたせいで道を大きく迷ってしまったような気分。あるいはもつれた糸を  
戻そうとしてよりもつれさせてしまったような…。  
改蔵はまだ帰ってきていない。  
 
居間から声がする。  
「羽美ちゃん、ちょっと手伝ってくれない?」  
はいいきまーすといって居間へ。おばさんは、アルバムの整理をしてる所だ。  
「改蔵の古いアルバムが出てきたの。だいたいはきちんと貼られてるんだけど、暇が無かった時期なん  
かの整理されてない写真が、貼り付けられないでアルバムの適当なページの間に挟み込んだままだった  
りするのよ。アルバム全ページ見て、そういうのないかチェックしてくれない?私が貼り付けるから。」  
厚いアルバムを、私は1ページずつめくっていく。  
いろんな改蔵の写真がある。私もたくさん写ってる。だから初めて見る写真ってのはあまりない。  
私は、アルバムの後ろのページからチェックしていった。別に理由は無く、成り行きでそうなったんだ  
けど…結果として私はアルバムの中で時間を逆行する事になった。  
アルバムの中の私たちはだんだん幼くなってゆく。  
小学校の運動会で改蔵に勝って得意そうな私。クラス備え付けパソコン(子供用お絵かきソフトとか入  
ってた)で先生すら知らない機能を発見しご満悦な改蔵。素っ裸で公園の噴水で水遊びする私と改蔵。  
ふと見ると、おばさんは今の私の顔をよく眺めてる。なんかちょっと恥ずかしい。  
 
さらにめくると、もう覚えていない頃の写真になる。  
まだよちよち歩きの私と改蔵。ビニールボールの取り合いをしてる。  
お互いの母親に、入れ替わって抱っこされてる私と改蔵。  
さらにさかのぼり最初の一ページ目になった。その中に、私の家にもあって幾度となく見た写真が。  
生まれて数日の、おくるみに包まれて眠る改蔵。その横には、ちょこんとお座りした生後6ヶ月の私が  
「初めて見るこの物体は一体なんだろう?」という表情で改蔵を見つめてる。そんな写真だ。  
私は改蔵よりほぼ半年早く生まれた。少しだけ年上。  
実際、中等部2年になって抜かれるまで私のほうが常に背が高かったのだ。  
「懐かしいでしょ?ねえ羽美ちゃん、もしなんか改蔵の事で困ったらいつでも言ってね。力になるわ。」  
私はあいまいに頷いた。  
 
部屋に戻り、一人になって、私は考える。  
17年間で知らず知らずのうちに紡いで来た糸みたいなのってあるんだ。それを、少しこんがらがった  
からって引きちぎっちゃうなんて…喧嘩なんてもったいないよね。  
よし、とりあえず、帰ってきたら、笑顔で迎えよう。そして仲直り。  
それで、もし改蔵が私の身体を求めてきたら…もう、抱かれてしまおう。いや、いっその事私の方から  
改蔵にエッチをねだっちゃおうか。改蔵を無理やり…私に押し倒されてびっくりしてる改蔵を想像した  
ら、ちょっと変に愉快な気分。やっと少しは気分が晴れやかになってきた。  
そうだ、だとしたら、こんなカッコでいるわけに行かないな。特に下着、今日着たら捨てようと思って  
たほつれかけのババシャツだし。エッチの時にこんなのあいつに見られたらばつが悪いよね。  
携帯にメールが着信。題は『メリークリスマス』。  
(改蔵かな?ひょっとして、あいつから仲直りのメールを…)  
そんなタイプじゃないのは知っているが、もしかして、と思い着信内容を開く。  
『喧嘩こじれてるみたいね。これってチャンスじゃない?という訳で、改蔵くんの童貞を頂きました。  
本当よ。恥ずかしい話だけど本気でイッちゃった。だって改蔵くんって結構上手なんだもの。』  
部長からだ。  
 
「…はあ??」  
部長にしては捻りのない冗談だ。メールはもっと長いけど下まで読む必要もなさそうね。返信しよ。  
『変なイタズラしないで下さい。部長って改蔵に好意ないんじゃなかったんですかあ?証拠でも見せて  
もらえば信じますけどね。』  
これでよし、と。  
それより明日はどうしようか。商店街でいろいろ買いたいものがあるんだけど、お金ないし、どれを優  
先するか決めなきゃ…。あ、また着信。これも部長からだ。  
題名は『お望みの証拠×2』。今度は文字はない。画像だけだ。  
改蔵のボーダーシャツとうちの高等部女子制服(両方脱いだもの)を並べた画像。  
使用済みの避妊具(口を縛ってある)の画像。  
 
まじなの、これ?  
 
おばさんの協力も得て数時間かけて自分をやっと納得させた事が、あっけなく崩れていく。  
私は必死で部長に、そしてその後は改蔵にメールや通話を試みたが返事がない。  
自分の目の前にある未来が、自分がついさっきまで予想していたのと全く別なコースに入っている。道  
に迷ったどころではない、歩いていた道が突然引き剥がされ、見たこともない道に引きなおされたよう  
なもんだ。戻るべき本来の道など無くなってしまったのだ。  
目の前がぐるぐる回りだした。落ち着かずそこらを徘徊する。  
おばさんが心配して声をかけてくれてるんだけど、頭に入らず反対の耳から抜けてゆく。  
それでもしだいに事態の本質がじわじわ私の心に染み入って来て、すでに飽和状態の私の頭の中に今度  
はさらに大量の怒りが湧き出して来た。あいつへの怨念と嫉妬で心はもう破裂寸前。  
改蔵の浮気者、改蔵の唐変木、改蔵のスカポンタン…。  
 
浮気者兼唐変木兼スカポンタンは、私が部屋の片づけをしてるときに帰ってきた。  
改蔵はぐだぐだ言い訳する。2時間近くそれが続いたが、私はあてつけで布団を敷いて潜り込み、無言  
の背中で改蔵の存在自体を拒否する事にした。あいつはついに万策尽きたのか、部屋を出て行った。  
 
まさかこのまま戻ってこない気じゃないでしょうね…不安になり聞き耳を立てる。どうやら風呂に入っ  
てるらしい。外出したんじゃないのか、よかった…。  
ちょっと、何でほっとしなきゃならないのよ。ああもう、自分で自分がわかんない。  
冷静になってきた頭で考える。まさか改蔵は、浮気相手の部長が私に直接メールでその情事の様子を送  
るなんて思いもよらなかったんだろう。焦って私との仲の修復を考えてるのは帰ってからの言動でよく  
わかる。でも私にもどうにも出来ない、こっちは血液が沸騰寸前だったのだ。  
今、改蔵は風呂の中で、次の行動つまり状況打開の解決策を練っているんだろう。  
恐らくそれは…と、私が結論に達したとほぼ同時に、改蔵が風呂を出て部屋に戻ってきた。  
そして改蔵は、予想通り、強引に私の処女を奪いにきた。  
 
あいつにとってはこれが二人の危機的な状況を打開する唯一の解決策というわけだ。さっきの迷い道の  
例えでいえば、どこを走ってるのかわからなくなったので道から飛び出してオフロードでがったんがっ  
たん不整地を強引に目的地に進もうとしてるようなものだし、もつれた糸の例えの方なら、一旦もつれ  
た所をちょきんと切ってしまってほぐしてから結びなおそうというようなものだ。  
私は抵抗している。  
だけど、さっきのアルバムの中の二人の姿が頭の中にちらついてあまり必死になれない。恐らく今夜、  
今この形で結ばれなかったら、私たちはもうあのアルバムの頃みたいな仲良しには戻れないだろう。  
部長やみんなは、わざとか意図せずにか知らないけど、私を「選択の余地なし」って状況に追い込んだ  
のだ。だけど、だけど…葛藤のあまり、私は泣き出した。  
私の髪を改蔵が撫でてる。そういや前もこんなことあったな、いつだったっけ、もうよくわかんない…。  
抵抗しなくなった私を、あいつは裸に剥いてゆく。  
こんな事になるんならもっとましな下着を着けとくんだった、おっぱいを大きくする努力をしとくんだ  
った、いやそんなことよりお風呂に入っておくんだった。  
ずっと望んでいた筈の事…改蔵相手の処女喪失は、こうしてあまりにも不本意な形でやってきた。  
そして…  
覚悟していた最大の痛みの、倍を上回る痛みが私を貫いた。  
 
「…わよ。羽美ちゃんも起こして。」  
「ほーい。」  
おばさんと改蔵の会話で目が覚めた。いつの間にか朝。  
そうか、私、夕べ改蔵と…。  
改蔵は、布団が一つしか敷いていないのをおばさんの目から隠すような位置でドアの前に立っている。  
おばさんが去る足音。私は上体を起こす。頭ボサボサ、そういや下半身裸のままだ、パンツどこだろ…。  
「聞いたろ?もう飯だとさ。早く着替えて行こうぜ。」  
改蔵はなんか機嫌がいい。  
そりゃそうでしょ、一晩で童貞喪失を含め二人も女の子とエッチしたんだから。  
私はまたむかむかしてきた。改蔵がそれに気づいて顔が曇る。  
そう。もつれて切ってしまった二人の糸は、まだ完全にはほぐれていないのだ。ましてや、繋ぎ直す所  
まではとてもとても…。  
いくら「これで部長と対等以上になれた」「これであのアルバムの頃みたいに仲良しに戻れる」との思い  
でほっとしたからって、私をレイプ同然に処女を奪った奴の腕枕で(しかも甘える様に)眠ってしまっ  
たと思うと、自分自身が情けないやら悔しいやら…。だいたい、まだ少しアソコが痛いのよ。  
あんたに私の苦しみはわかんないでしょ。だから、それなりの思いをしてもらうからね。  
 
だから昼間は商店街で改蔵をさんざん振り回した。完全に私が主導権を握ったのだ。改蔵をうろたえさ  
せたり散財させたり。意地悪?でもそうでもしないと溜飲を下げられなかったのよ。  
今日のサンデー編集部への定期報告も『おとといのイブは改蔵がいろんな娘と予約しまくってたもんで  
大混乱になっちゃってもう大変だったんですよぉ』などと改蔵には口を挟ませずに私が一人であること  
ないこと喋りまくった。もちろん喪失の話は一切なし。  
センセイがこのネタをどんなまんがにするか楽しみ楽しみ。  
そんなわけで、夕方には、かなり気分はすっきりして、恨みはあるけど怒りはだいぶ鎮まってきていた。  
まあそのせいで、夜になったら隙をつかれて改蔵に主導権を奪われてしまったんだけど。  
夜の主導権ってのは、要するに…夜半の今現在、またエッチされちゃってる、ってことなんだけど。  
 
夕べと違って強引にって訳じゃない。主導権をとられたせいで、改蔵のなすがまま身体を弄られ、気持  
ちよさに私の方からエッチをおねだりする羽目になってしまったのだ。  
ああなんたる不覚、こんなに気持ちいいなんて…色っぽい喘ぎ声まで出る。やだ嘘、こんなの私じゃな  
い…経験豊富なエッチな女の子になっちゃったみたい。外ではカタカタ風の音。  
「ここ、感じるか?気持ちいいか?しゃべらなくていいぞ、頷くとかで…感じないか、そうか…じゃあ  
こっちか?こっちが感じるか?そうか、ここがイイか…」  
改蔵は腰を色々使い、体位とか変えながら訊く。私は頷いたり嫌々をしたりして答える。そんなことを  
繰り返し、あいつは私の感じる所を次々探り当てていった。一人エッチではとても得られなかった快感  
が溢れ、夕べの事のうらみつらみとかがどこかへ飛んでゆく。悔しいけど、私はいつの間にか  
「ね、改蔵、好き、好きだよ、ねえ、好きなの…。」  
なんて口走っていた。改蔵は答える代わりに私の左手を右手で握り締めてきた。私は強く握り返す。  
「だ、駄目、私もう…だめぇ…」  
「ん?何が駄目なんだよ?イキそうなのか?」  
「うん、駄目なの、改蔵…だめ…駄目なの…」  
「まだだよ。俺はまだなんだよ…一緒にイクんだ。な?」  
「そんなの…無理だよ、あ…あ…駄目だよ、だめ…だよ…お…!」  
私の心がはじけた。激しい何かが身体中を駆け巡る…アソコが改蔵のモノを、私の意思と関係なく締め  
付けているのがわかる。改蔵はまだイッてない。私、イッた瞬間の顔を見られてる、恥ずかしい。  
またカタリと物音がする。廊下の方だ、風の音じゃないのかな、よくわかんない…。  
 
私の中に出し終えた改蔵が、荒い息で私の隣に横たわる。そうだ、絶対訊こうと思ってた事があるのよ。  
「ね、私の中でイッて、気持ちよかった?」  
「ん?」  
「私の中って、気持ちいい?」  
「ああ。すごく良かったぞ。」  
「んふふふー。」  
 
そうそう、その言葉を聞きたかったのよ。私たちアソコの相性いいのかなー。  
同時にイク事は出来なかったけど、それはそのうちに出来るようになるよね。  
わだかまりが溶けていく。ようやく私たちは、二人が通るべき道にたどり着いたのだ。あるいは、もつ  
れて切れていた二人の糸を、何とかすんでの所で繋げることが出来た…。  
私の心の針は、わずか半日で、「最悪」から「最高」へと振り切れていた。  
もちろん、彼が浮気したことを忘れるなんて出来ない。でも、今はそれは脇に置いておこう。  
一つ布団でイチャイチャする。改蔵は私の最大の弱点の箇所をじらすように弄ってる。  
「あふ、そこ、だめだっ…てば、ああもう、だいたい何で…そんなとこ知ってんのよ…やははは。」  
「小さいころから知ってるさ。昔から、ここくすぐるともうぜんぜん駄目だったじゃないかお前。」  
「ああん…お…幼馴染って…やらしい関係よね、弱点も恥ずかしい所も全部知られきってるんだもん…」  
なんかこのまま、今夜2度目が始まりそう。一晩2回するなんて好きモノのカップルみたい。  
ちなみに、今いじられてる私の最大の弱点の位置ってのは、ぜっっったい秘密だ。  
 
暗い室内でいろいろされた。こういうののやり方は多分、部長からレッスン…いやそれは今は考えまい。  
されながら私は、とめどなく頭に溢れてくる考えを口に出す。  
「ねえ改蔵、今地球の半分は夜だよね…その…そのさらに半分が真夜中より前だから、地球の四分の一  
が、人が寝床に入った頃の世界、って事になるよね…」  
「そうだけど…何言いたいんだオマエ? 」  
「あのね、あのね…地球の四分の一が、みんなが寝床に入る頃だって事は…て事は…世界中のカップル  
のうちの四分の一、ひょっとすると数億の男女が…今、私たちみたいなエッチしてる可能性あるってこ  
とでしょ…」  
「はあ…はあ…な、なんだそりゃ…それより挿れるぞ…ん…」  
「あ、あっあっ…か…改蔵、ああん…改蔵、それでね…」  
「…電波な事言ってないで集中しろよ…はあ、はあ…気持ちよくないのかよ…」  
「いい、気持ちいい…ねえ改蔵、お願い、聞いてよ…なんかさ、全世界の、数億もの…恋人同士や夫婦  
が…あ、ああ…今この瞬間、私たちと同じように…愛し合ってるなんて…凄いと思わない…?」  
 
「凄いよ、凄いから黙ってろ、はあはあ…」  
薄暗がりの中で改蔵にゆっくりと愛される。私は暫く口を手で塞いでたけど、また喋り出した。  
「ねぇ、そのいまエッチしてる人たちのどの位が…ああ…どの位が、私たちと同じ、結ばれたばかりの  
二人なのかな…幼馴染で、喧嘩したり色々した末に…や…やっと結ばれて、幸せになれたばかりのカッ  
プルってどのくらいなのかな…?」  
「さあな…星の数ほどいるんじゃないか…そのうちの一組だと思うと幸せだろ…?」  
私はさらに話をしようとしたんだけど、キスで口を塞がれてしまった。暗闇で口もきけずにいると、ど  
うしても気持ちというか感覚は刺激を受けてる所に集中してしまう。1、2回目は気づかなかったけど、  
改蔵って私の中でこんなふうに動いてるんだ…それに私のアソコ、こんなふうに反応するんだ…。  
ところがそこで改蔵が急に腰を動かすのをやめた。  
なんだろう?なんか表情が苦しそう。あ、改蔵のアレ、私の中でこんなに膨れて反り返ってる。  
そっか、イキそうなのを抑えようとしてるんだ。私と一緒にイクつもりなんだね。  
少ししてアレの興奮を鎮めるのに成功し、また改蔵は腰を動かし始める。次第に私も昂ぶってゆく。  
 
私が先にイキそうになったり、改蔵が我慢できなくなりかけたり。なかなか上手く二人の昂ぶりを合わ  
せられなかったが、それでもだんだん二人の心は一つになってきた。  
私は嬉しかった。改蔵も嬉しそうだ。そう、新しく見つけた二人の道を通って、繋がった真っ直ぐな糸  
を辿って、このまま二人一緒に…。  
改蔵の動きがだんだんせわしなくなってきた。  
私も必死で彼にしがみついて何度も改蔵の名を呼び続ける。  
改蔵がついに弾けはじめた。同時に私も達してゆく。私はさらに無我夢中でその身体を引き寄せる…そ  
して全身で受け止める…私を愛し尽くして熱を帯びたその逞しい身体と、その持ち主の気持ちを。  
あいつは改蔵、私と将来を誓い合った事もある幼馴染の男の子だ。  
そして、その誓いは、こうして二人一緒に達した絶頂の幸せの中で…。  
 
―つづく―  
 

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