「ムリだって、ねえ改蔵、入らないって…。」
「大丈夫、絶対入る…そういうふうに出来てるんだ…ムリな筈などないんだ…!」
改蔵は額に汗をだらだら流してる。私もなんだかドキドキする。
夜の勝家。今夜はおばさんはいない、二人きり。
確かに改蔵の気持ちはわかる。私も出来れば入ってほしい。事実もう少しで入りそうなんだけど…。
「駄目っぽいよ…やっぱムリだったのよ、123分のドラマを120分テープに収めようなんて!!」
「最後まで諦めるな、まだロスタイムがある!120分テープといいつつ、実のところ2〜3分は余分
にあるんだ!だからまだ時間はあるはず、最後まで決して諦めな…」
そこまで改蔵が力説した瞬間。
テープの端まで録画が終わり、自動巻き戻しが開始された。まだドラマはエンディング曲の途中だ。
ここ、センセイがまんがにした時は、絶対「ズガンボーン」って効果音入ってるだろうな。改蔵ががっ
くりとくずれ落ちる。
「だから言ったのに…てか、ビデオが入るか入らないかばっかり気にしちゃって、本編の内容を改蔵ち
ゃんと見てた?あんた『ディープ静香』のドラマ版最新作の結末、あんなに知りたがってたでしょ?」
ディープカードが無数に飛び交う、痛快無比な大団円だったのに。でもあいつは私の話を聞いていない
ようだ。まだぶつぶつ「…オレの心のナカヤマが…」とか言ってる改蔵の背中を慰める。
「静香さんカッコよかったじゃない。結末予想、改蔵の当たりだよ。よかったね。」
チュッ、と私は改蔵の頬にキス。だが改蔵はふいと立ち上がって部屋に戻ってしまった。つまんない。
2002年10月下旬の今、私たちの仲の進展具合は、ちょっと微妙だったりする。
夏休み前にキスをされてアソコを(パンツの上からだけど)触られたりした後、何回か似たような事は
あった。服の上からなら、胸やお尻は結構触られて当たり前な仲になっている。
(この事は、編集さんやセンセイへの定期連絡では言っていない。これは二人だけの秘め事なのだ。)
あの竿竹屋の一件で、私が改蔵の事を好きなのはもう本人に直接言っちゃってあるし、改蔵が私の身体
を欲しがってるのもはっきりした。だから、お互いむやみに無関心ぶったり意地を張り合ったりする必
要もなくなったし、あとは最後の一線を越えるだけ、なんだけど。
ただ…その最後の一線が、幸か不幸か、越えるのに時間がかかっているのだ。
不思議?な事に、私がその気の時はなぜか改蔵にその気がなく、改蔵がその気の時に限って私にその気
がなかったり都合が悪い(意味わかるよね?)ってのがもうずいぶん続いてる。
なんていうか…間の悪いカップルだなあ。
まあちょっと怖いってのもある。「改蔵に抱かれたがってる私」は確かに私の心にいるけど、それとは
別に「処女のままでいたい私」も結構強い存在で、それが私を引き止めてるのだ。
なのに仲が進展しない事にはどっちの私も不満。矛盾してるんだけどね…。
翌日の月曜になった。季節はもう秋。だいぶ涼しくなってきて、同時に空が高くなってきた。
いつも通り登校、教室に入る。私があいつへの好意を隠さなくなったので、クラスメートは「何かあっ
たなこの二人」と感づいているらしい。でも特に冷やかされもしてない。
だから遠慮なく、時折こうして好き好き光線を全身から放射させてみるんだけど…改蔵のバカは私を無
視し他の娘と話を始めてしまった。人前では未だに私がべたべたして来るのを嫌がる奴なのだ。
それはまあ、性格だから仕方ないんだけど、問題は、相手の娘が改蔵に対しまんざらでもなさそうな場
合が多いって事。ちょうど今みたいに。ほらほら。
『最近のあなた達のクラスの女の子達の態度、違ってきてない?改蔵くんに対して。』
私は最近になって、部長が以前そんなふうに言った意味がようやく判ってきている所だ。
確かに私、その辺の空気って読めてなかったかなぁ。
でも、一度気づいてしまえば、さほど空気って読むの難しくないよね。
私はやんわりと、でも断固と、改蔵と女の子の会話に割って入った。友達は「おやおや」と静観の構え。
「ねえあんた、改蔵と話してて楽しい?改蔵なんかのどこがいいの?」
「はあ?」
「あのね、改蔵ってのはね、電波でガサツでスケベで男のくせに肌スベスベで屁理屈大王で歩くオタク
データベースで…そんな男よ?好きになったっていい事なんて全然ないわよ?」
「…羽美ちゃんはどうなのよ。」
「私はいいのっ。」
「なにそれ。ねえ羽美ちゃん、幼馴染だからって特別な権利があるわけじゃないのよ、判る?」
「え?別にそんなつもりは…」
「そうよそうよ、それに羽美ちゃん、同居してるからってそれだけで優位に立てる訳じゃないわよ?」
「だからそんなつもりは…」
なんか数人の女の子が彼女に加勢してきた。なんなんだこれ。
彼女らは私が改蔵に対しさほど優位でないという所をしきりについてくる。私は元々自分が優位だと思
ってないので何でそこを責められるのかわかんない。だから口論はなんか噛み合わない。
その時突然改蔵(それまで超然としてた)が、あそうそう用事を思い出したとか言って席を立った。
私は改蔵そっちのけで口論をしていたのでそれを気にとめてなかったんだけど、気づいたら相手の娘が
元の一人だけになってる。しかも彼女まで口論を切り上げて教室を出て行ってしまった。
やった、この口論、私の勝ちだー。
「…何言ってんの羽美ちゃん。勝った負けたじゃないでしょ?あの子たちが何で教室を出てったのかわ
かってないの?改蔵くんをつかまえに行ったのよ、これは競争なの。」
「へ?何で?競争って何の?」
「あのねあんたねえ。ほんっと状況てか空気が読めないわね、あんたも改蔵くん探しに行きなさいよ。」
私は状況を掴みきれないまま改蔵がいるところに向かう。多分あの辺か、あの辺にいるんだろう。
改蔵は、思ったとおり科学部の入ってる棟の屋上で寝っ転がって「モー」を読んでいた。
他の娘はいない。一人くらいはもうあいつを見つけてるだろうと予測してたんだけど。
改蔵を探し当てるなんてこんなに簡単なのに、何でみんなは見つけられないのかな?
「こんなとこでなにしてんのよ。あんたの事でなんかヘンな会話してたってのに。」
「だから退散してきたんじゃないか、面倒になりそうだから。」
面倒、ねえ。当事者だってのに。
私がそんなことを考えてると、改蔵がぼそっとつぶやいた。
「今日はそのパンツなのか。生乾きじゃないのかそれ。」
「へ?あ、見たわねっ!」
私はぱっとスカートの前を押さえた。
まあ、床にじかに横たわってる人間の顔のそばにミニスカートで立ってる私が悪いんだけど。
でも、いつどの下着を洗濯して乾き具合はどうとか、そういうのが丸わかりなのって恥ずかしいなあ。
改蔵が上体を起こす。
「見えたっていいだろ、減るもんじゃなし。てか、もっと見せてくれよ。」
というと、改蔵は自分の目の高さにある私のスカートをめくり上げた。
まあいいか、それにさっきの事もあるし…木綿で花の刺繍のあるパンツを見せたままにしておく私。
さっきの女の子達のうちの一人がすぐ近くまで来て、気づかずに去ってゆく足音がする。
突然、改蔵は私の不意をついてパンツの前を引き下ろした。私の黒い逆三角形の茂みが白日の下に。
「うぎゃ!?こ、こらっすけべっ!!」
あいつの手をべしっと力任せに叩きパンツを引き戻す。その間0.5秒くらい。
「いてて。あいかわらずモジャモジャだな…ハイレグや薄い色の水着を着れない訳だよな。」
「んもう…何で学校でそーゆー事するかなこのスケベ男はっ。」
私はさらに色々言おうとしたんだけど、あいつは腕を取って私を引き寄せた。コンクリートの床に思わ
ず膝をつく私。痛いと思う暇もなく、腰から背中に腕を回されてキス。
「んっ…ん…ん、んん…。」
キスをしたまま、あいつはまたスカートの裾から手を入れてきた。そしてさらにパンツの中に指を入れ
てこようとしている。私はあいつの手を両手で掴む。しばし膠着状態。
「じかに触られるのはやだっ…おひさまの下なのに…特に、他の娘と仲良くするような男になんか…」
「話してただけだろ…触らせるのがいやなら見せてくれよ。お前のココ綺麗じゃないか、隠すなよ…」
それでも私が拒否してると、あいつは強引にパンツの上から触ってきた。
「…お、やっぱ濡れてる…生乾きなんじゃなくって今ここで滲み出してきたんだよな、これ…」
「あ、あ、だめだよ…だめだってば、もう休み時間終わ…やぁん…ねぇ、教室戻ろうよ…あ、ああ…」
そこでチャイムが鳴った。
私たちは二人一緒で教室に。すると友達の一人から「やっぱり羽美ちゃんが見つけたのね」と言われた。
口論の相手だった娘たちの表情が、なぜだか少し悔しそうに見える。
夜になった。
お風呂に入ろう。浴室に向かう途中、居間でおばさんが電話してるのが聞こえた。
「…までしてもくっつかないんですもの。もう少し強引な手段を使わないとダメですねあの二人。今ち
ょっと計画中なのがあるんです。ええ、例のアレです。ちょっと露骨もしれませんが。たぶん木曜に…」
なんだろ?誰と話してるんだろ?仕事の話かな?
お風呂で洗い場の椅子に腰掛け身体をこすってて、あいつとの昼間の会話を思い出した。
『お前のココ綺麗じゃないか』って言ってたけど…トイレの薄暗い中で2・3秒見ただけだったのにわ
かるのかなあいつ?多分、良くは見えてなかったからまた見たくてああ言ってるんだろな。
ていうか、私自身が自分のを見たことないのよね。
小学生の時一度だけ、改蔵とアソコを見せっこした事がある。その時私のを見た改蔵は単にびっくりし
て興奮してただけで、綺麗とも気味悪いとも言わなかった。どんな形してるんだろ?
脚を開いて覗き込む。毛がモジャモジャで見えない。毛を掻き分けようと指を持って行く。濡れてまと
わりつく長い毛を両脇によけようとしたら、偶然内側の敏感な部分に触ってしまった。甘美なむず痒い
ような感覚が伝わってくる。
なんとなくいじりだしそうになったけど、自制する。
(…だめだめ、はしたない女の子になっちゃう、夕べも一昨日もしたんだし…)
私は独りでする時は大抵お風呂の中だ。改蔵はどこでしてるんだろ?同居ってこの辺不便よね。
私はイク時は小さな甲高い「あっあっ」って声が漏れるくらいなので、シャワーの音を大きめにしてお
けば気づかれる心配はない。だから今まで一人エッチしてるのがばれずに済んできたのだ。
話を戻そう。なんで男って女のココを見たがるんだろ?一度じっくり見せたらあいつもおとなしくなる
かな?綺麗なものなら見せてあげてもいいかな…。
ただ、他の人のを見たことがあるわけでもないし、綺麗かどうかの比較なんて出来ないんだけど…。
そうだ、手鏡があったはずだ。振り向いて壁の棚を見る。
風呂場でも使える曇り止めつきのやつが置いてある。そう、これで見てみればいいんだ…。
おそるおそる手鏡を股間に持って行く。反対の手で陰毛を掻き分け、指で開いて見る…。
お風呂から出て、部屋に戻ると、改蔵に怪訝そうな顔をされた。
「おいどうした?なんだその表情は?」
私は「別に」と言ってそのまま布団を敷いて横になる。心に強く誓う。
(絶対に、アソコ、改蔵には見せないぞ…どんな関係になっても、どんなに見たがっても絶対に…。)
お風呂でのそんなダメージから、ほぼ回復した今日は木曜日。
帰りがけ。久しぶりに二人で、また腕を組むの組まないので揉めている。揉めながらうちの前まで来た。
そしたらちょうどその時、玄関先にでっかいクロネコ便が止まった。
なんかおばさんが指図して、大きい重そうな梱包物を家の中に運び込もうとしている。
私と改蔵はびっくりして駆け寄った。
「な、何ですかこれ?」
「ちょっと、ね。思うところあって取り寄せたの。」
「いや、だから…何ですかこれ?」
「秘密よ。ちょっと、訳ありで必要なのよ。」
改蔵も訊く。
「…仕事関係かよ。」
「どうとも言えないわね。あなた達は気にしなくていいの。さ、運び込んで頂戴。」
作業員がずかずか入り込んで色々物を動かし始める。その一人が、私たちの部屋に入ってゆく。
「ちょっと、おばさん?まさか私たちの部屋にあんな大きなの運び込む気じゃ?」
「そんな訳ないでしょ?入らないわよこれ。これは、書斎にスペースを空けて、そこに入れるの。」
「ですよね、びっくりした…でも、じゃ、何で私たちの部屋でも人が作業してるんですか?」
「ああ、あれね。あの人はね、これを置く書斎のスペースを空けるために作業してもらってるの。」
「話がよく見えないんだけど…?」
「あら、判らない改蔵?これを置くには書斎にスペースがいるの。スペースを空けるには書斎の既にそ
こにあるものをどかさないといけないの。これ、いいわよね?」
「うんうん。」
「だから、書斎から、使わないものを移動する作業をしてもらってるの。順送り式に移動させるって訳。
これもいいわよね?」
「うんうん。」
「で、その『使わないものの移動先』があなた達の部屋の押入れなの。結果として押入れ満杯になるか
ら、しばらく改蔵は羽美ちゃんと並んで寝てもらう事になるけど、これももちろん、いいわよね?」
んで就寝時間。
私たちの部屋に、私が寝るための例の高級布団と、改蔵が寝るための普通の布団、合わせて2組を敷く。
片方はセミダブルなんで、重なるように無理やり敷いた。
思うに…改蔵のお母さんのやることなすことって、全てが私と改蔵が一緒に寝る方向へ寝る方向へと事
態を進めてるみたい。そんなことしたら何が起こるかわかりそうなもんなのに。
うちのママだってそうだ。私は常にこの家での現状は報告してる。なのに、二人が危うい事態になって
るのをやめるようおばさんに頼み込むとかを全くしてないようなのだ。ていうか私が事態を伝えた時に
は何故か既に全部知ってて承知してるようなそぶりを見せることもある…。
何考えてるんだろうあの人たち?私たちが「過ち」を起こしちゃってから後で慌てても知らないからね。
まあそれはともかく。今、私たちはお互い、自分の布団の上でパジャマ姿で居心地悪くしてる。
「…おい。ほんとにいいのかこれで?」
「だって…仕方ないでしょぉ…。ほんと、荷物置く場所は、この部屋の押入れしかないんだから。」
「ほんとかよ、まだ他の部屋に余裕とか…」
「ないわよ。あんた、掃除片づけした事ないから知らないんでしょうけど、この家はもうきつきつに詰
まってるの、おばさんの言う事はそれ自体は間違ってないのよ。」
私は真っ赤だが、改蔵もなんか顔が赤い。っていうか、改蔵は表情がなんが上ずってきた。
「わかった。つまりこうやって寝る以外方法がないって事だな。じゃ何が起きても不可抗力だよな。」
「え?え?」
そう、この顔は「やりたがりモード」の改蔵の表情だ。
私はヒイてしまった。こんな獣じみた状態の改蔵に処女を奪われたら痛いだけだ、きっと。
今夜は、「改蔵がやりたいモード、私がやりたくないモード」のパターンになっちゃったみたい。
「とにかく寝るぞ。他に方法がないんだから。ほらもう横になれ、電気消すぞ、いいな?」
私が横になり布団を被ると、改蔵はせっかちに電気を消した。そして、私の布団に入ってくる。
「こらこらこら!あんたの布団はあっちだよ!!」
「おお、そうか、暗くてよく見えなかった。すまんすまん。」
「嘘付け。」
「よいしょっと…少し寒いな。そっち暖かいか?そうか。いいなあ高級な布団は。ちょっと確かめ…」
「来るなバカ!」
「いてて。いいだろ手を入れるくらい…少しだけだっつーの…やっぱ暖かいな。もっと中のほうは…」
「きゃ、今、お尻ちょっと触ったわよ!少しだけだって言ったでしょ!!」
「いてえなー。中のほうを探ってみただけじゃねえか…暖かさを比べたいんだよ。ほら、こんな違う…」
「さわるなー!!今度はおっぱいに触ったっ、それもわざと襟元から手を突っ込もうとしたっ!!」
「いていていて!わかった、しねえよ、もうしねえからガンダムで殴るな、それクローバー製でレア物
なんだから!!ったく、おとなしく寝るよ、寝ればいいんだろ…ううう、蛇の生殺しだ…。」
なんかちょっとかわいそうではある。
でも同情して少し油断してたら、今度は寝返りをうつふりをして脚から私の布団に…。
「もーおちおち寝てらんないわ!『私とエッチするのは、地雷を踏むようなもんだ』っていつか言って
なかったっけ!?ほんっとすけべね、最低男!!」
私は久しぶりにトラップを仕掛けなければならなかった。それも二人の境界線に沿ってずらりと。
金だらいは、夜中に3回落ちた。
朝起きると、いつも通りおばさんが布団シーツ毛布一切合財洗うと言って部屋に来た。大げさだなあ。
くずかごもいつもより念入りに覗いてた。そしてなぜか残念そうな顔をした。
だけど今回、改蔵のしつこいくらいのエッチへの積極性をみたな、ふふ。
改蔵ちょっと待っててね…1日かけて心の準備をすれば、私だって今回みたく強く拒んだりしないよ。
と思ったのに、今日の学校、体育の授業は男子は長距離走だったようだ。改蔵の一番の苦手。たぶん改
蔵今夜ものすごく疲れてるよね。それに夕べあまり寝れてないみたいだし。ああ間の悪い二人…。
まいっか。放課後になり、部室でいつも通りムダ話をしまくる私たち。
「改蔵は、動物で例えるとイヌね。」
「どーしたの羽美ちゃん。合コンで話題のなくなった大学生みたいなこと言って。」
「地丹くんは動物で例えると猿かな。」
「猿!なんだよ猿って…そーゆう羽美ちゃんはなんなんだよ?」
「私…(ふっ)私は…にーんげーん。」
「…小学生んとき、そんなこと言うやついたっけなぁ。100%嫌われてましたけど。」
せっかくの私のギャグ?に、改蔵がげんなりしたようにそう言った。実際疲れてるんだろうけど。
でも、こういう馬鹿話になって来るとカラ元気が出るのが改蔵で、例によって「タトラレ」とか「プレ
ステ初期型の後ろの左端の穴」とか、いろいろへんなたとえを持ち出して地丹くんをいじめ始めた。今
日もいつものパターンに突入だ。
小一時間だべったろうか。ふと、改蔵がトイレに行ったところで地丹くんが訊いた。
「ねー、改蔵くんと羽美ちゃんって、ほんとにアレの関係になってないの?同室で寝てるのにさぁ?」
「…ほんとよ。何にもない間柄よ。」
夕べされそうになったけど、と付け加えたいがやめておく。
「だいたいあんた、たまにうちに遊びに来てんじゃん。部屋に来てそういう間柄に見える?私たち。」
「まー、たしかにそうは見えないけどね。ぐふふ。」
「何よその笑いは。」
「いや、お互いヤリたくって仕方ないクセに、意地はって我慢して悶々としてる様を考えると滑稽で…」
「ほんっと人間の器が小さいわねあんた!」
「おっと、僕はこれからバイトに行かないとね。退散、退散。くひひ。」
地丹は半笑いのまま出て行ってしまった。やな奴。
改蔵はトイレの帰りにどこかに寄り道してる。部長と二人になった。彼女はそれを待ってたらしい。
「ところでさ。羽美ちゃん、改蔵くんがエッチ要求したのに拒んだそうじゃない?夕べ。」
「!?何で知ってんですか?改蔵そんな事部長に言ったんですか?」
「私が誘導尋問したのよ、彼は悪くないわ。ていうか、実はあんたたちって、キスはもちろんだけど触
り合ったりとか結構エッチな事いろいろしてるみたいじゃないの。」
…そんなことまで言ったのかあいつ。
「後一歩でしょ?羽美ちゃん未だにこの状態がそんなに居心地がいい?先に進みたいと思わないの?」
「…その一歩が、私たちにとっては、なんか大きな一歩みたいで…なんか、アレをするって…一世一代
の大決心が要るわけで…」
「そう。もったいないわね。もろいと思ってたあんたたち二人の最終ライン、結構強固だったんだ。で
も…そっか、羽美ちゃんには、改蔵くんとの仲の最終ラインを突き抜ける勇気がないのかぁ…じゃ、私
が改蔵くんとそこを突き抜けてみちゃおうかな?」
「ど、どういう意味です?まさか部長、改蔵の事、好き…」
「好意はないわ。興味はあるけどね。」
私はさらに問い詰めようとしたが、改蔵が戻ってきたのでやめた。でも内心穏やかでない…。
夜。予想した通り、今夜は改蔵は私に向かってこない。布団とかは昨日と全く同じなのに。
昼間の部長の話が頭から離れない。暗い部屋の中、私はなんか身体が火照る。まずいな、今夜は夕べと
逆パターンみたい…。改蔵こっちにこないかな…まさか私の方が行くわけにも…。
「…ねえ改蔵…お話しない?小さい頃、一緒に寝るとよくお話したじゃない。」
「疲れてんだけど…何の話だ、眠ぃな…あの先生とあの先生がデキてる、とかの噂話か?あの頃みたく。」
「そうじゃなくって。あのさ、私たちって、何なのかなぁ、って。」
「家主の息子と居候。居候は家主の息子に絶対服従。」
「あのねえあんたねえ。」
「んじゃ、幼馴染で同級生で、同居してて、まだデキてない関係。」
「だよね。昔、私たち、将来を誓い合った事もあるよね…覚えてる?」
「ああ。」
「あとさ、私は改蔵に好きって言った事何回かあるけど、改蔵はないよね。ねえ改蔵、私の事好き?」
「嫌いならキスしたりとかアソコ触ったりとかするかよ。」
「じゃなくって、ちゃんと好きって言って欲しいの。」
「…眠いんだよ…」
「バカ…改蔵の、バカ…」
「…好きだよ…」
改蔵はそれきり黙ってしまった。むこうを向いてる。
私は感動、っていうか、生まれて初めての高揚感みたいなのを感じた。空だって飛べそうな…。
「ねえ改蔵…そっち行って、いい?」
「何しにだよ…まあいいけど。」
私は起き上がると、パジャマのボタンを外し始めた。上着を脱ぎ、グンゼの肌着も脱ぐ。
小さいながらおっぱいが揺れて、少し涼しい空気にさらされる。
ありきたりな表現だが、心臓がバクバクする。そこで一呼吸置き、決心する。
パジャマのズボンとパンツを同時に下ろし、生まれたままの姿…全裸になった。
改蔵の布団にもぐりこむ。
「改蔵…ねえ…私…あげちゃうね…」
返事がない。身体を密着させる。熱い、男臭い身体。後ろから抱きつくと意外と筋肉質…。
ところが。
改蔵は、寝息を立てている。
「…こら。」
私は呆気にとられた。
こつん、と殴ってみる。起きない。ポカポカ殴ってみる。やっぱり起きない。バッコンバッコン殴った
がまだ起きない。私は遂に首を締め出した。それでも起きない。首を絞めながら言う。
「女の子の…女の子の…一世一代の大決心を無にしやがってええええ!!」
永遠に眠らせてやろうかと一瞬思ったがやめた。
なんかさ、夕べ寝てる最中に、殴られたり首絞められたりした気がするんだけど、気のせいかな?」
今日は休日なので遅い朝食。改蔵がごはんを食べつつ首の回りをさすりながら言う。
私は夕べの事でまだむくれてるので答えない。食べ終わった所で部長からメール。
『夕べはどうだった?改蔵くんとエッチできた?』
…あのねえ。何考えてんだろあの人。してないと返信した。するとすぐにまた着信。
『なんだせっかくたきつけてあげたのに。いいわ、またお話しましょ。ファミレスに集まらない?』
ファミレスは郊外にある。途中は人家の少ない、未だにお地蔵様の列とか雑木林とかある寂しい所だ。
「うー、首締められた所がまだ痛む…でも、柔らかくって暖かいもんが、むにゅーっと身体に押し付け
られた気もするんだよな。なかなか気持ちよかったな、なんだったんだろ。お前覚えないか?」
「べっつにー。」
静かな一本道、秋風が通り過ぎ、セイタカアワダチソウの花が揺れる。私は改蔵に寄り添おうとする。
「だから、あんま近くによるなって…。」
「えー?なんでよぉ。いいじゃん、またラヴコメを強要したいのよー。」
「なんだよ。交換日記か?手作り弁当か?うらみつらみを見せられたり、かいた事のないような汗をだ
らだらかかなきゃならんのか?朝、出会い頭にぶつかって包丁を刺されるのは…」
「そりゃまんがの中の私だ、ボケるんじゃないわよ。」
「ここでキスすんのは勘弁してくれ。もう少し先に、子供の頃二人の秘密基地にしてた林があるだろ、
そこの木陰でなら、まあいいけどな。ほら急げよ。」
…あらら。私は手をつなぎたかっただけなんだけど。ま、いいか。
夕べのことは、「好きだ」って言ってもらえたし、それでチャラにしよう。それより唇のお手入れだ。
私は立ち止まり、急いでリップクリームを塗る。改蔵はすたすた歩いて行ってしまった。
雑木林で、空を見上げながら私を待ってる、ちょっとスマートなプロポーション。
あいつは改蔵、私と将来を誓い合った事もある幼馴染の男の子だ。
そして、その誓いは、いつか必ず…。
ーつづくー