今、トイレを求めて全力疾走する私は、虎馬高校に通うごく普通の女子高生。  
強いて違う所を挙げるとすれば、ちょっと夢見がちでぼんやりしてるところかナ――  
名前は名取羽美。  
なんて自己紹介してる場合じゃない。  
ちょっと催したんで帰り道にある公園のトイレにやって来たの。  
家――私は最近そこの居候から嫁に昇格した――まで待てなかったから。  
公園のトイレは汚いからイヤなんだけど、背に腹は変えられない。  
…ないか  
えっと、確かこの近くに――  
…らないか  
あった。一応ポケットティッシュ(駅で売ってる百円の高い奴。メト○潰す!)は持ってるけど  
できれば紙が備え付けてあれば――  
やらないか  
ああもう煩いなあ、一体どこで誰が喋ってるのよ!  
誰かの声が聞こえたので辺りを見渡す。砂場を見る。  
遊んでいた幼稚園児くらいの子供達が私と目が合った途端、泣き叫びながら逃げて行った。  
「変なお姉さんが来た―――!!!」  
声質が違う。私が聞いた声は、間違いなく若い男のものだった。  
二手に分かれたトイレの入り口を見る。私の勘が正しければ男子トイレにも女子トイレにも、  
"少なくとも"人間の気配はない。  
じゃあ茂み? マズい、あそこは昨夜しえちゃんの藁人形を打ち付けたままだった。  
他人に見付かる前に回収しなければ。そんな事より――  
「目の前で呼んでるだろうに、無視すんなよ!」  
声のした方向をふと見ると、ベンチに一人の小さな男が座っていた。  
 
ウホッ!やな男…  
どこがイヤかと言うと、まず背が極端に低い。  
眼鏡の下の目つきが異様にいやらしい。髪の毛もヅラだし。  
横柄で馴れ馴れしい態度、不潔な服装。付け加えるならば、今日の彼は服を着ている分だけ  
まだマシだと言う事。言い換えれば彼は普段裸で、救いようのない程常識がない。  
…今の説明で分かる人もいると思うけど、実は私ヤツとは知り合いなの。言いたかないけど。  
ヤツ――ちょっとどころか、かなりいやらしい同級生で、名前を坪内地丹と言った。  
「あの、地丹くん。私急いでるんだけど」  
私はできるだけ丁寧に訊ねてみた。事情が事情なのでさっさと先を急ぎたかったけど、  
コイツは粘着質でストーカーだから、無視すれば何をされるか分からない。  
もっともコイツに本当に何かされそうになった所で、たちまち人形達が彼を八つ裂きにした上で  
七代祟る呪いを掛けてあるから、私に害は及ばないと思うけど。  
そう言えばコイツ、何で今日に限って自動車修理工みたいなツナギを着てるんだろう?  
 
そう思っていると、突然地丹くんは私の見ている目の前でツナギのホックをはずしはじめたのだ…!  
「羽美ちゃん、やらないか」  
ツナギの下は全くの裸だった。ギンギンに勃起した大きなおちんちんを誇示するように、  
地丹くんはふんぞり返って言った。  
――改蔵のより……大きい!  
いや、だからと言って地丹くんなんかとセックスしたいとは全く思わない。  
凄いのかも知れないけど、欠点と比べれば……ねぇ。  
私が何も言えず黙っていると、地丹くんはイライラした様子で声を大きくしてもう一度言った。  
「やらないか」  
ムカっと来た。  
カッターナイフを懐から取り出し、彼を切り刻みながら私は叫んでいた。  
「生理的にイヤ!!!」  
 
おしまい  
 

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