――男って大抵、手当たり次第に女の人とセックスしたいって思うんじゃないですか。  
 ええ、そうですとも。ウチの男子生徒を見ていれば分かります。  
 複数の女の子と要領良く付き合って、それでいて相手には他の女の影を微塵も感じさせない、  
そんな生徒を一人知ってるんですよ。  
 まるで年季の入ったジゴロですね、その生徒。  
 まったくどんな育ち方をしたら、あんな中年オヤジみたいに巧く立ち回れる少年になるもんだか。  
一度でいいから親の顔が見たいですよ。  
 そうそう、この前「第三者面談」っていうのがあったんです。「三者面談」じゃなくて。  
 いい機会だから彼の親を一度見てみたいと思ったんですよ。私が教師の職を選んだ動機も、  
生徒と親とを見比べて「将来こんな風になっちゃうんだ」と想像してみたいと思ったからですし。  
 それがあなた、「第三者」ですよ。教師と生徒は赤の他人じゃないっていうことで、  
その場から排除されたんです。ああ恨めしいったら!  
 取り乱して済みませんね。お茶でもどうぞ、私も戴きますからご遠慮なさらずに。  
 何故そこまで男子生徒の情事に詳しいのかって? ああ失礼しました、「事情」と仰ったんですね。  
 そりゃあ私が教師だからですよ。いつも教壇の上から教室を見回しているんです。  
 面白いですよ、教壇から眺める風景は。  
 居眠りをしながら「しっかり、しっかり」と寝言を呟く子、机の上に山手線やアニメのキャラを  
描いている子、中には一心不乱に股裂き人形を作っていて、私が声を掛けても返事をしない子もいますし。  
 どうです、あなたも一度体験されたらどうですか? 人間観察にはもってこいの職場ですよ。  
 え、あの子とどういう関係にあるのかって? イヤだ、邪推は止めて下さいよ。  
 あ、今の話と男子生徒にどういう関係があるかって事ですか。まあ聞いて下さい。  
 それで風景の話に戻りますけど、授業中の彼らの反応というのは、みんな子供な訳ですよ。  
 ただね、彼だけは少し違うんです。授業中はずっとこちらの方向に集中して――黒板の  
文字ではなくて――私を見ているんです。  
 
 ええ、好色の目に晒される事には慣れてます。思春期の男の子が教師に対して淫らな妄想を浮かべる  
のは当然だと思ってますし、アダルトビデオに女教師ものの一大ジャンルがある事も知っております。  
 ですからそんな悪戯小僧の視線も可愛いモンですし、以前の私なら軽く受け流せるものだと思ってい  
たのです。  
 好色の目で見ている生徒に向けて、冗談混じりに軽く微笑んでみたりする訳ですよ。そうやって私を  
じっと見ていた子が、顔を赤らめて机に落とす様子を楽しむ事もあります。  
 じゃあその男子生徒も子供なんだと仰る? いえ全然違います、彼の視線は  
 
 ――明らかに私を視姦してるんです。  
 
 着衣と肌の境界、首筋から鎖骨、胸の間にあるスカーフ、短いスカートに覆われた腰付き。  
 物凄く淫らな視線で私を嘗め回しておいて、いざ私が彼の顔を見ると――  
 ぞっとする程冷たい瞳で、穏やかに微笑み返して来るんです。  
 ベッドの上で女を散々玩びながら、その反応を楽しむ意地悪な男の顔付きですよ。正に凄腕のホストです。  
 その時直感しましたよ。彼は今まで私が付き合った、どんな男性とも違う。  
 事の最中にフェラを強要する男とか、自分だけ先に逝く男とか、或いは「ええか、ええのんか」と  
しつこく聞いてくる男とか、私が何回もしたい時に限って一度で満足する男とか。  
 その癖私がプロポーズの返事をちょっと遅らせただけで、皆さっさと他の女と結婚しやがって!  
 ああ、思い出したら腹が立って来たわ! 絶対あいつら私の身体だけが目当てだったのよ!  
 え、お茶? 有り難うございます、お蔭で少し落ち着きました。では続けましょう。  
 彼の事ですけど、何歳も年が下なのに――女性の歳を詮索しないで下さい――異常なまで  
女性の扱いに手馴れている様子でしたよ。正直な話、私なんか絶対に敵わないと思いました。  
 
 あなたにも段々と、彼の特異性が解って来たようですね。そうです。  
 気が付いたら、たかが男子生徒一人に微笑まれただけで、恥ずかしくなって目を伏せたんです。  
 教師たるこの私がです。顔も身体も熱りましたよ。ええホントに、十六七の小娘でもあるまいに。  
 次の時限は授業の受け持ちがない事が幸いでした。保健室で待機する予定でしたから、  
誰も来なければベッドの上で一人で静める事に決めました。  
 保健室に誰か来た時は? 気分が悪いと言って、毛布を被るつもりでしたよ。  
 結局何とか落ち着いたんですけど、その間中ずっと彼の視線が絡み付いて、まるで犯されている  
みたいな心持ちがずっと続いていたんです。  
 足元や枕元に服やら下着やら散乱していて、生徒に見つからないか心配でしたよ――  
 
 でもね、それはまだほんの幕開けに過ぎなかったんです――  
 
 応接室のソファに座るセーラー服姿の女はそう言うと、両手に持った白い茶碗を紅く湿った唇に運ぶ。  
軽く音を立てて一口啜り、艶かしい溜息を一つ。それから上目遣いに、熱の篭った瞳を向けて来た。  
 

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