――男って大抵、手当たり次第に女の人とセックスしたいって思うんじゃないですか。
ええ、そうですとも。ウチの男子生徒を見ていれば分かります。
複数の女の子と要領良く付き合って、それでいて相手には他の女の影を微塵も感じさせない、
そんな生徒を一人知ってるんですよ。
まるで年季の入ったジゴロですね、その生徒。
まったくどんな育ち方をしたら、あんな中年オヤジみたいに巧く立ち回れる少年になるもんだか。
一度でいいから親の顔が見たいですよ。
そうそう、この前「第三者面談」っていうのがあったんです。「三者面談」じゃなくて。
いい機会だから彼の親を一度見てみたいと思ったんですよ。私が教師の職を選んだ動機も、
生徒と親とを見比べて「将来こんな風になっちゃうんだ」と想像してみたいと思ったからですし。
それがあなた、「第三者」ですよ。教師と生徒は赤の他人じゃないっていうことで、
その場から排除されたんです。ああ恨めしいったら!
取り乱して済みませんね。お茶でもどうぞ、私も戴きますからご遠慮なさらずに。
何故そこまで男子生徒の情事に詳しいのかって? ああ失礼しました、「事情」と仰ったんですね。
そりゃあ私が教師だからですよ。いつも教壇の上から教室を見回しているんです。
面白いですよ、教壇から眺める風景は。
居眠りをしながら「しっかり、しっかり」と寝言を呟く子、机の上に山手線やアニメのキャラを
描いている子、中には一心不乱に股裂き人形を作っていて、私が声を掛けても返事をしない子もいますし。
どうです、あなたも一度体験されたらどうですか? 人間観察にはもってこいの職場ですよ。
え、あの子とどういう関係にあるのかって? イヤだ、邪推は止めて下さいよ。
あ、今の話と男子生徒にどういう関係があるかって事ですか。まあ聞いて下さい。
それで風景の話に戻りますけど、授業中の彼らの反応というのは、みんな子供な訳ですよ。
ただね、彼だけは少し違うんです。授業中はずっとこちらの方向に集中して――黒板の
文字ではなくて――私を見ているんです。
ええ、好色の目に晒される事には慣れてます。思春期の男の子が教師に対して淫らな妄想を浮かべる
のは当然だと思ってますし、アダルトビデオに女教師ものの一大ジャンルがある事も知っております。
ですからそんな悪戯小僧の視線も可愛いモンですし、以前の私なら軽く受け流せるものだと思ってい
たのです。
好色の目で見ている生徒に向けて、冗談混じりに軽く微笑んでみたりする訳ですよ。そうやって私を
じっと見ていた子が、顔を赤らめて机に落とす様子を楽しむ事もあります。
じゃあその男子生徒も子供なんだと仰る? いえ全然違います、彼の視線は
――明らかに私を視姦してるんです。
着衣と肌の境界、首筋から鎖骨、胸の間にあるスカーフ、制服のスカートに覆われた腰。
物凄く淫らな視線で私を嘗め回しておいて、いざ私が彼の顔を見ると――
ぞっとする程冷たい瞳で、穏やかに微笑み返して来るんです。
ベッドの上で女を散々玩びながら、その反応を楽しむ意地悪な男の顔付きですよ。正に凄腕のホストです。
その時直感しましたよ。彼は今まで私が付き合った、どんな男性とも違う。
事の最中にフェラを強要する男とか、自分だけ先に逝く男とか、或いは「ええか、ええのんか」と
しつこく聞いてくる男とか、私が何回もしたい時に限って一度で満足する男とか。
その癖私がプロポーズの返事をちょっと遅らせただけで、皆さっさと他の女と結婚しやがって!
ああ、思い出したら腹が立って来たわ! 絶対あいつら私の身体だけが目当てだったのよ!
え、お茶? 有り難うございます、お蔭で少し落ち着きました。では続けましょう。
彼の事ですけど、何歳も年が下なのに――女性の歳を詮索しないで下さい――異常なまで
女性の扱いに手馴れている様子でしたよ。正直な話、私なんか絶対に敵わないと思いました。
あなたにも段々と、彼の特異性が解って来たようですね。そうです。
気が付いたら、たかが男子生徒一人に微笑まれただけで、恥ずかしくなって目を伏せたんです。
教師たるこの私がです。顔も身体も熱りましたよ。ええホントに、十六七の小娘でもあるまいに。
次の時限は授業の受け持ちがない事が幸いでした。保健室で待機する予定でしたから、
誰も来なければベッドの上で一人で静める事に決めました。
保健室に誰か来た時は? 気分が悪いと言って、毛布を被るつもりでしたよ。
結局何とか落ち着いたんですけど、その間中ずっと彼の視線が絡み付いて、まるで犯されている
みたいな心持ちがずっと続いていたんです。
足元や枕元に服やら下着やら散乱していて、生徒に見つからないか心配でしたよ――
でもね、それはまだほんの幕開けに過ぎなかったんです――
応接室のソファに座るセーラー服姿の女はそう言うと、両手に持った白い茶碗を紅く湿った唇に運ぶ。
軽く音を立てて一口啜り、艶かしい溜息を一つ。それから上目遣いに、熱の篭った瞳を私に向けて来た。
冬の間じっと我慢して色を溜め込んでいた桜の蕾が、暖かい羽留一番の訪れと共に次々と開花して
行く様子は、この時期が人々にとって喜ばしい季節であると同時に、儚く短い季節でもあるという、
当たり前の事を嫌というほど痛感させてくれる。
東京埼玉県境自治区にある公立虎馬高校でも、卒業式は毎度御馴染みの風景であった。
三年間絆を培って来た級友達と別々の道を歩む事になるという感慨で、目を真っ赤に腫らしている
生徒も居れば、自分達は大人の階段を昇るのだという当たり前の事実に、単純に喜びを顔に溢れさせ
ている生徒も居た。ただ注意して見れば、彼らが何故か去年と同じ顔触れである事が判明するかも知れない。
卒業証書の授与式は、バネを引き合いに出した校長の説話が講堂の聴衆を惹き付ける程面白く、出
席者が時も忘れて聴き入ってしまったために、予定時刻を大幅に上回って昼過ぎに終了した。
同日午後――
よし子は保健室のベッドの上で仰向けに横たわっていた。
スカーフとセーラー服と紺色のスカート、それにレースをあしらった黒いブラジャーとショーツは
ベッドの足元を覆うリノリウムの床に散乱し、彼女自身は一糸纏わぬ姿である。
彼女が深く呼吸する度に、重力への抵抗を諦めかけた柔らかな乳房が上下し、だらしなく開かれた
両足の付け根と濃い目の茂みは、情交の跡も生々しく粘液でべとべとに汚れている。
彼女は首だけを横に傾け、床に立ち黒い制服の上着を拾っている少年をちらりと見た。
ボーダーだと思っていた彼のシャツは、縞模様が胸から腹に懸けて帯状に下り、それ以外の部位は
真っ白だった。それが子供向け番組の登場キャラクターである”ガチャピン”を連想させる。
シャツに覆われた背中のラインが、ひどくか細い。今まで荒々しいまでの力強さでもってよし子を
翻弄し続け、何度も昇天させて彼女の中に注ぎ込んだ人物と同一であるとは、俄には信じ難かった。
――あんなにか弱く見える男の子に、私は抱かれてたのか。
少年が見せるギャップか、その彼に好きなようにされた自分に対してか、彼女は思わず口元に笑み
を零し、彼の背に向けて優しい口調で呼び掛けてみた。
「改蔵くん。これで赤ちゃん出来ちゃったら、どうするの」
「脅かすんですか」
上着の袖に右腕を通しながら、改蔵と呼ばれた少年はベッドを振り返って言った。
「大丈夫ですよ、よしこ先生。中に出してって言ったのは先生ですから」
年上の女性から妊娠の可能性を告げられたにも関わらず、彼の口調はあくまで冷静である。
「それに先生は保健の教師でしょう。そんな人が危険日に生でやる筈がない」
よし子はもう二十代も半ばを過ぎた成人で、改蔵は未成年である。先ほどの関係を拒むという選択
肢も十分に有り得た。いや、世間的に見ればそうすべきであったのかも知れない。
膝を折り曲げた途端、よし子の股間に熱いものが溢れて来た。拭い取ろうとティッシュに手を伸ば
した所を、改蔵に見られる。彼の視点が開かれた自分の股間に注がれている事に気付いて、よし子は
あっち向いてて、と少年に言った。
「あんなに気持ち良く触られてキスされたら、どんな女だってその気になるわよ」
拭いながら半分拗ねたように言うと、上着を羽織った彼の背中越しに呆れ気味の声が返ってきた。
「やりたい盛りの娘さんじゃあるまいし、大人なんだから我慢できるでしょうに。それとも」
――…………んじゃないですか
今改蔵くんは何と言ったのだろう。自然過ぎる程滑らかに喋ったからか、それとも彼女自身が一番
聞きたくない一言だったから、よし子には聞こえなかったのだろうか。
彼女の頭の中が、改蔵と繋がっていた時と違う理由で熱くなる。
彼の言葉に? それとも冷ややかな彼の態度に?
気が付くとよし子は拭き取ったティッシュを団子状に丸め、改蔵に向けて投げ付けていた。
「何するんだよ先生」
見下ろすような改蔵の冷たく穏やかな視線と、見上げるようなよし子の熱く激昂した視線、その二
つが一瞬交錯したかと思うと――
彼女は裸のまま冷たい床に飛び降りて、セーラー服のスカーフを上着を、スカートを少年に投げる。
だが所詮は布である。彼女が投げた衣服はどれ一つとして改蔵に届かず、彼の足元に積み重なった。
投げ終わると彼女は再び男女の体液で汚れたベッドに飛び乗り、三角座りで曝け出していた裸身を隠
すように毛布を手に取って被った。
「出てってよ……ここから出てってってば!」
分かった、と呟いて改蔵は保健室のドアまで辿り付く。扉越しに廊下の人気を確かめると彼は振り
返って、よし子先生、と優しく声を掛けた。
つい先走って喧嘩腰になった事を後悔していたよし子は、その優しい口調に一瞬淡い期待を抱く。
彼女の経験は、こんな時は犬が尾を振るように媚びるよりも、わざと素っ気無い態度を取った方が、
男心を擽るものだと教えていた。その教えに従って、よし子は拗ねてみる。
「何よ。今更ここに居たいなんて言わないでよね、改蔵くんが悪いんだから」
自身の拗ねたような口調に、よし子は一瞬自分が年上の恋人に甘えているかのような錯覚に陥った。
「いつ言おうかと思ってたんですが、先生とは――」
一呼吸置いて、改蔵は表情も口調も全く変える事なく言った。
「――最初から遊びだ。さよなら」
よし子の顔が見る見る蒼褪めて行く。経験も期待も矜持も、心まで彼に打ち砕かれた。
「鬼!!!」
叫んではみたが、見えない壁のような物に遮られて、改蔵の場所まで声が届かないように思われた。
改蔵の背がドアの向こうに消えた後、暖かい風の吹き込む保健室で、よし子は一人泣いた。
――あんまりだ。
あまりにも突然過ぎるし、あまりにも酷過ぎるじゃないですか。
幾ら私の上を多くの殿方が通り過ぎて行ったとは言え、私が好きでもない相手と枕を共にする訳が
無いじゃないですか。例え最初は好きと言える程の好意を持っていなかったとしても、相手を選ぶ時
には、「あ、この人いいな」って気が無ければ身体も疼きませんもの。
行きずりの恋から始まった相手でも、もし何度も身体を重ねる機会に恵まれたら相手への情だって
自然と湧きますし、愛撫する手の動きや繋がり方、それに突き上げて中で蠢く様子一つ一つに殿方の
想いを感じ取れるようにもなりますわ。
そう思ってたんです。特に男の子だと、心と身体が分化しきれてない所が多いはずだから、比較的
自分の思い通りになってくれるんじゃないかって期待してたのかも知れません。
でもね、それは私の思い違いでした。
何の前触れも無しに、彼はあんな冷たい言葉で一方的に別れを告げたんです。
屈辱的でもありましたけど、それ以上に裏切られたという思いが心の中を占めましたね。
ええ、白状します。
好きになっていたんですよ、彼の事。自分でも気付かない内に。
そう、最初に彼の視線を意識した時から、絡め捕られてしまったのかもしれませんね。
見つかったんですよ、彼に。自分で慰めてた所を。
教室で感じたような視線を保健室の入り口の方向に感じて、慌てて毛布に包ったんです。
何とか誤魔化そうとしてみたんですけど、ほら、下着まで床に脱ぎ散らかしていたでしょう。私の
服を見回して「先生どうしたんですか」とか言いながら、悠々とベッドに近づいて――
当たり前のように毛布を剥ぎ取ったんです。
当然私は丸裸です。取り敢えず胸を手で押さえて、アソコも彼から見えないように固く正座して。
学校で裸になっていた理由を上手く説明し切れずに私がもたついていると、改蔵くんは私の肩を抱
きながら、耳元でこう囁いたんです。
――先生が一人でしてた所、全部見てましたよ。
その一言で私は観念しました。寄りにも寄って、私が男の人には一度も見せた事がない行為を、余
す所無く見てたと言うんです。後はキスされて、撫で合って、迎え入れて――
何考えてらっしゃるんですか?
私はあくまで体験した事を話してるのであって、別に猥談をしてる訳ではありませんよ。
え、全部自分から言ってる事じゃないかって? 確かにそうですね。済みません。
ではお互い疲れて来たみたいですし、一息入れましょうか。
あ、一服して宜しいかしら。ええどうも、貴方も一本如何ですか。
そう言う訳でまあ、済し崩し的に彼――改蔵くんとの関係が始まった訳なんですけど。
教師と生徒、あるべからざる関係だと頭では理解しておりました。
でもそういう社会的な枠組みを取り払ってみると、ずっと私が望んでいた関係でもあった訳ですよ。
先刻も申し上げましたけど、年下の男の子だと安心しちゃうんですね。
それに改蔵くんは――若々しくて力強くて、何度でもしたがるんです。
「何で私なんかと付き合うの?」って一度彼に聞いたんですよ。房事の最中に。
そしたら彼、私を突き上げながらこう答えたんです。
「よし子先生が可愛いから。そんな顔オレの前でだけ見せてくれるから」
あの時の改蔵くんは私の事を、教師ではなく一人の女として見てくれてたんです。それがどれだけ
嬉しい事か、お分かりになりますか?果てた後は頭が真っ白に痺れて、その後訪れる夢見心地まで充
実してました。
でも
真逆自分の受け持った生徒に遊ばれて捨てられるなんて、想像もしてませんでしたよ。
ショックでした。とても哀しかった。
けどやっぱり、彼が指摘した事を見ないようにしていた私が、愚かだったのかも知れません――
あ、黙り込んで済みません。私そんなに遠い所見てました?
一頻り泣いて何とか落ち着くと、改蔵くんに向けて投げ付けた服を身に付けてぼうっとしてました。
けど――やっぱり改蔵くんに抱かれた場所に居る事が段々と嫌になってきて、保健室を後にしました。
受け持った職場放ったらかしにして大丈夫だったのかって?
勿論です。卒業式の午後ですから、学校に生徒は残っていませんでしたよ。
ここだけの話ですけど、何より生徒の怪我を生み出しているあの娘が学校に居ませんでしたから。
女喰いに怪我の元凶、大変な生徒を受け持っているんだなって?
有り難うございます。そう思って下さるだけで、日頃の苦労が報われるような気がしますよ。
それこそ私、職員室でも小娘扱いだから、職員室で愚痴っても「甘えてる」としか言われませんから。
それに私、こんな格好をしてるでしょう。口性ない先生に至っては、私の事を生徒に色目を使ってい
る、恥ずかしいとか言って腫れ物汚れ物扱いするんですから。どうせ内心では「何かあったらスグにや
らせてくれる」とか思ってる癖に。隠してるつもりでしょうけど、私には分かりますよ。あのスケベ親
父共ったら!
ああ、何だかまた愚痴っぽくなってしまいましたね。嫌になりませんか?
そうですか。ついでで申し訳ないんですけど、今言った事は忘れて頂けませんか。
はい、どうも済みません。えっと…保健室を出てからどうしたのかって?
そう、そうでした。
それで校舎に篭っていても気落ちするだけだから、せめていつもの場所で外の景色でも眺めて、腹立
たしい腐った気持ちを忘れようと思い立ちました。
けどその結果あんな目に遭うとは、全然想像していませんでしたよ。
体育館の裏手で散り行く桜に私の想いを重ねて見て、凹みながらとぼとぼと歩いていると――
「よし子先生、やっぱりここに居たな」
若い男にそう声を掛けられる。よし子は驚いて立ち止まり、自分の足元を見ていた目を正面に上げた。
奇面組とかビーバップと言った例えが良く似合う、今時こんな生徒が本当に居るのかと思えるような
不良が三人、よし子の前に立ちはだかったのである。
髪を金や赤に染め、一人は横浜銀蝿のようなサングラスを懸けている。
サングラスは素手金髪は木刀、もう一人の金髪は鎖を手に持ち、彼らは威嚇するように手に持った得
物をよし子に見せ付けた。よし子は怯まない。何故ならここは彼女のホームだから。
「私に一体、何の用なの?」
よし子は左半身を正面の不良達から遠ざけるように足を引いた。砂が地面を擦る。いざ身に危険が迫
りそうになったら、一目散に彼らから逃げるつもりなのだ。
「お礼参り、って言葉知ってるかい? 先生」
三人の下卑た笑いに包まれながら、よし子は彼らの言葉を口の中で反芻した。
「お礼参り――」
お礼参りとは本来、願掛けを行なった神社仏閣に成就した旨知らせ、感謝する参内の事である。
しかしこの場合は、本来の意味とは違う。不良達にとってのお礼とは、罰を受けた事、扱き、いじめ
その他諸々の恨み辛みであり、言わば復讐の意味合いが込められていた。
一体この不良共は何を言っているんだろうか。そんな恨みを買った覚えは――
よし子が戸惑っていると、木刀を持った少年が彼女に代わって答えた。
「半年前オレ達ここで『おっぱい別冊 ろりちち』読んでたんだよ。ここは校舎からも見えにくいか
ら、見つからないと思ってたんだ。そこにアンタが偶然居合わせて」
――あの時も改蔵との情事の後でなぜか虚しくなって、一人でここをふらついていたっけ
「私が没収したのね。今思い出したわ」
納得したように頷くよし子に、鎖を持った少年が木刀の後を受けて言った。
「続きがあるんだよ。その時たまたま持ってたキャ○ターまで一緒に見つかってよ」
『ろりちち』の件ではお咎め無しだったもののタバコは没収、よし子から報告を受けた教職員により
彼らも退学の憂き目にあったと不良は続ける。ダメフラージュが裏目に出たぜ、と吐き捨てた。
「高校生がタバコ吸っちゃダメに決まってるでしょう!」
よし子は教師の顔になり、説教するように叫んだ。だが生徒である筈の三人は怯むどころか、大声で
彼女を嘲笑した後、一歩近付いてゆっくりと続きを述べた。
「ふざけんじゃねぇよ先生。アンタが担任に密告った時キャスターの箱見せたそうだけど、あの箱は
空っぽだったんだってな。まだ吸ってなかったのに、買ったばっかの箱取り上げられたんだぜ。挙句に
常習してるだろうとか先公にイチャモン付けられてよ」
思い出した。確か没収したタバコが彼女の吸う銘柄と同じ物であったのをいい事に、彼女は没収した
箱から少し失敬したのであった。
給料日近くの出来事であったので、タバコ代を惜しむあまり一本抜いたのは確実であった。ただ三年
生の主任教諭に見せた時、箱が空になっていたかどうかまでは覚えていない。
喫煙は法律や校則に違反しているとは言え、初犯で未遂ならば停学で済んだのかも知れない。だが常
習ともなれば更正の余地無しと見なされ、彼らは退学放校を免れ得なかった。
それが不良達の言う「お礼」の正体だとよし子は漸く気付いた。
と同時に、今の自分が置かれた状況が非常に危険なものであるという現実を意識せざるを得なかった。
このままでは、彼らの復讐の対象がよし子一人に集約されてしまう。
――違う、私じゃない。私の所為じゃない。あれは
「あれは――そう、あれは天使が持って行ったのよ! 私じゃないわ!」
苦し紛れの叫び声を聞いた途端、三つの下品な笑顔が憤怒の表情へと変わって行く。
「ざけんな!」
よし子が素早く回れ右をして後方に駆け出す。不良達も一斉に走る。よし子待てと口々に叫んでいる。
グラウンドを全力疾走するのも何年振りだろう。景色が移る速さが、心なしか女子高生時代に比べて
遅くなっているような気がする。息も荒い。
よし子の感傷か、いやこれは現実だ。日頃の不摂生が祟ったのか、体力が落ちているに違いない。
だからすぐに追い付かれて、袖を掴まれて――
「放して!」
後ろに纏めた長い髪を、そして両肩を押さえ込まれる。身体を振って逃れようとした所を、後ろから
足払い。尻餅を突くように砂地に倒れ込み、よし子は仰向けになった。
叫んで救いを求めようと息を吸い込む。頭から汗臭い学ランを被せられ、視界が闇に閉ざされる。
「ただでさえ誰も来ねぇ所だ。まして今日は卒業式だったろう、助けなんか来ねぇよ」
学ランに閉ざされた耳には、不良達の声も小さく聞こえる。もう叫んでも、誰にも聞こえないだろう。
当て身を一発食らう。暗闇に閉ざされたよし子の視界さえ、意識から遠のいて行く。
よし子を捕獲した三人の不良は、意気揚揚と体育館の方向に足を進めて行った。
「何するのよ! こんな事したらタダじゃ済まないからね!」
よし子は狭く薄暗く黴臭い体育準備室に敷かれたマットの上に置かれ、学ランを取り払われると足を
投げ出すような横座りでそう叫んだ。彼女の両腕は後ろ手に縛られている。
不良達を見上げると、彼らは皆上半身裸だった。彼らのシャツが、よし子の手足を拘束する為に使用
された様子である。
「生徒が教師をレイプしようだなんて、何考えてるのよ!」
「語るに落ちたな先生。アンタをヤるなんて、オレ達一言も言ってないぞ」
サングラスを懸けた少年が、よし子の言葉尻を捉えるように言った。
その言葉を、よし子は全く信じていない。女教師に対する仕打ちとして思い付く例など限られている。
「でもまぁ、そんな事思い付くからにはヤりたいんだろ? そんなエロい格好してさ」
対面時に木刀を携えていた金髪少年はそう言うと、よし子のそばに跪いて彼女の胸に手を伸ばす。
セーラー服の上から、よし子の乳房を鷲掴みに揉む。
「やっ! どこ触ってるのよ!」
セーラー服の女はマットの上で腰を捩り、胸を弄る手から逃れようとする。金髪が逃げる彼女の左腕
を取り押さえる。肩をマットに押し付ける。
よし子が悲鳴を上げた。足をばたつかせると、紺色のスカートが捲れ彼女の柔らかな太股が零れた。
乱暴で無粋な手がよし子の太股を撫でたかと思うと、それは素早くスカートの奥へと侵入する。下着
の上から、足の付け根にある部分を指で触られる。女の声が漏れる。
「濡れてるじゃんか」
よし子は顔に血を昇らせて、やめてと叫ぶ。手がセーラー服の襟元に掛かる。スカーフがするりと
取り払われ、丸められてよし子の口へと強引に押し込まれた。
喋れない、口も利けないよし子が首を振る。体育用具室を見渡す。
遥か遠くに見える飛び箱やバスケットボールの手前に、彼女に迫った三人の顔が魚眼状に映る。彼ら
の目元と口元に、いやらしい情欲が浮かんでいる様子がありありと読み取れる。
束縛され轡も噛まされたよし子は喉の奥で声にならない声を絞った。
――改蔵くん
セーラー服の襟元が大きく破られる。学生が使う高価な本物と違い、よし子が身に付けていた服は、
ド○キホーテで買った安物のコスプレ服でしかない。だから今のように、手で簡単に――
「何だよこれ、キスマークじゃねぇかよ。一体誰とヤってたんだ?」
ひひひ、と下卑た笑いがよし子の耳にも届いた。首だけを起こして涙の滲み出た目で見ると、改蔵が
付けた赤い吸い跡が左鎖骨の下乳房の上辺りに二三ほど見付かった。
「もっとあるんじゃねぇか」
ブラのカップが引き千切られ、大量のキスマークが付いたよし子の乳房が肋の上に広がる。
まだ二十代の張りが残っているおかげで、弾力の割に胸の形崩れは興していない。恐怖の為か、黒ず
みかけた乳首は僅かに硬さを増している。指の腹で軽く叩かれると、それはむくりと大きくなった。
「何だ、やっぱりそうか。これ付けた奴っておっぱい星人じゃねぇの」
金髪が片手で山を作るように乳房を脇から寄せ、先端を口に含む。吸い上げられ、よし子は首と肩を
小刻みに震わせる。舌で乳首を転がされる間にも、足の間を下着越しに乱暴に擦る手の動きは休む事無
く続いていた。首筋を、舐められる。鼻息が、よし子の耳たぶに吹き付けられる。
その度によし子は身悶えしていたが、暫くすると彼女の瞳が大きく開かれる。
赤髪の手がショーツの腰に掛かり、一気に布地が太股脹脛、足首指先を通ってよし子から離れたのだ。
スカートの奥に、赤髪が潜り込む。茂みを掻き分けられたかと思うと、陰唇の奥が空気に晒されて、
指とは違う柔らかい肉が彼女に触れた。
舐められ、吸われ、奥に入れられ毛に息を掛けられる。
ぴちゅくちゅと粘りと水気のある音が、スカートの布越しにも用具室に響くように舐められていた。
よし子は身を起こされ、羽根折り状に腕と脇を固められると、巻き付くように両膝を抱かれた。
スカートの裾が持ち上がり、赤髪が顔を現す。来る。
肉を割られ、よし子は大きく身悶えてマットに倒れ込んだ。彼女を貫くものはすぐに抽送を始め、
赤髪は柔らかく締め付ける彼女の肉に、感嘆の溜め息を漏らす。彼女の耳に届く不良達の声も現実味
を失い、どこか遠くから聞こえるような気がする。
おいおい、抜け駆けすんなよ
コイツ先刻も男とヤったばっかりだぜ、だから俺が一番最初じゃねぇよ
何だよそれ、そんなんアリかよ
心配すんな、みんな中ですればいいじゃんか。順番だぜ
よし子の胸の上に、男子の体重が掛かった。両胸を掴まれ、捏ね上げられた谷間に肉棒が挟まれる。
血流の所為かよし子の胸が冷えている所為か、やたらと肉棒は熱い。揉まれるように胸の谷間が擦ら
れる。胸を手で愛撫されるだけでは味わい難い感覚だった。
パイズリだったら、この位が丁度いいよな
おいおい、俺は見てるだけか
手首を掴まれ、すぐに硬く熱いものが掌に触れる。不良の手に、彼女の指と掌のものが包まれる。
三個所目での摩擦が始まる。掌に包まれたものが脈立っている。
よし子自身もマットの上で妖艶に身体をくねらせていた。それが男三人掛かりで嬲り物にされて
いる状況から来るのか、彼女の身体の内外で渦巻く感覚に拠るのか、よし子自身にも分からない。
――こんな所、誰かに見られたら
今の行為が人の知る処となれば、無論三人は相応の罰を受けるだろう。だがよし子の身も破滅する
可能性は十分高い。なまじ二十代でセーラー服姿などという如何わしい格好をした結果、このように
寄って集って慰み者にされる事態を自分から招いた、と見る教職員はこの学校に少なくはない。
彼らの論理で行けば、よし子の方から少年達を誘った、と言う事になる。未成年と性行為を行なう
教師に対し、他者の見る目は極めて厳しかった。教員失格の烙印を押され、放逐まで有り得る。
破滅である。
――みられたら
スカーフの奥に閉じ込められたよし子の呻き声に、恍惚の色が混じって来たようにも窺える。
奥が熱い。貫く物から来た彼女の反応が、貫く者達の動きにフィードバックを齎す。
動きが早まる。脳髄に昇る感覚が大きくなり、彼女の中も蠢き出して――
赤髪の動きが止まると、よし子の膣は吐き出された物の鼓動に打ち震え、彼女自身も全身を脱力させた。
精を放ったにも関わらず、まだよし子の中に留まったものは硬いままである。そのまま二回目の交接
に挑もうとする赤髪を、よし子の手で自身を扱いていた男が止めた。
ズルいぞ、つづけて二回はなしだ
じゃあ次はだれの番だ?オレはどうすればいい?
ケツと口がのこってるじゃんか。一回ためしてみたかったんだ
彼らの言っている言葉の意味は、よし子にも当然判った。よし子は嫌悪の予感に眉を顰めて、いや
いやをする。不良達がその仕草に気付く事は無かった。もっとも気付いた所で、彼らは黙殺するのだが。
金髪が仰向けに寝転び、破れた上着とスカートを脱がされたよし子が彼の顔に尻を向け、互いの下
腹部同士が重なるよう俯伏せに転がされる。よし子は力無く肘を付いた四つん這いの体勢となった。
白濁液と蜜に塗れた秘所の眺めを堪能してから、金髪は滴の残る自身の先端をよし子の中に埋める。
慣れない体位からの挿入に、よし子はうう、と喚いた。
興奮覚めやらぬ彼女の膣に、再び刺激が加えられる。よし子が規則的に小さな鳴き声を出す。
彼女の白く肉付きの良い尻が掴まれ、奥が大きく見えるよう臀部が左右に開かれる。肛門の付近に、
熱く硬い物が触れてくる。精液と愛液の混じったものを、入り口に塗りたくっている。
先程よし子の中に放出した男が、後背位の体勢で彼女に挿入しようと試みているのだ。
やめて、と叫べるものなら叫びたかった。
痛みさえ伴う尻からの感覚に、いやいやと首を振っていたよし子に構わず、それはゆっくりと肉を
貫いて彼女の中へ入って行った。
すっげぇ。アソコとはちがうけど、何かこれっていいよ
じゃあオレは口な
噛まされた赤いスカーフが、よし子の口から引き出される。口元に細い糸を引きながら、よし子は
不十分だった呼吸を取り戻そうと大きく口を開け、肩で息をした。
――みられてる
少し落ち着くと、膣と直腸に捻じ込まれた物の感覚に頭の中を染め上げられる。助けを呼ぶ声は、
彼女自身が出す喘ぎ声に打ち消されて陵辱者にも聞こえない。
よし子の目の前に、根元を茂みで覆われた屹立と陰嚢が迫る。諦めたように彼女は口を開け、屹立の
先端を途中まで咥え込み舌で包む。いきなり彼女の喉の奥に、生臭い体液が注がれた。
いいだろ、オレ手でイってなかったから。このままつづけるぜ
そのまま彼女の頬骨を掴み、口の中の男は腰を振り始める。よし子が口の中に溜まった物を処理する
には、男臭いそれを飲み下すより他はない。どろっとしたものが彼女の喉を鳴らした。
塞がった口の代わりに鼻で息をする。自然男の匂いが鼻に入り込み、それから逃れる事は叶わない。
嗅覚まで犯され続けている状態である。
一方で下半身では、二本の屹立がよし子の肉壁を乱暴に撫で続けている。それらは彼女の中で互いに
向かい合うように動いており、信じられない程の感覚で彼女の思考を止めている。
よし子は歯を食い縛ってその――呼びたくはないが快感と言う他ない――感覚に耐えようとした。
歯が、口内の屹立に当たる。よし子の顔を掴んでいた男が叫んで、よし子の口から自身を引き抜いた。
しゃぁねぇ。あとで中にぶちまけるとして、とりあえず
よし子の手を掴み、再度彼女に自分自身を握らせ、薄目を開けた彼女の目の前で扱く。
規則的な荒い呼吸に混じって、時折不規則な喘ぎがよし子の口から漏れる。
にちゃにちゃと体育用具室の中でよし子が犯される音が響き、汗の匂い男の匂いが部屋中に充満する。
よし子の鳴き声も、肉体が奏でる音と振動に合わせ、徐々に調子を高めて行く。
――みてる、こっちを
やがて―― 悲鳴と共に一際大きく彼女の背が仰け反り、よし子は二箇所から体内に注ぎ込まれる熱い
粘液の感触に腰を数秒ほど震わせると、頬をマットに叩き付けるように投げ出した。
同時によし子の手に扱かれていた物が彼女の顔に押し付けられ、頬瞼、鼻先構わず白濁液を迸らせる。
否応無く昂ぶった女の身体は、注ぎ込んで尚引き抜かず、震えを止めない男達とその精が与える感触
をも貪欲に味わっているかのように見えた。
――かいぞう、くん
よし子の口と手で果てた男が、彼女の膣肉を自身の屹立で味わうべく彼女の顔から離れる。
その時朧げながら入り口近くに浮かんだ黒い翳を涙の浮かんだ目に映しながら、三度目の陵辱を加え
られようとしていた彼女は、改蔵との別れ際に告げられた言葉を思い返していた。
そう、彼女は
めちゃめちゃにされたいんじゃないですか――
確かに改蔵くんはそう言いました。あの時自分では気付かなかった、私の中に渦巻く欲望を簡潔に、
的確に言い表したんです。
勿論そんな事面と向かって言われたら、怒らない女なんて居やしません。私だってそうでした。
だって、「お前は淫乱だ」って言われるのと同じじゃないですか。
そう言う意味では、私もまだまだ男女のあり方については未熟なのかも知れませんね。
その点改蔵くんは凄いと思います。一目で私の本性を見抜き、そして結果的に私の中で眠っていた
欲求を解放したんですから。今ならなんとなく分かります。
もしかしたらあの時――彼、私が犯されている所を見ていたのかも。
あの三人がお礼参りに来たのも、ただの偶然じゃなかったりして――
――いやだ、冗談ですよ冗談。ホントにそうだったらちょっと怖いかもって思っただけですよ。
そんな事本当にある訳ないじゃないですか。あ、でも偶然にしては出来過ぎた話かも――
え、あの後私はどうなったのかって?
何度も何度も不良達に犯されて、めちゃめちゃにされて、漸く気が付いて身体が動かせるように
なったと思ったら日もとっぷり暮れていたでしょう。
服はショーツ以外は使い物にならない程破られていたから、それを身に付ける訳にも行きませんでしたね。
不良達が好き放題私の体にぶちまけてくれた精液を破れたセーラー服で拭って、用具室の中から外に
人がいない事をそっと確かめてから、ショーツ一枚で校庭を全力疾走しました。
保健室の窓、昼間開けっ放しにしてたのが幸いでしたね。そうでなかったら校舎の中で、誰か他の
先生とか守衛さんに見付かって痴女扱いされたかも知れません。
もう一つ幸いだったのが、保健室には白衣が用意してあった事です。最近着てませんでしたけど。
取り敢えず着る物さえあれば人前を通って家に帰れる訳ですから、これは有難かったですね。
まあその後も帰り道で痴漢に遭ったり、お巡りさんに職務質問受けたりと色々あった訳なんですけど、
折角部屋に二人きりなのに、お茶飲んでお話するだけって言うのもつまらないと思いません?
それよりも――ねぇ、もっとこっちにいらっしゃいな。
あなたも私のこと、めちゃめちゃにしてくださるんでしょう?
<終>