4月。ここ、とらうま町は春真っ盛りだ。  
市電の停車場から我が家兼下宿屋「葵壱號館」に登る50段階段の左脇の桜は、この暖かさでもう散り  
つつある。とらうま町は入江に南向きに面した小さな港町。海からこの下宿の建っている高台に向け吹  
いてくる穏やかな南風が心地よい。  
 
私は3年生になった。今日から新学年、新学期だ。  
「うー。やっぱ、胸がきつい…。」  
朝、セーラー服に着替えていて、私は呻いた。まだ巨乳というほどじゃないけど、このまま行くと…。  
たまたま私とお姉ちゃんの部屋にいたお母ちゃんが怪訝そうに言う。  
「なんかまだまだ大きくなりそうね。栄養のせいかな?」  
「さあ。胸だけまだ成長期なんじゃないの?」  
「違うでしょ、やっぱ刺激されてるせいよ。毎日改蔵くんに…」  
「お姉ちゃんっ!…えー…早く布団畳んでよ、足の踏み場がないでしょ?」  
私はあわててお姉ちゃんの言葉をさえぎった。お姉ちゃんが「なんで?」と言いたげに首を傾げ、外ハ  
ネのヘアスタイルが揺れる。気付かずお母ちゃんが言う。  
「まだ大きくなるようなら、胸の所だけ余裕を持たせるように服に手を加えたら?裁縫得意でしょ?」  
「考えとく。さ、じゃ、学校いく準備するから。改蔵起こさなきゃ。」  
制服のミニスカートを穿きながらそう言うと部屋を出た。  
とんとんとん、と3階へ。  
去年からすると、うちの下宿も少し変化があった。  
久米口さんはもうだいぶ前に7号室を引き払っている。なんでも、自作品のファンブックの発行でかな  
りまとまった収入が入ったんだそうで、東京にマンションを買って引っ越していった。  
だから今、3階は5号室に改蔵が住んでいるだけだ。その他の住人は変わってない。  
5号室に入る。相変わらず、居候かつ私の幼馴染かついいなずけが惰眠をむさぼっている。  
私は腰に手を当て顔を近づけ、大声を張り上げて言った。  
「改蔵――、いいかげん起きなさいよ!」  
 
例によって改蔵のせいで遅刻するかと思ったが、始業前にけっこう間に合った。  
新しいクラスの教室に改蔵と一緒に入る。と、毎年春恒例の儀式が始まった。  
「あ、いいなずけだ幼馴染カップルだ。」  
「また同じクラスなのかお前ら。良く飽きないな。別れろ。ていうか、山田さん俺にくれ、改蔵。」  
「相変わらず仲睦まじいわね、ひゅーひゅー。」  
「何で毎年毎年同じクラスなんだよこの二人はよ。なんか裏で手を回してんじゃねーの?」  
「ね、改蔵くんすぐに18歳になるじゃない?そしたらマジな話速攻で結婚するんじゃないの?」  
「もう実は一緒に暮らしてたりしてな。んで、毎晩やりまくり。」  
最後のにちょっとドキッとしたが、他はいつもの事なので適当にあしらった。  
もっとも、私たちがつきあってる事自体は、もうだいぶ前にみんなにバレてる。この狭い町で、手をつ  
ないだりキスしたりするのまで隠し通せるわけないのだ。「単に親が決めただけのいいなずけで、私た  
ちは互いになんとも思ってない」ってのはさすがに通用しなくなってしまった。  
まあ私としては、肉体関係と同居のバレてない今くらいの冷やかされ状態なら、さほど気にならない。  
しかしバレたら…だから、みんなには悪いけどもう少し秘密にしておきたいのだ。  
 
いつもの面子の冷やかしとは別に、初めて同じクラスになる子達が興味津々で色々質問して来た。  
「ね、ね、山田さん、あそこの彼と『いいなずけ』って、本当なの?」  
「幼馴染で恋人同士なんでしょ?ずーっと同じ学校で、同じクラスだったんだって?」  
「おうちも斜向いで、お父さん同士がやっぱり幼馴染なのよね?」  
「高校卒業したら正式に婚約するんだって?当然、もうエッチはいつもいつもしてるんでしょ?」  
これも毎年恒例の行事だ。改蔵も向こうで質問されてる。頼むからボロが出るようなこと言わないでよ。  
 
そうして新年度初日は無事過ぎていった。ただ、困った事が一つ。  
改蔵は今年から部のキャプテンだ。追っかけの女の子が倍増した。まあ予測してた事だけど。  
ただ、部活の練習・試合の最中に遠巻きに見物するならまだ許せるけどねぇ…。  
教室まで押しかけて来てキャーキャー騒ぐんじゃないわよ新1・2年生。全くもう。  
 
「あん…最近、ちょっと…手抜きしてると…思わない?私たち…エッチ…んっ…」  
「そ、そうか?…そんなこと…ないとおもうけどな…」  
「だって…あん、寝巻だって…下しか脱いで…ないし…ああ…」  
葵壱號館、5号室、深夜。  
私たちは今夜もいつものように愛し合っている。7号室が無人になったせいでなんか回数が増えてる。  
 
二人ともパジャマの上は着たままだ。私は座った改蔵の上に向かい合わせて跨り、彼に挿し貫かれてる。  
対面座位、というらしい。良く知らないけど。  
敏感な突起が擦れて感じるのと、抱っこされて甘えるのにいいので結構好きだ。  
「ね、改蔵…ああ…昼に来た下級生の娘達の事とか…考えてない?誘ってるように…見えた娘もいたよ…  
好みの娘が…いたとか、そんな事ない?」  
「ねーよ馬鹿…なんだと思ったらそんな事かよ…ほんっとやきもちやきだな…」  
「改蔵…あ…浮気なんて…しないでよ、改蔵は私のだからね…んっ…誰にもあげないんだからぁ…」  
我ながら駄々っ子みたい。エッチの最中に言った事を後で思い出すと物凄く恥ずかしかったりする。  
 
「なあ…上も脱いでおっぱい見せろよ…手抜き、嫌なんだろ…」  
自分の上を脱ぎながら改蔵が言う。私もパジャマの胸のリボンを解いて脱ぎ、シャツも脱いだ。おっぱ  
いが揺れながら常夜灯に照らされる。この間、二人は繋がったままだ。熱い素肌を密着させる。  
彼の背中に手を回す。引き締まった、熱い男の身体が私を淫らにさせてゆく。  
改蔵は私の胸を揉み、乳首をいじりまわす。私は彼の頬に両手を添え、唇を吸い、舌を絡める。  
彼の様子が変わってきた。私の中で彼自身がさらに硬く大きくなってゆく。私も十分に昂ってきて、  
対面座位のまま腰を動かし、アソコが改蔵のモノを締め付け続ける。そして…。  
ついに改蔵自身が強く脈打ちだした。薄い膜を隔てているが、彼が悦びながら熱い液をほとばしらせて  
いるのを強く感じる。私は改蔵の首に両腕を回し、至福の中でささやいていた。  
「…あ…改蔵、私の…大好き…あ、ああ…」  
こうしていつもどおり夜は更けてゆくのだった。  
 
新学期も日数を重ねてきた。  
改蔵の新人勧誘も順調のようだ。意外とそつなくキャプテンをこなしているのを見ると、ちょっと自分  
の事のように誇らしく感じる。  
新人君たちも「キャプテンの奥さん」なる私を尊敬と羨望の眼差しで見たりして。  
でも私だって忙しいのだ。クラス委員だからね(全然関係ないが、改蔵の馬鹿は、「お前がクラス委員  
になったのは、全体集会でお菓子が出るからだろ」とか言ってる。もちろんひっぱたいてやった)。  
 
で、しばらくは平穏無事な日々が続きそうだなあと思っていたんだけど。  
 
「ねえ山田さん、あなたのおうちに、ラヴ影さんっていたわよね?」  
と、今年もまたクラスメートになった羽美ちゃんが話しかけてきた。  
「うん、壱號館の1号室にいるけど…何で?」  
「あのね、私ね、演劇の発声のトレーニングを受けたいと思ってるの。一人で本とか見ながらやろうと  
してたんだけど、どうしてもラヴの『ヴ』の音が上手く発音できないのよ。」  
「…な、なんでそんなの、上手く発音したいの?」  
「あら、出来たほうがいいでしょ?で、近くにその手のトレーニングが出来るプロの人がいないかなっ  
て考えてたら、あなたのおうちの事を思い出したの。ね、紹介してもらえないかな?友達でしょ?」  
うー…友達、ねえ…困ったなー。  
発声練習を羽美ちゃんが受けるということは、葵壱號館の1号室に羽美ちゃんが定期的に通ってくるっ  
ていう事で、それはつまり改蔵と私が一緒に暮らしてる所を見られかねないという事で、見られたら羽  
美ちゃんの事だから空気も読まずに誰彼構わずしゃべりまくるという事で…。  
 
「で、でもね羽美ちゃん、ラヴ影先生は厳しいことで有名よ?気に入らないと生肉投げつけられるって  
話だわ、発声も正しくできるようになるまでカベに向かって延々やらされるらしいわよ?」  
「な、生肉?何の生肉かしら、桜肉は好きだけど牛肉は怖いわね、BSEとかあるし。どうしよう…」  
私はここぞとばかりにある事ない事並べあげ、畳み掛けるようにして何とか羽美ちゃんを諦めさせた。  
 
そんな疲れる事はあったが、無事帰宅。でも、うちに帰ってからも仕事はいっぱいあるのだ。  
お母ちゃんは夕方、改蔵を含む家族の食事作り、その後住人の食事作り(うちは賄い付きなのだ)で忙  
しい。それ以外は私がやらざるを得ない。お姉ちゃんが家事を手伝ってくれれば…。  
改蔵は別件で忙しい。お父ちゃんが最近、下宿・アパート経営のイロハを教え込もうとしてるのだ。  
(という訳なので、私たちをただのやりまくりカップルだと思わないで欲しい。)  
 
壱號館の屋上の物干台に、制服のまま上り、我が家+改蔵の洗濯物を取り込む。  
街を見渡す。日は傾いているが、その分海がきらめいていい眺め。改蔵が登ってきた。珍しい。  
「早いわね。部活は?もう取り込み終わったわよ。」  
「んー。たまにゃ手伝おうと思ったのに…。」  
「ありがと。でも…」  
その時風。制服のミニがめくれ上がり、イチゴのプリントのパンツが見えた。  
改蔵の目つきが変わる。こいつ、以前から制服のままエッチしてみたいって言ってたっけ…。  
うちの学校は、襟の幅広一本線とスカーフ、そしてミニスカートだけ薄水色で他は白のセーラー服。改  
蔵はこの制服がえらく好きみたい。私はブレザーとチェックのスカートのほうが好きなんだけど。  
改蔵の目つきが元に戻った。昼間は結構我慢ができるのだ。ちょっと可哀相かな。  
「…キス、していいよ。」  
潮風に私のショートカットがなびく。まだ取り込まれていない坪内家の洗濯物もはためいている。  
唇を重ねる。  
私が背中に手を回すと、彼は制服の上から胸を触ってきた。ほんと私のおっぱい好きだなあ。  
(胸が大きくなってる理由、やっぱ改蔵に毎日揉まれてるせいなのかな、お姉ちゃんの言う通り。)  
キスされたまま私がそう考えてた時、とんとんと軽い音をたてて小柄な女の子が上がってきた。  
2号室、坪内牡丹ちゃんだ。洗濯物篭を抱えてる。  
私たちはそそくさと下の階に降りて行く。  
「…見られなかったよね。ねえ改蔵、あの子に手出しちゃ駄目よ?わかってんでしょうね?」  
「お前…ほんっと、やきもちやきになったな…1年前のお前が見たらひっくり返るんじゃないか…。」  
まあね。あの頃は「人を好きになる」ってのがどんな事か、よくわからなかったしね。  
 
そして夜を迎えた。  
今夜はお父ちゃんが久しぶりに食卓を皆と共にしている。改蔵も含め全員揃うのはいつ以来かな。  
「おう、改蔵、もっとビール注いでくれ…そうそう。なあ、お前も飲まないか?」  
「駄目だよお父ちゃん、未成年に酒勧めないでよ。」  
「堅いなあお前はー。お前は身持ちが堅すぎるんだよ。姉ちゃんを見てみろ、こんなくらいのちゃらん  
ぽらんでちょうどいいんだ。」  
「私別にちゃらんぽらんな訳じゃないよ。」  
お姉ちゃんは相変わらず飄々としている。就職してないのに結構お金持で、たまに派手に散財する。ど  
こから収入を得てるんだろ。まあ6号室での夜の突発的酒盛りだけ何とかしてくれれば文句はないけど。  
「お姉ちゃんはお姉ちゃん、私は私。いいの堅くて。」  
「堅過ぎだぁな。そんな事じゃ改蔵に嫌われちまうぞ?なあ改蔵。」  
「へ?あ、あははは。」  
お父ちゃんはビールをグ――ッと飲んだ。一息つくと、また言い出した。  
「しっかしお前ら、煮え切らねえな。せっかく両方の父親同士が、いいなずけのお前らを気を利かせて  
一緒のうちに寝起きさせてるってのに。もうちょっと、こう…なんていうのか、なあ?あっちのほうを、  
なあ?」  
「何よ。」  
「そろそろ18だし…こいつの親父も出張からじき帰って来るし…なあ?」  
「だから何よ。」  
お父ちゃんが何を言いたいのか私はわかっていたが、わかってない振りをして芝漬けでご飯を掻き込み  
続けた。酔っ払いは粘着だから嫌だ。  
「今時だし、結婚前に色々とお互い確かめ合っておいても、別に何も言わないぞ、なあ?」  
「ふーん、そう。わけわかんないけど。」  
「だからさ、お前さ…わかんねーかな。おう、お前も姉ちゃんの立場からなんか言ってやってくれ。」  
「私?別に私が言わなくてもこの二人は大丈夫でしょ。SEXの相性もいいみたいだし、お父ちゃんが  
心配する事ないと思うよ。もうこの娘、毎日5号室で寝起きするようにさせてあげていいんじゃない?」  
 
晩ご飯の食卓が固まった。固まらせたお姉ちゃんだけが、黙々とご飯を食べている。私の皿から豚の生  
姜焼きを勝手に取ってゆく。周りが固まってる事に気づいたのは十数秒後だ。  
「あれ?何か私、また余計なこと言っちゃったかしら?」  
改蔵がコクコク頷いている。お母ちゃんが聞く。  
「あんた今…何の相性って…セッ…?」  
「SEXよ。知ってるもんだと思ってた。まいっか。あのね、この子たちもうSEXする仲になってんの。」  
「おね、おね、おね、お姉ちゃん、ちょっと!」  
「去年の夏からだったっけ、ねえ改蔵君?夕べも結局、2時くらいまでしてたよね。」  
「お姉ちゃん!おねーちゃんっ!!」  
突然、お父ちゃんが食卓をバン!と叩いた。  
「えらいっっ!!」  
衝撃でまだビール瓶が揺れている。  
 
「そうかそうかそうだったか。もうそういう仲だったのか。何だよ改蔵水臭いな、やったんなら話して  
くれよ。んー気付かなかったなー。いや、堅いからまだだとばっかり…なんだ、毎晩やってんのか?  
若いなー、いい事だなー。いやあ、俺も若い頃はこの母ちゃんと毎晩毎晩それこそ3回ずつくらい」  
「お父ちゃんっ!」  
上のせりふはお母ちゃんだ。  
「めでたいなー、めでたい実にめでたい。早速お前の親父に連絡しなくちゃ、そうだ改蔵、あいつの電  
話番号教えてくれ。え?もう教えてあるはずだ?そうだったかな。まいいや、もう一回教えてくれ。つ  
うか、国際電話の掛け方から教えてくれ。」  
「いや、教えてもいいっすけど…何話す気ですか?」  
「ちょっと改蔵、そーいう話じゃないでしょ!!お姉ちゃんったらまたいい加減な事…嘘よ嘘、ぜーん  
ぶ嘘!!ねえお母ちゃん、お姉ちゃんの言うこと信じないでよ、信じてないよね!?」  
「…あんたさ、その…酸っぱいものとか、食べたくなってない?」  
目を期待に輝かせながらそんな事訊くなお母ちゃん。一体どういう家庭なんだ我が家は。  
 
お父ちゃんは本当に改蔵の親に電話でこの件を話してしまった。  
改蔵の両親も喜んでたそうだけど、ほんとなのかなぁ。  
まあ、肉体関係なのが家族に知られ認知されたからって、おおっぴらにエッチする訳にもいかない。  
だいたい、そんな事のあった今夜なんか、かえって周りの目が気になって、5号室に忍んで行かずに普  
通に自室で寝てるわけで。  
ただ以前なら、たとえば2月に台所でお味噌汁を作ってる時あったケースだけど、改蔵に後ろからセー  
ターの裾に手を入れられ胸を揉まれながらイチャついてるのをお母ちゃんに見つかった時、  
『お、お豆腐のかけらが、襟から胸に入っちゃって、取ってもらってるのっ!!』  
と物凄く苦しい言い訳をしたんけど、もうこれからはそんな必要もないんだろうなあとは思う。  
とにかく、既成事実が出来てしまった以上、いくら当の本人たちが消極的でも本当に結婚まで突っ走る  
しかないというのがお父ちゃんの理屈だ。卒業したら婚約ではなく直接もう結婚だ、と言ってる。  
でもお父ちゃん、その既成事実から結婚への持って行き方って、結婚に消極的な父親を恋人同士が説得  
する際に良く使うやり方で、うちとまるっきり正反対なんですけど?  
 
それはそれとして、バレた翌朝になった。  
私が改蔵を起こしに5号室に行って少し雑談してたら、お母ちゃんが来て促した。  
「朝御飯よ。早く下りてきて。」  
障子を開けずに廊下から声をかけてるのは、いきなり開けてエッチの真っ最中だったら困るって事だろ  
うけど、朝っぱらからなんてしないっての。  
1階に下りて食卓につこうとすると…なんだこりゃ。  
ニンニクの利いたレバニラとうな丼と、その他精力のつく献立がずらり。改蔵のは私の2倍はある。  
「さあ、たっぷり食べてね。」  
さもうれしそうに期待を込めてお母ちゃんが言う。それに対して私と改蔵が同時に答えた。  
「ちょっとまっておばさん、なんなのこれ、朝からこんなの食べれないよ。」  
「あのねえお母ちゃん、何考えてんの、なんか高校生の親として間違ってない?」  
 
なんていうか、朝の絶倫料理のせいで、夕方になってるのにまだ胃がもたれる。  
私は早めに学校から帰宅し、自室の整理をしている。なんせ、同室のお姉ちゃんが整理整頓ってことを  
知らない人なので、定期的に私が片付けないといけないのだ。これじゃ制服を脱ぐ場所もない。  
一通り片付けて、やっと着替えが出来ると制服のスカーフを解いた所で、改蔵が部屋のドアを開けた。  
帰ってきてたのか、気づかなかった。  
この部屋、玄関に人が来て上がりこんでもなかなか気付かない。位置的に「ごめんください」も「ただ  
いま」も聞こえにくいのだ。たまに、宅配の人が知らずに上がりこんでて廊下で出くわしたりする。  
「ちょっと、女の子の着替え中よ。開けるまえに一言声かけてよ。」  
「おい、おじさんもおばさんもいねえぞ。つーか、1号室から3号室までも空っぽじゃねえか?」  
「町内運動会。ジュンさんは大阪に帰省。」  
改蔵はふーんと言う。私は気にせずセーラー服の前を開いてゆく。と、いきなり抱きつかれた。  
「なあ、しようぜ…」  
「え?だめよ、まだ外明るいわよ、ちょっと…改蔵ってば!」  
私は制止ようと改蔵の腕を振りほどいた拍子に体勢を崩し、ドサッと畳の上に仰向けに倒れこんだ。  
セーラー服の前は開いてるしスカートもめくれてるので、ブラもパンツも改蔵に丸見えだ。  
彼の目つき変。あの料理のせいだ、改蔵が我慢できなくなってる。  
改蔵が私のブラをめくりあげ、乳首に吸い付いた。ちゅ…ちゅう…と音がする。  
私もなんだか抵抗する気になれない。朝ご飯のせいかな。いつもより感じるような気もする。  
彼は私のスカートはそのままでパンツだけ脱がせた。こんな明るい所で恥ずかしい、それに洗ってない  
し…。お姉ちゃんの姿見に、私のアソコが映ってるのが見える。やだ、濡れて溢れ出してきてる…。  
二人ともずっと無言。改蔵がズボンを下ろす。硬く反り返ったものを私の入り口にあてがう。  
そのとき突然、部屋のドアが開いた。  
改蔵の肩越しに人影。  
繰り返しになるが、この部屋、玄関に人が来て上がりこんでもなかなか気付かない…。  
 
「ね、やっぱ私発声トレーニング受ける事にしたの、ラヴ影先生の…お部屋…どこ…な、何してんの…」  
 
 
翌日。努力の甲斐もなく、私と改蔵の同居と肉体関係は瞬く間に校内に知れ渡った。  
羽美ちゃん自身は「こういうわけなの、あの二人を祝福してあげて」と善意でやってるつもりなんだか  
ら困ってしまう。やめてって言うと「広めてあげてるのになんで!」って訊き返してくるし…。  
クラスメートは上を下への大騒ぎ。  
「何だお前ら!いつからだ、いつやりやがった、うらやま…いやらしいやつらめ!」  
「何で隠してたのよ?友達でしょ?そんな冷やかしたりしないって、寝室に覗きに行くくらいだって!」  
「一緒に住んで毎晩なんて…ちくしょう、俺だってなあ、下宿屋の大家の可愛い幼馴染さえいれば…」  
当然先生たちにも伝わる。生活指導室に呼び出された。  
 
私たちは机をはさんで担任のよし子先生や教頭と向かい合っている。先生が口を開いた。  
「下宿屋だし、両親が出張で他に身を寄せる所がないなど勘案し、特例として認めてた訳なのよ?部屋  
を離して監視もするとお父様が保証したので、学校としてはそちらの立場を尊重しようと。それが…」  
「いいっす。こういうの男が全部責任取るべきでしょう。俺一人が退学でいいでしょ?」  
改蔵が言った。機先を制され先生たちが戸惑う。  
「え?あ、あのね改蔵くん、学校は退学までは考えてなくって…部の顧問としても、今君に退学される  
と困るわ…あなたには東京からスカウトも来てるし、大学の推薦入学だって…将来を棒に振る気?」  
「俺の場合、葵壱號館で住み込み管理人見習いって事で就職もOK、卒業後婿養子で山田家と葵の下宿  
屋を継ぐってことで丸く収まるんで。キャプテン10日ちょっとしかできなくてすんませんでした。」  
先生が慌て出す。改蔵が、人を小馬鹿にしたような冷ややかな笑みを浮かべる。  
 
私は「やった」と思った。  
人の弱みを見つけ、この表情になると改蔵はこういうのに滅法強いのだ。  
強引な論法と屁理屈で人を丸め込んで行く。かなう人はそうはいない。例外はお姉ちゃんくらいだ。  
案の定、数分後、先生たちは防戦一方になっていた。  
教頭がうめく。  
「た、たしかに君の言うとおりだけど…し、しかし、性交渉を持つ間柄が公然としている以上…そもそ  
もそういう男女ってのは、ちゃんとした法律上の婚姻関係になっていないと、本来は世間的には…」  
「じゃ、入籍すればいいですよね?おい、という訳だ、結婚しよう。」  
「え、え?え!?ちょ、ちょっと、改蔵、私…」  
「いいな?OKだな?よし決まった。という訳で俺が18になったら『ちゃんとした法律上の婚姻関係』  
になります。それまでの間、『性交渉』を持たなければ処分なしでいいですね?」  
 
私OKしたの?なんか頷いたような気もするけど…。  
先生達が相談する。改蔵が18歳になるまでエッチしないのならまあいい、それまでしばらくは平穏、  
その間に上手い方策を…このままだとさらに丸め込まれる、と思ったようで、了承、決着してしまった。  
突然決まった結婚に頭の中が「??」な私を連れ、改蔵は退席する。  
そして、ふと思いついたように出口のドアのところで振り返った。  
「あ、そうそう。先生方、俺の誕生日が来週なの、知ってますよね?」  
 
クラスメートはまたもや上を下への大騒ぎ。  
「二人ともおめでとう!!」  
「処分なし?このままの状態で学校にいられるの?ほんと?良かったー。」  
「ばんざーい!ばんざーい!結婚だー!結婚ばんざーい!!」  
みんなの騒ぎをよそに、私はまだぼーっとしている。結婚?いきなり?ほんとに?わけわかんない。  
ぼーっとしたまま家に帰る。話を聞いて、さすがにお父ちゃんもびっくりした。  
「なんつーか…結婚か。うまい事やったなお前ら。籍だけ入れとけ、式は後で考えてやるさ。未成年者  
だから、婚姻届に保護者のハンコがいるな。航空便で送るか。んー、忙しくなるな…苗字はどうする?」  
「え?俺が婿養子で決まりじゃないんすか?」  
「下宿さえ身内に引き継げば山田の苗字は残らなくともいいさ。さ、今夜は祝いだ。二人も少しは飲め。」  
 
一週間は瞬く間に過ぎた。入籍するだけでも、色々忙しいのね。  
お父ちゃんは「どうせバレねえよ」と言ったけど、改蔵は意地もあるのか、この間私を抱かなかった。  
今日、自分の苗字が変わると思うと変な気分だ。  
結婚かあ。恥ずかしいような、くすぐったいような…。  
私はいつものように改蔵を起こそうと5号室に向かう。  
こないだの先生相手の改蔵、かっこよかったなー、と思う。意外と頼もしい。あれが私の夫になるんだ  
もんね。改蔵はこのまま下宿の大家に落ち着く器ではないだろう。東京からのスカウトの話はこないだ  
初めて聞いたけど。私たちの前途は洋々だなあ。私自身も頑張らなくちゃ。そんな浮かれた気分になる。  
3階についた。私は、部屋にずかずか入りつつ、いつものせりふを…言えない。  
改蔵が、全裸のお姉ちゃんと寝ているのだ。  
 
「んあ…もう朝か…休みとってあるんだし、まだ寝てたってったってっ!?な、な、な?なんだこれ?」  
「むにゃー。だめー、しえちゃん、もう飲めない…むにゃ。」  
「なんだよ、何で隣に!?おい待て、これは誤解だ、俺は何も…ねーちゃん、おい、姉ちゃんっ!」  
(改蔵はうちのお姉ちゃんの事をごく普通に「姉ちゃん」と呼ぶ。)  
お姉ちゃんが目をこすりながら身体を起こす。いまだに太刀打ちできない、大きく型の整ったおっぱい  
がぷるぷるんと揺れる。くびれた腰、縦長のおへそ。物憂げにあぐらをかく。アソコが見える。形は使  
い込まれた感じだが、色は私のよりきれいかも…。  
「んー。おっはよー…あれ?なんで私こんなとこにいるの?」  
改蔵はポカンとお姉ちゃんのヌード、特にアソコを眺めている。改蔵の股間が反応し…。  
私は頭に血が上った。「だんっだんっだんっ」と部屋を立ち去る。  
我に返った改蔵が追いかけてくる。  
「おいまて、俺は知らない、な?さっきはじめてきづ…」  
「うるさい、うるさい、浮気者!浮気者!浮気者!浮気者!!知らない、もう知らないっ!!」  
「お前馬鹿かよ、そんなことするかよ、ちょっと考えりゃわかるだろ!!」  
口論は売り言葉に買い言葉でエスカレート、久しぶりの大喧嘩になった。  
ここんとこのあまりの急展開に、知らぬ間にストレスが溜ってたのかも。  
お姉ちゃんが泥酔して布団に潜り込んだだけなのはすぐわかったが、それはもう無関係、どうでもいい。  
もう、掴み合いにならないのが不思議なくらいの罵詈雑言の応酬、そして…。  
「大嫌い、もう絶交、結婚なんてしないんだから!!」  
そのセリフが喉まで出かかった。ところがそこで何も言えなくなった。改蔵は怪訝そう。場が冷める。  
理性が押さえた訳じゃない。  
いろんな思い出が目の前を通り過ぎたせいだ。  
初めて抱かれた夏の夜の事。初めて改蔵にドキドキした時の事。同じ高校に入れた時の感激、一緒のお  
風呂で初めて恥ずかいと感じた時の戸惑い、林間学校で一緒に迷子になり震えてすごした小学3年の夜。  
幼稚園での初めてのキス。自分が覚えている一番古い記憶も改蔵がらみだ。  
それにこの前、退学覚悟で先生と渡り合った改蔵の努力はどうなる?  
 
私は気づいた。自分は今、分かれ道に立ってる。次の一言で、二人の将来が決まりかねない…。  
「…ごめん。言い過ぎた。ごめんなさい改蔵…」  
私は改蔵との喧嘩で生まれて初めて、自分のほうから謝っていた。  
改蔵は、いやその…としどろもどろだ。  
 
あとは素直に事は進む。エキサイトするのと同じくらいの早さで、二人は普段の二人に戻って行く。  
私に謝られた事で、かえって改蔵のほうが下手に出るようになったりして。まあすぐ普通になったけど。  
午後にはすっかり仲良しに戻り、私たちは婚姻届をとらうま町役場に提出した。  
 
そして夜。今私たちは、出来たての戸籍の謄本を5号室で二人で見返している。  
戸籍筆頭者は改蔵。  
隣に私の名前。続柄はもちろん「妻」。  
なんかすごい事だと思った。二人とも、自分たちの戸籍が出来た事にすごいすごいを繰り返す。  
興奮が収まると、改蔵が咳払いをした。今夜から、私の部屋はこの5号室だ。荷物は1階だけど。  
「ん…と。そろそろ…寝るか?」  
「うん…ね、新妻なんだから、優しくしてよ?」  
半分は本気でいったのに、改蔵は笑い出した。  
 
夫婦になって初めてのエッチ。恥じらいながら素肌を見せる私。  
改蔵は唇と舌で私を可愛がってる。全身をいつもより念入りに…。恥ずかしいので私はささやき続けた。  
「改蔵…昼間はごめんね…やきもちやきでごめんね…こないだ、1年の娘にキスされた時、グーで殴っ  
ちゃってごめんね…。2月、バレンタインチョコ全部、川に投げ捨ててごめんね…。」  
改蔵は「んー」と言いながら、顔を私の股間へ。舌で敏感な所を…。  
 
「小さい頃から何度も…あんっ…改蔵んちにわざわざ行って喧嘩してごめんね…おじさんとおばさん、  
こんな女が嫁で嫌じゃないかな…あ…乳首の形が左右違ってごめんね…ねえ改蔵、なんか言ってよ…」  
「…あのな、口で色々してる最中に、いちいち受け答えできっかよ。」  
「だってぇ…なんか、しゃべってないと変になりそう…あ、そこ、いい…私、今夜…変…」  
「…多分、一週間してなかったからだろ…」  
「違うとおも…あ、ああ…思う、ある意味…初めての、夜だもん…雰囲気で…ああ…」  
「もういいから…感じてろよ…」  
その時、廊下で物音がした。足音だろう。  
お父ちゃんかな…お母ちゃんかな…恥ずかしい…でも、だんだん私はそれどころではなくなってきた。  
改蔵も限界らしい。いよいよ挿れる体勢をとる。ぬるっ、と熱く硬いものが私の中に…。  
 
根元まで入ると、キスをする。何度も舌を絡める。いつもどおりの挿入直後の挨拶のようなキスが終わ  
ると、改蔵はこれもいつものようにおっぱいを揉みしだきながら腰を動かし始める。  
「わ…お前の中、凄く熱い…具合いいぞ…やっぱなんか、いつもと違うな…」  
私は答えられない。また廊下で物音がしたが、もうどうでもいい。  
「しかしいいおっぱいになったな…あの、ペタンコだったのがこんなになったと思うと不思議だぞ…ふ  
くらみかけの頃、一緒に風呂はいって、その度に大きくなってくのを…触ろうとしては叩かれたっけ…」  
深く突き、浅く掻き回される。今は改蔵のほうが饒舌だ。  
なんでこんな初エッチ直後よく言ってた事をまた囁いてるんだろ…普段する時は無口なのに…実は改蔵  
も今夜はこうしてないと我慢できないのかな…。  
 
イキたくてたまらない。私はものすごくエッチな表情になってきてるはずだ。だけど彼は言った。  
「お前…可愛いな。すごく可愛いな。」  
顔から火が出そうに恥ずかしい。熱い液がアソコからお尻を伝ってシーツを濡らすのが感じる。  
「すごい溢れ出してるな…乳首も勃ってる…お前、俺がおっぱい大好きだって言うけど…どっちかっつ  
ーと、お前が感じやすくて揉んで欲しそうにしてるから…してるんだぞ…おい、なんか言えよ…」  
「だめ、なにも…だって、しゃべると変になりそう…」  
「さっきと言うことが逆じゃねえか…ま、いいや。よし…一緒にいこうな…」  
改蔵が浅い挿入での刺激を繰り返す。私がじれてくると深く挿入し、もう少しそのままでいて欲しいと  
いうときに浅く戻す。やがて二人は仲良く絶頂に近づいてきた。  
夢中でしがみつく私。悦びが大波のように押し寄せる。そのたびに私は硬直し、彼の背中をかきむしる。  
どうにかなっちゃう…。改蔵もその先端を膨れ上がらせ、私の中ではちきれそうになってきた。息が極  
端に荒くなり、私を折れるほど抱きしめる。私は涙を流してる。  
「あ、ごめん…やだ、もうだめ…ねえ早く…あ、あう…う、うう!」  
ついに改蔵も弾けた。  
いつもよりずっと熱いものを、久しぶりにじかに私の中にほとばしり出してる。身体も心も満たされてゆく。  
こんなにたくさん…痺れるような快感に気が遠くなる…ああ、まだ出てくる…。  
改蔵の荒い息と私の嗚咽に混じり、廊下から足音がそっと去っていくのが聞こえた。  
 
今までのエッチは「いいなずけとしての証」だったが、これからは「夫婦の証」だ。  
布団の中で寝たままイチャイチャする。くすぐりっこしたり、指を絡めたり。  
私はこのまったりとした状況で、古風なせりふを思い付いた。彼の腕の中でぺこりとおじぎをする。  
「改蔵…ふつつかな妻ですけど、これからよろしくお願いします…ね?」  
改蔵は私を抱き締めた。唇を重ねる。  
そして再び私たちは一つになった。  
 
 
月日は過ぎ、6月も下旬。庭の紫陽花が美しい梅雨の季節だ。  
「ほら――、いいかげん起きなさいよ!」  
日曜の朝の5号室。  
「今日は、大事な試合でしょっ。」  
腰に手を当て顔を近づけ、大声を張り上げて言ったのは、私…ではなくお母ちゃんだ。  
なぜなら、今朝は私は惰眠をむさぼってるほうの立場だからだ。改蔵と一緒に。  
「ほら早く起きて支度しなさい、早くしないと私らが先に向こうに着くわよ。そしたら『うちの娘夫婦  
は夕べ子作りに励みすぎたんで寝過ごして遅刻します』って試合会場でアナウンス流してもらうわよ!」  
眩しい、久々のいい天気みたい…。  
私はやっと起きだす。おっぱいが丸見え。二人とも全裸のまま寝ていたのだ。慌てて下着を探す。  
夕べは、一回だけ愛し合ってすぐ寝たんだけど、明け方に二人とも目が覚めて…そうか、それでまたエ  
ッチを始めちゃって、イッたあと何する間もなくすぐ眠り込んじゃったんだ。  
「…お、お母ちゃん、ちょっと廊下に出ててくれない?せめてむこう向いてて…」  
急に生暖かい感覚。  
うわっと思いティッシュをぱぱっと取って股間に押し当てたが遅かった。  
いくらお母ちゃんの了解済みでも、中に出されたのが流れ出してきたのを母親に見られるばつの悪さと  
言ったらもう…。  
お母ちゃんは「あーあ」という顔で見ている。改蔵もきまりが悪そうだ。  
私が真っ赤になって脚の付け根からシーツまで滴ったモノを拭いていると、  
「あらあら、新婚夫婦は大変ね。」  
例によってお姉ちゃんが登場、寝巻き代わりの浴衣を着崩して…以下略。  
「お母ちゃん、今は誰も居ない斜向かいの家、早いとこ整頓してこの二人の新居にするように言ってあ  
げなよ。このままじゃプライバシーも何もあったもんじゃないわ。」  
とか言いながら覗き込むなお姉ちゃん。改蔵も朝勃ちしてるモノをお姉ちゃん達に見せるな馬鹿。てか、  
なんでお父ちゃんも住人一同も聞きつけて集まってくんのよ。着るものがどうしても見つからない、私  
たちまだ裸なのに…。  
 
試合会場に向かう途中の市電の中。とりとめのない思いが浮かぶ。  
クラスメートたちは、最近は「早く赤ちゃんを見せろ!!」とうるさい。いくらなんでも早すぎるって。  
改蔵の追っかけ達は今のところ冷静。剃刀がうちに15通届けられたくらい。よかったよかった。  
お姉ちゃんは相変わらずだが、6号室での酒盛りはあれ以来してない。一応自粛中?  
羽美ちゃんの発声トレーニングは続いてるが、未だに「ヴ」の発音がなってないと怒られている。  
そうそう、久米口さんの作品が、今度アニメになるそうだ。  
ずいぶん忙しかったけど、やっと落ち着いてきたかな。  
ふと、市電の窓から外を見た。路面のレールのすぐ右は浜辺。  
梅雨の晴れ間の海は青くてきれい。早く泳げるようにならないかな。  
でも今年の夏は、あまり水着姿を男の目にさらす訳にはいかないか。人妻になったし、改蔵が怒るかも。  
隣で同じく海を見てた改蔵にそう訊いたら、そんな事ねーよ、と言った。わかってないね。  
 
試合会場に着く。  
クラスメートや両親、お姉ちゃんも来た。一時帰国の改蔵の両親も、空港から直接駆けつけた。  
このままここで結婚式が出来るな。式挙げてないんだし、この試合後「葵壱號館」で私たち夫婦のお披  
露目会するんだし。  
ユニフォーム姿で集合する選手たち。円陣を組み、改蔵が掛け声をかける。  
各ポジションに散らばる直前、一人が改蔵に声をかけた。  
「キャプテン、いつもの恒例のやってくださいよ。」  
来たな。私は少し身を堅くする。  
もう、例の当番はなくなってる。改蔵が専任担当やってるみたいなものだからね。実際効果あるみたい。  
改蔵が私に近づいて来て、軽く咳払いし、小声で言った。  
「好きだ。」  
一瞬だけキス。そう来たか。彼は顔を真っ赤にしてポジションに走って向かう。皆笑ってる。  
試合が始まり、歓声が上がる。  
私は思う。今この瞬間が、どんな豪華な結婚式より私たちにふさわしいな、と。  
 
―完―  
 

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