SCENE #1 姫事城フロント:
「さーすずちゃーん、この部屋だよーっ。なんせ選択の余地無しだからねーっ。」
と、鼻息も荒く、地丹がすずを引っ張り込むようにSMの105号室に消えてゆくのを、改蔵と羽美は
あっけに取られて見送った。しばらくして顔を見合わせる。
「で?」
羽美が訊く。
「どうすんのよ。私達は。」
「選択の余地無し、だろ?」
「そうゆうことね…。まーいいけど。でも、SMはやーよ。」
見るとまだランプのついている部屋がいくつかあった。ごく普通の部屋と思しき302号室を選び、そ
こに入る事にした。キーを受取り、エレベータのボタンを押して待つ。
「今日は、声を出しても平気なんだね。」
羽美が改蔵に腕を絡める。
「いつもは口に手を当てて押し殺してたけど。」
ちょっとうきうきしている。エレベータのドアが開いた。
SCENE #2 105号室:
「ねーぇ、すずちゃーん。はやくはいっておいでよー。流しっこしよーよー。」
バスルームの中で入浴中の地丹が声を張り上げる。すずはしばらく何かごそごそしていたが、バスルー
ムの入り口に近づいて来て言った。
「ごめんね地丹君、私お風呂は入れないわ。だって」
と言いながらドアを開けて姿を見せる。
「こんなかっこしてるんだもの。」
すずはSMのボンデージ・ファッションに着替えていた。黒のビニールレザーで、金具があちこちにつ
いているものすごく露出度の高い衣装だ。どうやらこの部屋の備え付けらしい。
地丹は完全に舞い上がってしまった。風呂から上がってあわただしく身体を拭くと、バスタオルを腰に
巻くのもそこそこに飛び出てきた。きょえーっと叫びながら襲い掛かろうとするのをすずが制止する。
「こういう部屋に入ったんだもの、きちんとSMプレイしましょ。縄でも蝋燭でも好きなの使っていい
わよ。」
「縄!縄!縛ってやる。すずちゃんを縛ってやるぅー。縛って吊るしてやるぅーっ。」
地丹はきょーっきょっきょっと奇声をあげながら、丈夫そうなロープを壁の用具掛けから手に取った。
目が血走っている。すずは冷静で、薄いクッションの上に素直に座り込む。
「さ、縛っていいわよ。好きなだけ私を嬲ってね。」
横座りするすずのTバックのお尻がすごくエロティックだ。背中も革紐が2本交差しているだけで肌は
ほとんど露出している。地丹はすっかり興奮して、乱暴に縄ですずをぐるぐる巻きにした。
「なーにこれ?こんなんじゃ気持ちよくないわ。こういう時の縛り方知ってるの?」
地丹が知らないと言うと、備え付けの縛り方マニュアルを渡した。
「これやってみない?興奮するわよ。」
地丹はマニュアルを見ながら縛り始める。ところが当然これが上手くいかない。
「あれ?こうかな?違うな…こっちかな?なんかこんがらがってきたな…。」
「じれったいわねー。ほんとに大丈夫なの?いっそのこと、攻守交替しない?」
「その手は桑名の焼きハマグリだぞ!僕を縛ったら、そのまま放置プレイする気だろ?そうなんだろ?」
地丹がしゃーっと蛇の威嚇音を出しすずをにらみつける。さすがにこれは読まれていたか。
「じゃ、鞭でも使ってみる?」
「そう、そうだよ、それがあったよ!すずちゃんを叩いて泣かせてやるぅー!」
また地丹は興奮しだした。壁にかかった何種類もの鞭を物色しだす。一番太く長い、猛獣使いが使うよ
うな鞭を選んだ。
「ちょっと、地丹君、それ危なすぎるわ。その鞭は危険よ。」
「ひゃっひゃっひゃっ、そうさ、僕は危険な男だじぇぇーっ!」
と言って地丹は鞭を振るった。叩きつけるすごい音。
「うきぃぁあぁあぇあー!!」
「…あーあ、だから言ったのに。」
すずがしれっとして、のたうちまわる地丹を眺めている。
「素人にその鞭は使いこなせないわ。せいぜい、そんなふうに自分自身を叩くのがオチね。」
「ぐぐぐ、すずちゃーん…いたいよ…。」
「心配しないで。一箇所だけ叩かれたから痛みがきついの。」
すずは先が何本にも分かれた短い鞭を持って、にっこり微笑み地丹を見下ろしてにじり寄る。
「全身叩いてしまえば、またいつかみたいに『ただの赤い人』よ。」
SCENE #3 302号室:
改蔵と羽美はバスルームにいた。改蔵はすでにお湯に浸かっている。羽美はまだ備え付けのボディソー
プで身体を洗っている。
「そのバスタブ、悪趣味ねぇ。」
羽美は泡だらけだ。ふと目に付いた封の切っていない石鹸を取り上げ、その香りを確かめる。気に入れ
ば持ち帰るつもりらしい。
「でも、あっちの二人は今ごろ何してるのかしらねー。」
立ってシャワーで泡を流しながら羽美が言う。改蔵が自分の裸身を鑑賞しているのに気づき、恥ずかし
そうに微笑む。小ぶりだが感度のいい乳房。意外と毛深い恥丘。本人も少し気にしている腰のライン。
「ほんとにSMしてるのかしら?大体、地丹君はエッチの経験自体が無いんでしょ?」
羽美はバスタブに入る。改蔵に後から抱きかかえられるような体勢で彼の両脚の間に座り込む。羽美は
背中を改蔵の胸にもたれかからせ、改蔵は羽美の胸を揉み始めた。
「意外と男役と女役を入れ替えてやってたりしてな。」
「変態よ、そんなの。」
「SMの部屋に入った時点で変態だろう?」
髪をアップにして纏め上げた羽美のうなじにキスした。左胸を揉んでいた右手を彼女の股間に持ってゆ
き、お湯の中で敏感な部分を探り当てる。
「ま、すんなりと童貞を捨てることだけは無いな。博士に軽くあしらわれるだけだろ?」
「なんか…地丹君…かわいそ…あ…せっかく…あん…こういう所に…部長と…んっ…入れたのに…。」
「今ごろ博士に縛り上げられてるんじゃないかな?あいつ間違いなくMだしな。」
羽美は答えなかった。目を閉じて、快感に身を任せきっている。左手で勃起している乳首をつまんでみ
た。びくん、と身を強張らせる。改蔵は目の前にあった羽美の左の耳たぶをぱくりと咥えた。
SCENE #4 105号室:
地丹は「全身赤い人」になって泡を吹いている。すずは彼をてきぱきと縛り上げつつある。
「一時はどうなるかと思ったけどね。ま、やっぱり地丹君、詰めが甘いというかなんと言うか。」
意識の無い地丹をロープで縛り鎖で壁に繋ぎとめて、そのままごろんと床に寝かせておく。
「でもおかげで助かったわ。私、やってみたいことがあるの。そこでしばらくおとなしくしていてね。」
すずは部屋備え付けのビデオモニターをオンにすると、なにやら変則的な操作を開始した。
SCENE #5 302号室:
改蔵と羽美は風呂の中でのエッチを終えて(早っ!)、ソファでビデオを見ていた。二人ともバスローブ
姿だ。このホテルのビデオ(105号室にあったのと同じ)は各部屋のデッキやセンターのビデオサーバ
をLANと同軸ケーブルで結んだ結構なシステムになっている。でも、流れる番組は当然裏ビデオ。
改蔵はビールを飲みながら、羽美は同じビールの缶を持っているがほとんど口をつけずに、二人して食
い入るようにビデオモニターを観ている。画面の中では、挿入された結合部のアップがこれでもかと言
うくらい映されている。あふれ出る愛液が白く泡だって滴り落ちる。
羽美は落ちつかなそうに両脚をもぞもぞ動かして太腿を擦りあわせる。頬が紅い。
「裏ビデオって初めてみるけど、こういうのなのね…。」
画面は突然切り替わり、女優が男優のアレを音を立ててしゃぶっている(ストーリーは元々ない)。
「ほら、な?」
改蔵がすかさず言った。
「女の子はみんなあーゆー事をするんだよ。」
「何いってんのよ、これはビデオの中だからしてるんでしょー?」
「現実の女の子もするんだって。」
「やだもん。ぜっったいにやだもんっ。そんな変態行為。」
どうも羽美は改蔵のアレをしゃぶった事が無いらしい。真っ赤になって首を横に振る。二人とももう流
れているビデオのことは忘れて議論をはじめている。
「変態行為じゃないっつーの。普通の女の子もやってるんだって。」
「何でそんなこと言えるのよ。普通の女の子って、私の他に誰としたのよ。部長とそんなことしたの?」
「…なーんでそこで博士の話を蒸し返すかな。何回も謝っただろ。」
「あー否定しない!したんだ、部長と、そういうこと。ガチャピンのくせに。」
「ガチャピンっていうなあー!」
「へーんだ、何度でも言ってあげるわよ。ガチャピン、ガチャピン、ガーチャピーン。」
改蔵は羽美を追い掛け回す。ガチャピンと連呼しながら逃げる羽美を丸いベッドの上で捕まえ押し倒し
た。そのままベッドの上もつれあっているうち、二人ともまた変な気分になってきた。
唇を重ね、舌を絡めあう。バスローブをはだける。脚を擦り付け、腕を相手の背中に回す。ビデオが終
了しスピーカーから喘ぎ声が途切れても、302号室には別の喘ぎ声が聞こえつづけた。
SCENE #6 105号室:
地丹はようやく失神から目覚めた。どこかから女の子の嬌声が聞こえる。まだ体中痛い。
首を回すと、ビデオモニターが目に入った。画面はなにかAVらしき男女の絡みを映している。ぼんや
りと、このAV女優の声どっかで聞いた事があるな…と思ううち、それが羽美であることに気づいた。
「な…なんですかこれ?なんですかこれ?何で改蔵君たちがビデオに写ってるんです?てゆうか、あの
二人、ほんとにしちゃってるじゃないですか?」
「あら、この二人、結構前からこういう仲なのよ。知らなかったの?」
「しらなかった…ってゆうか、隠し撮りですか?」
「あら、ビデオカメラはどの部屋も標準装備よ。ほら、この部屋もね。常時動作中だとは思わないのよ
ね、普通は。」
「何でこの部屋からそれが見えるんですか?」
地丹は自分の自由が利かないことも気づいていない。
羽美が改蔵に激しく攻められて泣き声を出していた。あまり大きくないおっぱいがプルプル揺れる。地
丹は、身近なクラスメートが今現実にしている行為を目の当たりにして強く勃起していた。
「ここのビデオシステムを組んだのは私だからね。まあ一人でやったんじゃないけど。ちょっと、内緒
で隠し機能をつけておいたの。まさかこのシステムが納入されてるホテルの一つが、こんなところにあ
るとはさっきまで知らなかったんだけどね。」
画面の中では、今は羽美が上になって腰を使っている。
「あら、羽美ちゃん積極的ね。何とかこの二人のエッチを観察したいと思ってたのよ。」
また改蔵が上になった。今までとペースが違う。いよいよ終わりが近づいているらしい。
『だめぇえ…改蔵…私、もう駄目だよぉ…。』
モニターの中の羽美が泣きながら改蔵の名を呼びつづける。普段押し殺していた分、声が大きい。改蔵
の息が急激に荒くなり、動きがいっそう激しくなったかと思うと、唐突に止まった。
組み伏せられた羽美がピクッ、ビクッと動いている。しばらくそのままの状態が続く。羽美が安心した
ように満足そうなため息をついたのは十数秒後であった。
「あ。終わった…。録画は…正常ね。また始まるかもしれないから、今のうちにテープ替えなきゃ。」
すずは地丹の事を完全に忘れている。彼は可哀想に勃起したまま放置プレイであった。
SCENE #7 302号室:
羽美は改蔵の腕枕で快感を反芻していた。改蔵はぼんやりと天井を眺めていた。甘ったるい声で羽美が
囁く。
「ねーぇ、改蔵。」
「何だよ。」
「うふふ。なんでもなーい。」
「気持ち悪いな。」
羽美がさらに甘えようと体を擦り付けると、改蔵は起きてシャワーを浴びに行ってしまった。よく女性
誌に<Q:なんで男の人って、出しちゃうと急にそっけなくなるの?>っていうのが載ってるけど、あ
れって本当だなあと羽美は思う。
中に出されたものが流れ出てきたのでティッシュでふき取る。今日がちょうど安全日で良かった。のそ
のそ起き出すと化粧コーナーにある化粧品とか香水の小ビンを調べだす。これもいいのがあったら持っ
て帰るつもりなのだ。物色を終えると、テーブルにあったノートを開いた。
こういうホテルにはよくある、客が自由に書き込めるノートだ。前にこの部屋を訪れた客たちが、色と
りどりのペンでさまざまな文章をつづっている。羽美は少し考えると、ピンクのボールペンで次のよう
に書き出した:
はーいv(^_^)ウーミンでーす(はあと)
今日は彼(ラブラブ)ときてまーす。もう二回もHしちゃった(*^^*)キャ
でも、実は私たち、駆け落ちしてきたんです。彼の両親が交際を認めてくれなくて(T_T)
明日になったら、青木ヶ原の樹海に行って、心
「…お前、何書いてんだよ?」
「ああっ!改蔵、な、なんでもないの。あ、私、シャワー浴びてこなくちゃ。」
羽美はあわてて素っ裸のままシャワーを浴びに行った。改蔵は羽美の書き込みを見てため息をつく。そ
してその横にナスカの地上絵を描きだした。
ノートのそのページの余白を改蔵が地上絵で埋めきった頃、羽美がバスタオル姿で出てきた。どうやら
バスローブも持ち帰るつもりらしい。ベッドに横になってさっきのノートを読み始めた。改蔵は手荷物
から「モー」を取り出して読み出す。しばらくは無言で時が流れた。
そのうち、改蔵は座っているソファの位置からベッドの上の羽美の陰部が丸見えなのに気がついた。
羽美はさっきとは体勢を変え、向こうを向いて屈みこみノートを読みふけっている。バスタオルの短す
ぎる裾から、お尻が半分はみ出している。柔らかなその二つの盛り上がりの間の谷間に黒い茂みと共に、
二か所の綺麗な桜色の粘膜が覗いている。本人はそれに気づいていない。
改蔵にとって、これほどじっくりと羽美の秘所を観察するのは久しぶりだった。羽美がソコを大人しく
見せてくれることはまずない。毎晩のように身体を任せるようになった今でも、死ぬほど恥ずかしいの
だそうだ。一度明るいところで観察しようと脚を広げて無理やり見ようとしたら、顔を蹴られた。
しっとりと濡れた複雑な形状の淡い花びらのようなそれを見ているうち、改蔵は以前ほんの冗談で羽美
に裸エプロンをさせた時以来の激しい欲情がこみ上げてくるのを感じ始めていた。
(3回目だというのに、俺も元気だな…)と思いつつ、改蔵は背後から羽美に近づいた。
SCENE #8 105号室:
「あ、始まった。」
辛抱強くモニターを見ていたすずがすかさず録画を開始する。
「今度は改蔵君が積極的ね。羽美ちゃん戸惑ってるわ。ちょっとレイプみたい。」
「僕は放置かよ?こらーっすずーっ!蛇の生殺し状態で放置かよ?」
地丹がテンパってる。が、縄と鎖で二重に拘束されてほとんど動けない。バスタオルはすでに落ち、痛
いほど反り返ったアレが脈打っている。鎖がガシャガシャ音を立てる。
「ちょっと静かにしてね。いいところなんだから。なんか無いかな…あ、そうだ。あれあるかな?」
すずはがさごそとSMグッズの詰まった箱を探し、何かを見つけ出した。
「地丹君、これでちょっと我慢しててね。」
というと、地丹のアレにそれを装着した。いわゆる、電動のオナマシンとかの変種だ。
「な、なんですかこれ、なんでSMの部屋にこんなのが?あひゃぅ?ちょっと、スイッチ切って!」
悶絶する地丹をそのままに、すずはそのままモニターに戻った。
画面中では、羽美が改蔵に全身をキスされていた。そのキスはやがて一点に集中しだす。
『あ、だめ、そこだめ、改蔵、やだ、私そこはだめだってば、知って…るでしょ…そこ…だめ…。』
「あら、羽美ちゃんてばあんなところが性感帯なんだ。意外だわ。改蔵君に開発されたのね。」
『だ…めぇ…、いじ…わる…、やん、やぁ…ぁん、んふぅ…っくぅ…ぅ…っ…。』
そのまま羽美はイッてしまった。すずが無言になる。なんだか羨ましそうだ。改蔵は脚を無造作に開い
て挿入を開始する。羽美はすすり泣きながらされるままになっている。
地丹はその頃二度目の射精をして、さらにマシンに搾り取られつつあった。
SCENE #9 302号室:
もう夜中の4時を回っている。
さすがに3回目ともなると、改蔵はなかなか絶頂に達しなくなっていた。その間に羽美は2度イッてい
た。それでも改蔵は攻めるのを止めない。
更なる絶頂が近づいてくる。羽美は泣きながら喘いでいる。そのまま改蔵にしがみつき、何度も身をよ
じる。先に見ていた裏ビデオ同様、とめどなくあふれ出る愛液が白く泡立ってシーツにしみを作る。羽
美はもう何がなんだかわからなくなっていた。意味不明の言葉を何度も呟く。改蔵は久しぶりに完全に
乱れる羽美を見て満足だった。最近なんかお互い惰性っぽくやってたからな、と思う。
そして、改蔵もついに最後のものがこみ上げてくるのを感じていた。羽美をとてもいとおしいと思う。
もう声が涸れている羽美のか細い悲鳴にも似た声を聞きながら、その胎内に、改蔵は残っていたもの全
てを注ぎ込んだ。子宮の中に熱いものが送り込まれる感覚に反応し、羽美ももがくように改蔵の背中を
かきながら絶頂に達した。
全ては終わった。改蔵はぐったりと、彼女に全体重をかけて荒い息をしている。羽美はかなり長い間、
嗚咽を上げ続けた。
やっと落ち着き改蔵が新しいビールを開けた時、羽美が心ここにあらずという感じでぼそっと呟いた。
「なんか途中で何回か意識が飛んじゃった…こんなの初めて…。本で読んだことはあったけど…。」
「気持ちよかったか?」
「…わかんない。変な気分…。」
改蔵は飲みかけのビールを羽美に渡した。羽美はぐっ、と3口ほど飲む。ようやく生気が戻ってきた。
SCENE #10 105号室:
「…いいな。なんか私もしたくなってきちゃった…。」
すずの顔が火照ったように紅い。そういえば地丹のことを忘れていた。彼で間に合わせようか…。
しかし地丹は空気の半分抜けた風船人形のようにへんなりとなっていた。
「あら。そういえばスイッチを入れっぱなしだったわ。ずいぶん出したみたいね。」
床に溢れ落ちた白い粘液をすずは他人事のように眺めた。地丹は虚脱状態だ。一応オフにしてあげる。
仕方無いかという顔ですずは衣装を脱ぐと、全裸で地丹の前を通り過ぎ、バスルームに向かう。地丹に
それは見えていたが、もう何も反応しなくなっていた。
バスルームからはくぐもった喘ぎ声が聞こえてきた。
地丹はぼんやりとその声を聞いていた。何の感情もわかなかった。ビデオモニターの中では、改蔵と羽
美が疲れきった体を重ね合わせるように横になり、シーツを体に掛けた。302号室の灯かりは消え、
モニターは暗くなった。一分あまり二人が囁きあう声が聞こえたが、すぐ寝息に変わった。
バスルームの喘ぎ声が途切れ、しばらくするとさっぱりした表情のすずが裸のまま現れた。無言でベッ
ドに入り、明かりを消す。
地丹は朝まで放置されたままであった。
CENE #11 姫事城フロントから外へ:
朝、携帯で連絡を取り合って、同じ時刻にフロントに4人は集まった。あまり寝ていないのに平気なの
はまだ若いからか。羽美のバッグはぱんぱんに膨らんでいる。
「羽美ちゃん何をそんなにお持ち帰りするのよ。」
「えへへへー。」
ホテルから出て夕べ歩いた道を逆にたどる。土砂崩れが復旧していることは確認済みだ。
「改蔵君腰痛そうね。」
「だって羽美の奴が…。」
羽美が真っ赤になって改蔵を小突く。
「あまり若いうちから腰を酷使するとよくないみたいよ。特に夕べの最後から3番めの体位は腰に…」
すずは言葉を飲み込んだ。二人に考える隙を与えずに別な話題を振る。
「あら羽美ちゃん、腕のそんなところにキスマークがあるわ。」
「えーわかっちゃいますー?ファンデ塗って隠したつもりなんですけど…。」
「良く見ると太腿にも…背中にも、あ、首筋にもあるわよ。」
「全く改蔵が悪んだからねっ。部長バンソウコウとか持ってません?」
しばらく立ち止まって羽美のキスマークをバンソウコウで誤魔化す。バンソウコウだらけになった。
「うふふふ。これじゃ、私達じゃなくて羽美ちゃんたちがSMの部屋に入ったみたいね。」
「あーもう、明日体育の授業があるのに−。みんなになんて言い訳しよ…。」
「誰も羽美の肌なんて関心持たないって。」
羽美が改蔵をぺしっと叩く。改蔵は気にせずすずに訊く。
「そういえば、博士たちは結局あの部屋で何したんです?何か面白いことありましたか?」
始めから、単なるSEXなどする筈はないと言う前提での質問だ。
「そうよ、地丹君上手く行ったの?ってゆうかさぁ、さっきからムスーッとしてるけど、その調子だと
あれかなぁ?」
「なんか狸にでも化かされたような表情だな。」
帰り道ずっと無言だった地丹は、ムスッとしたまま呟いた。
「…あれだったら、狸に化かされたほうが、ずっとましだったよ…。」
最近の狸は人を恐れない。歩いてゆく4人の背後で、狸の親子がのこのこと道を横切った。
−完−