「あいたたた…」  
頭の痛さに目が覚めた。眼鏡がない。しかも僕は、床にじかに寝ているのだ。  
「???ここはどこだ?僕は何をしていたんだ?」  
眼鏡は足下にあった。見回すと、そこは科特部の部室だ。床には食べ物と飲み物  
が散乱、得体の知れないものが煮詰まっている鍋。  
「…そうか、夕べまた鍋パーティーをやったんだっけ…」  
部長が持ち込んだお酒(のようなもの)のせいで、パーティーは乱痴気騒ぎに変  
わったのだ。始めは部長、僕、羽美ちゃん、改蔵君の4人で始めたんだけど、い  
つぞやの鍋奉行の人とか、しばらく見ていなかった山田さんのお父さんとか、覚  
えていないけどその他にもいろんな人が途中参加して、食材や飲み物も持ち込ま  
れ、飲めや歌えの大騒ぎになったのだ。そして…ええとそれからどうなったん  
だっけ…。  
「なんか心に霞がかかったみたい…うぷ、気持ち悪…」  
ひょっとして息が酒臭いかも。今日も授業があるのに。「お酒じゃないんです。  
あくまで、『のようなもの』なんです」で先生に通じるだろうか。まだ朝の6時  
だ。他のみんなは一旦うちに帰ったんだろうか。やたら喉が渇く。手洗い場に行っ  
て、蛇口から直接水を飲んだ。顔も洗う。と、背中の痛みに気が付いた。  
「いててて…頭痛のせいで気が付かなかったけど、背中に傷があるみたいだな…  
なんで背中なんかに傷が付くんだろ?」  
と、突然、夕べの記憶が断片的に、しかし鮮明に復活し始めた。  
 
女の子の細い腕が僕の背中にもがくようにしがみつき、爪を立てる…  
汗をじっとりとかき、揺れる乳房を揉みしだき、何度も子宮を突き上げる…  
すぐ傍の筈なのに、どこか遠くからのように聞こえる「いっちゃう」と叫ぶ声…  
熱く、締め付け、柔らかく、ぬるっとしていて、まとわりつく粘膜…  
 
「なんだ?何があったんだ、昨日僕は何をしたんだ?一体何をしたんだ!」  
僕はパニックに陥っていた。なぜか僕の教室に行ってみて、当たり前だが何も手  
がかりがないのでまた科特部の部室に戻ってきて、鍋の中を調べたり、パソコン  
を立ち上げたり無意味な事をしてようやく落ち着き、ようやくゴミ箱を調べる事  
を思い付いた。  
ゴミ箱の中には、栗の花臭いティッシュが一杯入っていた。  
 
ようやく記憶の断片がつながり出す。そうだ…夕べはほとんど、性の大狂乱宴会  
になってしまったのだ。どうやら僕も、その衆人環視の中で、初体験をしてし  
まったらしいのだ。  
 
発端は、羽美ちゃんだった。お酒(のようなもの)のせいで羽美ちゃんの理性が  
飛んでしまい、改蔵君との夜の関係をみんなにべらべらしゃべり出したのだ。二  
人がいつの間にかそんな関係になっていたのを知らずびっくりしてたのは僕だけ  
だったようで、他のみんなは当然といった感じで聞いていた。改蔵君自身が別に  
止めようともせずに会話に加わっていた。どういうわけか話は二人はどんな体位  
でどんなプレイをしているかという話題になってゆき、酔いで言葉での説明が難  
しくなっていた改蔵君がそれならここで実際にやってみようかと言い出し、酔い  
のまわった改蔵君と羽美ちゃんはズボンとパンツを下ろして…。  
僕はあまりの刺激に興奮し混乱して酒(のようなもの)を大量摂取、そして…そ  
して…。ええと…。  
覚えているのは、  
「えー地丹君って童貞なのぉー。」  
と、下半身裸のままで言った、羽美ちゃんの蔑むような目線。  
「知らないのか?こいつのアレは大きいんだぜ。まだ未使用だけどな。」  
という、ティッシュで自分の出したものを拭いながらの改蔵君の台詞。  
「あら、ちょっと触っただけなのに。さすがに敏感ね。でも、まだ何回でも出せ  
るわよね。」  
という、今度は上半身裸で胸から首筋を僕の精液で汚した部長の笑顔。  
そして、誰かが  
「じゃあ今度は地丹君に初体験をさせてあげよう」  
と言い出した…。  
相手は誰にすると言う声…「じゃあ私が立候補する」…そして、その子をみんな  
にはやし立てられながら抱く…。  
背中の傷は、僕が彼女をいかせた時に、彼女がつけたものだ。間違いない、僕自  
身が射精をした瞬間、ほぼ同時に絶頂に達した彼女から、シャツの上から女の子  
のものとは思えない強い力で食い込まされた爪の痛みを、確かに覚えている。夕  
べの記憶の中で、最も鮮明で、最も忘れがたい、重要な断片。  
 
しかし、その「彼女」がどっちなのか、どうしても思い出せないのだ。  
部長なのか?それとも羽美ちゃんだったのか?  
 
登校時間が来た。なんとか昨日の参加者からはっきりした情報を聞き出そうとし  
たが、羽美ちゃんも改蔵君も部長も軒並み遅刻だ。  
でも、彼女らが登校してきても、何をどうやって聞けばいいんだろう?  
ちょっと聞く前に、状況証拠だけで事態を解決できないかやってみよう。改蔵君  
とああゆう仲なんだから、僕の相手は羽美ちゃんではない…のか?いや、確か夕  
べは改蔵君は部長ともしていた。羽美ちゃんがよくそれを許したと思う。なんと  
なくだが、改蔵君と部長が全裸で愛し合いながらお互いに相手を先にいかせよう  
としているのを、すっかり出来上がった羽美ちゃんがニコニコしながら「どっち  
もがんばれー」と応援していたような記憶も残っている。どうも常識では考えら  
れないことばかり、昨日は起きたようだ。だめだ、やっぱり、通常のつじつまの  
あわせ方ではどうしようもない。  
二時間目の休み時間に羽美ちゃんが登校して来た。  
「あー、まだ眠い。腰痛い。頭痛い。」  
「ねえ、羽美ちゃん、あのさ…」  
「あーおはよ地丹君、丈夫ねぇ。夕べは意外と良かったわよ。」  
「へ?」  
「眼鏡外した顔の事よ。美少年よね。それにあんなおっきなモノつけて。分不相  
応だわ。」  
「あのさ、それって、どう言う意味?ひょっとして、羽美ちゃん、僕の事…」  
「何の話?ごめん私ちょっとトイレいかなくちゃ。」  
トイレから戻ったら聞こうと思ったら、授業が始まってしまった。いいや、次の  
休み時間に聞こう。  
次の休み時間になった。そしたら、羽美ちゃんは今度は遅れてやってきた改蔵君  
と夕べの事でけんかを始めた。今になって、改蔵君が部長ともしていた事が気に  
入らなく思えてきたらしい。といってもその事実を知らない人が聞いたらなんで  
喧嘩しているか分からない会話だったが。とりあえず聞ける雰囲気じゃないの  
で、僕は下の階に降り、部長を探しに行った。三年生のクラスは全部校舎の1階  
にあるのだ。彼女を探し出すのには少し苦労した。  
 
「あ、部長。」  
「おはよう。なあに地丹君。夕べは頑張ったわね。初体験の感想はどう?」  
「あの、あのですね、その事なんですけど。僕はですね、そのですね、あのです  
ね。」  
「何よ。落ち着いてしゃべって。良く分からないわ。」  
「つまりですね、僕は一体、つまりですね。」  
どうにも困った。僕は夕べの相手を覚えていない。しかし、それを言うと、もし  
話している女の子が当の本人だった場合、彼女は怒るだろう。ひょっとしたら傷  
付くかもしれない。だからどうしても遠回しな聞き方になるのだ。  
「つまりですね、立候補がですね、僕とですね、何と言うか、背中にですね。」  
「どうも地丹君二日酔いで朦朧としてるみたいね。もっとしゃきっとしてから、  
もう一度聞きにきて。」  
どうしよう。また羽美ちゃんを捕まえて聞いても同じ事だろう。  
 
体つきと感触は覚えているのだ。科特部の備品の収納式ベッド(なんでそんなも  
のがあるのか知らない)に横たわったその女の子は完全な全裸だ。僕はそれを覆  
い被さってつぶさに見たのだ。少し幼さを残した腰つき、しかし大きめなオッパ  
イ。オッパイに比べると少し小振りなきれいなピンク色の乳首が二つ。意外と肉  
付きのいい太腿。申し訳程度にしか生えていない陰毛。そして僕の愛撫に濡れて  
液の溢れ出したアソコ。抱きしめると、驚くほど柔らかく、しかししなやかで、  
そして熱い身体。アソコの中はそれよりさらに熱く、僕が彼女の膣内に射精しだ  
すと同時に、背中に爪を立て身体を反り返らせるように硬直しながら、僕のソレ  
を根元から搾り取るように締め付ける…。  
なのに、その子の首から上がどう言う訳か記憶にないのだ。思い出せずに残され  
た、記憶の断片の最後の一個。一番簡単なのは、二人を裸にして記憶とどちらに  
一致しているか調べる事なのだが…ってどこが簡単なんだよ。一番難しいじゃな  
いか。  
 
改蔵君に聞こうか。でも、僕には彼がどう答えるか、予想が付くのだ。  
「まあ、2か月もすれば分かるだろ。」  
「どう言う意味さ?」  
「お前中出ししただろ。あとは、わかるな?」  
多分こんなもんだろう。  
 
今、僕は途方に暮れながら、三年生クラスのある1階から二年生クラスの2階へ  
階段を昇って戻りつつある。ふっと心にこんな考えが浮かぶ。  
(ひょっとして、全部僕の妄想なんじゃないだろうか?酒(のようなもの)の見  
せた夢なんじゃないか?羽美ちゃんや部長のさっきのセリフには、大した意味は  
無いのでは。あるいは鍋に何か幻覚キノコでも…?)  
でも、それだと、この「背中の傷」の説明が付かない…。  
と、誰かが階段を駆け昇りつつ僕を追い越す。  
「よっ、地丹君、おはよっ!」  
追い越しながら、彼女は僕の背中をパシッ、と叩いた。亜留美ちゃんだ。  
「痛っ!」  
僕は思わず叫んだ。例の傷だ。  
「あっ!ごめん、大丈夫?」  
亜留美ちゃんはびっくりしていた。そりゃそうだろう。彼女に聞かれたら、なんて  
説明すればいいんだ…。  
「それ、夕べ私が付けた傷だよね?痛かった?ごめんね。」  
僕がその言葉の意味をのみこむ前に、彼女は言葉を継いだ。顔が赤い。  
「だって、すっごく気持ち良かったんだもん。地丹君も気持ち良かったんだし、許  
してね。でね、また来週、鍋パーティーするんだって。今度は私、最初から参加し  
ようと思うの。」  
記憶の最後の断片が、収まるべき位置に収まるのを感じた。彼女はにっこり微笑む  
と、僕の唇にキスをし、階段を駆け昇り、昇りきった所で振り向いた。制服のミニ  
スカートがひるがえり、夕べのとは違う白い木綿のパンツが見える。そして他に誰  
もいないのを確認して言う。  
 
「こんども、いっぱいエッチしようね。約束だよっ。」    ー完ー  
 

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