「「「キャー」」」大狸はゆうなの髪の毛を持ったマモルに倒された。が時既に遅く椿、蛍そして愛里は畜生によってその身を汚されていた。
時は少し戻る。愛里は館の中で化生であるからか普通の狸と比べるといささか大き過ぎる狸と交わっていた。
愛里は「アホル」と強く叫びながら畜生を強くかき抱きその精を逃がさぬためか狸の背に強く足を組んだ。愛里の目には愛があり狸の目に好色と己の種を植え付ける野心しかないこととそして狸と人という異種姦がそれを醜悪としていた。
愛里はそうしながら「本当はこんなこと許さないだからね、でもあんたがどうしてもって言うから」と言い唇を強く狸へ押しつけた。
もう何度口づけを交わしたのだろう、愛里の口は汚い黄味がかった狸の唾液で濁々としていた。
そしてマモルの目に、狸の種がドクドクと愛里の膣いや子宮を汚してゆき、愛里が「いい、あんただから許すのよ」と顔を赤くし恥じらいながらも言う中で、
その種を逃さぬように自分の胎に宿るようにかそれまでよりいっそうと懸命に狸の背中に組んだ足に力を籠め己と狸との腰の隙間を一寸足りといえども許さぬとする様が映った。地獄であった。マモルが愛理から離れたほんの数分間の出来事であった。
それまで狸がその好色を出しはしなかったのはただただ大狸より早く望みを達することによる罰を恐れたからであった。
つまりは椿はもう汚されたのだ、だがマモルにはそれを知るすべはない。
護符の素である髪をゆうなから貰い、そして愛里に自らの名を呼ばれたことに気づき、ゆうなを置いて来たマモルはその醜悪な図に怒りあるいは憎しみ以外のなにを抱けばよかったのだろうか、
だがそれらに囚われることを忍者としての修練が許さなかった。だからマモルは冷静に狸を殺した。
ただ、マモルといえど怒りを殺しきれなかったことが一つの悲劇を生んだ。
まさか幼友達とまでは古くないが古い友が自分を好いていたと考えていたことなどこれまで考えたことも無かったし、
それが解ったのがこの瞬間、地獄、であったことがマモルから冷静を少しでも失わせたのだろう。
直接の術狸を殺したことにより呪(まじな)いが解けたのだ。
「アホルっ、ゆうなはっ。ゆうなが遊びに来てるのっ」愛里は、その目で目の前の先ほどまでマモルであった狸をじっと見た後、まず早口でそうゆうなの安否を探る言葉を言った。
「ゆうなはちゃんと大丈夫なとこいるよ、僕が置いてきた」何故このような彼女がこんな目に遭わなければいけないのだろうか。
「アホルっ」その声からその目からマモルはなにをとればよいのだろうか。
目と声は、愛里に知はなくとも智はある、マンガのような状況だが多分それを愛理が察したことを示していた。
いや、マモルの忍装束についてもなにも言わぬことから、自らが畜生をその腕(かいな)に抱き、操を許し、その種を逃さぬようその胤が胎に着くため畜生の背にあさましくも足を懸命に組んだ、
そのようなおぞましいことがあったけれどマモルの前では叫びたくない取り乱したくないそれで愛理は頭がいっぱいなのだろう。と、マモルは彼女が強い人であることを長い付き合いから知っていたから考えた。
マモルは狸の首を一刺しで殺したのだから、まだ体は動く。
どく、どくどく。
狸の種はその大本の狸が死んだといえどもなお愛理の子宮を汚す。愛理はさすがに強さを保つことができず、狸をはね飛ばすと、マモルに募った。
「アホルのバカ〜」そう言いながらぽかぽかと胸をたたく愛里にマモルは口づけを求めた。
何故だかは解らなかった、だがそうしたいと思ったしそうしなければならないと思った。
「私、もう汚れちゃったから」愛理がそう言いマモルの唇を避けようとするのも気にせずマモルは強引にだから必然的に抱きしめて愛理と口づけを交わした。
マモルは愛理から顔を離し「多分、まだ泣いている女の子達がいるんだ。だから……、行かなきゃ。この館にもう生きている狸はいない。三階の奥の部屋のソファーにゆうなはいるから見ててくれないか」と告げ、
「大大大大だ〜い親友のゆうなのことだもん、アホルになんか言われなくてもそうするわ。行きなさいよ。誰かがっ、待ってるんでしょ」という愛理の言葉を背中で聞きながら館を駆け出でた。
道を行くと二人のクノイチが見えた、蛍と山芽だ。蛍は既に汚されていた。が、山芽の相手の狸はいまだ前戯に力を入れているため山芽は汚されていない。
マモルは二匹の狸の首と胴を一瞬で離した。蛍もクノイチである、一瞬である程度の状況を理解するとことの深いことをマモルに問うた。
汚されはしなかったが、年少のせいか山芽はガクガクと震えていた。マモルは蛍に山芽を家に送るよう頼むと目的地を告げ。足早に去った。
マモルは忍者である、だから武器の届かない遠くから蛍の「ややがはやう欲しゅうございますね」と言う声と狸をマモルと思い種をねだる様を見聞きできたし、
そして狸に気づいたときそして狸殺しをマモルが為したことにより一部始終が見られたことに気づいた蛍の一瞬の悲しみの表情をマモルは見れた。
心に痛みが、そして今にも身を覆わんとする炎が自分に今あることをマモルは知っていた、解き放ちたかった。けれど今までの修練をそれを許さなかった。
だけれどもあまりにも大きいそれは身から漏れい出ていた、身を任せたらどんなに楽だろうかそう思いながらもマモルは翔る、椿のいる山へ間に合うことを祈りながら。かなわぬ祈りであった。
椿は大狸の背に足を強く絡め、大狸の頭をかき抱き強く熱心に口づけを交わしていた。股からは血と白く濁った液体がマモルが大狸を倒した後も絶え間無く大狸からドクドクと流れている。
マモルは知る由はないが大狸が椿をその腕に抱いてから時にして一〇分、大狸が椿を汚し抜くのには十分すぎる時間であった。
マモルは椿の幸せそうな顔をしながら小さく陰守と呟くのを聞いた。
そして呪いが解け自らが純潔を捧げ激しく狂おしいほどに口づけを交わしていたものが化生の類であったことに気付いたときの椿の顔は椿の顔がそれまで幸せに満ち華やかで美しかったからこそ
いやその幸せな顔をマモルが見てしまったからこそ互いにとって無惨であった。
だが、マモルは感傷に浸らず、大狸を椿から手荒く離し何故こんなことをしたのかを尋問した。
曰く、椿が懸想していた姫に似ているからと言う。ただ似ていた、それだけで椿はこうも無惨な目に遭わなければかったことを考えるとマモルはもはや耐えきれず、唇を切ってしまった。耐えきれなくてもその程度しかできない体がいまわしかった。
愛里の時のよう曰くいいがたいが無理矢理に椿と口づけを交わしたとき、ちょうど蛍が来た。
「ずるいですよ」なんとはなしな風で言ったそれが同じ忍者であるマモルには哀願だと気づいた、だから蛍とも力強く口づけを交わした。椿の目からは生気が抜けていた。
マモルは椿と蛍が幽々として大狸に向かっていくのを止めはしなかった。大狸は死に大本の呪いが解けた、町はまた昨日のような日を明日から続けてくれるだろう。大体はなにもかも直ったが直らないものもあった。
姫を迎えんとした大狸の配下の狸は皆、その長と同じく種の違う人間に劣情を催す蔑む意味での畜生の名に似合いの輩どもであった。
大狸の呪いがなり満願が成就したとき彼奴らは悪鬼となった。
実数を見れば操を保ったものが多数であったろう、が、女達の出す呪いの解けたときの愛するものを思いかきいだいたその胸の中の者が畜生であると知ったときの悔しさ、
畜生どもの目にあさまさしい好色を見たときの嫌悪そしてそのような者に操を汚されたそして今なお汚されているという空虚によって生み出される空気は町を覆い哀れとしか言いようのないものだった。
周りを見るに誰も彼も哀れとしか言いようの無く、華やかであったからこそ落花の態はより無惨であった。
男は女達に群がる悪鬼どもを払い駆逐したがその空気は晴れるものでなかった。
男が腕(かいな)に抱くことだけが空虚に固まる女どもの顔を動かした、泣くためであった。こうもあってなにもかも直るだろうか。幸いはただ、狸と人との間には子はできぬことだった。