幸いはただ、狸と人との間には子はできぬことだった。改変
災いはまだある、狸と人との間に子はできぬが、化生の狸つまりは術の使える狸であの悪鬼ども、
仮に妖狸としよう、と人との間の交わいでは子ができることである。
女達が思い人を描き懸命に交わったたからこそ悲劇は多々起こった。
化生の類はその数の少なさからか精が強く、そして孕んだときに堕胎するとおよそ八、九割の母胎は死ぬという。
町で狸という言葉は忌み語となった。
愛里、蛍、椿、皆孕んだ。愛里はその詳しいこと知り、そして自らが身ごもったことを知ったときその身を投げた。
しかし、妖狸は化生であるからその生命力は強い。愛里は意識を戻すことはなかった。
それは幸いであったのかもしれない、母胎の危機にも関わらず妖狸は無事生まれ,殺すこともできず家族は森に放した。
愛里の子の妖狸は後(のち)人を襲いマモルに斬られた。
蛍は一か八か堕胎を行い見事成った。が、もう子供を望めぬ体となった。
しかし、マモルと夫婦となれたことが蛍にとっては幸せであった。
子は蛍が裏陰守をマモルの妾とすることを認めることによりなんとかなった。
椿は産んだ、そして己が手でその生まれたばかりの妖狸でもあるが己の子をくびり殺した。
彼女は自らが妖狸を招いた原因であることを知るとその償いのため妖狩りを専らとするようになった。
マモルがその様を心配しに行ったときに不覚にも行った一夜の交わりで宿した一子の成長が彼女の唯一の楽しみであった。
が、妖狩りにより多くの妖から恨みを受けていた彼女の子は十四の齢の時に妖に捕まり
水晶玉により彼女の家へその苛まれる様を一挙手一投足まで伝えられて死んだ。
椿はその様を目をそらすことなく最後まで見た、流す涙の色が彼女の心を語っていた。
もし女であるのであるならば百妖の胤を宿されその子達が椿に差し向けられていただろうことを考えると子が男あったことはあるいは幸いだったもしれない。
彼女は息子の死後いっそうの妖狩りに励んだ。
斬セラミック剣はいつしか斬妖剣と呼ばれるようになった、
幾百もの妖を斬ったその剣は正しくその理を得ており触れるだけで妖を斬った。
しかし剣は理と共に斬られた妖の恨みも得、振るう者の命を吸うようになった。
ではあるが、六十を過ぎても猶、斬妖剣を振るう椿は美しかった。
七十になると彼女は妖狩りを引退した、しかし妖は引退を許さなかった。戦いは続いた。
臨終の時はさすがに不覚をとったが、そのとき一人の忍び、マモルが椿を助け見取った。
息子の死の後、死の際までその顔は凛と言うよりは険としていた彼女だが死に顔だけは笑顔であった。