初めて会った時は、何だこのちっこいの、としか思っていなかった。
自分に自信が無いのか、声が小さい。
ただ、歌が好きなだけ。
人のことを言える筋合いはないが、流石に酷い。
でも何をするにもひたむきで、
受かりもしない就活であちこち飛び回ったり、声が小さいなりに練習していたり。
一人で歌っている所も、何度も見かけた。
それだけ情熱があるのに、何で自分に自信を持てないんだよ。
自信、持てよ。
お前、十分恵まれた環境にいるんだから。
そう言ってやりたかったが、やっぱりこっちが言える筋合いは無かった。
こっちの心配は他所に、まひるは声が出るようになってきた。
それに伴って、自分に自信を持てるようになってきたらしい。
心に余裕が出来たのか、自分も大変だろうに、こっちの仕事や家族の心配までしてくるようになった。
そんなことより、自分の心配しろよ。
自分のことを棚に上げて、人の心配すんな。
とは、やっぱり言えない。
人の気持ちを踏みにじるような、小っちゃい人間にはなりたくない。
だから、気持ちは受け取っておいた。
それ以来よく話すようになり、今は妹分のような存在のまひる。
ただ、いつからか彼女は背伸びするようになった。
これ以上自分の中で存在が大きくなられると困る。
一生懸命歌う姿、ひたむきに弁当を運ぶ姿、屈託のない笑顔。
守ってやりたくなる。
まひるが頑張る姿を見ると、こっちも頑張らないとな、と思う。
まひると過ごしていると、何だか楽しい、けども。
ちっこいやつは、ちっこいままで良い。
それ以上、でっかくなるなよ。
あくまで妹のようなやつで良いんだよ。
練習が無い日に偶然、まひると会った。
「あ、おはようございます」
パリッとした、リクルートスーツ。
相変わらず、就活しているらしい。
「まだ続けてんのかよ。頑張るなー、お前」
半ば呆れ気味にそう言うと、まひるはクスっと笑う。
「……諦めたく、ないんですよ。どうしても」
だけどまひるは急に、目を伏せた。
どうかしたかと、顔を覗き込む。
「……引かれますかね?諦めが悪いのって」
そんなこと、気にしてんのかよ。
何でそんなに不安そうな表情をするんだか。
意味が分からず、とりあえず反論した。
「……俺は、好きだけどな。お前のそういうところ」
「え?」
言った後ではっとして、慌ててまひるの方を見る。
「……すみません。今なんて?」
……もう二度と言わねえ。