一希さんのことが好き。
そう考えるようになったのは最近のこと。
思えば、一希さんには何度も助けてもらった。
悩んだときには相談に乗ってもらい、失敗して泣いていた時は慰めてくれた。
何がきっかけかは、分からない。
でも、好きなのは確かだと言い切れる。
工場で働いている姿、ロックを歌う姿。どの姿も凄く素敵に見える。
一希さんが他の人と仲良くしていると、胸が痛くなる。
気が付けば、どんな時も一希さんのことばっかり考えている。
でもそんなことを言ったら、一希さんに避けられるかもしれない。
だったら、今の関係のままで良い。
この気持ちは胸に忍ばせて、ずっと友達でいよう。
そう、思っていた。
事情があって凄く悩んでいた時の、ある日の練習。
コーチは言う。
現状を変えるには自分が変わるしかない。
自分が風を起こさないと、風向きは変わらないって。
コーチの言葉は、凄く心に刺さる。
その言葉のおかげで悩み事は解決した。
だけどさっきの考えが、頭を悩ませた。
さっきの考えにも、まるっきり同じことが言えるから。
本当に友達でいいのかな。
もっとこっちを見て欲しい。
他の人に盗られたくない。
友達以上に、なりたい。
心が変わるのに、そう時間はかからなかった。
ある日。練習の前に、一希さんを呼びつけた。
精一杯のおめかし。
精一杯作ったプレゼント。
見て驚くに違いない。
きっと、一希さんはこっちの気持ちに気付いていないから。
一希さんが来た。
「……どうしたんだ。その格好……」
やっぱり、戸惑ってる。
少し躊躇う。
でも、勇気を出さないと。
風向きを変えたいなら、自分で風を起こすしかないんだから。
プレゼントを渡しながら、気持ちを伝える。
「……ずっと好きでした!
だから、だから……」
「僕と、付き合って下さい!」
「どうかしたの?その顔……」
「……ほっといてください」
そのあとすぐに来たコーチに、また苛めかと心配された。
苛めの方がどれだけ良いことか。
でも、僕は諦めない。