「ふぅ・・・疲れた。もう寝よう・・・・ん?」  
政務に追われ疲れ果てた陽子は自分の寝台の脇机の上に置かれた木箱を見つけました。  
陽子の肘から指先くらいの長さの細長い木箱です。蓋には「献」とだけ書かれています。  
「これは・・・・・・・」  
 
それが何なのかは知っていましたが実物に手を触れるのは初めてでした。  
(それにしても一体誰がこんなものを?)  
ふと箱の中を見ると一緒に一枚の紙が入っています。陽子がそれを広げてみると  
『陽子 王として日々精進するのも大事だが時には息抜きするが良い 夜の伴にされたし 尚隆』  
(延王?延王がこれを?・・・・・・・)  
 
陽子はそれを手にとって眺めました。  
ちょっと疲れていたのですが好奇心も手伝って陽子はそれを持って立ち上がりました。  
 
「あ、あれ?・・・・ん・・・・なかなか上手くいかないな・・・・」  
何だか手が疲れてきました。手に持つとそれは思っていたよりも重いものです。  
「冗祐、少し手伝ってくれないか?」  
陽子は誰もいない寝室で見えない何かに話しかけます。  
「御意」  
陽子にだけその声は聞こえました。  
 
「あ・・・そう・・いや、もう少し上・・・違う!下だ・・・そう!そこ・・・ああ!すごい・・・」  
陽子は時が経つのも忘れて初めての体験に夢中になりました。  
 
次の日の夜、陽子は祥瓊と鈴を寝室に招き二人にそれを見せました。  
「何これ?」  
「延王が贈って下さった。蓬莱のものだ」  
「ええ?蓬莱の?あたしこんなの見たことなかったな。あたしがいた頃にはなかったのかな?」  
「さあ?貴重だろうけどあったことはあったんじゃないかな?」  
陽子はそれを鈴に手渡します。  
 
「うーん・・・何だか良くわかんないよ・・・どうするの?」  
陽子は鈴の背後に回り手を添えて優しく教えてあげます。  
「ほら、ここをこうやって回して・・・・どう?」  
「あ、なんかだんだん・・・・あ、そこそこ・・・・あーっ!すっごーい!」  
鈴が嬌声をあげて感動しています。  
「ねぇー、早く私にも貸してよぉ」  
すっかり夢中になっている鈴を見て痺れを切らした祥瓊が不平を言います。  
「まあそう焦るな。別に減るもんじゃないし、夜は長いんだ・・・・」  
陽子は笑って言いました。  
 
翌朝、眠い目を擦りながら廊下を歩く陽子に顔を合わせた景麒が言いました。  
「主上、何やら夜中に騒がしいようですが…それにこの二日ほど目が充血していらっしゃる。寝不足か?」  
「そうか?実は延王に贈り物を戴いてな。確かに少し寝不足だ」  
陽子はちょっと照れたように笑いながら答えました。  
 
「延王に・・・・」  
そう言えば景麒も先日女官が細長い箱を運んでいるのを見た記憶があります。  
「蓬莱の物だ。とても精巧に出来ていて、鈴も祥瓊も大喜びだ」  
「それはもしや・・・」  
「こちらにはないものだから名前を言っても分からないだろうな」  
「知っています。×××××××ですね」  
なぜか景麒はぼこぼこにブチのめされました。  
 
「まったく!延台輔と来たらろくでもないことばかり景麒に教えて…」  
プンプン怒りながら陽子は去っていきました。  
こうしていつもの慶の一日が始まるのでした。  
 
おしまい  
 

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