今夜もお食事の時間になりました。セーラ姫へのお食事をご用意するのは、  
この城に唯一残されたメイドである私の仕事です。  
 カートを引いて大食堂の扉を開けると、姫様はすでに着飾っておられて、  
お食事を楽しむ準備が十分にできているご様子でした。お体をつつむ漆黒の  
タイトドレスは胸元が大きく開いて、ふくよかな乳房がつくる谷間をのぞかせて  
います。そのお肌は見とれるほどに白くて、ドレスとの鮮やかなコントラストは  
女である私から見ても大変に美しく、心奪われるものでした。  
「大胆かしら? ネックレスは外しちゃったから……」  
 私の視線に気づいた姫様がはにかみました。素敵です、と私が正直な気持ちを  
申し上げると、姫様は微笑んで、白い頬を少しだけ紅くされました。  
 姫様はお食事の時はいつも、ネックレスをお召しになりません。つややかな  
ピンクの髪もアップにまとめて、その細くなめらかな首のラインをできるだけ  
露わになさいます。  
 そのほうがお食事がしやすいということをご存知だからです。  
 いかに輝く装飾品が首もとにあろうとも、それは邪魔になるだけなのです。  
「まあ、おいしそう」  
 だだっ広いテーブルにディッシュを並べると、姫様が目を輝かせられました。  
 今の姫様には肝臓が良いので、ガチョウや鴨の良質なフォアグラをよくお出し  
しますが、いつでも残さずお召しになってくださいます。やはり、体が欲して  
いるのでしょうか。今日もすぐに平らげてしまわれました。  
「ごちそうさまエミリ、ありがとう」  
 それから姫様は、グラスを片手に、深紅のワインにわずかな澱が浮いたり  
沈んだりするのをうっとりと見つめながら、お待ちになるのです。  
 これから訪れる至福の時間を思って、ほの紅い肉体を小さく震わせるのです。  
 やがて、きしむ音とともに扉がゆっくりと開かれ、彼が現れます。  
 彼は姫様のお姿を見るや、口元を大きくゆがめて笑い、その鋭くたくましい牙を  
私たちに誇示しました。  
 ――今夜もお食事の時間になりました。  
 
 彼の光のない目でぎろりと見据えられると、私はいつも縛られたように動けなく  
なってしまいます。それは姫様も同じなのでしょう、椅子に座られたまま緊張に  
震えておられます。しかし、その緊張がじきに快楽にとってかわることを、姫様は  
ご承知でもあるのです。私にはもう、姫様の表情が恍惚としたものに見えました。  
 その色をおびた瞳の先には彼――ドラキュラが、マントに身を包みまがまがしい  
空気を漂わせながら、こちらに近づいてくる姿がありました。  
 この城を姫様の手から奪ったにっくき怪物は、ゆっくりと私の目の前を通り過ぎ、  
やがて姫様の傍らに立ち見下ろす格好になりました。その威圧感に、離れて見ている  
私でさえどうしようもなく圧倒され、汗が流れ心臓が激しく鼓動し、全身が彼への  
屈従の様相を呈してしまいます。直接対峙なさっている姫様のお心はいかばかりか、  
小心な私に測ることはできません。  
 姫様はグラスを置くと、彼を見上げながらそっと立ち上がりました。  
 次の瞬間、ドラキュラが姫様の頭を乱暴につかんで首筋に牙を突き立てました。  
「っはあっ」  
 姫様が短い悲鳴をあげ、同時に左手をついたテーブルがガタリと音をたてました。  
 それは一見すると恋人たちの情熱的なキスシーンのよう。しかし大きく違うのは、  
不気味に鈍く光る彼のふたつの毒牙が、彼女の肌に深く食い込み、青い血管を  
しっかりと捉えていることです。  
 姫様がお顔をゆがめ、びくりと弾けるようにお体を震わせられました。  
 ドラキュラはまずその状態のまま、姫様のやわらかな肉の弾力と、わずかに  
あふれ出る血の味を確かめます。深紅の血がひと筋ふた筋、姫様のか細いお首を  
つたい、鎖骨にたまり、あるいは胸の谷間へと流れ、ドレスの黒を濃くしてゆきます。  
「あ、あ……」  
 姫様が苦悶の表情であえぎ、もがくように左手を暴れさせると、その拍子に  
テーブルのグラスが倒れて、ワインが真っ白いクロスを染めてゆきました。  
 ふうふうと息を切らして拘束から逃れようとなさるものの、ドラキュラは右手で  
姫様の頭を、牙で首を強く押さえつけているため、姫様はどうにも動きようがなく、  
その両腕はむなしく宙を泳ぎ、肉付きのよい腿がドレスのスリットからちらちらと  
見え隠れするだけです。  
 そんな姫様の様子を一切思いやることなく、ドラキュラはただ、処女の新鮮な  
血と肉を丹念に味わうのです。口元を下品にゆがめながら……。  
 
 どのくらいの時間が経ったでしょうか。やがて、姫様が変わりはじめます。  
 あれほど痛そうに、苦しそうにしておられた姫様が、次第に無抵抗になり、  
ぐったりとドラキュラに体を預けるようになるのです。視線はうつろに漂い、  
吐息は熱をおび、腕を彼の背中に抱きつくように回して、彼のさらなる行為を  
催促するかのように身をよじりだすのです。  
 麻酔剤のような成分が、ドラキュラの牙に含まれているのでしょうか。  
 毒を注入して獲物を動けなくする蛇のように、彼は、特殊な分泌液を人間の  
全身にめぐらせて、自分の虜にしてからじっくりとその血を味わうのです。  
「あっ、う、動かさ……ないで……」   
 姫様がかすれた声をお出しになりました。どうやらドラキュラが牙を抜きに  
かかるようです。それはつまり、もう獲物が彼の手に堕ちているということであり、  
次の段階――メインディッシュへの移行の合図なのです。  
「あっ……あ! あうぅ!」  
 自分の肉に埋まっていた太くて硬いものが出てゆく時、姫様はひときわ大きな  
声をあげて、その去りゆく感触を惜しむかのように恍惚の表情をされます。  
「あぁだめ……だめっ……! 抜かないでぇ……っ」  
 湿った音をたてながらついに牙が抜きとられると、その先端から血液のしずくが  
ぽたぽた落ちて床にいくつかの点をつくりました。そして、それらはすぐに、  
降りそそぐもっと大量の赤によってかき消されました。  
 ふたつの栓を失った首の傷穴から、血が湧き水のようにあふれ出したのです。  
「ふあ、ふあぁ、出てる、出てるううう……!」  
 姫様がだらしない声をあげて、びくびくと全身を震わせられました。  
 人は生命の危機に瀕した時、本能的に激しい昂奮を得ると聞きます。  
 ドラキュラに注入された麻薬と、みずから出す麻薬。これらが姫様の体内を  
駆けめぐり脳内で溶け合い混ざり合い、失血による喪失感と同じだけの、いえ、  
それ以上の快感を生み出すのです。その感覚は私には想像もつきませんが、普段  
とても清楚で淑々としておられる姫様がこんなにも欲情をさらけ出し、はしたなく  
嬌声をあげる姿を見ると鳥肌が立ってしまいます。  
「来て……早く来てぇっ」  
 姫様はその甘く激しい情動のなか、開きっぱなしのお口からヨダレを垂れ流し、  
錯乱しきったように目の前の怪物に愛撫を求めておられます。  
 そこにはもはや姫という身分も何もなく、ただ吸血鬼に捕食される一匹の処女の  
姿があるだけでした。みずからの滅びの運命を甘受する処女の姿が……。  
 そして、その切ない叫びに応えるように、ドラキュラが姫様を強く抱き締め、  
首筋の紅い泉に勢いよくキスをしてあふれる蜜を吸いはじめました。  
 
 大食堂はすでに血の匂いで満たされていました。私は眉をひそめて、なんとか  
この生臭くむせかえる空気の中で正気を保っていられたのです。  
「んうぅっ」  
 姫様はその空気の中心で、ドラキュラが喉を鳴らして血液を身体に取り込む、  
その動作のひとつひとつに反応して喜びの鳴き声をあげておられます。  
 見ると、姫様はドレスの下に何も履いておられないようで、スリットからのぞく  
内腿のあたりがあふれ出る愛液でぬらつき、いやらしく光っています。そして  
みずからそこに手をやり弄りはじめました。こぼれ落ちんばかりに大きく張った  
乳房は荒れる呼吸にともない激しく上下し、先端の突起がドレスの上からでも  
わかるほどに快感を示しています。  
 じゅうじゅうとドラキュラが血をすすり、くちくちと姫様が自慰をなさり、  
それらの音が一緒になって部屋に響きます。血だけでなく、口から目から鼻から  
股から様々な汁を垂れ流してよがる姫様のお姿は見るに堪えません。  
 禁断の快楽に身を堕としたわが主は、もはや怪物の虜となってしまったのです。  
「あはっ、はあぁ」  
 姫様が笑うような叫び声をあげました。どうやら絶頂に達せられたようです。  
 爪先をぴんと立てて電流のように巡る愉悦を体じゅうで味わったあと、だらしなく  
全身の力が抜けてドラキュラへとしなだれかかり、事後の余韻を楽しむように  
ぼんやりと微笑みをたたえられました。  
 それと同じくして、ドラキュラはようやくその唇を姫様から離します。  
 これ以上やると死ぬ……その限界のところで彼は、獲物を解放します。生かさず  
殺さず、食料の供給源を絶つことはしません。また首以外の、姫様のお体に――  
姫様は愛撫を欲しているであろう唇や乳房や陰部などに――手を出すようなことも  
決してしません。私たち人間が乳牛に欲情しないのと同じで、ドラキュラにとって  
姫様はあくまでただの食料なのです。  
 しかし姫様は、そんなドラキュラを愛してしまっている。  
 私はやりきれない思いを抑えながら、無造作に彼の腕から放り出された姫様に  
駆け寄りました。彼は私には一瞥もくれずに部屋を出てゆきます。  
 姫様の首もとを見ると、これもドラキュラの不思議な力か、傷はもうほとんど  
ふさがっており出血もありません。失血のせいで気を失っておられるだけです。  
 こぼれた血やヨダレや愛液でヌルヌル汚れて、しかし幸せそうに眠る姫様の  
お姿を見て、私は、いつのまにか股間を濡らしている自分に気づきます。  
 私も――正気ではなかったのでしょうか。  
 下着を替えたいのはやまやまですが、その前に姫様を自室のベッドまでお連れし、  
綺麗にして差し上げなければなりません。  
 食事の後片付けもメイドの大切な仕事なのですから。  
 
 (つづく)  
 

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