-関係-  
セーラは傍らで静かに寝息を立てている  
エミリの寝顔を見ている。  
 かわいい寝顔ね・・・  
 セーラ様?  
 あ、起こしちゃった?ご免なさい。  
 いいえ、いいんです。  
エミリはセーラの胸元に潜り込みまた寝息を立て始めた。  
 ふふっ。可愛い子ね・・・  
 
-特別な日-  
ご夕食の準備ができました。  
 あ、ありがとう。  
いつもながら贅を尽くされた料理であっても上品な料理。  
しかし、広々としたホールに一人の食事はあまりおいしいものではない。  
 もう、いいわ。ごちそうさま。  
セーラは一口二口の食事で席を立とうとする。  
ここまではいつもの夕食だった。  
 お待ちください。  
エミリがセーラを引きとめた。  
 どうかしたの?  
突然の事でセーラは驚いている。  
 今日はセーラ様のお誕生日ではございませんか?  
 え!?  
セーラは城での退屈な生活で日の流れに感が無くなっていた。  
しかし、エミリが日記をつけている事を知っていたので間違えるはずも無い。  
 
 よく覚えてくれてたのね。うれしいわ。ありがとう。  
 いえ、そんな・・・。  
内気なエミリはうつむき加減で少し顔を赤らめている。  
 よろしかったら、お祝いさせてもらえませんか?  
 ええっ!?  
セーラは驚いた。  
 (いつものエミリじゃない。いくら私の誕生日だからって・・・)  
 でも、どうして?  
エミリはさらに顔を赤らめて、  
 ・・・お祝いにパイを焼いてみたんです。  
セーラは言葉を失った。  
 本当に!すごいじゃない!  
セーラは、食事はすべてコックが作っているので、メイドのエミリは何も  
できないことを知っていた。実際、自分も作ったことは無い。  
 
顔が完全にうつむいてしまったエミリは声を絞るように  
 コックの方に教えて頂いたんです。  
 召し上がって頂けませんか?  
 ええ!ぜひいただくわ!  
セーラはエミリの突然の申し出に手放しに喜んでいる。  
驚きはしたが、それよりもただうれしい。  
しかし、セーラよりもエミリの方がうれしいようだった。  
 本当ですか!ありがとうございます!  
 (あらこの子ってこんな笑顔ができるのね)  
セーラは陰気な感じのエミリしか知らなかったのでエミリの  
笑みはとても新鮮だった。  
 申し訳ないのですが、別室にご用意させていただいているのですが  
 よろしいですか?  
 ええ、かまわないわ。  
はしゃぐエミリはセーラを連れてホールを後にした。  
 
 -私室-  
 こちらになります。  
さほど歩いてはいないが、城の中は迷路のようにいりくんでいるので  
セーラはあまり城内を歩いていない。部屋は初めて見る部屋だった。  
 ここは?  
 私の私室になります。  
 え、いいの!私が入っても。  
 もちろんです。パイも食べて頂きたいですし。  
 それもそうね.  
入らなくては食べられない。  
 カチャン。  
メイドの部屋とはいえ重厚なつくりの扉だ。  
 ギィー。エミリはドアを開けた。  
 さあ、どうぞお入りください。  
 (いったいどんな部屋かしら)  
セーラは期待でいっぱいだった。  
人の部屋に入るのは初めてだったからだ。  
 しかし・・・  
 
 え、これって・・・・  
セーラの目に入ってきたのは、壁に埋め込まれた本棚に  
ぎっしりと詰まった書籍だった。私室というよりも書斎だった。  
 すいません・・・女の子の部屋じゃないですよね・・・  
セーラはエミリに表情を読まれてしまった事に気がついた。  
 うううん!いいんじゃない?読書が趣味とか?  
 実はそうなんです。空いてる時間はほとんど本を・・・  
 (しまった・・・。)  
セーラはしょげてしまったエミリを見ていた。  
 あ!それよりもパイはどこなの?  
話題を変えようと試みるセーラ。  
 そうですね!こちらです。  
少し明るい表情にもどったエミリを見て、セーラはホッとした。  
黒塗りに白いクロスがかかったテーブルに花壇の花が飾られていた。  
そこに、きらきらと蝋燭の炎に照らされるパイがあった。まだ温かいようで少し湯気が出ている。  
 
 どうですか?あまり形は良くないですけど。  
たしかに形は悪い。パイ独特の切り込みが乱雑なのだ。  
しかし、セーラはエミリが顔色を伺っているのを分かっているので  
 すごい!おいしそうじゃない!セーラは大げさに言った。  
 ありがとうございます!エミリは笑みを浮かべる。  
かわいい笑顔ね。  
と口をついて出そうになったがセーラはあわてて口こもんだ。  
 セーラ様?どうなさいました?  
 あ、ウウンなんでもないわ。…ふぅ、私ったらどうしたの…  
 ささ、温かいうちにいただきましょう。  
 はい!  
エミリはキッチンから持ってきた大きめのナイフでパイをきりわけた。どうやら  
アップルパイのようだ。  
エミリが皿にとってセーラの前に置く。  
セーラは席につき用意されたフォークで一口、口に運んだ。エミリは心配そうに  
見ている。  
 
見た目の悪いパイではあったが、パイはさくさくで中のりんごはほんのり温かく  
優しい甘さ。香りもしっかりとしていた。  
 お、おいしい!  
 本当ですか!よかったぁ。  
エミリは両手を胸においてホッとしている。しかし、右手には包帯が巻いてあった。  
 それ、どうしたの?  
エミリは、はっとして右手を隠した。  
 パイを焼く時にちょっと…  
 火傷したの!?大丈夫?  
いえいえ、心配なさらないでください。たいした事はありませんし。  
ちょっと失敗しちゃいました。とエミリは、はにかんだ。  
 あ!そうだ!ちょっとお待ち頂けますか?  
座っていたエミリが席を立つ。  
(…私のために火傷してまでパイを焼いて祝ってくれるなんて…)  
セーラは心暖まったが、体の中に別の熱いものを感じていた。  
(でもなんだろう・・・この感じ・・・)  
 
-始まり-  
エミリは、グラスを2つと瓶一本を持って戻ってきた。セーラはぼんやりとエミリを見ていた。  
 お待たせしました。  
セーラはハッとした。  
 (いけない。ぼんやりしてた私・・・)  
 その瓶は何?  
 実はコックの方からセーラ様にとワインをいただいたんです。  
 フルーツワインだそうです。  
 えっワインなの?エミリは飲めるの?  
セーラはお酒を飲んだことはなかった。  
 実は私も飲んだことないんです。  
 エミリも?私もよ。大丈夫かしら?  
 失礼ですが、女の子同士ですから大丈夫かと思います。とエミリは笑った。  
 確かにそうね。セーラも笑った  
 
エミリがセーラの前に置かれたグラスにワインを注ぐ。ロウソクの明りに照らさ  
れる。コハク色の液体。白ワインのようだ。  
エミリは自分のグラスに注ぎ終え席に着く。  
 あらためてセーラ様、お誕生日おめでとうございます。  
 ありがとう。エミリ。  
二人は軽くグラスを合わせ乾杯した。そして一口、口に入れた時えもいわれぬ、  
豊かな香りが口、鼻の中に広がった。そして飲み込んだ時にさらに桃の甘い香り  
が沸き立つ。  
 …おいしい…二人は初めて飲むワインに感動している。  
二人とも三口で飲み干してしまった。  
 本当においしいわねこれ。  
そして、ワインを飲みつつ話が弾む。  
ほとんどがエミリの本の話になっていたが、恋愛小説もかなり読んでいて、ワインも  
手伝って二人の女の子の話は盛り上がった。  
 アハハハ。おかしいー。アハハ・・・  
涙をふくセーラ。  
 
こんなに楽しいのは、初めてよエミリ。本当にありがとう。  
 いいえ。とんでもないです。セーラ様。エミリは手を振った。  
 これは、お返ししなくちゃいけないわね。あ!そうだ!  
 エミリの誕生日はいつなの?セーラは尋ねた。  
 えっと・・・エミリは口ごもんだ。  
 どうしたの?言ってみて。  
 あの・・・実は今日なんです。  
 ええっ!そうなの!!セーラは驚く。  
 はい・・・。  
酔って赤くなっていたエミリの顔がさらに赤くなる。  
 それじゃ、お返しにアップルパイを焼くって訳にはいかないけど、なんでも言って。  
 そんな!お返しなんてとんでもないです!  
エミリが右手を振りながら言った。  
 いいから言ってみて。セーラはせがむ。  
 それじゃ…  
 何?セーラは聞耳を立てる。  
 
 抱いてもらえませんか?  
セーラはワインを飲もうとしていたが、吹き出しそうになった。  
 エエ!?ちょっとそれは…セーラは動揺を隠せない。  
 あ、いいえ違うんです。実は…  
エミリはまだ幼少の頃、自分の母親が病で倒れ他界している事をセーラに話した。  
 そうだったの…  
 でも、どうして抱いてなんて?まだ動揺がおさまらない。  
 セーラ様がお母さんにそっくりなんです。だから…  
エミリは顔を伏せてしまった。  
 (私ったらもう!)  
セーラは自分の勘違いに気がついた。  
 い、いいわよエミリ。その…抱いてあげても…  
 (さすがに恥ずかしいけど。)  
エミリの顔が明るく微笑む。  
 本当ですか!ありがとうございます!  
 でも、どうやって?私わからないわよ。  
 それじゃ、とりあえず立って頂けますか?  
 
セーラは席を立った。  
 (どうする気かしら。まったくわからないわ)  
セーラは緊張している。  
エミリも緊張しているようだったが、  
 セーラ様ありがとうございますっ。  
意を決してセーラの胸に飛び込んで来た。  
セーラはドレスのスリットから足を出し、踏みしめてエミリを受け取めた。  
転びそうになっている。  
 (危ないっ)  
そう思ったセーラだが、まったく腹立たしくなかった。両手はエミリの腰を回っ  
て支えている。エミリはセーラの胸元で、じっとしていた。  
 (ああっダッダメッ…)  
セーラの鼓動は経験のないほど激しくなっている。時間が遅く感じる。  
ほどなくエミリはセーラに抱かれたまま顔を上げた。  
 (エミ…リ…。)  
エミリを見たセーラは言葉を飲んだ。  
エミリは目をうるませ、まっすぐにセーラを見つめていた。  
 (あ・・・。)  
セーラは自分の中で何かが壊れるのを感じた…  
 
-抱擁-  
突如、セーラはエミリの腰にあった左腕でエミリの頬をなぞり、エミリの後ろ髪に回した。  
そしてセーラは唇をエミリの小さな唇に重ねる。  
 んうっ!  
エミリが声をもらす。  
エミリは驚いて離れようするがセーラはエミリを抱きしめて逃げられない。  
しかし、徐々にエミリの体の硬直が抜けていく…  
 はぁぁぁ・・・  
セーラは唇でエミリの唇を指で優しくなぞるように滑らせていく。  
 んっ・・・  
エミリが声を漏らし、小刻に体を揺らす。そして・・・  
 んんっ!  
セーラは頭をかしげ舌をエミリの歯列の間に強引に滑りこませた。  
 (セ、セーラ様…)  
エミリは舌を硬直させたが、セーラの舌はそっと触れてきた。  
エミリは何もできないでいると、溶かしていくように絡みつく。口の中  
にワインの甘い香りが広がる。  
 (…恥ずかしいのに…何か気持ちいい・・・)  
 
エミリ自身もセーラの舌の動きに合わせるように舌を絡み始めた。  
セーラの鼓動、香りが伝わってくる・・・  
セーラの前にあったエミリの両腕はすでに腰にまわって、お互い抱きしめあっていた。  
お互いの胸が押しつぶされていく・・・  
 んんっ!セーラが声を漏らす。  
 (セーラ様も・・・)  
 んっ、あぁっ  
エミリは高まっているのに気がつく。  
 (あれ・・・なんか浮いてる・・・)  
刹那、エミリは膝を落とした。  
 エミリ!?エミリ!  
 (あれ、どうしたんだろ私・・・セーラさ・ま・・・)  
セーラは気を失ったエミリを抱えた。  
平静を取り戻しつつあるセーラ。  
 (どうしよう、私ったら)  
 
気を失ったエミリは赤の絨毯の上で軽く丸まり横たわっている。  
セーラは混乱しながらもどうすべきか考えている。  
 とりあえずベットに寝かさないと・・・  
ベットはテーブルの側にあった。  
セーラはエミリを起こそうとした。  
 エミリ!お願い起きて!  
 ・・・・・・あれ?セーラ様?私・・・  
 酔って倒れたのよ。大丈夫?  
 (ゴメンねエミリ)  
 はい。大丈夫です・・・  
 ベットまで行ける?手伝うわよ。  
セーラはエミリの手を取って、ベットのまで促した。  
 今日はもう寝た方がいいわね。  
 (また、私おかしくなりそうだし・・・)  
 え・・・  
エミリは気のなさそうな声を漏らした。  
 (もうちょっとこのまま・・・・)  
 
セ、セーラ様・・・・  
 何?エミリ。  
 今夜一晩だけ、一緒に・・・  
 ええっ!  
 (ダメダメ!またあんなことになっちゃうわ)  
 お願いします・・・。エミリは嘆願した。  
 っ・・・い、いいわよエミリ。  
 (ダメ、この目には勝てないわ私)  
 で、でも、着替えはどうするの?  
 このままじゃ寝られないわよ。  
エミリはメイド服。セーラはドレスのままであった。  
 大丈夫です。セーラ様のお着替えはここに。  
 え?どうしてここに?  
 胸元のレースがほどけていたので、直したんです。  
 そうなの・・・(逃げられないわね・・・)  
 では、お着替えを。  
エミリはセーラのドレスの背中のホックを外した。  
 レースのハーフカップのブラがひかる。  
 (なんか恥ずかしい・・・)  
ドレスを脱ぎ下着だけになるセーラ。  
 (なんでドキドキしてるの私、寝るときはいつもしてるのに・・・)  
 
セーラはエミリからいつもと違う視線を感じている・・・  
 お綺麗です。セーラ様・・・  
エミリは酔った瞳でセーラを見ている。  
 もう、恥ずかしいから早くお願いっ。  
セーラはブラをはずし、透き通るような薄いシルクのネグリジェを着た。  
 セーラの体のラインがはっきりと浮かぶ。  
エミリの視線は相変わらず熱い。  
 そんなに見ないでエミリ・・・  
 も、申し訳ありません。とエミリは言うが、目は変わっていない。  
 ほら、エミリも着替えなきゃ。  
セーラはエミリの視線に耐えられなくなっていた。  
エミリはエプロンを畳み、着替える。  
 セーラ様はお綺麗でいいですね・・・  
下着姿になったエミリはセーラに背中を向けて言った。  
セーラはエミリの下着姿を見るのはもちろん初めてであった。  
 そんなことないわよ。かわいい・・・  
セーラは口を押さえつける。(いけないまた私・・)  
エミリは大人の女性には届かないが、着やせしていたせいか  
幾分ふっくらと見えた。  
 
寒いでしょ。早く着なさい。(お願い早く着て!)  
 は、はい。エミリはせかされ驚く。そしてセーラと似たネグリジェをまとった。  
胸元にリボンのワンポイントがあった。  
 さ、寝ましょ・・・。  
 はい・・・。  
お互い顔がほてったように赤くなっている。  
 (大丈夫かしら私・・・)  
一抹の不安を抱くセーラだった。  
 
 

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