12月初旬。空気の澄んだ師走の午後。  
達彦と桜子は朝から名古屋で何軒かの得意先を周り、その後犬山温泉を訪れていた。  
「ありがとうございました。今後ともよろしくお願い致します」  
取り引きのある店の前で、挨拶をする二人。  
店主と別れ、古い城下の町並みを歩く。  
「もう三時すぎか・・・得意先はだいたい回われたし、これから旅館は忙しくなる時間だから  
 突然営業に行っても迷惑になるな・・・。今日はもう切り上げようか」  
隣を歩く桜子に話しかける。  
「ほっか・・・ほだね。でももう少し回りたかったな。明日、名古屋の料亭やなんかも、まいっぺん回らまい」  
桜子は残念そうにしながらも頷く。  
「今日の旅館の場所、この辺りだよな・・・」達彦はメモを片手に通りを見渡す。  
「達彦さん、今からだったら岡崎に戻れるよ。名古屋は明日出直せるし・・・」  
桜子は店の事が気になる様子だ。  
「ん・・・ほいでも野木山さんが泊まってこいって、予約をしてくれとるんだ。  
 ほら、野木山さんの親戚筋がやっとる旅館で、うちの味噌を気に入ってくれとる・・・あ、すみません・・・」  
達彦は通りがかった人に旅館の場所を聞くために歩み寄る。  
桜子は(しかたないか・・・)というように息をつき、達彦の後を追った・・・。  
 
目的の旅館に辿り着き、二人は女将に出迎えられた。  
「山長の当主の松井といいます。女将の桜子と参りました。今日はお世話になります・・・」  
達彦は丁寧に挨拶をし、味噌を贔屓にしてもらっている礼などを述べた。  
「いえいえ、こちらこそいつもお安く分けて頂いて、助かっとるんです」  
女将はにこやかに受け答え、二人を部屋へと案内する。  
落ち着いたしつらえの廊下を歩きながら「本当にお似合いのご夫婦でいらっしゃいますね」  
などと声を掛けられ、照れた笑みを浮かべ顔を見合わせる二人。  
奥へ進むと急に視界が開け、外廊下を渡った先の、離れのようになっている部屋へ通された。  
「ここ・・・ですか?」  
達彦は部屋を見渡し、その広さと豪華さに戸惑う。桜子も目を丸くしていた。  
「はい、当旅館自慢の露天風呂付きの部屋になります。  
 お疲れになられたでしょう?ささ・・・どうぞお座りください」  
女将は二人に出すお茶を用意しながら話す。  
「あの・・・自分達は仕事で来とるんです。もっと・・・その・・普通の部屋でいいんですが・・・」  
困惑しながらも腰を下ろした達彦が、遠慮気味に女将に申し出ると  
「実は野木山さんに、この部屋をお二人に・・・と言われとるんです。  
 お二人ともお忙しくて新婚旅行にも行っておられんとか。野木山さんが言うておられました。  
 私どもも、山長さんにも野木山さんにもお世話になっとるもんで  
 お礼の意味も込めて、この部屋をお使い頂きたいと思いまして・・・」  
女将は二人の気持ちの負担を軽くするように、あくまで厚意だという事を伝えた。  
「野木山さんがそんなことを・・・」二人はまた顔を見合わせ恥ずかしそうに苦笑いをする。  
女将は二人と暫く談笑し、「どうぞごゆっくり・・・」と言って部屋を後にした・・・。  
「ほいでもほんとにいいのかな。素敵な部屋だけど・・・えらく御代が高いんじゃない?」  
桜子はまだ気が引けるようだ。  
「ん・・・でもあそこまで言われたら断れんもんな・・・。  
 俺、ちょっと店に電話して野木山さんと話してくるよ。お前はゆっくりして待っとってくれ」  
達彦はそう言って部屋を後にした・・・。  
 
山長の帳場に電話の呼び鈴が鳴る。  
「はい、山長でございます。あ〜大将!ご大儀さんです」  
野木山が受話器をとり、にこやかに話す。  
「野木山さん、今旅館に着いたところなんだけど・・・ビックリしたよ、えらく豪華な部屋で。  
 気を使ってもらってありがたいけど、仕事で来とるのに申し訳ないよ。本当に大丈夫なのかん?」  
心配そうな達彦の口調に(やっぱりか・・・)と頷きながら野木山が応える。  
「ええ、ええ、いいんですよ。お代は普通の部屋と同じで・・ちゅう事で話は付いとりますし・・・」  
「だけど・・」達彦がさらに続けようとする言葉をさえぎり  
「大将、今日は女将とそこへ泊まって、ゆっくりしてきておくれんよ。  
 こん前東京から帰って言っとられただら?  
 女将を新婚旅行にもちゃんと連れて行ってやっとらんて・・・まぁ、今回も新婚旅行にはならんでしょうが  
 年末はまた忙しくなりますで、お湯にでも浸かって、一年の疲れを癒してきておくれましょ」  
野木山が語り掛ける。達彦はようやく受け入れたようにため息つき  
「わかったよ。ありがとう・・野木山さん・・・」微笑みながら野木山に礼を言う。  
そのまま野木山は2、3連絡事項を話し、受話器を下ろした。  
少し遠い目をしてニカッと笑ったが、気を取り直し、また帳簿に目を落とした・・・。  
 
 (俺達夫婦は幸せだよな・・・)  
野木山の気持ちが、達彦の心を温かくした。  
両親は共に亡くしてしまったが、有森の家族や店の人たちが、いつも自分達夫婦を支え、見守ってくれている。  
部屋へ戻る廊下を歩きながら、達彦はしみじみとそんな事を考えていた・・・。  
 
達彦が部屋に戻ると、桜子は机に向かい書き物をしていた。  
「どうだった?野木山さん、何て?」顔を上げる桜子。  
「うん・・二人でゆっくりしてこいって・・・ありがたいよな。今日は甘えさせてもらおう」  
達彦が言い聞かせるように微笑みかけると、桜子も納得して頷き、笑い返した。  
「何やっとるんだ?」達彦は桜子の傍に寄り、桜子の書き物を覗き込む。  
「うん・・・今日回った所からの要望を書き出しとるんだけど・・・  
 やっぱり本物の八丁味噌を早く使いたいっちゅう意見が多いわ・・・  
 ほいでもこん前の東京の出張でも、統制経済はまだまだ続くっていうしね・・・」  
桜子は得意先の一覧表を難しい顔で眺めていたが、うーーん・・と伸びをして  
「あーあ!早くうちの本物の味噌の味、みんなに味わってもらいたいなぁ・・・」とため息をついた。  
 (うちの味噌か・・・)  
達彦は微笑み、そんな桜子を愛しげに見つめる。  
結婚してから・・・いや、自分が出征してから母親が亡くなるまでもそうだったのだろう・・・  
桜子は女将として店のために本当によくやってくれている。  
自分が好きで選んだ道では無くても、置かれた状況の中でそこにいる人たちを思いやり  
いつも前向きに、懸命に頑張る桜子を、達彦は眩しく・・・そして人として素晴らしいと思っていた。  
 (桜子・・・お前は最高の妻だよ・・・)  
桜子を大切そうに背中からふわりと包む達彦。  
「?・・・達彦さん・・・どしたの?」桜子が少し驚いて訊ねると  
「ありがとう・・・桜子・・・」達彦は頬を寄せ、呟くように囁いてぎゅっと抱きしめた。  
「何?・・・変なの・・・」桜子は不思議そうに笑ったが、達彦の手を優しく握り返す。  
達彦は机の上に手を伸ばし  
「今日はもう・・・仕事に話は終わりにしよう」と言って一覧表が書かれた帳面を閉じた。  
「あっ・・・ほいでももう少しだで・・・」  
桜子が(途中だったのに・・・)という顔でまた帳面開こうとすると、達彦がそれを阻止し、遠ざける。  
何度かふざけ合うようにそんなことをして・・・桜子は拗ねて達彦を睨んだが  
二人はすぐに吹き出して笑い合った・・・。  
 
「せっかくだから、旅行気分でゆっくりさせてもらおう。  
 そうだ桜子、風呂に入らんか?まだ夕食までには時間があるし・・・」  
桜子の耳の辺りに口付け、立ち上がる達彦。  
桜子は吐息を耳に感じ・・・肩をすくめた。  
達彦は部屋付きの露天風呂の方へ向かう。  
「桜子、見てごらん、えらく広いよ!二人じゃもったいないくらいだ・・・」桜子を呼ぶ達彦  
部屋の縁側の横が脱衣場になっていて、その奥に石積みの壁に囲われた露天風呂が見える。  
「ほんとだぁ・・・」桜子も達彦の傍に寄り、風呂を見回す。  
「一緒に入ろっ・・・な?」達彦はにっこり笑いながら桜子を誘う。  
「え・・・うん・・・」桜子は少し迷っているような返事をする。  
「どした?・・・嫌なのか?」予想外の反応に、不思議そうに桜子を見つめる達彦。  
「ほんなことないけど・・・」桜子は渋い顔をして俯く。  
「けどって・・・なんだよ・・ちゃんと言えよ」達彦は不満げな顔をして桜子の顔を覗き込む。  
「うん・・・ほいでも達彦さん・・・何も・・・せん?」小声で呟く桜子。  
「?何もって・・・?」(なんだろう・・・)と考える達彦の表情が、気付いたようにハッと変わる。  
「なんだよ!お前・・・ほんなこと・・・!  
 俺は、お前も疲れとるだろうから、風呂に入ってゆっくりしようと思っただけだよ。  
 ・・・何を考えとるんだよ、桜子ぉ・・・」  
達彦は笑いながら、からかうように、さらに桜子に顔を近づける。  
桜子は自分が言ってしまったことが急に恥ずかしくなって顔を赤らめるが  
「かっ、考えるって・・私は・・違うよぉ!・・・ほいだって達彦さん、『何か』しそうだもん!」  
膨れて達彦のせいにする。  
「なんだ・・・『何か』したらダメなのか?」  
達彦はクスクス笑いながら、ならば・・・と開き直って桜子に詰め寄る。  
「だって!・・・外だし、まだ明るいし・・・いろいろ・・・恥ずかしいよ!」  
うろたえるているのを隠すように怒る桜子。  
「声、堪えるのも大変だしなぁ・・・」  
達彦は必死に弁明する桜子が可愛くてたまらず、つい意地悪を言ってしまう。  
桜子は怒って達彦の肩をバシッと叩く。  
小さい子供をなだめるように桜子の頭を撫でる達彦。笑いを抑えハァッとため息をつき  
「わかったよ。ほいでも俺は入るから」と言って着物を脱ぎ始める。  
桜子は膨れっ面のまま、達彦の背中側にまわり着物を脱ぐのを手伝う。  
着ているものを全部脱ぐと、達彦は手拭いを手に風呂場に入って行った。  
からかわれて恥ずかしかったせいなのか・・・達彦の見慣れた裸の背中を見つめながら  
桜子の胸は高鳴っていた。  
脱いだ着物をぎゅっと抱え込むと達彦の匂いがして・・・体中が火照り始めた・・・。  
 
風呂の湯は少し熱めで、達彦は湯船のふちの階段状になった段差に腰を掛けた。  
湯煙に包まれて、体がホカホカと温まり気持ちがいい。  
ふーっと大きく息をつく達彦。  
と、「達彦さん・・」桜子が風呂の引き戸から顔を覗かせている。  
「着替え、ここに置いとくからね」達彦に声を掛ける。  
「ああ・・ありがとう」達彦は礼を言うと「いいお湯だよ。お前も入ればいいのに・・・」再度桜子を誘う。  
「うん・・・」桜子は心情を隠すように達彦から目を反らし、湯殿を見渡す。  
「わかった・・・用意してくる・・・」と小さく言って戸を閉めた。  
そんな様子の桜子を見送り、達彦は一人笑いを堪えていた。  
 (可愛いなぁ・・・)  
普段の桜子は強気で思い切りが良く、達彦が驚くほどの大胆さを見せるのに  
『こういう時』の桜子はとても恥かしがり屋で、それを隠そうと空回りしているように見えた。  
達彦はそんな桜子が可愛くてたまらず・・・なのに・・・いつも少し苛めたくなってしまう。  
 (風呂なんて、もう何べんだって一緒に入っとるのに・・・)  
そうだ・・・結婚して初めて「一緒に入ろう」と誘った時も、えらく怒られたんだった。  
でも・・・結局は一緒に入った。そして・・・そこで『何か』もするようになった。  
初めは少し灯りを点けた部屋でする事も恥かしがったのに・・・昼間だって、外でだって受け入れてくれた。  
 (また強がるつもりかん・・・ほでも、結局俺もあいつの言う通りなんだけどな・・・)  
そんな事を思い返しているうちに、達彦はもう『何か』をせずに居られない気持ちになっていた・・・。  
 
桜子は脱衣場で着物を脱ぐ。  
旅先だからなのか・・・なんだか妙に照れくさい。  
達彦の言う通り、自分のほうがよっぽど『何か』を意識しているのかもしれない。  
さっき湯船に浸かっている達彦を見ただけで、胸がドキドキして、まともに見る事すら出来なかった。  
普段は着物に包まれ、上品な佇まいを見せる達彦だったが  
その体には程よく筋肉がつき、逞しい男らしさの中に美しさもあって・・・  
そこにあるだけで、いつも思考を痺れさせるほど官能的だと思えた。  
でもきっと、それは妻である自分だから感じるのだろう。  
その身体が、どんな風に自分を愛するかを知ってしまったからなのだろう・・・。  
 
桜子は気を静めるようにため息をつき、湯殿を覗き込む。  
平静を装い「こっち見んでよ」と達彦に睨みを効かせる。  
達彦は「はいはい」と笑いながら返事をして、目を閉じた。  
さっと掛かり湯をした桜子は、逃げ込むように湯船に浸かった・・・。  
 
「あち・・・」顔をしかめ呟く桜子。  
「そんなに慌てて入るからだよ。でも・・・熱めかもな・・・」  
桜子に向かい合い、達彦も湯に体を沈めた。  
「ん・・・ほんでも気持ちいいよ・・・」桜子の表情が解れる。  
「よく歩いたね・・・」と言って、自分の脚を擦った。  
「・・・揉んでやるよ・・・」達彦は桜子の傍に寄り、足首に手を伸ばす。  
「え!?・・・いいよっ」  
桜子は慌てて足を引っ込めようとするが「いいから・・」と言って達彦はお構い無しにふくらはぎを揉んでいく。  
「ほらっ、ちいと張っとるぞ。力抜いてみん・・・」足の裏までも優しく揉み解していく達彦。  
「う、うん・・・ありがとう・・・いい気持ち・・・」桜子は心地よさに体の力が抜けていき、目を閉じた。  
暫く膝の下を行ったり来たりしていた達彦の手が・・・その境を越え太腿に触れる。  
「そっ、そこはいいよっ」  
桜子はまた慌てて、達彦の腕を掴む。  
「・・・どして?」達彦は手を止めず、擦り続ける。  
じりじりとしたその動きに、桜子は溜まらず腿の間に力が入る。  
「力抜けって・・・言っとるだら・・・」  
達彦は桜子をじっと見つめた。  
瞳の奥を覗き込む、試すような視線に・・・桜子の顔が歪む。  
「・・・もうっ・・・」  
怒ったようにそう言って、達彦の肩を叩いた。  
達彦の口の端が一瞬緩み、桜子が(笑わんで)と言いかけたとき・・・唇は奪われた・・・。  
 
「んっ・・・」  
桜子は少しの抵抗を見せるが、肩にきつく腕を回すと観念したように力が抜ける。  
太腿を擦る手を・・・敏感な部分にはあえて触れず、腰や背中に這わせる。  
桜子の唇から震えるような吐息が漏れ、足先が絡んでくる。  
口付ける自分の顔を、細い指がもどがしげに包み込む。  
「・・・嘘つき・・・」口付けの合間に桜子が呟く。  
「何が・・・?」舌先で唇をなぞりながら聞き返す。  
「や・・・やっぱり、『何か』したじゃん・・・」膨れてその唇を尖らせる桜子。  
ニッと笑う達彦。  
「まだなんもしとらんよ!・・・これからだろ?」  
桜子の腰を抱え上げ、湯船のふちの段差に座らせる。  
乳房には湯の雫が滴り、それをすくい取るように舌を這わせる。  
湯の効能のせいで、いつもよりさらにふるふると滑らかな肉を食み、強く吸い付く。  
「・・・あっ・・・!」  
桜子が溜まらず喘ぎ声を上げ、達彦の頭を弄る。  
胸に顔を埋めていた達彦の動きが止まり、桜子が見下ろす。  
「嘘つきは・・・お前だら・・・?」  
欲情しきった男の目が自分を見上げている。  
何も言葉が出ない。  
何も言い返せなかった。  
言葉の変わりに、湯に飛び込むようにして達彦に抱きつく。  
広い胸がしっかりと抱きとめる。  
ザブンと湯が溢れかえり、滴る水音が響く。  
達彦の力強い腕が、腰をギュッと締め付ける。  
その唇に呑み込まれたくて・・・首に手をかけ、吸い付くように口付ける。  
二人は激しく絡み合いながら、湯殿の波に揺られていた・・・。  
 
結い上げられた髪を掴んで、貪るように桜子の口内を掻き回す。  
息が続かなくなって、頬を合わせる。  
唇の端に濡れた後れ毛が張り付いていて、喘ぐ口元がなんとも艶かしい。  
腿の上に座った桜子は、腰をかすかに動かし秘所を摺り寄せてくる。  
両手で桜子の尻を掴む達彦。  
ぐっと引き寄せ、猛り立った自身を桜子の恥骨のあたりに押し付ける。  
「はぁっ・・・」と桜子の口から甘い声が漏れ、弓のように腰がしなる。  
「桜子・・・入れてい・・・?」  
 (もうこんなになっとるんだ・・・)と言わんばかりに密着した腹の間で自身を動かす。  
「んっ・・・ここで?・・・このまま?」桜子は少し困惑を見せるが  
「そう・・・このまま・・・」と言って剛直で秘所をなぞると・・・自分からゆっくり腰を落とした。  
スルリと・・・ごく自然に一つに繋がる。  
「・・・ああ・・・いいよ・・・」  
湯の温度よりさらに熱く感じる桜子の肉襞に包まれる。  
下からゆっくり突き上げながら、掴んだ尻を上下に動かす。  
「くぅっ・・・ふぅ!」桜子は達彦の肩に唇を押し当て、しがみ付いている。  
二人の揺れに合わせて、ザブンザブンと湯の溢れる音が響く。  
その音も・・・だんだんと遠くなり、お互いが喘ぐ息遣いしか聞こえなくなる。  
「はぁっ!・・・だめだ・・・熱い・・・!」  
熱さに耐えかねた達彦が、繋がったまま桜子を抱え上げ、湯船のふちに座り・・・  
そのまま桜子に押し倒されるようにして寝転がる。  
昇りつめようとしていた桜子は、声を堪える事も忘れ、達彦の上で腰を振る。  
乳房を掴みながら、そんな姿を鋭く見つめる達彦。  
桜子の中がさらに締め付けを強め・・・硬直したようになって腰の動きが止まると・・・  
達彦は一気に下から突き上げた。  
「あううっ・・・!」   
激しい突き上げに、桜子の体は支えを無くしたようにグニャグニャに揺さぶられ・・・  
達彦が喉の奥から太い声を上げるのと同時に、その広い胸板に倒れ込んだ・・・。  
 
桜子は達彦の胸の上で荒い息をしながら、時折ピクン・・と震えた。  
達彦も放心したように目を閉じながら、そんな桜子の髪や背中を優しく撫でる。  
耳に・・・注ぎ込まれる湯の流れる音が戻ってくる。  
目を開けると・・・すっかり暮れた夜空に、丸い月が浮かんでいた。  
「桜子・・・大丈夫か?」と呼びかけると「・・・うん・・・」トロンとした声が返ってくる。  
「ちょっと寒くなった・・・」と言ってゆっくり起き上がった桜子が、また湯船に浸かる。  
達彦は手で湯をすくい、肩にかけてやった。  
微笑みながらも、ちょっと気まずそうに俯いている桜子に  
「聞こえたかもなぁ・・・声・・・」ぼそりと呟く達彦。  
桜子の表情が一変し、しかめっ面で大きく息を吸い込むと  
「もうっ!・・・ほんな事ばっか・・・いやぁ!」  
怒って、寝転ぶ達彦の顔に湯をバシャバシャかける。  
「うわっ、やめろよ!」  
達彦は慌てて起き上がると、湯船に飛び込み、桜子を後ろから抱きすくめる。  
「ごめん・・・」膨れっ面の桜子の耳元で優しく囁く達彦。  
「もう・・・知らん・・・」むくれてそっぽを向く桜子。  
達彦は桜子の顎に手を沿え、自分に向き合わせる。  
「ごめん・・・ごめんな・・・」  
優しく微笑みながら、桜子の顔に愛しげに唇を這わせる達彦。  
 (いいんだよ・・・好きだよ・・・)と囁くような甘い口付けに、桜子の心もほどけていく。  
二人は暫くそうして月明かりの下・・・キスで囁き合っていた・・・。  
 
部屋に夕食の膳が用意され、二人は差し向かいで杯を酌み交わしていた。  
「お前もちいとくらいいいだら?飲めよ・・・」達彦が桜子にお猪口を差し出す。  
「うん・・・ほいじゃぁ少しだけ・・・」達彦に勺をしてもらい、クイッと一口飲む桜子。  
「なかなかいけるぞ・・・」料理に箸をつける達彦。  
「ほんとだね。ほいでも・・・この田楽、うちの八丁味噌だったらもっと美味しいよね・・・」  
 (ハハッ・・・また言っとる)  
もぐもぐと味わいながら難しい顔をしている桜子を、達彦は笑顔で見つめる。  
「いいもんだよな・・・夫婦水入らずの旅行って・・・」  
手酌で酒を注ぎながら、しみじみ呟く達彦。  
「うん・・・いいねぇ・・・野木山さんに感謝しなくちゃ・・・」  
桜子はうっとりとして、部屋を見渡した。  
「ごめんな。俺も・・・ちゃんと新婚旅行に連れて行ってやりたいと思っとるんだけど・・・」  
達彦が申し訳なさそうに語りかけると、桜子はううんと大きく首をふった。  
「桜子、お前・・・行きたい所はあるかん?」達彦が尋ねる。  
「うーん・・・ここっていうのは無いなぁ・・・そうそう、こん前の東京!  
 マロニエ荘楽しかったぁ・・・あれで充分だよ・・・」  
思い出して微笑む桜子。  
「楽しかったけど・・・あれは新婚旅行とは言えんよ」達彦は首を横に振る。  
「じゃぁ達彦さんは?行きたい所あるの?」桜子も尋ね返すと  
「ほうだなぁ・・・うーん・・・俺は・・・ドイツかな!」  
そうだ、と気付いたように言い切る達彦。  
「え!?ほんなん、いつ行けるか解らんよ」桜子は突拍子も無い言葉に驚く。  
「うん・・・夢みたいな事だって解っとるけど・・・  
 何十年かかってもいつか行って、本場の音楽に触れてみたいんだ。  
 お前と一緒に・・・お前に貰った帽子、かむってな・・・」  
達彦は遠い目をして、杯を飲み干した。  
 (本当に、そんな時が来ればいいな・・・)  
あの時・・・ドイツへ行く事を諦めなくてはならなかった達彦の想いを叶えてあげたい。  
桜子も暫くそんな思いを巡らせていたが、はたと気付いたように  
「それって・・・でも、ダメじゃん」と言って達彦に笑いかけた。  
「ん?」不思議そうな達彦。  
「何十年も経ったら私達、もうおじいちゃんとおばあちゃんだよ。新婚旅行とは言えんだら?」  
クスクスと笑う桜子。達彦も「そうか・・・」と言って笑った。  
「ほいでも・・・俺の気持ちは変わらん気がする。  
 何十年も経って、誰も俺達を新婚だ・・・なんて思わんくなっても・・・  
 俺は今の気持ちのまま、お前と旅が出来る気がするんだ・・・」  
達彦は自然に湧いてくる想いを口にするが・・・急にハッとなって自分の言葉に照れ臭くなる。  
桜子は嬉しそうに目を細め聞いていたが、そんなはにかむ達彦を  
「どしたの?達彦さん・・・飲みすぎた?」と言って、からかう様に顔を覗き込んだ。  
「こんくらいじゃ、酔わんよ」少し膨れて、杯を差し出す達彦。  
桜子は笑いながら勺をする。  
「ほいじゃ、とりあえず・・・来年にはどこか行こうな」  
照れを隠しながら料理をパクつく達彦を、桜子は愛しげに見つめていた・・・。  
 
食事が終わり、二人はもう一度風呂に入った。  
身じまいをして部屋に戻ると、先に上がった達彦が、座布団を枕にゴロリと横になり眠っている。  
 (風呂でも月見酒だっちゅうて少し飲んどったし・・・ほんとに酔っ払っちゃったのかも・・・)  
無防備な寝顔が可愛らしく思えて、フフッと笑う桜子。  
桜子も達彦の傍に横になり、寝顔をポーッと見つめた。  
 (私も・・・変わらんよ・・・いつか行こまい・・・)  
さっきの話を思い出して、達彦の頬に手を伸ばしそっと撫でる。  
それから・・自分の方に伸ばされた大きな手に頬ずりをしていると・・・長い指が動き、唇をなぞりだした。  
少し寝ぼけ顔の達彦が、横目で見つめている。  
唇をなぞっていた指が・・・口の中に割って入ってくる。  
桜子も達彦を見つめたまま、その指に舌を絡め、愛撫した。  
達彦の腕をさすり、浮き上がった血管をなぞるように指を這わせる。  
口の中に入れられた指は2本になり・・3本になり・・  
桜子は大きく口を開いて舌を絡め、口付けを繰り返す。  
湿った淫らな音が部屋に響きだし、二人の口から熱い息が漏れる。  
「桜子・・・・」  
達彦が、甘えるような声で囁く。  
「また・・・したくなったか?」  
自分しか知らないはずの表情・・・ねだるような顔・・・。  
気持ちを見透かされているけれど、今度は怒る気持ちにはならなかった。  
愛しくて、胸がキュンとしめつけられ、体の芯はジュッ・・と熱くなってくる。  
達彦に覆いかぶさる桜子。  
口付けを交わした唇は首筋を這い・・・浴衣が肌蹴た胸を這い・・・  
手が裾をかいくぐって熱いものに触れる。  
もうその輪郭を露にしている固さをなぞりながら、褌の紐を解く。  
大切なその場所に・・・優しく口付け・・・舌先でゆっくりと舐め上げる。  
達彦の息遣いが聞こえ、今どんな顔をしているのかが手に取るようにわかる。  
もっと感じて欲しい・・・そう思って舌を絡め強く吸い上げると  
低く呻いた達彦が体を起こし、手で頬を挟むようにしてそこから離した。  
口付けながら体制を入れ替えられ、達彦がのしかかってくる。  
胸の鼓動は高まるのに、ズシリとした確かな重みを感じていると、ホッと安心感に包まれる。  
今度は・・・達彦の唇が身体を這う。  
湯上りの火照った体から香る匂いを嗅ぐように、何度も深く息を吸い込みながら・・・  
浴衣の裾をたくし上げていき、桜子の下着を剥ぐ達彦。  
脚を開き、明るい光の下にそれをさらし、触れようとはせずただ眺めている。  
「・・・いや・・・見んで・・・」  
恥ずかしくてたまらないのに・・・触れられてもいないのに・・・  
体の中がとろけてしまいそうに熱く疼いて・・・溢れだす。  
達彦の指がやっと・・・そっと花芽に触れると・・・桜子はビクッと震え、体を仰け反らせた・・・。  
 
ヒクンと震えた桜子の花びらから、トロリと蜜が溢れ零れる。  
指にぬめりを絡めながら、陰唇の間をゆっくりとなぞる。  
「はぁっ・・・だめ・・・」  
言葉では拒んでも、よじる腰の動きは抗っていない。  
「達彦さん・・・お願い・・・あっちに・・連れてって・・・」  
布団が敷かれた隣の部屋に行こうとせがむ桜子。  
 (そんなに俺が欲しいのか・・・)  
俺の女だ・・・と強く想う。  
体の中を、燃える様な熱が駆け巡る。  
初めて交わしたあの夜から、自分のものだと思い込んで、何度も愛した場所・・・  
自分だけが見ることを赦されたはずの、愛しい女のその場所を・・・  
また想いをぶつけるように愛する。  
強すぎる快感に叫び声を上げた桜子の、もがく脚を押さえつけ  
秘所に顔を埋めた達彦は、ピチャピチャと淫らな音を立てながら舐め続ける。  
どこをどんな力でどんな風に愛撫すればいいかはもう知っている。  
桜子の体は敏感で・・・豊かで・・・いつも達彦に新鮮悦びをもたらす。  
甘い声が細く高く震え・・・ギュッと固くなった体がゆっくりと弛緩していく。  
充血し膨れた秘所に・・・もう一度口付ける。  
放心した桜子の額にも・・・頬にも・・・優しく口付けた達彦は  
桜子の瞼の端の涙を舌で掬い取ると・・・その体を軽々と抱き上げ寝所へ向かった・・・。  
 
桜子の中にゆっくりと自分を沈めていく。  
じっと動かなくても、柔らかくうごめくような振動が伝わってくる。  
伸ばした両足を胸に抱きかかえ・・・細い足首やふくらはぎに口付ける。  
「はぁ・・・あっ・・・」  
喘ぐ桜子を見つめながら、脚を擦り上げ舌を這わせると・・・キュウッと中が締まってくる。  
達彦も「ああ・・」と喘いで溜息を漏らした。  
「桜子・・・そんなにきつく締めたら・・・長く愛してやれんよ・・・」  
笑みを浮かべながら、桜子を見つめる。  
「ん・・・ほいだって・・・勝手にそうなるんだで・・・」  
甘えるように達彦に手を伸ばす桜子。  
桜子に体を重ね、優しく口付ける達彦。  
桜子は達彦の腰に手を伸ばし、尻を引き寄せるようにギュッと掴んだ。  
「もっとか?」グイッと深く挿し込む達彦。  
「あっ・・・そう・・・もっと・・・ねぇ・・動いて・・・」桜子はうっとりと笑みを浮かべる。  
達彦はゆっくりと・・・桜子の中を掻き回すように腰を動かす。  
「あ・・・そこ・・・い・・・」達彦の髪をまさぐる桜子。  
達彦は桜子との性愛が、重ねれば重ねるほど豊かで深くなっていくような気がしていた。  
お互いの肌になじみ・・・溺れ・・・これ以上近づけないと思うほど強く抱き繋がっていても・・・  
まだまだその先があるように想えてならない。  
どんなに抱いても足りない。すぐにまた確かめたくなる・・・。  
桜子を愛する気持ちは永遠だと想えても・・・  
二人こうしていられることは決して当たり前なんかじゃないと・・・痛いほど感じてしまう・・・。  
だからこそ、こうして愛し合えること・・・  
愛しい体を抱けるこの瞬間が、奇跡なんだと想える・・・。  
 
桜子の体に・・・静かに手を這わせる達彦。  
なんて綺麗なんだ・・・といつも思う。  
惚れた欲目を置いておいて、客観的に考えれば、いくらか欠点はあるのかもしれない。  
胸は少し小さめだし、肩も腰も華奢で細すぎるくらいだった。  
でも自分にとっては・・・全てを完璧に満たしていると想える。  
内面から溢れる優しさ・・・強さと・・・その熱さを包み隠している柔らかさ・・・  
その美しさは、自分に注がれる愛・・そのもののように想えた・・・。  
 
「桜子・・・お前の体・・・好きだよ・・・」  
「ほんと?・・・私も・・・私も好き・・・達彦さんの・・全部が好き・・・  
 だで・・・いつもこうして抱かれたくなる・・・困るくらい・・・」  
桜子がやけに素直で、ハハッと笑う達彦。  
「わかっとる・・・でもな・・・そういう所も大好きなんだ・・・」  
「良かった・・・」と幸せそうに微笑んだ桜子が  
「もっと抱いて・・・強く・・・感じたい・・・全部・・・」ギュッと背中を抱きしめてくる。  
「俺もだよ・・・桜子・・・」  
きつく抱きしめ返して・・・深く・・・一つに繋がったまま揺れ続ける。  
自分の想いを受け止めて慰める・・・優しい体・・・。  
体の中に何度も花火のような快感が打ち上がり・・・やがて眩しさに何も見えなくなる。  
お互いの上下する胸を合わせ、激しい鼓動を感じ合う。  
 (生きている・・・)  
その実感と悦びが、静かに燃え広がる炎のように・・・達彦の心を熱く満たしていった・・・。  
 
翌日、名古屋に立ち寄った後、二人は山長に戻った。  
野木山が笑顔で出迎える。  
「野木山さん、ありがとう。お陰でゆっくりさせてもらったよ」  
達彦が礼を言う。桜子も嬉しそうに  
「ほんと、えらくいい旅館だった!  
 あの部屋・・・あんな部屋にはなかなか泊まれんもんねぇ!  
 露天風呂まで付いとって・・・もうね、3回も入っちゃった。ねっ、達彦さんっ!」  
隣にいる達彦にはしゃいだ笑顔を向ける。  
「うん・・・3回・・だな・・」  
達彦もニコニコと頷いて二人で笑い合っていると  
「ほうですかぁ〜・・・3回ですかぁ〜・・・」  
ニンマリ笑った野木山の視線に気付く。  
ハッと我に返る二人。  
「いやっ、3回って、風呂のことだよ!そう・・あれだ、ずっと一緒っちゅうわけじゃなくて・・・  
 その、少しは一緒にも入ったかもしれんが・・・ほら、あれだけ広いのにもったいないし・・・」  
達彦がしどろもどろに言い訳をしていると  
「もう・・・何言っとるの・・・」  
桜子も焦り顔で、そんな達彦を肘でこずく。  
「いや〜私は別にええんですよぉ〜。一緒でも、何回でも・・・」  
ニヤニヤしている野木山に、達彦は苦笑いを向けると  
「そうだっ、早く仕事せんとな!着替えるから・・・行くぞ」  
荷物を手にし、桜子と一緒に母屋の方へ歩いて行った・・・。  
 
「もう・・・あんな風に言ったら余計変に思われちゃうじゃん!」  
「お前が3回・・・なんて言うからだろ」  
「3回って・・・それだけじゃ変な意味無いだらぁ?!」  
「具体的過ぎるんだよ・・・」  
「具体的って・・・そんな風に考えるの、達彦さんだけだよ!いやらしいっ」  
「だから風呂のことだって言ったじゃんか・・・」  
こっそり耳を澄ませる野木山。  
奥へ向かう廊下からそんなやり取りが聞こえてくる。  
ヒヒッと笑いを堪えていると店に客が入ってきて「いらっしゃいませ」と出迎えた・・・。  
 
青々と澄み切ったが岡崎の冬空。  
山長は一年で一番忙しい季節を迎えようとしていた・・・。  
 
(おわり)  
 

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