8月。盆休み明けの山長では朝から多くの客が訪れ、桜子と達彦も忙しく接客に追われていた。  
岡崎へ帰省した人達が土産に味噌を買い求めるため  
世間の盆休みよりも一日早く営業していたのだった・・・。  
「じきに昼になりますで、大将と女将さんは昼休みにしておくれましょ」  
野木山が達彦に話しかける。  
「そうだな。昼からは客足も少し落ち着くだろう」時計に目をやる達彦。  
「今日の昼は職人の実家の差し入れで、うなぎだそうですよ」嬉しそうな野木山。  
達彦が野木山に笑いかけながら、客の見送りのため店の外にいる桜子を呼びに行こうとした時  
勢い良く店に飛び込んできた桜子と達彦が強くぶつかった。  
「いったぁ〜い!」顔をしかめ、自分のおでこに手を当てる桜子。  
「ごめん!大丈夫か!?」達彦が心配そうに桜子の顔を覗き込む。  
「うん・・大丈夫。・・・ごめんね」桜子は笑いながら達彦を見上げた。  
達彦は微笑み、少し乱れた桜子の前髪をそっとかき分け、ぶつかったおでこを優しく撫でた。  
 (またあんな風に見つめ合いんさって・・・熱い熱い)  
その様子を見ていた野木山は、見つめ合う眼差し・・・二人の間の空気の甘さにあてられたように笑う。  
そしてもう一人・・・そんな二人の様子を店の外からジッ・・・と熱く見つめる男がいた・・・。  
 
「桜子、そろそろ昼にしよう」「もうそんな時間?・・・うん、ほうだね」  
二人がそんな会話をしていると、老舗の店構えに不似合いな男達が店に入ってきた。  
店の中の空気が変わり、達彦と桜子もその中の大柄な男を見つめた。  
「キヨシくん・・・?」桜子が顔を覗き込むと、男は深くかぶった山高帽をとった。  
「・・よぉっ!・・・元気かっ?」桜子と目が合ったキヨシは少し上ずった声で挨拶した。  
「キヨシぃ・・・こっちに帰っとったのかん」達彦も驚いたように笑いかけた。  
「ああ・・・今日東京に帰るもんで、贈答用の味噌を買いにな。相変わらず店も忙しそうだな・・・」  
店を見回しながら話すキヨシ。  
「うん。ほんとうにありがたいことだよ。ほいでも・・・桜子には苦労をかけとる」  
達彦が隣にいる桜子に目を落とすと、桜子は微笑みながら(ううん)と首を振った。  
寄り添う二人を見つめながら、キヨシの顔が曇る。  
「お前こそどうだ。仕事の方は」達彦が訊ねると、キヨシは顔の表情を引き締め、胸を張った。  
「こっちは順調そのものだ!最近は進駐軍とも取り引きしとるんだわ。  
 もうバンバン儲かっとる!ハハハハッ!!」高笑いをするキヨシ。  
「良かったねぇ。キヨシくん・・・立派んなって。  
 ・・・きまっとるよぉ!なんか洋画に出てくる俳優さんみたい」  
桜子はキヨシの服装を見ながら笑いかける。  
キヨシはピンストライプのダブルのスーツに、白のエナメルの靴を履いていた。  
「ほうだらぁ?舶来もんだで。この格好で町を歩くと、女はみんな俺を見るんだわ!」  
ポーズをきめるキヨシ。桜子は苦笑いをしながら(ほうなん・・・)と頷く。  
達彦はあっけにとられてポカンと口を開けていた。  
「ほんとに素敵だわ。女の人にもてとるんだね!・・・いい人は見つかったのかん?」  
桜子の言葉を聞いて、キヨシの目がキッと熱くなった・・・。  
 
「・・・見つかるわけ・・・無いだら・・・」小声で呟くキヨシ。  
一呼吸あって、キヨシは突然桜子の肩を抱く。驚いてビクッとする桜子。  
「桜ちゃんも俺と一緒んなってれば・・・苦労なんてさせやへんかっただ」  
桜子を熱く見つめ、少し甘い声で囁くキヨシ。  
「・・・え・・?」肩をすくめる桜子。  
達彦は目の前で起こっている事が信じられない・・・というように何度も瞬きをする。  
「ピアノは弾いとるのかん?忙しくて弾けんだら?  
 桜ちゃん・・・こっちにおるのがきつくなったら、いつでも東京に出てこいよ。  
 ・・・俺はいつまででも待っとるで・・・」  
さらに桜子の肩をギュッと抱き、耳元に口を近づけ話す。  
その力強さに、桜子は固まったように身動きが取れずにいた。  
達彦も我に返ったようにムッとして、眉間にしわが寄る。  
「あっありがとう・・・キヨシくん・・・ほいでも・・・大丈夫だで」  
桜子は焦って、なだめるようにキヨシを見つめる。  
そんなやり取りを達彦の少し後ろで見ていた野木山が  
身振り手振りでキヨシの行動を止めさせようとするが、キヨシはどんどんエスカレートしていく。  
桜子に顔を近づけ「・・・俺は・・・本気だわ」と言って熱く見つめた。  
桜子はその目の鋭さに体が固まってしまう。それを見た達彦の目もギラッと光った・・・。  
 
「やめてくれよ、キヨシ。店の中だ」キヨシに一歩詰め寄る達彦。  
表情は冷静だが、明らかに声が怒っている。  
キヨシは桜子から体を離すが、軽く挑発するように達彦を見つめる。  
「キっキヨシくん!味噌買いに来たんだら?・・・そうだ!味噌漬けも好きだったよね?  
 一緒に持ってって!用意するから・・・」  
桜子は笑いながら、険悪な雰囲気を断ち切ろうと、キヨシに明るく話し掛ける。  
「ああ・・・ほいじゃぁ、俺達は蔵に寄って行きますんで・・・」  
急に表情を和らげ、何事も無かったように達彦と桜子に笑いかけるキヨシ。  
達彦も気を取り直すように、フッと息をついた時・・・  
キヨシが桜子を引き寄せ、頬に軽く口付けた・・・。  
「ハハハハッ!挨拶だわ!挨拶!外国式の挨拶ってやつだ!・・・ほいじゃぁ!」  
驚いて声も出ない二人を残し、キヨシは高笑いを残して店から去っていった・・・。  
 
「兄貴ぃ・・・あれはいくらなんでもやりすぎだら?・・・見たかよ大将の目・・・  
 ありゃ相当怒っとったぞ」耕助と治が顔を見合わせ話す。  
「店ん中でいちゃいちゃしとるのはどっちだん!・・・見とったら腹が立ってきただ!  
 んだで、ちょっと大将をからかっただけだわ。  
 だいたい・・・俺のほうが先に桜ちゃんに惚れとったのに・・・  
 あれくらいしてやったって、バチは当たらんだら・・・」ブツブツと呟くキヨシ。  
「兄貴も・・・しつこいねぇ・・・」呆れ顔の二人に、一瞬拳を上げたキヨシだったが蔵へと向かった・・・。  
 
キヨシの突拍子も無い行動に、桜子は驚いて頬に手を当て、顔を赤らめた。  
そんな桜子を、気持ちのやり場を無くした達彦が険しい顔で見つめる。  
桜子は思わず目を伏せ、苦笑いをしながら  
「なっ、なんだぁ・・・相変わらず・・なんか変だったねぇ・・・キヨシくん・・・  
 あっ、そうだ味噌漬け!・・野木山さん、今だったら何がいいかな・・・」と野木山に話しかけた時・・・  
「桜子っ!」  
達彦が強い言葉でそれを遮る。  
「・・・ちょっと来い」  
達彦は桜子の手を取り、引っ張るようにして母屋へと向かった。  
 (大将怒っとるなぁ・・・普段穏やかだけんど、一旦切れると頑固だで・・・大丈夫かいな・・・)  
そんな二人を野木山がありゃりゃ・・・という顔で心配そうに見送った・・・。  
 
達彦は桜子の手首をひっぱり、母屋の廊下をずんずん歩いていく。  
「いっ痛いよ!達彦さん、離して!」桜子は立ち止まり、手を振りほどく。  
「・・・何怒っとるの?」手首を擦りながら達彦の背中に話しかける。  
「・・・なんだよ・・・あれ・・・」低い声で呟く達彦。  
「・・・え?・・・あれって、さっきの?」桜子が聞き返す言葉を最後まで待たずに  
「そうだよっ!・・・なんであんな事されてニコニコしとるんだ!」と声を荒げ、振り返る達彦。  
桜子はその声に驚いて店の方を振り返り、「そんな大きな声出さんで」と言って達彦の袖を掴む。  
達彦はまた桜子の腕を取り、すぐ傍の、独身時代寝起きしていた書斎へ連れ込んだ・・・。  
 
後ろ手で引き戸を締める達彦。  
気まずい空気が二人の間に流れる。  
「私だって、ビックリしたよ。・・・ほいでもキヨシくんだよ?いつもの冗談に決まっとるだら?」  
自分に怒っている達彦に、桜子は訳が解らず、だんだん腹が立ってくる。  
「そんなこと解らんじゃないか!・・・あいつはずっとお前が好きだったんだぞ。  
 お前もよく知っとるだら?!・・・何が味噌漬けだよ・・・ほっとけよ!・・・あんなやつ・・・」  
達彦のいつに無く激しい言葉に桜子は動揺するが  
「私が悪いって言うの!?」達彦に食って掛かる。  
「ああそうだ。お前のそういう行動が、あいつにいつまでもあんな事言わせるんだよ!」  
達彦もひるまず、桜子を睨みつけた。  
「・・・ひどいよ、達彦さん!・・・私、そんなつもり全然無いのに・・・  
 もしかして達彦さん、妬いとるの?キヨシくんに嫉妬するなんて、おかしいよ!  
 ・・・あんなことで怒るなんて・・・子供染みとるよ!」  
達彦に言葉を浴びせながら・・・桜子は自分が何で腹が立っているのかが解ってきた。  
嫉妬・・・つい十日ほど前・・・花町で呑んで来た達彦に自分がとった行動・・・。  
『・・・俺が信じられんのか?』あの時の達彦の苛立ち・・・。  
桜子に何か言い返そうと大きく息を吸い込んだ達彦が、言葉を呑み込みため息をつく・・・。  
「なんだよ・・・子供って・・・」  
桜子から目を反らし、達彦が吐き捨てるように呟いた・・・。  
 
達彦は腹立たしく煮えたぎる気持ちが何処へ向かっているのか解らなかった。  
キヨシになのか・・・桜子になのか・・・  
「・・・子供染みとるよ!」桜子の言葉にカッとしたものの、返す言葉が見つからない。  
・・・そうだ・・・自分は嫉妬している。  
キヨシが桜子の肩を抱き・・・頬にあいつの唇が触れた・・・。  
いや・・相手がキヨシだからでは無い。  
自分以外の男が桜子を女として見、その気持ちを持って桜子に触れた事が我慢ならないのだ。  
その苛立ちを桜子にぶつけ、責めている自分は、子供染みていると言われてもしかたがない。  
桜子は何も悪くない。自分に対する気持ちを疑ってなどいない。  
でも気持ちが治まらない。  
達彦は急に自分自身に嫌悪感を抱く。  
休みの間・・・あんなに何度も愛し合い・・・あんなに自分を欲しいと言わせたのに・・・  
桜子のすべてが自分のものだと思えたのに・・・  
これ位のことで、こんなにも火がついたように心が乱れるなんて、どうかしている。  
愛する妻の前で、こんなにも情けない自分の気持ちをさらしてしまっている。  
達彦は桜子に何も言えず、ただ黙り込んでしまった・・・。  
 
黙り込んだ達彦の横顔を見ながら、桜子は思い返していた。  
芸者に嫉妬した自分は、苛立ち、達彦に怒りをぶつけた。  
今の達彦はあの時の自分なのか・・・と桜子は思う。  
もしそうなら・・・痛いほど気持ちが解るのに・・・。  
『・・・嫉妬するなんておかしいよ!』  
なのに・・・また自分は達彦にひどい事を言ってしまった。  
 (どうして自分はいつもこうなんだろう・・・)  
桜子はもう悔やんでいた。  
そして達彦にかける言葉を捜し、何も言えずにいた・・・。  
 
二人の間に沈黙が続き、部屋には蝉の鳴き声だけが響いた。  
と、達彦がまた気を取り直すように大きなため息をつき、桜子を見つめた。  
そしてフッと笑ったのか、口元が歪んだのか、わからないような顔をして  
「・・・もう・・・いいよ・・・」と呟くように言った。  
そのまま部屋を出て行こうとする。  
その切なそうな、寂しげな顔を見て桜子は慌てる。  
「・・ちょっと待って・・」桜子が行く手を塞ぐ。  
達彦が立ち止まり、桜子を見つめると  
桜子の目は何か言いたげで・・・でも何と言ったらいいのか解らず  
困って、泣き出しそうな顔をして達彦を見つめていた。  
「・・・ほんな・・・怒らんで・・・」桜子がためらいがちに口を開く。  
「・・・ごめん・・・ごめんね・・・」そう言って達彦の印半纏を掴む。  
達彦の顔が堪え切れなくなったように歪み、桜子を強く抱きすくめた・・・。  
 
謝る桜子の切ない表情に、達彦の胸は締め付けられる。  
桜子は何も悪くないのに・・・こんなことを言わせて・・・。  
達彦の中で何かが弾け、桜子を抱きしめた。  
自分自身に腹を立てながら、達彦の口はそれとは反対の言葉を吐く。  
「・・・もう・・・あんなこと・・・させるなよ・・・!」そしてさらに強く桜子を抱きしめた。  
桜子の頭を掌で抱え、頬をすり寄せる達彦。  
桜子も達彦の背中を掴み「わかった・・・ごめん・・・ごめんね・・」と繰り返す。  
「お前を誰にも触られたくない・・・嫌なんだ・・・」  
達彦は顔を離し、桜子の頭を両手で包み込み、切なく見つめる。  
「・・・わかっとるよ・・・」  
桜子が達彦の気持ちを受け止めるように、潤んだ瞳で見つめ返す。  
それを合図にしたように、達彦が桜子の唇に吸い付いた。  
少し乱暴で、暴力的とも思える口付けが繰り返された。  
唇と唇・・・舌と舌が触れ合う時の湿った音が響く。  
達彦の唇が・・・キヨシが触れた桜子の頬を拭うように、顔中を這い回る。  
「ん・・・はぁ・・・熱い・・・」  
桜子は達彦の激しい口付けに喘ぎ、思わず声をあげる。  
達彦の動きが止まった。  
「・・・脱げよ・・・」耳元で低く囁く達彦。  
「!・・・え?・・・今?・・・ほいでも、店・・・」驚く桜子。  
店が休みの昼間・・・達彦に抱かれた事はある。・・・でも・・・さすがに・・・  
ためらう桜子の顔を見つめ、達彦がさらに続けた。  
「・・・お前にもっと触れたい。今抱きたいんだ。脱いでくれ」  
それは自尊心をかなぐり捨てた男の、欲情にかられた目だった。  
その思いつめたような険しい視線に射すくめられ、桜子の思考は停止する。  
自分の手が・・・別の生き物のように帯締めを解き・・・帯揚げをほどいていく・・・。  
達彦は(それでいいよ)というように桜子に口付け、体を離した・・・。  
 
着物を脱ごうとする桜子から体を離し、書斎の窓とカーテン締める達彦。  
 (こんな事をしていていいのか?)  
いいわけがない。  
昼休みとはいっても、いつ店から声がかかるか解らない。  
頭では解っているのに、達彦はどんどんと事を急ぐ。  
自分の印半纏を脱ぎ捨てる。  
桜子の背後にまわり、荒々しく半纏を脱がせると、帯に手を掛けた。  
締め切った部屋には、ほどく帯の擦れる音が響き、蝉の声は遠くなった。  
空気の流れは止まり、蒸し暑く、桜子と達彦の吐息で部屋の湿度がさらに増していく。  
スルスルと帯や腰紐がほどけ、桜子の着物が床に落ちた。  
待ちきれぬように、襦袢姿の桜子を背中から抱きしめる達彦。  
胸の合わせ目から手を差し込み、湿り気を帯びた手で乳房を掴む。  
「あ・・・んっ・・」達彦の手が動くたび、桜子の体の中心に熱い疼きが突き抜けていく。  
暫く乳房を弄りながら首筋に吸い付いていた達彦が桜子の体を回す。  
口付けを交わしながら後ろ手で帯を解き、達彦も着物を脱いでいく。  
足元には着物の山ができ、二人は絡みつくように抱き合いながらベッドに倒れこむ。  
達彦が使っていたベッドはそのままになっていた。  
カバーが掛けられたそこに倒れこむと、少し懐かしいような夏の匂いが二人を包んだ・・・。  
 
12時を過ぎて客足も少し落ち着き、野木山は帳場に座っていた。  
「あの〜。大将と女将さんはどちらにおられるんですか?」  
奥の手伝いをしているお清が店の裏口から入ってくる。  
「え〜?半時くらい前に奥へ行かれたけんど・・・おらんかね?」  
野木山は不思議そうな顔をする。  
「はぁ・・・蔵にもおられんかったもんで。お昼、どげんしましょ?」困惑するお清。  
「ほうか。まぁ・・・じきに食べにみえるだら。居間に用意だけして、あんたも昼休みにしぃ」  
野木山の言葉に頷いて、お清はお勝手へ戻って行った。  
 (・・・何処へ行かれたんだら?)  
野木山は首をかしげながら、また帳簿に目を落とした・・・。  
 
その頃・・・桜子と達彦はベッドの上で重なり合っていた。  
襦袢も・・・下着も・・・足袋さえも・・・  
桜子が身に着けていたものはすべて達彦によって脱がされていた。  
達彦もまたすべてを脱ぎ捨て、裸になった二人は汗にまみれ、強く抱き合う。  
「・・んっ・・・桜子・・・俺の桜子・・・!」  
達彦は切ない声をあげ、壊れそうなほど強く・・・痛いほど激しく・・・  
まるで自分のものだという印を刻むように桜子の体を愛撫した。  
達彦の腕の中で喘ぎながら、桜子はそんな達彦のやみくもな欲情を嬉しく思った。  
達彦の心をとても近くに感じる。・・・愛しくてたまらない・・・。  
溢れる想いが桜子の体を熱く燃え上がらせる。  
こんな日に、こんな時間に、こんな事をしていちゃいけない・・・。自分達はどうかしている・・・。  
解っているのにやめられない・・・やめたくない・・・。  
二人は熱に浮かされたように、何も考えられなくなっていった・・・。  
 
達彦は床に膝をつき、横たわる桜子の脚を開く。  
桜子の花びらからは蜜が溢れ出し、熱くヒクついている。  
柔らかい茂みを掻き分け、吸い付く。  
まるで獣が肉に食らい付くような秘所への愛撫。  
あまりの刺激に桜子は体を仰け反らせ、腰を浮かせる。  
達彦が執拗に舌を動かし、淫らな音が部屋に響く。  
「くぅっ・・・あっ・・・ああんっ!・・・もうダメ・・・達彦さん・・・!」  
桜子の手が達彦の頭をまさぐり、腰は小刻みに震えだす。  
達彦は体を起こし、桜子の脚を肩に掛けた。  
痛いくらいに怒張しきっている剛直を、桜子にあてがう。  
「・・・ひぁっ・・・」桜子が小さく叫び、達彦を見つめる。  
「言ってくれ・・・桜子・・・俺が欲しいか?」  
熱く見つめる達彦の額から・・顎の下から・・髪の先から・・汗が滴り、桜子の体を濡らす。  
「欲しいよ・・・達彦さん・・・お願い・・・いっぱいにして・・・」  
桜子はとろけるような甘い声で囁き、達彦の頬を撫でた・・・。  
 
達彦は桜子の奥深くまで一気に入ってきた。  
達彦が両手を桜子の肩の横に着いているため、達彦の重みは桜子の一点に集まる。  
桜子がその圧迫感に酔いしれる間もなく、達彦は大きく腰を引き、また深く貫く。  
力強い腰の動きの合わせて桜子の体はガクガクと揺さぶられる。  
達彦の荒い息遣いと・・・二人の重みを受けてベッドがギシギシと軋む音を・・・  
桜子はこの上なく愛しい音楽のようだと思う。  
「・・・はぁっ・・・桜子っ・・・好きだ・・・好きなんだっ・・・!」  
桜子の歪んだ表情を見つめながら、達彦は昇りつめていく。  
蒸し暑い室内で、二人は息を上げ、まるで溺れているかのように苦しげに喘ぎ続ける。  
「ああっ!・・はぁっ・・あんっ!・・もう・・壊れ・・るっ!」  
桜子が細くかすれた声をあげ、達彦を求めて腕を伸ばす。  
達彦は肩にかけた桜子の脚を下ろし、桜子の上にのしかかる。  
汗だくの達彦と桜子の胸が重なり、桜子の乳房がぬるぬると滑る。  
桜子の脚が達彦の腰に絡みつく。細く白い指が背中に食い込む。  
二人は揺れて・・・揺れて・・・  
固く目を閉じた桜子は、一瞬真夏の太陽を見たように目がくらんだ。  
意識が・・・強い快感と熱に押し流されるようにして離れていく。  
少し遅れて、声にならない声をあげ、呻きながら達彦が自分自身を解き放った・・・。  
 
繋がった部分が離れる瞬間、桜子は小さく悲鳴をあげる。  
荒い息を吐きながら、達彦が汗で頬に貼り付いた桜子の髪をかき上げる。  
桜子はぐったりとして動かない。  
真っ赤な頬に手を当てると、高熱を出しているように熱い。  
「桜子?・・・おい、大丈夫かん!?」達彦は桜子の体を軽く揺する。  
「う・・・ん・・・」息を吹き返したように少し首を振るが、意識がはっきりしない。  
 (大変だ・・・!)  
達彦は起き上がると、カーテンを閉めたまま少し窓を開ける。  
ふわりとカーテンがそよぎ、汗にまみれた体からほんの少し熱が引く。  
達彦は床に散らばる着物の山から自分の着物を拾い上げ、袂から手拭いを出し汗を拭う。  
ぐったりと横たわる桜子に襦袢をかけてやり、あわてて着物を着付けると部屋を後にした・・・。  
 
達彦は小走りで洗面所へ向かい、急いで顔を洗う。  
絞った手拭いを何本か手に持って、大急ぎで桜子の元に戻る。  
ベッドに横たわった桜子は動いた形跡が無く、まだぐったりとしている。  
達彦は冷たい手拭いを桜子の額に当てた。  
「・・・ん・・・達彦・・さん・・?」桜子がピクッと動きゆっくりと目を開けた。  
「桜子!?・・・大丈夫か?」達彦が心配そうに見つめる。  
「うん・・・私・・・どうしたの?」桜子は起き上がろうとするが達彦がそれを抑える。  
「気を失っとったんだ。・・・まだ動いちゃいかん」  
達彦は桜子の顔を手拭いで優しく拭った。  
「・・・ごめんな・・・桜子・・・俺・・・」達彦は辛そうな顔で桜子に謝る。  
「どうして?・・・私・・・嬉しかったのに・・・」桜子は微笑み、達彦の手を握る。  
「俺・・・情けないよな・・・こんなんじゃ、お前に愛想尽かされるかな・・・」  
目を伏せ、落ち込んだように話す達彦。  
桜子はゆっくりと起き上がり、達彦の頭を抱き寄せた。  
「ほんなこと無い・・・大丈夫だよ・・・。  
 私・・・昨日よりも今日の達彦さんが好き。  
 さっきよりも今の達彦さんが好き。  
 もっと・・・全部知りたい・・・。もっと見せて・・・私にも・・・甘えて・・・」  
達彦の頭を撫で・・・優しく囁く。  
「・・・桜子ぉ・・・」達彦はすがりつくように・・強く、桜子を抱きしめた・・・。  
 
達彦は桜子の体を優しく拭う。  
「達彦さんも、汗びっしょりじゃん」桜子も達彦の汗を拭った。  
少し照れたように笑いながら、お互いを気遣う二人・・・。  
「あっ!・・達彦さん、今何時?」急に慌てる桜子。  
「え!?・・・わっ、もう1時過ぎとる!」時計を見た達彦も慌てる。  
「達彦さん、もう大丈夫だで、店見てきて!・・・お昼もまだ食べとらんし・・・」  
桜子は立ち上がり、着物を着付けだす。  
「わかった」達彦は部屋を出て行こうとするが、桜子の傍にまた戻ってくる。  
「え?」不思議そうに顔を上げた桜子に、口付けを一つ残し、達彦は部屋を後にした・・・。  
 
達彦が帳場を覗くと、野木山と仙吉が話をしていた。  
「大将、何処におられたんですか?お清が探しとりましたよ」  
野木山にそう聞かれて、達彦は一瞬言葉に詰まるが  
「うっ、うん・・・ちょっと・・・桜子と話し込んどってな。・・・店は・・・大丈夫か?」  
上ずった声で話す。  
「へぇ。もう落ち着いとりますわ。それよりええんですか?もう・・・話は?」  
何の話か気になる・・・という顔をする野木山。達彦は焦る。  
「あっ、ああ・・・もういいんだ。実は・・・昼飯まだなんだけど・・・いいかな?」  
申し訳なさそうに聞く達彦。  
「ほうですか。ええええ、いいですよ。どうぞ、食べてきておくれましょ」  
野木山が頷く横で、心配そうに達彦を見つめる仙吉。  
「大将。具合でも悪いんですか?えらい汗かかれて・・・  
 ・・・まるで川原でも走ってきたみたいだん」  
そういえば・・・という顔で野木山も達彦を見つめる。  
「え!?・・・どうもせんよ。大丈夫だ。大げさだな・・・仙吉さんは・・・」  
苦笑いをしながら達彦は母屋へ戻って行った・・・。  
 
書斎を覗くと桜子の姿は無かった。  
達彦が大急ぎで食事をとっていると、身じまいをした桜子も居間に入ってくる。  
「ここに置いとくね」達彦の傍に畳んだ印半纏を置く。  
「ああ・・・ごめん」口元を抑えながら返事をする達彦。  
「店・・・どうだった?」心配そうに聞く桜子。  
「うん、落ちついとったけど・・・野木山さんも昼まだだろ?急がんとな・・・」  
達彦はまた申し訳なさそうな顔をして、箸をすすめる。  
(ほうだね)と言って、桜子も食事を始めた。  
「桜子・・・やっぱり・・・今日みたいなことは良くないよな。店が開いとる時に・・・  
 俺が悪かった。これじゃぁ・・・当主失格だ」反省する達彦。  
「達彦さんだけじゃないよ。私だって同じだよ。・・・ほうだね・・・もうやめとこうね・・・」  
二人はうんうんと頷き、黙々と食べ続ける。  
「ほいでも・・・」達彦が呟く。  
「え?何?」桜子が訊ねると(いや・・・)と首を振って、口を噤む達彦。  
「なによぉ・・・ちゃんと言って」桜子が詰め寄ると  
「いや・・・ベッドで・・・ちゅうのも、なかなかいいもんだな・・・と思ってな・・・」  
苦笑いをしながら小声で呟く達彦。照れたように俯き、唇を噛む。  
「達彦さん!・・・もう・・・今反省したばっかなのに・・・」  
呆れ顔で達彦を見つめる桜子だったが、恥ずかしそうにフフッと笑う。  
「はいっ・・・」達彦の茶碗に自分のうなぎを一切れのせる桜子。  
「え・・いいの?」達彦が聞くと「いっぱい食べて」と言って桜子は微笑んだ・・・。  
 
「お前こそ沢山食べんと・・・」「いいよぉ・・・達彦さんに元気付けてもらわんと」  
「へ・・何言っとるんだよ、桜子ぉ・・・」「ちっ違うよ!ほんな意味じゃないよぉ・・・」  
そんな二人のやり取りを廊下で聞いている野木山。  
 (はは〜ん・・・ほういう事ですか・・・)  
込み上げる笑いを堪えるように肩をすくめる。そして気を取り直し居間を覗きこむ。  
「あの〜大将」と達彦に呼びかけると、二人はギクリとして背筋を伸ばす。  
「はっ、はい。なんだん?」ぎこちなく返事をする達彦。  
「2時過ぎに銀行の方がお見えになるそうです。先ほど電話がありまして・・・」  
用件を話す野木山。  
「ほうか・・わかった。野木山さん、昼休みとってくれ。俺、もう店に戻るから・・・」  
達彦は急いで残りのご飯を掻きこむと、お茶を飲み干し立ち上がる。  
「野木山さんごめんね。私も急ぐから・・・」桜子が謝ると  
「いえいえ〜!ええんですよ!ごゆっくり。  
 ・・・わたしゃ・・・なんやもう・・・腹がいっぱいですわ・・・」  
ぼそぼそと呟く声は桜子には聞こえなかったが  
「今日もあついですなぁ〜!・・・熱い熱い!」  
ヒヒッと笑い、野木山は達彦と店へ向かった・・・。  
 
東京へ向かう汽車の中・・・味噌樽と共に座るキヨシ・・・。  
桜子に触れた唇を指でなぞる。  
 (桜ちゃん・・・大将とうまくやっとるんだな・・・綺麗だった・・・  
  東京で・・・女も抱いて・・・もう吹っ切れたと思っとったのに・・・  
  あんたに会うとやっぱり辛いよ・・・  
  桜ちゃん・・・好きだ・・・ほいでもあきらめんとな・・・あきらめんと・・・)  
「はぁ・・・」ため息をつき、目を閉じるキヨシ。  
車窓からは夕日が射し込み、純情キヨシの頬を赤く染めた・・・。  
 
(終わり)  
 

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